冒険者の仕事を覚える
薬草を全員分集めると、さすがに日が落ちてきた。
ダンはしゃがんでいた姿勢を止めると、体が強張っているようだった。
「ずっと同じ姿勢でしたからね」
腰を捩じり、背筋を伸ばしてと全身の筋を伸ばしていく。
「ん~、とりあえずこんなものかな? それで皆さん、そちらは終わりそうですか?」
ダン以外の全員は大型のモグラ型魔物と交戦していた。
「ジャイアントモールがこんなところに生息していたなんて!」
ウェンディは振り回される爪を棒で受け流して距離を取る。
「たしかに聞いたことなかったよなっ!」
「はっ!」
「せいっ!」
ファーニの双剣とライとリンの片手剣がジャイアントモールに迫る。するとその巨体に似合わぬ速度で地中へと姿を隠した。3人の武器は宙を走る。
クローディアも矢を添えた弓を持って周囲を警戒している。弓を引き絞った状態では体の自由度が失われるからだ。そんなクローディアを守るような立ち位置にポーラが居た。
「ん~、そこっ!」
マロンの槍がジャイアントモールの出現する位置に突き出される。しかし硬い体毛と丸みを帯びた体型に槍の穂先が流された。ならばと手斧を素早く取り出すと唐竹割りを放った。しかしジャイアントモールは再度その身を地面の下へと隠した。
「も~、こうなりゃ穴の中に強力な炎の魔法をぶち込んでやる~!」
「まてまて! こんなとこで火なんか使って草に燃え移ったら、こっちが火まみれになっちまうよ!」
キョーコが癇癪を起したのをファーニが止める。
「ダンさん、薬草集まりました~」とリルが近づいてきた。
「どれどれ……、大丈夫そうですね」
「やったー!」とはしゃぐリル。ダメ出し3回で済んだからだ。
「イチャついてないで、こっちを手伝ってくださいダンさん!」
その2人を見てウェンディが若干キレた。
「ふむ? 何を手伝いましょうか?」
「何でもいいです!」
「ほうほう」とダンは採取した薬草をポーチにしまうと、両手をあけて状況を見定める。
「それじゃあ、打ち上げますね」
『打ち上げる?』と全員が分からないといった顔をする。
ダンは両手を後ろに振り上げて、腰を落として構えた。
「『戦乙女の加護』解放。『アースクエイク』!」
解放した闘気を全身に。特に両腕に集中させて地面へと叩きつける。
そのまま闘気が地面へと浸透していき――
ドッパァァァ! と地面を噴出させた。
巻きあがる地面に押し出されて、ジャイアントモールも地面へと出てきた。
「さあ、出てきましたよ皆さん――」
地面はジャイアントモールが居た場所をピンポイントで噴出させた訳ではない。当然ながら索敵出来ない敵を捕らえるため、ある程度の範囲を含めて打ち上げた。
そしてジャイアントモールと相対していたライ達もそこに居たわけで――
「本当に申し訳ありませんでした」
頭を下げて謝罪するダン。
その他の面々(リルを除いた)は土まみれの様子だった。頭から掛けられたかのような状態で、これでも街に入る前には手で払えるだけ払ってきたのだ。ちなみにリルはあの時、ダンの後ろに居たために被害を受けていなかった。
ギルドに戻ってクエストの報告、その処理をしてもらっている最中である。
「まあ、苦戦していた我々にも落ち度はありますから」
「――はい、薬草の枚数。バッチリ全員分ありますよ! って皆さんどうしたんですか?」
薬草を数え終えたミニーが、微妙な空気のダンたちに首を傾げた。
「まあちょっと。それと買取りをお願いしたい魔物がありましてね」
「それは買取りカウンターへお願いします」
ミニーの笑顔に「まあ、そうですよね」とダンは買取りカウンターへ向かった。
ダニエルとは別の職員が居たので声を掛ける。
「すみません、買取りをお願いしたい魔物があるんですが」
その男性職員はダンをチラリと見てから、持っていたペンで「カードと魔物をココに」とカウンターを指す。そして書類の書き物の続きを始めた。
言われたダンはカードを置いて、2番バッグをカウンターに置いた。
職員が気づいて「それじゃあ」と手を伸ばしたので、ダンはバッグからソレを掴むとカウンターに引き出した。
「ひゃああああぁぁぁ!?」
カウンターは軋むことはなかったが、ジャイアントモールの巨体は堅いわけでは無かったので、デロリとカウンターからはみ出した分は垂れ下がった。
「だから大型の魔物はココで出しちゃだめぇ!」
そこでダニエルが戻ってきた。
*
「いや、ウチの職員が申し訳ない」
その後再度ジャイアントモールを収納し、解体スペースで取り出しを行ったダンは事情説明を行った。その結果、ダニエルはダンがワザと出したのではないと分かり謝罪した。
若干お茶目を致したが、ダンはとりあえず自分の行動をスルーした。
「しかし見事なジャイアントモールですな。西南の砂地に居ましたかな?」
「あ~、やはり普通はそうなんですね?」
「……この魔物はどこに?」
「南の草原地帯ですね」
虚偽の報告をしても仕方がないので、ダンは素直に報告をした。そのダンの言葉にダニエルは腕を組み考え込む。
「とりあえず、コレは買取り大丈夫ですか?」
何か長く掛かりそうな雰囲気だったので、ダンはとりあえず必要な事だけを聞いた。
「え?……ええ。ここまで立派なサイズであれば爪や毛皮などが素材として買い取れます。ただ最近この手の大型がかなり持ち込まれましてね。もう少し小型サイズなら査定も早く済むんですが」
「ありゃ、そうなんですか。それじゃコレも」
ダンの「それじゃ」の時点でダニエルは手を伸ばそうとしたが、それより早くダンが2番バッグを逆さにして振った。
狼と兎がザラザラ~
「あああ、もう、あああ~」
「さて、前金と引換証は貰いました。何か食材でも買って帰りましょうか」
「「「さんせ~い!」」」とダン一同はギルドを後にする。
≪ミニー≫
ミニーは笑顔のダン達を笑顔で送り出した。
『笑顔の人を見るとこっちもうれしくなっちゃいますね~』と思っていると誰かに肩を叩かれる。
「はい?」と振り返るとダニエルが立っている。笑顔。だが何か硬い?
「ミニー君。次にダンさんが来た場合、買取り希望の場合は私のところに直接連れてきてくれるかい?」
なにやら直接のところに力がこもっていたような気もする。
とはいえ別にさしたる労力ではない。ミニーは頷いた。
「それと君も立ち会ってくれたまえよ」と言ってダニエルは去っていった。
ミニーはその場では気づかなかったが、後に自分も巻き込まれたと気づかされた。
≪ミニーアウト≫
それからダン達はクエストを続けて行った。
ある時は森に入り、
「キノコですか。これは判別が難しい」
「うわ! 蛇が居たぁ!」と擬態した蛇型魔物と交戦して。
また森の奥に入っては、
「ほうほう、この木の樹液は面白い特徴があるんですね。甘いですよ皆さん」
「キラービーだ! 刺されると死ぬぞぉ!」と蜂型魔物と鉢合わせ。
岩場の多い場所では、
「魔物の身体も採取なんですねぇ。素材として使うのかぁ」
「かたっ! ロックリザード硬!」と岩場に溶け込むトカゲ型魔物に手を痺れさせて。
草原の湿地が多い場所では、
「ふむ、泥の中に色々な鉱物が溶け込んでいるんですね。これは自分用にも多めに貰っていきますか」
「ボア種だ、でけぇ! おまけに沼地で動き辛い」
「ヌタ場っていう、イノシシの基本行動で行く場所ですね。彼らにとってはお風呂だとか?」
というダンが(人づてに聞いた)ウンチクを語ったりした。
などなど。
「みなさん。いい経験出来ましたか?」
おおよそ一通りの採取系クエストを受け終わったところで、ギルドのロビーにてダンが聞いた。1日1件。それを半月ほど毎日こなしていた。
テーブルについて、全員ぐったりとしている。そこにはリルの姿もあった。
テーブルの上には全員分の飲み物が置かれていたが、誰一人口をつけてはいなかった。
ダンは手帳にメモを書き込んでいた。クエストを通して知った知識、その要点を書きだしていたのだ。他人が読んでも半分ほどしか理解できない、その手帳には『ダンメモ』と書かれていた。
「何故か採取なのに、あたしは魔物ばっかり狩ってた気がするぜ?」
「ロックリザード、アレおいしかったなぁ」
「月光草を取りに行った時の夜の恐ろしさ。明かりが無いってやっぱりヤバかった」
何やら思い出しながら、皆口々に語る。皆揃って目は虚ろであった。
その姿にダンは、
「いい経験を積めたようですね」
いい笑顔で言ったダン。
「「「半ば強制的にですけどね!」」」
全員跳ね起きると、目の前の飲み物を掴んで、やけくそ気味に「乾杯!」とぶつけあっていた。
読んでいただきありがとうございます。
順次公開していく予定ですが、これより先の話を見たい方は
アルファポリスでの投稿ページ
https://www.alphapolis.co.jp/novel/872180522/8274942
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