始まりの石碑。そこに刻まれたものを読む
シンジュクダンジョンを抜けたダン達一行は一先ずウルスラの街へと帰ってきた。
街の門でイリアがチェックに時間がかかったこと以外は問題なく戻ってくることが出来た。まだ夕方前という時間だったため、ダンはギルドへ、その他の面々は宿屋へと別れることにした。
その際にダンはイリアが追加したことで、宿屋へ泊る人数が増えたことへの交渉をしておいてくれと伝える。
実は街に戻る前にマジックバッグにイリアを収納出来ないか試してみたのだが――
*
「やっぱり入りませんね」
マジックバッグの容量の大小は違いがあれど、共通した点があった。それは生物は入れられないという点だ。
「――ならばそろそろ放してくれ。首パーツがもげそうだ」
首をひっつかまれてマジックバッグに押し当てられたイリアからの抗議の声に、ダンはそっとイリアを下ろして謝った。
「申し訳ありませんでした。いえ、ゴーレムだったら入るかなぁ、との期待をしていたものですから」
ついでに宿も一人分浮かせられれば儲けものと考えていたのだが。
まあダメで元々だったので、とりあえずダンは予備の服をイリアに着させて、普通の人として街へと入ったのだった。
ダンジョンから出て改めてイリアを確認してみると、その恰好は体にフィットしたボディーアーマーだけといった格好だったのだ。冒険者で奇抜な格好をするものは、まあまあ居るためそのままでも行けそうだったのだが、キョーコを始めとする仲間たちに説得されて、服を着てもらうことにしたのだ。
*
そんなことを思い出しつつ、ギルドへと到着したダンは中へと入る。
まだ帰ってくる冒険者の込み合う時間ではなかった為か、ダンはカウンターの一つへと向かった。
「ただいま戻りました」
「あら、早かったのねダンさん。今日は様子見だったのかしら?」
アリアナに挨拶すると、相手も気づいてダンへと向き直った。
「とりあえずシンジュクって建物を見てきましたよ。大まかに地図と、あとゴーレムの特徴をいくつか掴んできました」
ダンは懐から紙を取り出すとアリアナへと差し出した。アリアナはそれを受け取ると真剣な目でその地図を見ていく。それはダン達が歩いた範囲を描いた地図だった。ダンはさらに何枚かの紙を取り出すと、出会ったゴーレムの特徴とそのおおよその強さを書いていく。
絵心が無いダンだが、相手の特徴と手にした武器はしっかりと押さえて書き上げた。
「そう、やはりゴーレムが多かったのね……。他には居なかったの?」
「ゴブリンが1匹。迷い込んだのかは分かりませんが居ましたね。まあ、普通のゴブリンじゃ雑魚ゴーレムにすら負けそうですが」
「雑魚ゴーレム……。ウッドゴーレム辺りのことかしら?」
「へ? いや雑魚は雑魚ですけど?」
二人して首を傾げる。
何かかみ合っていない。
「え~っと? 雑魚ってことはゴーレムのレベルが低かったってことよね?」
「そうですね、雑兵って感じでした」
「雑兵?」と聞き返すアリアナに、ダンは気づいたようにバッグの一つを手に取るとカウンターの上に置いた。
現物を見せた方が話が早いと思ったのだ。
「こんなんでした」とマジックバッグからゴーレムを1体抜き出すダン。
アリアナはカウンターの上に置かれた、ほぼ無傷のゴーレムをその目にする。首だけ切られて、頭と胴体が合わせて出てきた完全な状態のゴーレム。装甲を軽くノックして、手に持っていたであろう武器も見ていく。
「……雑魚?」
「ええ。シンジュクという名前の建物から、そりゃもうわんさか出てきましたよ? ですから一番下の数合わせのようなゴーレムかと思って、雑魚と呼んでいたんですが」
「つまり、これが最低レベル、と?」
「ええ。もっとも中心から遠い出口付近のゴーレムは更にのっぺりとした大型ゴーレムでしたが、素材自体は同じ鉄っぽいなにかでしたね」
「アイアンゴーレム! アイツラ、自分達に制限が掛からないように情報出し渋ってたね!」
アリアナはカウンターを叩くと奥へと走っていった。
残されたダンは手持無沙汰になり、とりあえず出したままのゴーレムをしまった。
『どうしよ? 隣の職員に声を掛けて今日は帰るか?』
チラチラとダンに見られた職員は居住まいを正している。『今日は疲れたし、帰っちゃおうかなぁ』と本気で宿屋へと帰ることを考え始めたダンに、バタバタと走ってくる足音が聞こえた。何とはなしにカウンターの高さよりも下に屈んだダンは、頭上から聞こえる声を耳にした。
「ダンさん! さっきのゴーレムをもう一度……、ってアレ?」
「アリアナ君。ワシ、もう年だからあまり無理をさせんでくれない?……どうしたね?」
「あれ? ちょっとダンさんどこに行ったか知らない? さっきまでここのカウンターに居た男性なんだけど!?」
ふむ。と一息吐いたダンはしゃがんだまま移動を開始した。
目指すはギルド出入り口。
「ダ・ン・さ・ん?」
しかしダンは回り込まれてしまった!
まあ悪ふざけだったので(ただし逃げられた場合はその限りではなかったが)、ダンは大人しくカウンターに戻って再度ゴーレムを取り出した。
アリアナに連れられた初老の男性はゴーレムを観察し始めた。
「これは!……ワシの記憶が間違いなければ、これは軍隊ゴーレムじゃな!」
「ほう軍隊ですか。それはかなりおっかない名称ですね」
「うむ、このゴーレムは個ではなく複数組んで行動する特徴があってだな。その集団が大きくなればなるほど脅威も大きくなるのじゃ。しかし単体行動とは珍しい、いや運が良かったというべきか? とにかくギルドとしても職員の派遣も視野に入れなければな」
何やら誤解を生んでいる気がする。ダンはそう思い、もう1体ゴーレムを出しながら伝えた。
「えっと、アリアナさんにも伝えましたが、わんさか出てきたと――」
「なにぃ!? すでに複数確認出来ているじゃと? しかしここまで同じゴーレムが出ているという事は、やはりあのシンジュクダンジョンは軍事拠点の遺跡と見るべきか……」
むむむと腕組みして考え始めてしまった男性に声を掛けられず、ダンはアリアナに視線で問いかけた。
『コレ時間掛かります?』
『ごめんなさい。協力して?』
小さく両手を合わせてダンへとジェスチャーが返ってくる。
ダンはため息をつきながら、しょうがないと男性が思考から帰ってくることを待つこととした。
*
「ただ今戻りました~」
若干疲れを滲ませながら、ダンは宿屋『朝日の犬亭』へと戻ってきた。宿屋の入り口から食事処へ行くと、まだ夕食の時間に間に合ったのか、他のメンバーもテーブルについて食事をしているところであった。
「お疲れですね。何かありましたか?」
リルが口の中のモノを咀嚼し終えるとダンへと聞いた。赤い肉。レッドモウだ。
「ちょっとダンジョンの難易度とか、その辺りの話が長引きまして」
あの後、ダンの見解とゴーレムの強さなどを話してダンジョンの難易度。つまり適正な冒険者の強さ、その大まかな目安を作る作業に駆り出されたのだ。
駆り出されたとはいっても、ギルド職員との立会いでおおよそのゴーレムの強さを再現したり、また攻撃方法などのパターンを聞かれてメモを取るなど、ダンはただ体を動かしていただけだが。
「とりあえずボスらしきゴーレムは倒してきましたと、報告はしておきました」
そういってダンはテーブルの一角に座る少女を見た。正確には少女が座っているであろう場所というべきか。なぜならステーキ皿の山がテーブルに出来上がっているため、その少女の姿が埋まって見えないのだ。
「……というか、コレ本当に食べたんですか?」
「ふぐふぐ……。当機体――イリアは長い期間『りあくたー』を低出力で機体維持に努めていた。生体部品の維持に『えなじーばー』を摂取していたが、それは必要最低限のモノであり、摂取できる『かろりー』があるならば摂取することを優先する。はぐはぐ」
「えーっと? なんて?」
ダンが分からなかった言葉があったので、キョーコに通訳を頼んだ。
「ん~、お腹を非常食で食いつないでいたから、食べられるときには食べたいってことかな?」
「はあ、お腹空いててあれだけ動けたんですか」
ダンは思わず感心してしまった。それともゴーレムとはそういうモノなのか? ダンは長期偵察任務の際に、煮炊きを出来なかった経験から、コイツなら適任なのかもと考えていた。
「! なにやら不穏な気配が! 空気が変質したような?」
食器に触るナイフやフォークの音が途切れた。
「すみませ~ん、僕にもレッドモウの食事を一つ!」
イリアの食事を(意図せずに)中断させたダンは食事処に居た従業員へと声を掛けた。
「すまないね~、今日の仕込みは全部食われちまったんだよ。パンとベーコンと酒でいいかい?」
「な、んだと?」
しかし無いものを強請っても出るものがあるわけではない。ダンは仕方なく「それで」と注文をしてテーブルに向き直った。
とりあえずダンはギルドであった他の事の報告をする。
「まずゴーレムですが、何体かギルドへ渡しましたが報酬は後払いとなります」
「ええ? ゴーレムだぜ? 金にならないはずはないだろう?」とファーニが言う。
通常、ゴーレムはその体が素材となり、体内の魔石が燃料などとなる資源の塊だ。だが、
「え~っと、冒険者が素材の値段よりもダンジョン内部で見つかるお宝に期待しているのか、どういった事情かは分かりませんが、今回ゴーレムがギルドに初めて持ち込まれて、気づいたことがあります。……あのゴーレム、魔石が無いみたいなんですよ」
その言葉に全員絶句した。
「それって」
「ええ、いわゆる『ハズレ』ってやつですね」
あのゴーレムの素材はおそらく鉄。鉄も資源となるが、それよりも高い金額でやり取りされるのが魔石だ。たまに魔石が無い魔物もいるが、それも冒険者的には『ハズレ』と言われる。
「ちょっと待って? もしかして」
「あ~、いちおうギルドに調査報告をしましたから報酬は出てますよ。……といっても」
クローディアが何かに気づいた様子だったので、ダンは一応フォローを入れた。入れたが、ギルドを出た時点では予想出来なかった事態を横目に見る。
「ふう、『りあくたー』に入る限界値です」
ステーキ皿の山の向こうで、「けふ」と少女の息遣いが聞こえた気がした。
ダンはその食事代の支払いに報酬から足が出る気がしていた。
「はいよ~、おまたせ~」目の前に置かれるささやかな食事に、ダンはため息をついた。
*
翌日、ダン一行は早朝から宿屋を出て(食事代はレッドモウがあり余っていることから、割安にされて報酬と同額で相殺できた)、全員ニアラの街へと向かうことにした。
ギルドへの顔出しはせず、ウルスラの街の東門を抜け、最小限の武器と防具を付けた格好で残りをマジックバッグにしまい、再度駆け足でニアラへと向かった。
「なんか、この移動も、慣れてきた、気がする」
「そうですね、私も、運動は、得意では、なかったんですが」
キョーコとウェンディが並びながら会話をしている。その速度は横を通り抜ける駅馬車よりも遅いが、荷を満載した馬車よりは早い速度だった。
「って、なんでアンタ、そんなに遅いの?」
キョーコは後方を振り返って吃驚した顔で言った。そこには表情こそ変わってはいないものの、キョーコやウェンディよりも圧倒的に遅い速度でイリアが走っていた。
「……イリアは、『まらそん』を、するように、出来ていません」
「え~、それよりは遅いんじゃないかなぁ?」
キョーコは首を捻って在りえないといった顔をした。自分自身のことで変化を実感出来ていないのが原因であるが、パーティーで一番身体能力が低いキョーコですら、ダンの訓練の賜物――いやハッキリと犠牲と言うべきか――によって街で生活している体力仕事の成人男性以上の体力を得ているのだ。レベルによる恩恵以上に、ダンの訓練が効いているという部分が末恐ろしい。
そのまま1日目を走り抜けて、森の手前のキャンプ地で休憩をとる。その時点でイリアはばったりと地面に突っ伏した。他の人の邪魔にならないようにダンが担いで簡単な寝床へと移動させる。
「お、かしい、です」
「明日も走りますからね?」
ダンの言葉に、イリアは生まれて初めての気絶を経験した。ちょっと許容量を超えたらしい。
2日目のニアラまでの走りでは、イリアは途中でギブアップ宣言をした。というか倒れた。
*
「帰ってきましたニアラの街。とりあえずギルドへ帰還のあいさつ――お?」
「おや?」
「あら?」
日が沈んだ頃にニアラの街へとたどり着いたダンは、その足でギルドへと向かっていた。そしてギルドの入り口で思わぬ再会を果たした。
「ライにリン。二人もギルドへ?」
「ええ、簡単な依頼を消化してました」
「サニーとか私たちの食材の調達も兼ねてですけど」
なるほど食事か。とダンはしみじみ思ってしまった。
「大事ですよね食事って。とりあえず我々も帰還の報告に来まして」
そういってダンはギルドのロビーへと足を踏み入れた。相変わらずの雰囲気の中、ダンは真っすぐにミニーの居るカウンターへと向かった。
「ダン以下8名ニアラの街に帰還しました。あと1名、後日登録に来ます」
「「あと1名?」」ライとリンが知らぬ話に疑問符を浮かべる。
「は~い、承りました――って! ダンさん戻ってきちゃったんですか!? ウルスラの街のギルドから調査依頼の協力をお願いしたいって連絡来てるんですけど?」
「え~? それって強制は出来ませんよね? とりあえず一回休憩したいんですけど?」
ダンに言われて、ミニーも言葉に詰まる。
確かにコンディションなどの問題から冒険者が休憩を挟みたいと考えるのは自然な成り行きだ。強制力が働くのは魔物行進の時など、冒険者の事情に構わぬ災害時くらいなものだ。
「とりあえず、一回休みますんで」とダンが言い、代わりにライとリンが受けていた依頼の処理を願い出た。
「う~。とりあえずこっちに居ることは連絡させてくださいね」
「わかりました~」とダンが答える。さすがに居ない人物を探すために、ウルスラで人手を割いていた場合は申し訳なく思ったからだ。
無事にライ達の依頼報告も完了したようで、3人揃ってギルドを出た。
「あれ? お父さん達?」
「ありゃ? なんでライ達も居るん?」
ニアラの街の大きな通りが交差する道にて待ち合わせたリル達は、そこに居ると思っていなかったライ達の同道する姿に不思議そうな顔をする。
「お帰りなさいポーラ」
リンが腕を広げると、ポーラがリンに抱き着いた。ライも嬉しそうな顔をしている。
「食材の調達で街に出てきていたようです」とのダンの説明に全員納得していた。
「それじゃ、帰りますか」
*
完全な夜になる前にログハウスのある広場まで戻ってきたダン。
『おお、戻ったか主よ!』
黒い犬畜生が居た。
『いや、主、犬畜生って』
キューンと尻尾を丸めて悲しみを表現する犬畜生。
いや、姿は既にオオカミのそれではない。
長い黒髪を持ち、豊かな黒い尻尾を備えたソレは――
「たしか、『王』って言ってませんでしたっけ?」
――若い女性獣人の姿をしていた。
『我が変化の術の手ほどきをしたのだ』
「タマモ……、尻尾2、3本引っこ抜きましょうか?」
『なぜだ! 動物虐待、反対~!』
『む? 何か失敗したか?』
抗議の声を上げるタマモに、何かあったのかと自分を見下ろす黒狼王。そういえば、
「服はライ達が?」
そう服を着ていたのである。ダンはライ達が着せたのか確認のために聞いた。
何故かバツの悪そうなライ。対照的ににこやかなリンが答えた。
「ええ、ちょっと目に毒でしたから」
深く掘り下げるのは藪蛇と感じ取ったダンは、とりあえずこの件をスルーすることにした。
『そういえば1人増えておるな? またぞろ囲う気か主?』
タマモの勘繰りもスルーして、ダンは2人のメンバーを読んだ。
「キョーコさん、あとイリアも来てくれるかい?」
そういってダンはトリイの先に立っている石の前に2人を連れてきた。
「これ、石碑らしいんですが、なにぶん文字が古すぎて読めないんですよ。……どちらかでも読めたりします?」
2人は揃って首を傾げた。やはりダメかとダンは思った。
「古い?」
「この文字がですか?」
「ん?」
何か2人の言い方に違和感がある。
「というか『にほんご』よね?」
「間違いなく『げんだいもじ』と言える範疇では?」
ダンは2人の顔を見た。
「……読んでもらっても?」
そういうと2人は揃って読み上げ始めた。
「「『我、友の剣となる。獅子狩りダン。我は望みを叶える歩みを止めない。クロフォード』」」
「あれ? クロフォードってどこかで聞いたような?」
キョーコだけが何か思い当たったようだ。
「え~っと? キョーコさん、今自分が居る王国の名前を知りませんか?」
なにやら不審人物を見るようなダン。それに慌てたキョーコは必死に記憶を掘り起こす。そしてだいぶ昔の村の生活の中での記憶を思い出した。
「クロフォード、王国? あれ? このクロフォードってよく居る苗字?」
「みょうじ、が何か分かりませんが、クロフォードとは現在の王家の家名ですよ。ちなみに騙りは死刑になりますからね?」
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