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久々に趣味に走る

 外から差し込む柔らかい明かりに、ダンはベットから起き上がって軽く伸びをした。

 昨日は全員疲れていたようで、ダンは久々にゆったりとした睡眠を取ることが出来ていた。


 ファーニやキョーコ、クローディアらの顔を見ながら、起こさないように部屋を抜け出す。この街のギルド併設の宿屋は、廊下がギルドロビーへと繋がっている形の建物だった。

 まだ朝も早い時間とあって、ギルドには人が少な――


「あれ?」


 静かだからと人が居ないのかと思っていたが、ロビーには死屍累々といった感じで冒険者が倒れていた。何かあったかと思ったが、ロビーに響き渡る()()()に寝ているだけかとダンは落ち着いた。


≪ミニー≫


「う? んん~、体イタイ」

 カウンターに突っ伏すような形で寝ていたミニーは、強張った体を無理やり起こしながら伸びをする。

「起きましたか。お茶でもどうです?」

「貰います~。ふわわ~」

 返事をしつつ欠伸がでる。また頭が本調子ではない。横から差し出されるお茶を貰い、飲む前にホッと一息吹いてからお茶に口を付けた。


「とてもお疲れのようすですね」

「そうですよ~。ニアラの街でも散々やらかしたのに、この街でも……。まだ着いた当日だっていうのに、もうダンさん達は~」

 飲んだお茶は匂いが良い。鼻に感じる香りに気持ちが和らぐ。ついでに心も緩んで、つい愚痴が出てしまった。それにしても鼻だけはお父さんに似たよね私。


「あれ? 僕達が何かしましたか?」

「!!! ダンさん!?」


 まさか愚痴を言った相手が愚痴の原因になった相手だとは思っていなかったミニーは、その動揺から急激に意識が目覚めて目の前の人物を見た。


 ポットを左手に、布巾を右手に装備したダンが居た。

 ――何故、布巾?

「おはようございますミニーさん。――おかわり要りますか?」

 ダンの変わらぬ様子に毒気を抜かれたミニーは「お願いします」と手のカップにおかわりを貰った。


 その後ダンはカウンターを布巾で拭きあげると、次にロビーに置かれたテーブルを拭きに移動した。

 ようやく頭が起きてきたミニーはロビーの様子を見る。そこにはポツポツと昨日の()()()、打ち上げと称して宴会をしていた冒険者達が起き上がってくる姿だった。職員も何人かはカウンターでの書類をまとめ始めている。


「って! ダンさん達、全員ご無事だったんですか?」

 あの後ダン達が魔物行進(モンスターパレード)を撃退したことを知らされたミニーはそれを聞いた。


「ええ。とりあえず疲れていたので、応援の方たちに後処理を任せて先に休ませていただきましたが」

「やっぱり不味かった?」と雰囲気で聞くダン。不味かったどころか危機的状況を救ってもらったのだ。そんな相手に不味かったとも言えない。言えないが――


「レッドモウ。狩り過ぎです」

 言外に大変だったとミニーは告げた。


 合計80余りのレッドモウは、現在食肉部分を近隣の村や街に安く売る形で在庫を抱えないように、ギルド内で調整作業中だった。さすがに余らせて腐らせるのも忍びなかったのだ。これでもウルスラとニアラ、さらに近くにあるダイモスの街に多く割り振る計画だが、それでも余剰が出そうな計算だ。


「1、2体分なら引き受けますが?」とダンが言えば、「当然ダンさん達にも3体分引き取ってもらいます」とミニー。その他の余りは昨日の宴会に無理やり出して消化してもらった。

 給湯室に消えて、ポットと布巾を置いてきたダンがカウンターに戻ってくる。


「さて、ミニーさんの目も覚めたみたいですから、今日の時間潰しの依頼でも――」

 ミニーに依頼を聞こうとしたダンは、そのミニーにガッシリと腕を掴まれる。


「ダ・メ・デ・ス・ヨ?」


「ああ、薬草採取とかその辺りでもいいんですが」

「ダメ! ダンさん達は、今日1日依頼禁止~!」



 なんとかダンを説得し、カウンターに突っ伏すミニー。ウルスラのギルド職員はミニーに声を掛ける。

「さすがに薬草採取も禁止はやりすぎじゃない?」という職員に、ミニーは頭を振って答えた。


「いいえ、ニアラの街でもあったことですが、ダンさんのパーティが採取をすると、それ以上に襲ってきた魔物が納品されるんです。薬草5個の依頼でグラスウルフが13匹ですよ! そんな人たちを野放しにはできません」


 それを聞いた職員も青い顔をする。話だけなら与太話かと思えるが、すでにダン達のパーティは()()を見せている。これ以上ない説得力に、その職員も「確かに」としか言えなかった。

「まあ、街中に居る限りじゃあそんなことは起きない()()ですから」

「明日の帰りの護衛に影響が出ないように、今日は街中に居てください」と約束させたミニーは、そう自信なさそうに言った。


≪ミニーアウト≫


「というわけで1日完全休暇です。一応拘束される形なので、昼代とちょっとした小遣いとして銀貨3枚を一人当たり支給されました」


 部屋に戻ってきて、他のメンバーも集めてそう説明するダン。安い定食屋などは昼が大体銀貨1枚くらいだ。さらに安くも高くも出来るが、おおよそその基準での支給額だろう。

 一人一人に銀貨を配るダン。まあメンバー自身も自分の財布は持っているが。


「なので街中に居てくださいね。僕も何をしようかなぁ?」

 各々急にできた自由時間に考える。


「ウチは食べ歩きでもしようかな」

「お、んじゃあたしもついていこうかな」

「あ~、食べ物。……私も行きます」

 マロン、ファーニ、リルは食べ歩き。


「んじゃ、我々は家族で動くか?」

「ん~、クローディアも一緒に来る?」

「……邪魔じゃなければ」

「なら決まりね」

 ライ達家族組とクローディアは街を見て回るようだ。


「私は、本とか探そうかな? 魔法関係の本」

「あ、私もご一緒させてください」

 キョーコがそういうと、ウェンディも賛同した。


「じゃ、僕はちょっと鍛冶屋まで行ってきます。ああ、皆さん武器の手入れもついでにしてきますよ?」

 ダンがそういうと、皆自室から武器を持ってきた。それを受け取りながらポーチにしまいつつ、ダンは皆に聞いた。


「それと、武器に要望とか出てきましたかね? こうして欲しいとか、こういった武器が欲しいとか」

 ふと思いついたように尋ねるダンに、皆腕をくんで考えた。


「あたしはもうちょい武器に切れ味が欲しいと思ったくらいかな?」

「私の武器も、両端の重りをもう少し重くしてもいいかと」

「ん~、片方に刃が欲しいかな? こんなくらいの」

 ファーニとウェンディ、キョーコが要望を出す。


「私はやはり手でも攻撃できるようになりたいですね」

 とリルも手を開閉させながら言う。


「でも、そんな要望出しても今日中にやってくれる鍛冶屋が見つかるか?」

 ファーニはそうダンへと聞いた。

 要望を聞き終えたダンは首をすくめて、

「まあ、ソレを含めて聞いてみます」

 そして全員街中へと繰り出していった。



 ダンはギルドで教えて貰った()()()に行ってみた。さすがにギルドも鍛冶屋は直接情報が無かったためだ。鍛冶屋と取引があるであろう武器屋に場所を聞く考えだ。


「いらっしゃい。何が要りようだ?」

 店員に尋ねられたダンだが、まずは店舗の中の武器を一通り見てみた。ざっと見渡しながら店員へと歩み寄るダン。『こいつ聞こえてるのか?』と店員が不審な顔をするも、ダンはマイペースに尋ねた。


「こちらの武器は、同じ鍛冶屋で作られたものですか?」

 やっと返事が返ってきた店員が答える。


「おう、品質は保証するぜ!」

 とりあえず目についたナイフを一本取ると、店員に「これを」と差し出した。


「そいつは銀貨50枚だ。……まいど」

「それと、ここの武器を作った鍛冶屋を紹介してくれません? ちょっと直接話したい依頼がありまして」

「ふむ? 注文ならここで受け付けるが?」

「いえ、()()()()()()()()()()。それともここに鍛冶場が?」

 店員はダンの雰囲気を見て、鍛冶場の住所を告げた。どのみち知ったところで鍛冶場の主に認められなければ、話も通らないだろうと思ったからだ。



 教えて貰った住所にたどり着いたダン。なるほど確かに鍛冶場の匂いがする。ただ今は火が入っていないようにも感じられた。留守だろうか?

「ま、聞いてみなければ分かりませんね。すみませ~ん」


 ドンドンとドアをノックする。中で人の気配が動いた。しばらく待つと機嫌の悪そうなドワーフの男が中から出てきた。ダンを見て不審そうな顔をする。


「……誰じゃお前さん?」

「ダンといいます。この鍛冶屋の主人ですか?」

「そうじゃが、個人からの依頼は受けんぞ? 今日は休みと決めたからな」

 今にも扉を閉めたそうにするドワーフの男にダンは頼み込んだ。


「すみません、こちらの()()()()()()()()()()のですが」

 そういったダンの要望に、ドワーフの顔がわずかに変わった。

「……とりあえず話を聞かせてみろ」

 興味がわいたドワーフが扉を開いてダンを招き入れた。


 そこは店舗ではなく、まさしく鍛冶場だった。販売は先ほどの店に委託をしているのだろう。


「それで? ()()()()ってのはどういうことだ?」

「え? ああ、そうでした。僕、一応鍛冶は出来るんですが、街中で無遠慮にやると迷惑をかけちゃうかなぁと思いまして。それで鍛冶場をお借りしたいなと」

「鍛冶が出来る? お前、鍛冶屋の倅か何かか?」


 見るからに別の職業についていそうなダンの格好に、ドワーフの男はダンが鍛冶を嗜んだことがあるのかと考えた。ダンも曖昧に頷いた。


「それで? 人の炉を使わせろと?」

「いえ、鍛冶場のスペースを使わせてくれれば、道具は()()()で用意しますから」

 どこか捉えどころのないダンに、ドワーフの男は興味をひかれた。


「……そこまで言うならやってみろ。そこが開けてるぞ」

 ドワーフの指さす場所を見て、ダンは自分の必要とするスペースを思い描く。なんとか足りそうだと思ったダンは「それじゃあお借りしますね」と言って、そのスペースへと移動した。

 ドワーフは何を始めるかと若干の期待をしながら、ダンの行動を監視した。


 まずダンは精神を集中。これから行う()()()()を頭に思い描いて、精神統一をする。


『炉の炎を受ける受け皿』

「なっ!?」とドワーフの声が聞こえるが、集中したダンはそれを聞き流す。鍛冶場のむき出しになっている地面の土を炉の形へと変化させる。


『鍛冶場の炉の炎よ』

 先程の魔法で作った炉に炎を投げ込んだ。


『炎の息吹、繰り返し繰り返し』

 炎に風を送り、温度を上昇させる。


 ダンはポーチから預かった武器を取り出して、さらに鉱石を取り出した。他にもヤットコやハンマーを取り出していく。

 炉の温度は急激に上がっている。手持ちの鉱石を放り込むと、ダンはまずファーニの剣を一本突っ込んだ。その剣は柄が既に外されていて、金属だけの状態となっていた。

 ダンは集中力を魔力に向けて、火と風を制御していく。


 そして金属が真っ赤に熱せられた頃合いに、また一つの道具を取り出した。

「フルメタルタートルの甲羅!?」

 取り出した金属の光沢をもつ1枚の甲羅。それを再度土の魔法を使って地面を変形させた台に被せる。金床だ。


 そしてダンはヤットコで剣を掴むと、一気に金床の上に乗せて叩き始めた。剣の形状が変化していく。炉と金床の上を行ったり来たりする剣。そして炉に入れられた剣を見ながら、再度ダンは土魔法を使って長方形の器を作り出す。


『山の雪解け水』

 水魔法を使ってその器を水で満たすと、ダンは剣を炉から抜き出してしばらく見る。と、一気に水の中へと剣を差し込んだ。ジュウゥと音を立てる水。音が止んだ頃に水から抜き出したダンは、それを見て、再度炉へと差し込んだ。

 じっと見つめるダンの顔をドワーフは真剣な目で見つめる。


 先程よりも早いタイミングで抜き出したダンは、追加で発動させた水魔法で水の温度を下げつつ、その瞬間を見計らって再度水へと差し込んだ。

 そして抜き出した剣を見て、こんなもんだろうとダンが振り返った。


「どうでしょう? こんな感じで使わせて貰いたいんですが――」

「剣を見せてみろ」ずいっと差し出される声と手。


「まだ熱は残ってますよ?」

「俺の手袋は特注品だ。いいから渡せ」

 そういわれたダンはドワーフへと剣を渡した。借りる立場だからしょうがないと、ダンはドワーフの許可が下りるか心配をしていた。

「……研ぎもしていくんだろ?」

 唐突に聞かれたが、ダンは「そのつもりですが」と答える。


「面白そうだ。研ぎはワシがやってやるから、小僧、お前はドンドン打っていけ」

 意気揚々と大きな回転砥石に歩いていくドワーフ。ダンはその後ろ姿に声を掛けた。


「すみません、こっちの槍とかは研ぎだけの予定のものなんで、こっちもお願いできますか?」

 ドワーフは肩透かしを食らったようによろけた。


「――お前、いい根性してやがるな! 分かった、そっちも渡せ」

 ドワーフは面白そうな顔をして笑った。


≪鍛冶屋サイド≫


 鍛冶場のドワーフ。ギルムは久々に心を躍らせていた。


 急に訪ねてきた人族の青年。ドワーフにしてみればヒゲも生やしていない、しかもシワもない人族の男など小僧という感覚しかなかったが、それでも何かを感じ取ったギルムは、一先ず青年に好きにやらせてみることに決めた。


 鍛冶場の()()()()を使わせてくれという。何をするのか見ていると、青年はとんでもない()()を放ち始めて、土属性の魔法を使った。

 極めて強固な土壁魔法(アースウォール)の変則系だ。その後火と風の属性魔法を使って、高温の炎を作り出していた。炉の形で生み出された土壁はその温度をしっかりと抑え込んでいる。


 そして青年はさらにフルメタルタートルの甲羅を取り出した。

 とても強固な魔物素材のそれは、青年が鍛冶をしようとしている黒鉄鋼ならば十分に強度的な面で勝てる素材だった。それを土魔法で生み出した出っ張りに被せている。金床替わりか!


 そして青年は瞬く間に剣の形状を湾曲したものに変えていく。そして水桶代わりに、これまた土魔法で器を作って水魔法で水を満たしていく。あの水もかなり冷やされた不純物の少ない水のようだ。


 目の前の光景を見れば、なるほど、青年の言葉通りに()()()()()()鍛冶を行えるのだろう。ただ、素材を叩く際に出る音まではどうしようもない。それゆえにこの()()()()()()()()と言ったのだろう。

 青年が打った剣を研いでいると、後ろから次の鍛冶をする音が聞こえてくる。


 青年が予定を済ませた後、久々に鉄が打ちたくなった。


≪鍛冶場サイドアウト≫


「それじゃあ、どうもありがとうございました」

 軽く手を上げるドワーフ。彼には金貨1枚を渡している。


 さすがに何本も研がせるのも悪い気がしたが、「全部やってやるよ!」と言われて任せてしまった。

 ダンの家に代々受け継がれている鍛冶の技。

 ()()()()()()()()()()作ったが、とりあえず感のある武器だったので、この機会に打ち直しを出来たのは非常にタイミングが良かったと思った。


 一通りの武器に手を入れたダンは、弓の弦などを途中で仕入れると宿屋へと帰って最終調整を施していく。

読んでいただきありがとうございます。

順次公開していく予定ですが、これより先の話を見たい方は


アルファポリスでの投稿ページ

https://www.alphapolis.co.jp/novel/872180522/8274942

にてお読みください。


よろしくお願いいたします。

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