運命なにそれ戦えるの?
イリアの特訓と並行してロウキの様子も見つつ訓練を続行する。
そういえば皆に聞いたことの返事は『ダンさんが命の恩人に変わりないので、よほどのことが無い限り私たちは付いていきます』と言われた。思わず涙腺が緩んだ。
「で、訓練の方はいかがですか?」
「「「もー無理! 付いていけない!!」」」
『戦乙女の加護』を解放させて、体の外へと放出した闘気を武器に纏わせて操る『闘気操り人形』という技で全員と組み打ちをしていたのだが、どうも力加減に失敗してしまったようだ。
全員疲れてへたり込んでしまっている。いや、2人ばかりはまだへたばっていなかったか。
「やあぁぁぁぁ!」
『ぬう、おおおおお!』
リルとロウキだ。二人は格闘戦の勉強という事で、木偶人形を作って操っている。他の人に意識を割かなくてよくなったので、さらに人形の操作精度を上げてみた。
「あれ? 動きが変わった!?」
『おお!? って、我ら2人しか立っていないぞリル殿!』
さらに動きが良くなった木偶人形に2人の動きが激しさを増す。そろそろアーツも解禁しますか。
「アーツ。『四重爪』」
木偶人形が腕を振るった、まるで猛獣が爪を振るう様に。そして木偶人形の腕の先から闘気で作られた爪が出現してリルとロウキに襲い掛かる。リルは籠手でガードし、ロウキは距離を取って避けた。
「う~ん、アーツだと言ったんですが」
リルの籠手ごと押しつぶし、距離を取ったロウキに爪が伸びて襲い掛かる。結果ロウキも上から押しつぶされた形だ。そんな2人に声を掛けるダン。
「こんな感じで闘気を調整されると、アーツは威力が上がったり距離が変わったりしますから注意が必要です。ま、システム頼りの人を相手にするのであれば、先程のは及第点を上げられましたが」
「『悪辣すぎる!」』
2人してそういうと、がっくりと落ちた。
今まで居たメンバーはまた幾つかのアーツと魔法を使えるようになった。そしてイリアは初歩ながらもアーツによる強化を行えるようになった。
肉を片手に。
「干し肉になりました」
そしてポーラは更に狼へ命令を出して行動させられるようになっていた。
「まだ子供だから無理はさせられません」
そしてクローディアも完全な闘気だけの矢を作ることが出来る様になっていた。
「1日に、そう何本も作れない」
「てかあたしらは?」
「ウチも頑張った!」
「そうですね、私としても強くなった気がしてたのですが」
ファーニ、マロン、ウェンディが3人揃ってダンに迫る。
「君達3人はやり過ぎな気がしますが?」
ファーニは更なるスピードを求め、マロンは全ての武器のアーツを求め、ウェンディは水魔法の身体強化と棒術の更なるパワーを求めた。
種族特性的に間違っている気もするが、本人達がやりたがっているのでダンは教えられる限りで教えた。
「私と」
『我はどうだ?』
リルとロウキが聞いてくる。人型の状態での格闘技や短剣術などは分かるが、
「獣化した後は良く分かりませんよ? 相手はしますけど」
その本来の戦闘方法は獣化。正確には人化を解いた本来の姿だ。さすがにダンでも四つ足での戦闘術など持っていないので、相手をする以外に方法がない。
ライとリンは現在の剣と盾、槍以外に短棒術というものを覚え始めている。
であと一人は。
「ね~、イリア? 『どりる』付けない? 『どりる』」
「やめてください! ゴリアテは汎用型。そこに『どりる』等と……。武装として槍のような形にしましょう!」
キョーコはイリアとワイワイ言い合いながらゴリアテに張り付いていた。
先程の組み打ちでキョーコは同じ武器の薙刀に見立てた武器で打ち合いをしていたのだが、
「無理、魔法も使えない武器だけの相手だと訓練出来ない」とあっさり降参してゴリアテに張り付いてしまったのだ。
「ふむ」とダンは腕組みして考える。
そして閃いた。
「じゃ、次から全員、木偶人形に武器を持たせてお相手しますね」
そう言ったダンと、発端となったキョーコに視線が集中する。
「あれ? 私マズった?」
「イリアも間違いなく恨んでいますので、確かかと」
イリアにすらジト目をされたキョーコは冷や汗を流していた。
翌日、イリアの冒険者としての依頼実績と食材の補充に、ダンはイリアと連れ立ってニアラの街へと向かっていた。
「冒険者ギルドに着いたら採取依頼を探しましょうか」
「それは理解したダン。それはそれとして――」
イリアは会話をしているダンを見た。
正確にはその足元だ。
「おっきくないですか、その蛇?」
ダンに踏みつけられて頭を爆散させた蛇がいた。体長は伸ばせば3メートルに迫りそうな蛇。しかも全体的に黒っぽい危険な雰囲気がする蛇だ。
「まあ大きいですね。でも蛇系は頭の牙に特に気を付ければ平気ですよ?」
普通は巻き付かれても危険なのだが……。イリアはその意見を言わずに溜め息だけをついた。
ダンは蛇を掴み上げると持参していた2番バッグにしまった。最近の訓練の中で狩った他の魔物も入っているので、その素材換金も目的の中に含めていた。
その後2匹ほど蛇型魔物が出てきたので同様に対処するダン。うち1匹は頭上からの奇襲だったのだが、イリアには反応できなかった。本当にダンという人物はどうなっているのだろうか?
さらに蛇を追ってきた狼に蛇を差し出して街へと進むダンと付いていくイリア。
「お、今日は街に来たか。いらっしゃいダンとイリアちゃん」
東門の門番に声を掛けられて軽く挨拶を交わすダン。チェックを同時に行い、イリアも水晶に触れる。
「――生体情報を検索? なるほど」などと言っているイリアを置いておいて、ダンは門番と会話を続けていた。
「ちょっと食料と素材売却目的で来ました」
「ほー。また熊とかあるのか?」
「まあボチボチですかね。冒険者ギルドから肉類は売りに出されるかもしれませんよ」
最近ダン達のメンバーは台帳に記帳せず、別のモノで街への入場をしていた。ダンとイリアの名前が書かれた木札を裏返すとニアラへと入っていく。他にはメンバーの全員の名前が書かれた木札が置いてあった。記録は門番がメモ書きをして記録簿に記載している。でなければダン達以外の東門入退場者を見落としそうになったからだ。
「ならしばらく肉屋をチェックしとくか。入っていいぞ」
「ありがとうございます」
ダンとイリアはニアラの東門を抜けて、ギルドへと向かって歩いていく。道中気になった食材を買い込みつつ、ギルドへと到着した。
ギルドの入り口を抜けてロビーへ。まずはミニーの居る受付を探して――
「だから、ここの東の森から魔物行進の予兆があるんだって!」
なにやら依頼カウンターで一人の男が声を上げている。
「ダン。魔物行進とはなんですか?」
「だいたい100体以上の魔物の集団のことですね。それが興奮、というか暴走したように向かってくる様を魔物行進と言います」
「あ~、東の森ですか?」
それを聞かされている職員は若干困った顔をしている。
「そうだ! この街の東の森で魔物が大量に動いているのを見たんだよ!」
「ダン。あの人物は嘘をついている気がします。というか確実な嘘つきです」
「おいおい、なんか物騒な話が俺の部屋まで聞こえてきたな? なんだっていうんだ一体」
カウンターの奥からバルザールの姿が見える。
「ああ、あんたからもココのギルドマスターに伝えてくれよ! 東の森で魔物行進が起きそうだって!」
よく見れば前に見た新人冒険者だ、あの男。とダンは気づいた。とすれば実技試験の相手がバルザールだったのだろう。どうもその時に自己紹介はされなかったようだ。
「ほう?――ちなみに虚偽の報告。それも魔物行進級の嘘なんてついていた場合、冒険者カードはく奪の上、他の支部にも通達が行って二度と冒険者にはなれないぞ?」
「え?……聞いてないぞ、はったりか?」
男の顔が青くなり口の中で何かつぶやく。ダンとイリアが聞こえたのだ、バルザールもおそらく聞こえたのだろうがそんな素振りは見せずに更に男を問いただす。
「もう一度聞く。東の森で魔物行進。この情報は嘘じゃないよな?」
男は答えることなく、しかし弱弱しくも首を縦に振った。
「ふむ? で、実際森の様子はどうなんだダン?」
バルザールが自分の後ろに声を掛けたと分かった男が振り向く。
「いつもどおりでしたけど? というか、君では森の様子なんて見に来れないでしょ? どうやって魔物行進の情報を知ったんですか?」
「お、おまえ、あの時の田舎もんじゃねぇ、か?」
最後が疑問形だったのは今日のダンが武装していたからだろう。使い込まれた革鎧に小手やブーツを装備していたので、記憶のダンの姿と一致しにくかったのかもしれない。
「一応、形式的に魔物行進の情報が出た時点で確認をしてこなくちゃならねぇんだが……。ダンの言う通り、お前みたいな駆け出しが東の森に行けるはずねぇよな? どうなんだ?」
「お、俺は、この目で……、見た」
何故か項垂れながら男が言う。
「ふーん? 普通の森と思ってるのか? 東の森は別名『死の森』だぞ?」
バルザールの言葉に男が顔を上げた。
「し、死の森?」
「そうだ。前人未到の魔境って呼ばれる場所だよ」
「……あの森は、それほどの危険度だったんですか?」
「前人未到って、ウチのご先祖様が居たんだけどね?」
バルザールの言葉にイリアとダンのツッコミが入る。まあ、ツッコミ先の相手がそれぞれ違うが。
「んで? そんな場所に行くって? 東門の門番に問い合わせれば分かることだぞ? あそこは人の出入りが少ないからな」
「……北門から出て東へ」
「その間には川がある。それをどうやって超える?」
「それは、それは……。でも出来なきゃ殺され」
「ん? どうしたよ?」
男は力なく跪いてしまった。そして呟くように「殺される、殺される」と繰り返す。
「なんだか良く分からんな? とりあえず誰かこいつをお――」
バルザールが職員にそう声を掛けようとしたとき、街の方からカーンカーンカーンと鐘が打ち鳴らされる音がした。ダンは初めて聞く音に何事かと思った。
「こいつぁ、魔物行進の知らせの時に鳴らす鐘だ。だが、さすがにこの兄ちゃんの言う通りな訳がないしな。誰か人を送って各門から情報を集めてくれ」
バルザールがギルドに居た冒険者へ指示を出し、しばらく待っていると一人の冒険者が入ってきた。ロビーに飛び込むようにして入ってくる。
「き、北門に」
「北か! それで相手は?」
「ゴブリンだ。ブラックゴブリンの大群だ!」
更に続いて入ってくる冒険者が。
「西門から来るぞ!」
「なんだって!? ゴブリンか?」
「違う、グラスウルフだ! ホーンラビットなんかも居た!」
「一気に2方向から魔物行進だと? ヤベェな……。ダン! お前のとこのメンバーは今どこに居る?」
バルザールが緊張から冷や汗を流してダンへと問いかける。ダンはそれを聞くが早いか、隣に居たイリアに言った。
「イリアさん、今すぐウチに戻って皆さんを呼んできてください。その際武器防具を忘れずに、と」
指示を確認したイリアがギルドを飛び出していった。バルザールがその後ろ姿を見ながら不安そうな声を出す。
「大丈夫なのかダン? お前のとこのメンバーなんだろうが、あんな嬢ちゃん1人に連絡役させて。街中にメンバーが居るのか?」
「いえ? 今日も森の中に居ますよ?」
「大丈夫かよ」と心配そうにするバルザールを放っておいて、ダンは現状を整理する。
北、それに西から魔物行進が迫っている。つまり2方向からだ。そうするとメンバーを分けるとして。そこまで考えたダンは、一つの記憶を思い出す。
「ギルドマスター。先ほどの冒険者の男、『東の森で、魔物行進が』と言ってましたよね?」
「あ? ああ、まあダンがここに居る以上は嘘だろうが」
東。
これまで上がってこなかった報告は――
「南はどうなんでしょう?」
「あ?……そういえば南の報告はないが。誰か南門に向かったのは居るか?」
「それならマークスさんが行きました」
「念のため、僕も行きましょう。何事もなければ西回りに北上して回りますよ」
そういうとダンは手早くメモを取り出して名前を羅列していく。そしてそれをバルザールに渡した。
「ほかのメンバーが来たら、この人員で2か所に分かれる様に言ってください」
そういうとダンは更に額当てを取り出して装備すると、腰のポーチから剣を取り出した。バルザールは初めて見るダンの剣に吃驚していた。
「驚かせてすみません」とだけ言って、ダンは南門へと向かって駆け出して行った。
「ギルマス~! 冒険者の方たちの緊急招集ですけど。……ギルマス?」
バルザールに駆け寄ってくるミニー。
反応が無いのでその顔を横に回ってみてみた。
口を開けたまま固まっているバルザールがそこに居た。
「あ、あいつ剣士だったのかよ」
……そういえば、ギルドマスターはダンが剣を使うことを知らなかった。
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