蹂躙する者。される者(ダンの教えを受けた者達視点 北門サイド)
ダンからの伝言を受け取たリル達はニアラの街のギルドへと急ぎ向かった。
東の森は先程まで自分たちが入っていたこともあり、魔物が出てくることはなく、本当に何事もなくニアラの街へと到着を果たした。
いつもは開門している東門が閉まっていたが、人用の通用門からリル達を確認した門番が開けてくれる。
「どうも北と西で魔物行進の恐れのある魔物達の集団が来ているみたいだな。一応の為に俺たちはココを離れることは出来ないから、俺たちの代わりに頑張ってきてくれよ!」
門番に見送られて街中を走るリル達。
街中は魔物達の襲来の噂があちらこちらで広がっているのか、騒然とした空気が漂っていた。
ギルドまで人を避けつつたどり着くと、すぐさま入り口からギルドのロビーへと入る。
「来たか! 待ってたぜ」
何度か見かけたことのあるギルドマスターのバルザールがリル達を出迎えた。そして手にした紙をリル達へと差し出す。そこにはダンの書いたらしい文字でメンバーの名前が書かれていた。北と西と書かれ、その下に振り分けられた名前があった。
「ダンさんからの指示通りに、私たちはそこへ向かうということでよろしいですか?」
ウェンディが代表してバルザールへと聞く。
「ああ、他の冒険者達も行って居るから合流して魔物を迎え撃ってほしい」
メンバーは北にウェンディ、ファーニ、マロン、キョーコ、イリア。
西にリル、ポーラ、クローディア、ライ、リン、ロウキのメンバー。
「「「行ってきます!」」」
わずかな時間も惜しい事態に、全員その場で分かれて北門と西門へと向かっていく。
「頼んだぞ」とバルザールも歯がゆい思いをしながら見送った。本心では自分も現場へと向かいたいのだが、ギルドマスターとしての立場から冒険者達への指揮所となっているココを離れるわけにはいかなかったからだ。
「せめて現場が一か所だったらな」とぼやくバルザール。
ふと南門に向かったダンからも連絡がまだ来ていないことに気づいて、手近な職員を捕まえて聞く。
「南門から連絡は来てないか?」
ギルド職員でも武闘派のマークスも南門に向かっていたはずだと記憶している。
「それはまだ。それよりも衛兵詰め所からとんでもない連絡が来ました」
『おいおい、この事態の上で更にとんでもない事かよ』とバルザールが心の中で思った。
「どうした?」と表情には出さずに聞き返すバルザール。
「それが衛兵詰め所に居た衛兵全員が食中毒のようです!」
「このタイミングでだと!?……待て、門に居る衛兵には問題がないんだよな?」
「そんな報告はありませんでしたが?」
「同じ衛兵詰め所から出てきた門番には問題なくて、衛兵詰め所に居た連中だけが食中毒になるとは。これはクサイ臭いがしてきやがったな」
何もかもタイミングが良すぎる。それも悪い方向にだ。
「くそ!」とバルザールはやり切れない思いでカウンターを叩いた。
≪北サイド≫
「北はゴブリンってことだったよな?」
「ええ、ダンさんのメモにもそのように書かれています」
「へー、ゴブリンねぇ」
ファーニとウェンディとマロンが揃って笑う。
「……何か3人の雰囲気がいつもと違う気がしますが?」
「3人? 私もいつもとはちょっぴり違うけどね?」
先行する3人の様子にイリアが横に居たキョーコへと問いかける。聞かれたキョーコはそう言いつつも普段と違った様子は見られなかったが。
「というかダンさんも人選がエグいよね~」
「エグい? どういった意味ですか?」
「あ~、あんまり話をすることじゃなから伝えてなかったけど、ウチのメンバーの半分以上はゴブリンって魔物に色々と複雑な思いがあるってこと。特に殺意とかね?」
そう言いつつウィンクを返すキョーコに、イリアはようやくいつもと違う箇所を見つけた。キョーコのその目はおどけた口調と裏腹に、一切の笑みを浮かべてはいなかったのだ。
そしてメンバーが北門へと到着する。
門番へと声を掛けて、外壁の上に居る衛兵と声を掛け合い通用門を開けてウェンディ達を外へと出した。門から離れた場所にて冒険者とゴブリンの集団が戦っている様子が見える。
「くっそ! 女はあんまり前に出るなよ! 奴らは戦いの最中でもお構いなくヤルぞ!」
そう言って剣を振るう男性冒険者が居る。そんな男性冒険者にゴブリンが3匹同時に襲い掛かっていた。興奮しているのか、ゴブリンのイチモツはいきり立っていた。
「うお! この! ふざけんな!」
小柄なゴブリンといえども3匹が勢いをつけて飛びかかってきたため、男性冒険者は押し倒される形で地面へと倒れこんだ。そしてその男性へと武器を突き立てようとする個体と、なぜか防具を剥ぎ取ろうとする個体が居た。
「こいつら! 俺は男だってのに錯乱してんのか!?」
男として受け入れがたい危機を感じたのか、男性冒険者が剣を手放してゴブリンを殴りつけてどかそうとしていた。
そんな状況があちらこちらで見受けられる。そんな混沌とした状況の戦場だった。
それを見たメンバーは無言で頷きあうと(イリアは混じっていなかったが)、それぞれが戦場へと個々に散っていく。その前にキョーコがマロンに声を掛けた。
「マロン。悪いんだけど、アレだけは出しておいてくれない?」
「おっけー。んじゃココに出しとくよー」
マロンの武器庫と呼べるマジックバッグにしまわれていたソレを出すと、マロンも自身の武器となる槍を抜きつつ戦場へと散っていった。
そして置かれていったソレを見て、イリアは満足そうな表情をする。
「ようやく直りましたかゴリアテ。……何か見覚えのないパーツがありますが?」
「気にしない、気にしない! さあ、乗った乗った」と何故かキョーコもゴリアテに近づいていく。イリアもゴリアテの胴体を解放して中へと乗り込もうとした。
「というか、なぜに複座式座席に変更してあるんですか!?」
「そんなん、私も乗り込むからに決まってるじゃん!」
多少のゆとりのあった胴体の内部空間は隙間なく埋められるように機器が取り付けられ、そこに埋没するように2人縦に並ぶような複座式の座席が収まっていた。
後ろの座席に乗り込むキョーコに、イリアは嘆息しながら前の座席へと乗り込みゴリアテの胴体を閉める。
「ゴリアテ起動!」
「ハイハイ。ゴリアテ、ウェイクアップ! 武装起動! コンバットモードへ!」
座らせていた姿勢からゴリアテを立ち上がらせる。そして武装をマニピュレーターへと掴ませた。
「……何かバトルアックスとガトリング砲が変わっている気がしますが?」
「ま、そこらへんはダンさんと共同でちょっとね」
完全にちょっとで済みそうにない気がしたが、イリアはこの際無視をした。
「ゴリアテ発進!」
≪ウェンディサイド≫
戦場に進み出たウェンディはその手にした棒を軽く回しながら様子を確認していた。
「あんた、その髪の色。回復要員か? 前線に出てくるな! 危ないから――」
ゴシャッ!
「下がっていろ」と続けようとした冒険者の声が途中で止まる。
「はい?」とウェンディが『どうかしたか?』といった表情で伺ってくる。冒険者はフルフルと何も言わずに自分の正面へと向き直った。
『どうしたのかしら?』とウェンディは回していた棒によって、頭をかち割られたゴブリンの遺体をさらに棒の回転を強めて振り払う。そのままゴブリンの血を振り払う様に棒を回しながら戦場を進んで行く。
右に左にと棒を回しながら、近づいてくるゴブリンを棒の両端の金属部分が砕き、突起が体に食い込み千切れていく。
ならばとゴブリン達が集団で襲い掛かる。取り囲むように3体が迫った。
「あら、多少は知恵を使いましたか。――それでも」
「所詮、悪知恵といったところですね」と手先で回転していた棒が、胴体や首を回るように旋回を始めた。今までの軌道と変わった棒の行方を追うことが出来なかったゴブリン達は、自らの勢いで棒が生み出す渦の中に飛び込んでしまった。
弾かれ、また他のゴブリンを巻き込む形で獲物を取り囲んだゴブリン達がウェンディから弾き飛ばされた。その体は一部が折れ、腹に攻撃がぶち当たった個体はその腹をぶちまけていた。
次々にウェンディへと殺到するゴブリン。しかしウェンディもその足を止めずにゴブリンの血道を歩いていく。
「てか、あの格好で回復要員じゃなくて前衛かよ」
そのゴブリンの血道を作るウェンディを見た先程の冒険者は「うへぇ」と呻いた。周りに居た冒険者もそのウェンディの姿に呆気に取られていた。
≪ファーニサイド≫
ファーニの戦闘はシンプルだ。
近づいて切る。
ただしここにダンの訓練という要素が入ったファーニの戦闘はその速度が違った。
「オラオラ! あたしの相手はどいつだ!?」
両手に剣を持ったドワーフの女が、ドワーフらしからぬ速度で戦場を駆け抜けていく。
以前の戦い方からさらに進化したファーニの戦い方は、剣の背からも炎を放って更なる加速を得ていた。自身の身体を火の加速で進ませて、更に剣にも火の加速を加える。
理屈の上では更なる加速を経られる方法だが、その制御と反動が更にファーニの身体へと襲い掛かっていた。
並みの人種、いやドワーフでも筋肉や関節が軋みを上げ、最悪は断裂や外れる恐れのありそうな速度で肩や腰へと加わるG。ダンは訓練を通して、ファーニの闘気による身体強化が更に上昇したことを確認したのち、この戦闘方法を伝授していた。ゆえに――
「は! ドワーフのあたしよりも遅いんじゃ、あたしは捕まえられないぜ?」
コマの様に左右の剣の向きを変えて、ゴブリン達の腹を回転しながら切り裂き走り抜けるファーニ。その顔には体を痛めた苦痛など浮かんではいなかった。
「あれってホビットだったか?」
「いや、あの体つきはドワーフだろ?」
更なるゴブリンを求めて走り去るファーニを見て冒険者が言う。自分たちが相手をしていたゴブリンも、つい先ほどファーニの剣によって首を撥ねられていた。
「「どっちにしろ敵じゃなくて良かった」」
その顔には安堵の表情が浮かんでいた。
≪マロンサイド≫
「よっ、と!」
マロンは手にした槍でゴブリンの顔面を貫くと、その槍を手放し素早くマジックバッグから戦槌を取り出して近くまで接近していたゴブリンの横っ面を叩き潰した。戦槌を片手に持って、槍をゴブリンの死体から引き抜く。
すると横からゴブリンが並んで複数迫ってきた。
手早く槍と戦槌をバッグにしまい、次に取り出したのは両手剣。
「アーツ『パワースラッシュ』!」
横薙ぎに放たれる闘気の刃がゴブリン達を纏めて捉える。しかしその一撃で死にはしなかったようだ。両手剣をバッグにしまい、短剣を両手に持ったマロンがゴブリンへと距離を詰める。
「アーツ『シャープエッジ』!」
短剣の刃よりも外に出た闘気がより鋭い刃となり、マロンの手によって振るわれたそれがゴブリン達の身体を簡単に切り裂いていく。
手近なゴブリンを全て倒したことを確認したマロンは、再び槍へと持ち替えて次に戦闘をしているところへと駆け出していく。
「俺、アーツって初めてみたよ」
「俺はあるぜ。『スラッシュ』は見たことがある」
「さっきの、『パワースラッシュ』って言ってなかったか? それに短剣のアーツも使ってた気がする」
マロンの駆けつけにより若干の休息を得た冒険者達。先ほどのホビットの少女(だいたいの人種がホビットを見た時に少年、少女と思う)の戦い方を思い出す。
「『ダブルスラスト』!」
若干離れたところからマロンの掛け声と共に2匹のゴブリンが槍に貫かれていた。
「おし、俺達も行くか!」
「ああ、負けてられるかよ!」
息を整えた冒険者達が再度戦場へと走り始めた。
≪キョーコ・イリアサイド≫
正直、それが何なのかいまだに分からない。
目の前でゴブリンを血祭りにあげる人外の異形に冒険者達の意識は引き寄せられていた。
『ははは! 行け~イリア! ゴブリン達をぶっ殺せ~!』
『テンションが高すぎですよキョーコ?』
外部スピーカーから聞こえてくるのはキョーコとイリアの声。
そうゴリアテに乗り込んだ2人がゴブリン達を蹂躙しているのであった。
『それよりもガトリング砲の弾が切れたようですが?』
『もう? 撃ちすぎじゃないかな?』
そういった会話が聞こえてきた後、左腕に装着したガトリング砲の基部が赤い光を帯びた。
『弾丸補充、フルロード。中距離砲撃開始』
左腕に装着されたガトリング砲を距離があるゴブリン達へと向ける。うなりを上げて回転する砲身。そこから連続して放たれるのは#火球__ファイアーボール__#の魔法。一発でも威力がありそうな大きさのソレが続けてゴブリン達に向かっていく。
ドドドドドーン!
『た~まや~』
『……やはり火力が過剰では?』
『何言ってんの! 『大は小を兼ねる』ってね』
火球が連続して着弾した後にはバラバラとなったゴブリン達しか居なかった。
ゴリアテが別に接近していたゴブリンをバトルアックスで薙ぎ払う。
『これも、もはや刀身が長すぎて斧という形状ではないんですが』
柄と同じ長さの刃なんて、もはや斧とは言えないであろう。
『それも長い方がいいでしょ?』
ゴリアテから嘆息が聞こえてくる。心なしかゴリアテの両肩も下がったように見えた。
『理不尽すぎます。それにこの魔素、魔力というのも』
『とりあえず今は戦場! さあ、弾の心配はせずに次行ってみよ~!』
『……やはりテンション高すぎじゃありませんか?』
そういってゴブリンを求めさまよう異形が次の獲物を見定めて移動をしていく。
それを見ていた冒険者達の口から「クレイジー」とか「バーサーカー」とかの単語が呟かれていた。




