(もっとも)東の街に到着する
王都から出発して1月後、ダンは東の街の到着していた。
ニアラという名の、この街は王都に属する街として、いや現在の人類(人種として括られる全ての種族を含めて)の最東端にある開拓拠点としての街だそうだ。
途中にある街や村を中継しながらこの街に到着したダンは、ここに至るまでの獲物を換金しようとこの街にあるであろう冒険者ギルドを探して聞き込み。そう苦労することなくギルドへとたどり着くことができた。
「ごめんくださ~い」
ダンの言葉に何故か室内の空気が動いた気がした。
殺気でもないし、なんだろうなぁとダンは気にせず室内を見渡した。
王都でもギルドを利用したことのあるダンは基本に忠実なギルドの内部の作りにホッと一息。素材買い取りカウンターの方へと向かった。そこには大型のカウンターと査定担当と思わしき職員のいる場所だった。
「かいど……ゲッフ! 買取りをお願いしたい」
そういや水飲むの忘れてたと咳払いして、とりあえず喉の違和感を取り除いたダンが職員に告げる。
『なんだ初心者さんか』と生暖かい目で見られた気がしたが、職員がカウンターを指し示し「こちらにお願いします」と告げる。
「買取りに制限って何かありますか?」
「そうですねぇ、使い勝手のいい素材なら基本受け付けますけど……。クズにしかならない素材はダメですよ?」
キラリと光る目。大丈夫。そんなに期待できるほどいい素材は取ってきてない。
なにせ真っすぐこの町を目指してきたので、返り討ちにした魔物だけなのだから。
「えっとですね」とダンは肩から下げているカバン。そのうちの2とデカデカと刺繍されたカバンをカウンターに乗せて蓋を開く。後ろで「ぷっ」と息を吐く音がした。喉でも詰まらせたのかな? 基本に忠実なギルドのメインスペースは酒場も兼ねてるし、たま~に本気で喉にモノを詰まらせた冒険者が1年に1,2人は居るのだ。(by大団長の冒険者知識)
まあヤバイ事態だったら既に騒ぎになってるだろうと、ダンはそれを聞き流してカバンに左腕を突っ込んだ。カバンに肩まで突っ込んだダンに職員の目が驚きを浮かべていると、ようやくソレを掴んだダンが腕を引き抜いた。
「この熊と~」ミシッとカウンターが音を立てたが、ダンは次に探すべきものを思い出しながらカバンを漁る。
その後「この狼と~」「この鳥と~」「このトカゲ「それはココに出しちゃだめです!」と職員の静止に、ダンのカバンからコンニチハしたトカゲ型魔物がまたカバンに押し戻される。
ダンは「えっと素材買い取り出来ないの?」という表情を浮かべ首を傾げる。それに職員が何故か短く悲鳴を上げ(どうでもいいが職員は強面の男性だ)、「大型の魔物は受け取り場所が違うんです!」と説明。なるほどとダンは手を打った。
熊と狼と鳥の魔物の首根っこを掴む形で、職員に案内されてついていったダンは大きな倉庫のような場所に案内された。
「ここがギルドの解体スペース兼倉庫となっております」
誇らしげに言う職員にダンは「ほえ~」と声を出した。こんなぶち抜きのただただ広い部屋など初めて見たからだ。王都のギルドもあったのかなぁと、どうでもいいことを考えていた。そんなダンの様子にしてやったといった顔を浮かべる職員。
「ではこちらは床に出していただいて構いませんので」
「そう? じゃあ」とダンは普通に受け取って手に持った魔物3匹を下すと、2のカバンを逆さに振った。
まさに流れ作業のように。
「ああああああああ~」と職員は山となっていく魔物に悲鳴をあげた。
「さ、査定は数日掛かるかと、思います」
買い取りカウンターに戻ってきた疲労困憊の職員に、同じく戻ってきてカウンター越しのダンは腕組して考える。現状路銀が少なく虎の子の金貨は額面が大きい。せめて宿代だけでも捻出したかったのだ。そう考えて「う~む」と声が出たダンに、また職員の悲鳴が聞こえる。
「? 査定が出るまで宿を取りたいんですが?」なぜ悲鳴? とそれを無視してダンは職員に問いかけた。
ハッとした職員は自分の思い違いに至ったのか、口早に説明する。
「でしたらギルド併設の宿屋で宿泊されてはどうですか? 明らかに高額な獲物も何種類も居ましたし」
耳のいい冒険者数人が首を傾げた。「種類って言うか?」「普通は数じゃね?」
「ではそれで」
「わかりました。ではカードを願います」
職員は自分の提案を受け入れてくれたことに安心して、いつものように手のひらをダンへと差し出した。
ダンは出された手と職員の顔を何度か見返す。そして、ポンと気づいたように手を打った。
「すみません。僕、冒険者登録はまだしてないんです」
なぜか室内の雰囲気が爆発した。
翌日、約1か月振りの宿で寝れたこともあって、調子のよかったダンは身だしなみをしていて気づいた。
「あ~、すごいヒゲだ。髪の毛もボサボサだし。一応匂いはそこまでじゃ無かったと思うけど、こりゃ相手も驚くよね」
こういった宿では体を洗うお湯が用意されることもあるので、ダンは泊まった部屋の扉を開けると部屋の前の廊下に桶が一つあった。それを持って部屋に入ったが桶は小さい。仕方なくダンは髪の毛と顔だけ洗うことにした。
手早く顔を洗い、髪の毛を洗うと砂ぼこりが桶の水面を埋める。とりあえずの形だけとポーチの中から小振りのナイフを取り出してヒゲも反り上げた。この時点で桶はかなり真っ黒だ。
桶を持ったダンは廊下を出て、宿屋の受付に向かった。受付に居たのは昨日もダンと話した受付の女性だった。
「すみません」
「はい。……はい?」
「洗濯をしたいので使ってもいい水場などはありませんか?」
そう問いかけるが、女性はなぜか固まったままだ。桶を片手に持ち替えて、手を女性の前で動かすと女性が反応を返した。
「えっと、中庭に井戸があります」との答えが返ってきたので、「ありがとう」と返して女性の手の指す方向へ向かう。廊下の途中の扉から庭が見えたのでそこから出ると、ざっと見渡して排水場所を見つけ桶の中身をそこに。次に井戸に向かうと鶴瓶を持ち上げて中の水を汲み上げた。
朝が早かったのか誰もいないので下着姿になったダンは、汲み上げた井戸水で頭から下へと順番に洗っていく。
「匂い消しをかねた砂が結構中まで入ってたなぁ」
『なるほど、かなり凄まじい見てくれだったから昨日はあんな反応をされたんだな』と灰色の埃だらけのような姿を自分自身で想像して納得したダン。
自分自身を洗い終えると、着ていた服を洗い始める。そこで気づいた。
「あ、着替え」
コソコソと部屋に戻るダン。その姿を受付の女性はバッチリと目撃した。
「先ほどはありがとうございました。桶はどちらに?」
「こちらで受け取りますよ。……それと今後は下着だけで歩き回らないでくださいね?」
見られていたのは分かっていたダンが「今後気を付けます」と肩を落としながら応えた。
女性は何故かテカテカしていたが。
とりあえず査定にまだまだ掛かるとのことだったので、ダンはこの街の東門へと向かった。この街は人類最東端の街ということだった。ならばさらに東に門があるのはなぜか。
「死の森に入るのか? 死んでも知らんぞ」との門番さんのありがたい言葉を聞いてから、ダンはこの街の東にある死の森という森を見に来ていた。
由来はそのまま。入ると死ぬ森。
どうも脅威度が高い魔物が数多く生息する森らしい。
「さてどうしたものか」
東門から真っすぐ森の手前まで来たダンは腕を組み考える。ダンの目的地はこの森の中なのだ。
「ま、しょうがないね」
東門の門番に、「また来ます」と声をかけて街中に戻っていくダン。
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順次公開していく予定ですが、これより先の話を見たい方は
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https://www.alphapolis.co.jp/novel/872180522/8274942
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