ニアラの街に帰ってくる。そしてトンボ返りをする (ところでトンボって何? byダン)
装備が出来た翌日、予定通りニアラの街への帰還準備をする。
全員に仕上がった武器と整備が終わった武器を渡して、ダンも自身の装備を付けて宿屋の部屋を出た。
「なんか、形状がだいぶ変化してるんだけど?」
「こちらもちょっと重心が変わりましたね」
「う~ん、コレコレ♪ 棒でもいいけど、こっちの薙刀っぽい方がしっくりくるわ」
「んん~、物が掴みにくい」
順番にファーニ、ウェンディ、キョーコ、リルの発言である。
ファーニの剣は直刀からやや円を描いた曲刀へ、ウェンディの棒の両端は重量を増してメイスの様に突起を付けた。キョーコの棒には小さい刃を片側に。リルは新装備として手首までを覆う手袋だ。その手袋は金属のパーツで覆われて、二の腕まで覆わないガントレットのような物だった。防具ではない。その指先は鋭い爪の様になっており、握りこむ手の平側は厚手の革で出来た疑似的な獣の手を意識した装備だった。
各々新装備を確認しつつ、ギルドのロビーへと移動した。
「おはようございます皆さん~」
ミニーがギルドのロビーにてダン達を迎えた。
「おはようございますミニーさん。我々の馬も連れてきますので少々お時間をいただけますか?」
ダンが挨拶をしている後ろを通り抜け、ポーラが外の厩舎へとサニーを迎えに行く。
ミニーの御者をしているマークスが居ないという事は、既に外で馬車を待機させているのだろう。宿の部屋の鍵をカウンターへと持っていき手続きを済ませ、ダン達はギルドの外へと出た。やはりマークスが馬車の荷台に荷物を積んでいる姿が見える。
手伝いを申し出たダンだが、マークスは指で何かを指し示すと荷物の固定作業に戻った。
はてなんだろう? と振り返って、その指示したものを見る。
レッドモウだった。
正確に言えば、肉と皮の素材状態にされたレッドモウだったモノを見て、ダンはポンと手を叩いた。
「そういえばすっかり忘れてました。えっと食材入れの5番って誰が持ってましたっけ?」
皮を素材用2番バッグにしまいながら、ダンはメンバーに聞いた。リンが5の刺繍が入ったバッグを持ってくる。
「……。普通、そんなにマジッグバッグを持ち歩いているパーティなんて居ないんだがな?」
マークスのぼやきは誰にも聞かれることなく空へと消えて行った。
*
ニアラに戻るまでの3日間は特に問題も起こることなく、無事に全員がニアラの街までたどり着くことが出来た。
「なんだか呆気なかったですね~」
「いいかミニー、今回の旅は普通じゃなかったと思っておけ。ここまで安全な移動は、まずありえないと考えろ」
拍子抜けした様子のミニーに、マークスは釘を刺すように言った。
「普通のギルド職員だったら熊型魔物が出た場合、まず真っ先に逃げることを選択肢に思い浮かべろ。間違っても熊肉を期待するな」
「え~、でも中級辺りの護衛が居たら倒せますよね?」
「いいか? ベア種の場合、まず狙われるのは馬車の馬だ。人よりもデカイ肉の塊に見えるんだろうな……。ここまで言えば分かるだろ?」
マークスの言葉にミニーは顔を青くする。馬が狙われる。その状況では馬に繋がれた馬車など、攻撃の余波に巻き込まれるのは間違いない。そして馬車に乗っているのは――
「肝に銘じます」
そんな会話をしていると馬車はギルドの前へと到着した。
やっと帰ってこれたとミニーはギルドの扉を開いて声を上げた。
「たっだいま戻りました~」
そんなミニーを見ながら「やれやれ」と首を横に振って、マークスは荷物をギルドの中へと運び始める。それにダン達も荷物を持ち上げてついていった。
「おう、ご苦労さん。ダン、お前には後で話があるからちょっと来い」
中に入るとバルザールからそう言われ、ダンは『なんの件だろ?』と思いつつ、ライに依頼完了の処理を頼んでギルドマスター室へと足を運んだ。
そのまま入る。
「!? おい、ノックぐらいしてから入れ!」
「え? バルザールさんの後ろを歩いていたので、一緒に入ったんですが?」
「気配を消して、人の後ろを歩くんじゃない……」
ダンは廊下を歩くバルザールに追いついたので一緒に部屋に入ったのだ。バルザールとしては机に座って一息くらいはつけるかと思っていたら、既に室内にダンが居たので慌てて怒鳴りつけただけだった。だがダンの回答にガクリと肩を落として、それしか言えなかった。
しばらくすると落ち込みから回復したバルザールがダンに問いかける。
「ついこの間だ。街の西門に盗賊がまとめて連行された話。コレってダンの仕業か?」
仕業と言われると心外だが、それでもダンは身に覚えがあるので頷いた。
「ふむ。……まずはウチの職員の命を助けて貰ってありがとう」
「いえいえ、護衛依頼ですから守るのは当然ですよ?」
「それでも感謝するってことだよ。というかマークスから聞いたが、レッドモウの大群とやりあったんだって?」
「まあ、不可抗力で? 目の前に進み出ちゃいましたからね」
バルザールはダンへ興味津々といった表情で聞いた。
それから旅程でのアレコレを説明して、バルザールは納得するように頷いた。
「やはりそうなったか……」
「どういう意味ですか?」とダンが目線で聞くと、バルザールはそれとは別のことを答えた。
「お前ら全員、D級へ昇格だ。飛び級はさすがに出来んがな」
「いやいや、先程の返事がまだですが?」とダンが抵抗するも、バルザールに部屋から追い出されてしまった。
その手に昇格関連の書類を持たされて。
ロビーへと戻り、カウンターに居た職員に書類を渡して、ダンは他のメンバーを探した。
「ダンさん、こちらですよ~」
手を振ってダンを呼ぶメンバーに、気づきましたよと手を振り返したダンはそちらへと歩み寄った。全員で軽い葡萄酒を1杯飲んでいた様だ。椅子の無いテーブルに近寄ったダンは、まだ手の付けられていない葡萄酒が入った杯を渡される。
「依頼成功のお祝いですので」
「そうですか。それでは無事に戻りましたので記念に」
「「「乾杯!」」」
半分くらいまで一気に飲み干すダン。
「ふう、うん美味しい。あ、そうだ皆さんも無事に昇格となったようなので、カードを更新してきてくださいね」
結果を聞かされて、皆々が葡萄酒を一気に飲み干すとカウンターへと小走りに駆け寄った。ダンはそれを見ながら残った葡萄酒を飲もうとして、その人影に気づいた。顔を上げると、リルが葡萄酒の杯を持ったままこちらを見ていた。
「どうしましたリルさん? 行かないんですか?」
しかしダンの声掛けにリルは応じることなくこちらを見ている。どことなく鋭い目つきでダンを見るリル。
『はて? なんか違和感が?』
それは何処だとリルを観察していたダンは気づいた。
尻尾がフラリフラリと揺れている。普段リルは人前では滅多に尻尾を動かすことはない。歩いていれば別だが、立ったまま尻尾を揺らすことなど――あ、あった。
「リルさん? え~っと、お酒美味しいですか?」
「う? おしゃけ?」
確定だ。リルは酔っぱらっている! と同時に思い出されるのはログハウスでの悪夢。
いや悪夢だというと聞こえは悪いが、ダンが性的に襲われたあの日の夜を思い起こす。
よく見れば、リルの眼は鋭いじゃなくて座っている。
「美味しい? 獲物?」
やばい! と本能で感じ取ったダンは、その後リルの頭をなでたり、酒のツマミを注文して気を逸らせたり、さらっと葡萄ジュースにすり替えたり……。手を変え品を変え、リルが酔いつぶれるまで気を逸らし続けることに成功した。
ふう、と息をついたダンは、何やら感じる視線に振り返る。
「「「私たちも構ってほしいなぁ」」」
ライとリンが微笑ましく見つめる先には、一人の男が複数の女性達に気を使っている光景があった。
*
「それでこれからウルスラに出発するの?」
キョーコがウキウキしながらダンへと聞いた。
あれから少し時間が経って、ようやく解放されたダンに話しかけることが出来たのだ。まあ、別のお願いなどは色々と話をしたが。
「? 一回ログハウスまで帰りますよ?」
「ええ!? なんで?」
「いや、サニーを連れてダンジョンに潜れませんから」
言われてキョーコも「ああ、そういえば」と言わざるをえなかった。
「それじゃあ、皆さん。家に帰るとしますか」
そしてギルドを出て、ニアラの東門を抜ける一同。ちなみにリルは酔いつぶれて寝ているので、ダンが背負って運んでいた。
手に武器を持って森に入っていく一同。多少の酒が入っても揺るがない足取りで森の中の道を進む。
すると道の向こうからタマモが近づいてきた。
「お、ただいまタマモ」
『ようやく帰ってきおったか主よ。早く結界まで来てくれ!』
なにか慌てた様子のタマモに連れられて、ダン達はログハウスも覆われている結界までたどり着いた。
「……アレ、なんですか?」
『ワシにもよう分からんが、アレのせいでうるそうての?』
「じゃあタマモ、何とかしなさい」
『……主殿の度量を見せる時ではないだろうか?』
そこまで二人が擦り付け合いの漫才をしていると、そのアレがダン達へと振り向いた。
『そこか人間! 我はこの森の王、こ――』
「うっさい! デカい声で言わんでも聞こえますから!」
こ――まで言ったその大きな獣は、ダンが脳天から食らわせた手刀を受けて気絶した。
「ほう? コイツ結構硬いですね。若干、叩き切る勢いを乗せたんですけど?」
果たしてダンの攻撃に耐えた獣に反応していいものか、それともダンの攻撃自体にツッコミを入れるべきか、その場に居た全員が答えを出せずに黙ってしまった。
『あの、我の話、聞いてもらってもいい?』
結界の前でお座りをしている姿は、なるほど大きな狼だった。
黒い体毛に黒い皮膚、澄んだ赤い瞳を持つ狼は、現在ダンの眼の前にてお座りの姿勢で存在していた。
「そのくらいの声の大きさなら、話してもらって構いませんよ」
腕を組んだまま、ダンはそう狼へと答えた。
『ならば改めて。我はこの森の王!――あいたぁ!』
「声の大きさには注意してください?」
右手をいつの間に振り上げたのか、右手で手刀を構えながらダンが言う。というか既に一撃、狼の脳天に入っていたらしい。涙目ながらも頷く狼にダンが先を促す。
『え~と、この森の狼のリーダーで黒狼王と名乗っています。それでですね? 森の狼達をなるべく狩らないでいただきたいなぁ、と』
やたらと低姿勢になった黒狼王を名乗る狼。なるほど確かに森と街を行き来するたびに、出てくる狼を狩っていた記憶が確かにあるなとダンは思った。ダンは頷いた。
『おお、それでは!』
「襲い掛かる相手に敬意を表して、今後も狩らせていただきます」
『えええ!?』
「なにを驚いているんです? 襲い掛かったら反撃されるときもあるでしょう? それが嫌なら狼達を人を襲わないように躾けなさい。無理なら諦めることです」
ダン達も積極的に狩っているわけではない。襲われたから狩っているだけだ。
『ううむ、あいつら本能に勝てんからなあ。そこを何とか出来んか? 我に出来ることなら何でもするぞ?』
「そうは言ってもなぁ」とダンも頭を抱えた。目の前の黒狼王をぶっ飛ばして解決するなら――
『ぬ? 急に寒気が?』といい、尻尾を腹に抱える狼。このくらい知性を持っている相手なら、いくつか方法が無くはないが……。とそこに声が掛かる。
「無理ですよ。所詮未だに獣の相手に理を教えることなど。『オークに宝石』といったところですね」
リルだった。白い顔をさらに青白くさせて、
「うううっ」とか口を押えていた。
『なんだ? 狼と人の混じり子よ。大事な話の途中で口を挟むでない』
「……誰が混じり物だと?」
リルがブワリと毛を逆立てて闘気を解放していく。
「おお?」
『これは、なんだと?』
そして闘気が収束していくと、そこには――
「どうだ!」
「う~ん、見事に幼体ですね。本来のサイズで?」
「……。本来よりも小さいかな?」
ダンの腰位はある白狼の姿に変わった。黒狼王は目を見開いてリルを凝視しる。
『フェンリル種、だと?』
そしてリルはブルリと震えると元の人間体に戻った。ダンが投げてくる服を着ながら答える。
「そうだ、私はフェンリルの娘だ。そして分かったか、先程言った意味が? 話をするのに人型を取れない者に獣と言ったわけを!」
『なるほど! まずは相手に合わせるという事だな!』
なぜかそういう理論で納得してしまった獣と元獣。
とりあえずダンは2人を放っておいて、ログハウスへと帰還を果たした。
*
「じゃあ、留守を頼みますね」
サニーの世話に残りたいと言ったライとリンに、訓練メニューを伝えて休まずに行うようにと告げて、ダン達はウルスラの街へと向かう。
「本当に1日休んだだけで向かうんだ。こんなトンボ返りみたいな日程なら向こうで待ってた方が良かったかも」とキョーコが愚痴をこぼした。ダンは返るは分かったが、トンボって何だろうと思っていた。何かの方言かと推測してみた。
『あの? 我の話は?』
「人化出来たら、その時に話しましょう」
黒狼王はリルにバッサリと切り捨てられて、この場に居残りとなった。
途中、ニアラのギルドにて「ウルスラの街まで行ってきます」と伝言を残して、一同はウルスラへと続く街道を移動していく。
のちに門番は語った。
「あんな駆け足で隣街まで持つわけないって」
ダン達は駆け足でウルスラの街へと向かった。
そしてニアラの街を出て、2日目にウルスラの街へと到着したのだった。
ダンの世界にトンボは居ません。
めっちゃでかい航空母艦のようなトンボは居ます。
読んでいただきありがとうございます。
順次公開していく予定ですが、これより先の話を見たい方は
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