お礼参り的な何かと顔なじみとの別れ
ダンは声のした方へとりあえず視線を向ける。
男が7人。廊下をダンの方へと向かって歩いてくる。
『戦士4の魔法兵3かな?』と推定して相手の動きを予測してみる。まあ十中八九……
「お~ん? こら、無視してんじゃねえぞ!」と#へなちょこな__・__#腰の入っていない蹴りが飛んでくる。ダンはいつものようにするりと躱すと、蹴りを入れた男が廊下をダンッ! と踏み鳴らした。どうやら蹴り足を戻せなかったらしい。
「てっめ! いつもいつもヒョロヒョロしてんじゃねぇ!」
とりあえず何か言っている男を無視して他の人物に目を向ける。その顔はどれもニヤついていた。
ダンに殊更絡んでくる、いつものメンツであった。そこはダンの記憶にも残っている。ただ……、
「え~っと」とダンは首をひねる。
「このっ! ボリス様の名前をまた忘れやがったのか!」
「あ~、そうそうボリスだボリスだ」とポンと手を打つダン。なぜかこの男の名前は記憶に残らない。まあ、ほかの人は大丈夫かと問われれば、若干怪しいところだが。
さておき名前も無事に思い出せた(いや本人が自力で思い出せたわけではないが)ダンは相手に向き直った。正面に男1後ろに残りの6人という構図だ。
「で、なにか御用で?」と普通に問いかけるダンだが、目の前の男は顔を真っ赤にしてフルフルと震えている。足を痛めたのかな?
「……昼間は護符か何かで身を守ったんだろうが、直接ならさすがに護符の守りも効かねぇだろう? 俺達に無駄な労力を払わせやがって。またボコボコにしてやんよ!」と今度は拳を打ち込んできたので横に躱す。
『またボコボコとは言うが、いつも疲労困憊しているのは君達の方だよね?』
ダンは入隊後3年目に入ってきたこの男達にかなりの頻度で絡まれている。最初の年はとある事情により不甲斐なく接戦をしてしまったが、その後の年は今のようなやりとりであしらい続けていた。いい加減懲りないのかなと思う。
「あ~、とりあえずやる前に一言いいかな?」
「なんだ? 勘弁してくれってか?」
「ん? いや、自分は先ほど大隊長へ除隊願いを届けてきて受理されたんだよね。つまり今は一般人の扱いなんだ」
「なら余計に好都合だな! お前らもやっちまえ!」
本当にどうしようもないな、貴族のおぼっちゃまは。
余計に好都合? 何を言ってるんだこいつ等。
軍隊である以上戦う理由がある。理由というか存在意義か。とりあえず自国の民を自国の兵士が襲っては意味が分からなくなってしまうので、基本一般人を兵士が襲ってはいけない規範が我が軍にはある。もちろん軍の戦力が落ちる同士討ちなどもしてはいけない決まりがあるが、こちらは内々の話で片が付くからリンチなんかが少なからず起こっている。
しかし一般人を襲う。これはダメだ。決して好都合なんかではないし、済まされる問題でもない。
「ま、こっちは好都合なんだけどね」
今まで同士討ちに抵触するために反撃など一切しなかったため、おそらく彼らの中では都合のいい標的か何かだったのだろうが、今はその限りではない。
1人1発。
それで気絶した相手に向かって言うが、返事はない。きれいに意識が飛んでいる。
一般人を兵士が襲った。これは対外的にも言うわけにはいかない案件だ。
頭の中でこのパターンを想定していたダンは、ふむと一息吐くと男達を一人一人、丁寧に男達の自室に運んであげた。
「さて、少し手間取ったけどそろそろ出発しよう」
自分の手荷物と身に着けた物を再度チェックしてダンは隊舎の敷地の入り口へと向かった。
そこには簡易的な門と詰め所がある場所。そこの警備として立っている兵士が向かってくるダンに気づいて声をかけてくる。
「やあダン。これからまた任務かい?」とダンよりも古参の兵士が挨拶するように聞いてきた。
彼は第一第二でもない民間人からの雇用の兵士だ。普通第二の兵士は貴族籍からの者なのでこんな挨拶のような軽い感じの声掛けなど御法度だが、ダンはその辺りを気にしない人物だと知れ渡ってるのでダンは良く声をかけられる。第一の面々も似たり寄ったりな感じだ。
「いや、任務じゃないんだ。ちょっと、ね」とダンは口を濁して言う。少し「自分は無職になりました」というのが若干恥ずかしかったためだ。
「ふうん。たしかにそんなにカバンばかり持ってるのも任務って感じじゃないよなぁ」
そう、ダンは似たような肩掛けのカバンを複数下げているのである。傍から見るとちょっと、いやだいぶ違和感がある格好だった。
「ま、任務ではないんだ」にっこりと笑うダン。聞かないでオーラがビシビシと飛んでいた。
「そ、そうか」と兵士は怯んだ様子で頷いた。
その後、ダンは王都を歩いて1つの店に立ち寄った。
「ごめんください」
「ん? ダンか?」その店の店主がカウンターの向こうで顔を上げた。声をかけて入店してくる客なんてダンしかいないので、店主はすぐにダンだと気づいたのだ。
「お邪魔しますね」
「どうした? また次の任務に必要な装備が欲しいのか?」
この店はダンの行きつけの店だった。第二軍の任務に指名されることの多いダン。適正に評価されての抜擢などではなく、ただただ嫌がらせと第二軍にそぐわないと判断した第二軍団長がダンに押し付けているからだった。だからといって「死地に向かわされます」「死んできます」なんてダンだって御免被る。そんな事情からここの雑貨兼武具屋のこの店はダンの生命線とも言える店となったのだ。
「あ~、いえ、この度軍を辞めることとなりまして。その挨拶と預かってもらっていたモノの受け取りに来ました」
「は!? ダンおめぇ辞めちまうのか?……ウチで素材採取人として雇おうか?」
いきなりの宣言に店主が驚き、やや考えて一つの提案をしてみる。
それにダンは苦笑で返した。
「いえ、ちょっと家の用事がありましてね。まあ、王都に戻ってこないわけではないつもりですので、その時の状況しだいですかね」
「う~ん、仕方ねぇか。ちょっと待ってろ今倉庫から出してきてやるよ」
店主も「まあそんなとこだろうな」という顔で店の奥に行く。あわよくばといった提案だったのだろう。しばらくすると大きな袋一つと小さな袋を一つ持ってきた。ダンはそれを受け取りカウンターの上で大きな袋の方を開ける。
中からはつや消しを施された黒い革鎧が一揃い出てきた。それをダンは手早く身に着ける。胸当て、小手、脛あて、腰のベルトを一度引き抜き腰パーツを付けて再度巻く。
脛あてと履いていたブーツとの当たりを調整して、次に小さな袋を手に取った。
中から金貨が数枚と巻物が出てくる。金貨は小手の内側の隠しポケットに入れて、巻物はベルトに付けたポーチへと仕舞った。
「やっぱソレ、マジックバックだったんだな」
「ええ。とはいえこの口の大きさ以上は入らないタイプですけどね。重さも変わらないし」
「つったって結構口の広いポーチだな。体の厚み分はあるんじゃないのかソレ?」
「一応、家宝というか先祖伝来のマジックバックですからねぇ。よし準備完了」
防具を身に着ける間下ろしていた肩掛けカバン達を掴むとダンは店主に言った。
「お世話になりました。また来た時は顔を出します」
「おう、おめぇも元気でな」
それから食糧と水を買ったダンは王都を出立した。
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順次公開していく予定ですが、これより先の話を見たい方は
アルファポリスでの投稿ページ
https://www.alphapolis.co.jp/novel/872180522/8274942
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