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中級冒険者への登竜門

「護衛依頼ですか?」


 その日クエストを探しに来ていたダン達は、ミニーに呼ばれてカウンターへと集まっていた。


「そうです、ダンさんたちはクエストを毎日こなして既にE級にランクアップしています。それでD級への昇格試験として、この護衛依頼を受けていただきたいと思っていまして」

 確かに1日1件。下手をすれば2、3件のクエストを消化していたダン達は、カードの表記にEと示されていた。正直、低級のランクが上がりやすいものではあっても、この速度は異常とも思えるほどであった。

 ダンは『そんなもんなのか』と思っていたが。


「ここから西にある街。ウルスラまでの護衛となるんですが……、いかがでしょうか?」

 ダンは皆を振り返った。皆頷いている。

「それじゃあ――」

「引き受けて下さるんですね!」


「護衛対象と移動距離、日程の確認をしたいですね。それと出発の予定も」


「うぇ?」

 ダンはミニーへと質問をしていた。元兵士。行軍はよくあることだった。




「それでは明日の朝にギルドにて」

 距離は移動に馬車を使うということで片道3日。報告と休養で1日。そして帰ってくる合計1週間の工程だった。護衛対象はミニー。どうもギルド間の定期連絡としての移動。その護衛役というようだ。

 明日には準備が出来るというので、ダン達も今日は街で寝泊まりをする予定だった。

 ただライとリン、ポーラはこの場に居ない。というのも、


「すみません、馬を使ってもいいですか?」

 先程のダンの質問が終わった後、ライがミニーへと聞いていた。


「え、馬ですか? 冒険者の方で馬を所有している人は珍しいですね。まあ自分たちで馬の面倒を見れるなら、問題はありませんけど?」

 さすがにタマモは残っているとはいえ、1週間も放置は出来なかったのだろう。ミニーの返答を聞くと、ライはリンとポーラを連れて、ログハウスへと向かっていった。とりあえずあの3人なら無事に街まで戻ってこれるだろう。

 念のため素材用に2番バッグを渡して、ダンは3人を見送った。


 それから手分けをして道中の食べ物の確保に市場を回るダン達。

 昼をちょっと過ぎたころにギルド前まで戻ってきていたダン達のもとに、ポーラを乗せた馬を引き連れたライとリンが戻ってきた。

「サニーも久々に遠出が出来て喜んでます」

 馬の名前はサニーといった。ダンがチラリと見ると、何故か嫌そうな顔をしてソッポを向くサニー。


『さすがに『バサシ』と名前をつけて呼ぼうとした相手は、まだ嫌いかな』

 ダンはしょうがないと頭を振って、サニーも泊まれる宿を探しに移動を始めた。


 ギルド周りには冒険者によく使われる施設が多く集まっていた。その中でも厩舎を備えた宿はなかった。さすがに街中で獣臭いのは嫌がられるのだろう。西門近くまで移動して、ようやく宿屋を探し出したダン達は宿屋へと入っていく。


「部屋の用意と、あと馬を預かってほしいんだが」

「何部屋必要ですかな? あと馬は何頭?」

 そういえば、と改めて全員を見直すダン。ダンを含めて10人。なるほど、結構多いな。


「2人部屋と大部屋ってありますか?」

「さすがに大部屋ってのは。雑魚寝の部屋はありますが……」

「じゃあソレで――」


「「「さすがに異議有り!」」」

 女性陣を雑魚寝部屋で済ませようとしたダンはさすがに怒られた。


 宿屋に確認して、2人部屋と4人部屋を2つ借りる。サニーも含めた代金を払って、ダン達はそれぞれの部屋へと向かった。

 ダンとライが2人部屋へと入って、手早く装備を外して服だけになる。7番バッグに装備を入れて、部屋を出て女性達の部屋へと向かう――


「なにしてるんですか皆さん?」

 何故か部屋の前で扉に手を伸ばした姿勢のまま固まっているリル達がいた。

 良く分からないと、手に持ったバッグを渡してダンは自分の行動予定を伝えた。


「とりあえず夜は宿の食事をするということで。僕は軽く街の湯屋へと行ってきますね」

「各自別行動で~」とダンは宿屋を出て行った。



 ログハウスの中に備えられた風呂に入っていて、とくに街に居る時は必要のなかったダンは、しかしこの街にも湯屋があることを調べていた。手には財布を持って、その湯屋へと街中を歩いていく。


 その姿を追う影が複数。

 久々に湯屋というデカい風呂を想像しながら、ウキウキでダンは歩いていく。それを追う影――


「というか早すぎ!」

 まるで走るように進むダンを追うのはリルを先頭に女性陣だ。リンは居なかったが。


 軽いステップで人の間を縫うように進んで行くダン。

 そのまま吸い込まれるような動きで湯屋へと入っていった。

 見失わないように既に走っている女性陣は、慌てて出てきたダンと鉢合わせた。


「コッチのパターンか!」

 ダンが想像したのはゆっくりのんびり入る風呂。こちらはいわゆる、()()()()()()()()が強めの湯屋だったのだ。

 最近ひどい目に合っていたダンは、落ち着きたいのに落ち着けない風呂屋に慌てて出てきたのだ。


 そしてかち合う双方。


「……皆さんもこちらを利用されるので?」

 しょんぼりしながら聞いてきたダンに、女性陣は何とも言えない表情で宿屋へとダンをドナドナした。


 宿屋にて絞った布で体を拭き、夜の食事をモソモソと食べるダン。

 そんなダンを見て宿屋の従業員が問いかける。


「どうかなされましたか、お客様」

「いえね、のんびりした湯屋に行こうとして行ったら、ちょっと思っていたのと違いまして」

「? ああ、普通の湯屋は目立たないところにありますからね」とダンの言葉に、すぐに心当たりがあった従業員が答える。その言葉にダンが目を光らせた。

「その湯屋教えてください!」

「あ、でも昼間から夕方ですから今日はやってませんね」

 その言葉に、またダンはシオシオと凹んだ。


 昼間からの営業では朝一番に入ることは不可能。そして明日は朝にギルドで待ち合わせ。

『首を洗って待ってろよ湯屋!』

 ダンは依頼達成の時にリベンジすることを心で誓った。



 翌日、ギルドに向かったダンは入り口に小ぶりな馬車が止まっているのを見た。そこには木箱を積んでいるミニー姿と、もう一人職員らしい男の姿が見える。

「おはようございます」

「あ、おはようございますダンさん。あれ? ポーラさんが馬に乗ってる?」

 全員武器防具を手に持っているが、その他の荷物を積んでいると思った馬にはポーラが乗っていて、ミニーは『おや?』と首を傾げていた。

 ミニーはライが「馬を連れて行っていいか」と言った時に、その馬を荷馬だと思っていたのだ。


「この子はサニーっていいます。サニー、向こうの子にも挨拶に行こうね」

 ポーラは大きく回り込むように、馬車に繋がれた馬のもとにサニーを歩かせた。

 馬同士が近づいていくとポーラはするりとサニーから降りて、馬同士の間に立つようにお互いを引き合わせて挨拶をさせていた。


「え? ポーラさん、斥候かなにかなんですか?」

「? いえ、あのサニーはポーラさんところの飼い馬ですけど」


 馬というのは生き物なので維持費が掛かる。普通、低級の冒険者ではその維持費が払えないものなのだが。

『まあダンさんの居るパーティですから』とミニーがなぜか納得した。



「それじゃあギルドマスター、行ってきます」

「おう、気をつけてな」

 ミニーともう一人の職員を乗せた馬車が進みだす。男が御者役で、ミニーは()()の空いているスペースへと座っていた。


 ここでミニーの特徴を簡単に紹介しておこう。


 デカイ。


 聞けば牛型獣人の母親によく似ているらしい。逆に狐型獣人の父親の特徴はほとんど引き継がれなかったのだ。生まれた当初は小さくて、父親も自分位の背格好になるかと思っていたようだ。


 現在、ミニーの身長はダンよりも頭一つ大きい。



 積まれた木箱とミニーを引く馬は一頭だけ。ゆったりとしたペースで進んでいた。

 そしてそのまま西門を潜り抜けて、西へと続く街道に出る。

 その横を歩きながら、ダンはミニーと御者の人へと聞いた。


「随分とペースが()()()()なんですね? 馬への負担を減らすためですか?」

「えっと? まだまだ先がありますから、このままのペースで行く予定ですけど」


 歩きながら周囲を索敵していたダンは、馬車の速度が自分の考えていたペースよりも遅いことに疑問を浮かべていた。軽く頭の中で周辺地図を思い浮かべて、進行速度と時間を図る。

「このままだと1日目は森の中で野営ですね」

「えええ!? 違いますよ。森の手前で休みを取って、1日使って森を抜けるルートですよ! そんな1日中移動なんかしませんよ」


「ああ」とダンは手を打った。どおりで()()を持った日程だったと思ったのだ。ダンの計算では()()もあれば、ウルスラと呼ばれる街に着けそうだったからである。


 納得納得とダンが頷き、また移動に戻る。


 途中クローディアとマロンが何かに気づいたようだが、ダンは首を振って気にしないようにといった仕草を見せる。

「何かありましたか?」

「え? ああ……。魔物がこちらを見ていたんで、()()()()()そぶりもないから見逃せ、と」


「ほほぉ~。……え!?」

 ダンの言葉に、『そっか』と相づちを打つミニー。がすぐに会話の中身を理解して驚いた。

「き、危険なのでは?」

「護衛対象を危険に晒さないのは基本ですよ。敵軍の遊撃――まあ魔物の場合は違いますか。ともあれ攻撃してくれば撃退しますが、むやみにこちらから手は出しませんよ」

「まあ、集まってきたらその限りではありませんけどね」とダンがミニーへと告げた。

 しばらく移動していく一同。


「「ダンさん」」

 と斥候として索敵をしていたマロンとクローディアがダンへと告げる。ダンも気づいていたのか頷いた。


「とりあえずけん制。それとポーラさん、その後に散らしてきてくれますか?」

 呼ばれた3人は頷いて行動を始める。


 ミニーはキョロキョロと周りを見渡した。

「え、ど、何が?」


 3人は微妙に立ち位置を変えると、まずマロンとクローディアが弓を構えて、一つの草むらへと矢を放った。

 すると矢が刺さる直前、そこから狼型の魔物がはじける様に飛び出した。


「グ、グラスウルフ!」

 5頭の狼が飛び出してきたところに、ポーラの操るサニーが突撃を仕掛ける。ポーラの手には槍が握られていた。

 馬の巨体に、さらに逃げようとする狼達。その中の1匹に向かって、ポーラは槍を突きだした。


 ライとリン、それにポーラは剣と盾の基礎が終わった後、槍の訓練もしていたのだ。理由は3人とも馬のサニーも一緒に行動したいからと言ったため。


 鋭い穂先が狼の胴体を貫いた。そのまま槍の柄を脇に挟んで狼を持ち上げるポーラ。その姿に恐怖を覚えた他の狼達は、我先にへとその場から逃走を始めた。見ればそこから離れた草むらからも、さらに別の狼が逃げ出していた。

 ポーラがサニーを操り戻ってくる。


「ダンさんお願い」

 ポーラの槍でグッタリとしている狼を掴んで、ダンがその狼を槍から引き抜いた。と、最後の力でダンへと噛みつこうとする狼。ダンは一瞬闘気を解放すると、掴んだ手から狼へとその闘気を流した。ビクリと痙攣して、狼はその内臓の動きを止められて絶命した。

「まあ、こんな感じですね」



 その後休憩を挟まずに森の手前まで移動してきたダン。その森へと続く道の脇にはちょっとした広場があった。草がほとんど生えていなく、踏み固められた地面。

「ちょっと早く着けましたけど、今日はココで休みをとります」とミニーが言う。なるほど、ここは他の人達も定期的に使う休息所なのだなとダンは理解した。


 大勢で行軍する軍の場合、休息所は自分たちで作り出すものだったから、ダンは新鮮な気持ちになった。とはいえ1人任務の多かったダンは、大勢で何かをするという経験自体少ないものだったが。


「こういった場所のマナーって何かありますか?」

 そういったダンの問いかけに、御者をしていた男が答える。

「……基本譲り合い。他の利用者も居る場合は協力して使うこと。あと草むしり。使った後の火の始末。そんなところか……」


「ふ~ん、なんか『きゃんぷ場』みたいね」とキョーコが言う。すでに経験していたのかと思ったダンはキョーコへと声を掛けた。

「それじゃあキョーコさん中心に準備しましょう」

「うぇ? ちょ、私も話しか聞いたことないんだけど!」

「それじゃあ、これも経験ということで。大丈夫、1人にだけ任せるわけではないですよ」

 そしてダン達は広場の中心から外れたところに野営の準備を始めた。


 最初に「テントがない!」とキョーコが言っていたが、基本そこに腰を据えて行動することが無ければそんなものは持ってこないと告げて、かまどや地面をならす作業を始めていく。ダンは地面にやや丈夫な布を広げていき、食材を取り出して調理を開始する。

 まな板を取り出して食材を切り、鍋を取り出してかまどに置く。

 さらに食材を入れていたバッグから、街中で買っていたパンを取り出し――


「ええ! 料理作ってる?」

 なぜかミニーからそんな言葉が聞こえてきた。御者の男も声を出さなかったが驚いていたようだ。


「変ですか? 食事の用意って?」

「――あ、ああ。普通は携帯食料なんかで済ませるもんだ。コレとかな」

 そういって男が懐から出したのは干し肉。ジャーキーというやつだ。

 ミニーは小さな粒の干し果実を取り出して食べている。


「というか低級冒険者じゃ、普通はマジックバッグなんて持ってないぞ?」

「ふむ?……とりあえず1杯いかがですか?」

 とはいえ持っている以上は有効活用するダン。出来上がった鍋からスープを救って差し出した。

 貰えるものは貰っておくかとミニーと男はそれを受け取った。




「それではお二人とも護衛対象ですからお休みください。夜の不寝番は僕達でやっておきますから」

 そういってダン達はミニーと男に馬車の近辺で休んでもらうと、焚火を2か所作って夜の不寝番を始めた。


 順番と組み合わせにもめていた様だが、ダンとしては慣れたものだったので、今日は通しで起きているつもりだった。


 すでに空は日が沈み、星明りが代わりに煌めいていた。

 とりあえず順番が決まったのか、ファーニとクローディア、ポーラが近づいてきた。

 ダンは1番バッグから砂時計を取り出して、その台座についてあるツマミを回した。これは落ちる時間を変えられる魔法道具だった。落ちきったら交代だとダンは告げ、そのまま意識を半分沈めて空を見ていた。


 砂時計が落ちきった頃、ダンは周りを見渡してみた。案の定ウツラウツラと体が舟を漕いでいる3人に「交代の時間ですよ」と告げて、次の番へと変わってもらう。

 次の晩はリル、ライとリンの組み合わせだった。ダンは砂時計をひっくり返す。


 入れ替わるように交代してしばらくが経った。そこでライが小さな声で話しかけてきた。

「色々と、ありがとうございました」

 ダンは『何がでしょう?』と顔を向ける。


「こうしてまだポーラに会えたことにです」と向ける視線の先にはポーラに膝を貸すリンの姿が。


「まあ、運命の流れってヤツですよ」

「しかし()()()の事は少し気にしてまして」と何とも言えない表情をするライ。


「私たちが使()()()()()()()。本当に良いものなのか」

「それは良しとしましょうか。使ってなければ既に今頃ゾン――ようやく来ましたね」


 ダンは座っていた体を起こした。リルもライとダンの会話を聞いていた耳をピンと立たせて周囲を警戒している。

 ライとリンも訓練で何度も感じた()()()()に視線を動かした。戦闘の空気だ。


「ち、気づかれたか! 全員攻撃!」


 そしてダン達の前に武器を携えた男達の姿が現れた。ライとリンが寝ている仲間たちを起こす。

 そうはさせじと男達が襲い掛かってきた。


 盗賊の襲来だ!

江戸時代あたりの銭湯はそんなサービスもあったとか。


落ち着いて入った気がしなさそう。



読んでいただきありがとうございます。

順次公開していく予定ですが、これより先の話を見たい方は


アルファポリスでの投稿ページ

https://www.alphapolis.co.jp/novel/872180522/8274942

にてお読みください。


よろしくお願いいたします。

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