最低限の必要な訓練(ダン視点)
必要な物資を買えてホクホク顔のダンは、やはり途中で迷い出てくる魔物を捌きながら広場へと向かって歩いていた。
なにか途中で叫び声が聞こえた気がしたが、街の方に向かっていったので特に気にしないことにした。野太い声からすれば男性冒険者だろう。死にそうな声ではなかったから、特に助ける気は起きなかった。
過去にそういった状況で男を助けたダンは、その後にちょっと後悔したことがあったため、男相手には積極的に助けるといった行動を選択肢からなるべく除外していた。もちろん目の前で死にそうだったらその限りではないが。
そんなことを考えていたダンは、広場が見える位置で熊型の魔物を2番バッグにしまいながらふと気づいた。
『そういやこの袋にしまった魔物、ギルドに出し忘れたな』
まあ、次でいいかとダンは広場へと向かった。
ログハウスの前で集まって何かをしている全員にダンが声を掛ける。
「まず皆さんの着替えを買ってきましたのでログハウスに入りましょうか?」
その後、足を拭いて素足で全員がログハウスに入ったことを確認すると、ダンが買ってきた服と靴代わりに布袋をテーブルに出していく。
「皆さんで分けてください。靴は街に行ったときに買うとして、それまでは簡易的なコレで我慢していただけますか」とダンが言ったが、「皆さんで分けてください」と言った時点で争奪戦が始まっていた。
ライだけは別にダンが手渡していたが、ファーニとマロン、それと他のメンツといったグループで服を奪い合っていた。とりあえず落ち着くまで待つ。
その後にようやく収拾がついた頃にダンが言った。
「え~、洗濯とかしますから共有することになると思いますよ?」
女性陣は考えてなかったといった顔をしていた。
その後食材を一通り見せて、馬の飼料の袋をマジックバッグから取り出した。ポーラはそれを受け取ると外で放し飼いにしていた馬のところに持っていく。
馬は賢く、結界の外には出ることは無かった。
「それじゃあ、今後の方針ですが」
ダンは大まかに考えている計画を話した。
1日の午前を簡単な座学、午後に訓練として基礎体力の向上に走り込みと武術系スキルの練習をすることにした。
ある程度慣れと座学で教えることがなくなれば、1日使って訓練をする。
期間はまず1か月とした。
「ダンさんはなぜ私たちにここまで親切にしてくれるんですか?」
ウェンディに聞かれるダン。
「う~ん。まあ1か月は長い方ですけど、今までもこうしてきましたからね。――そういえば僕、もう兵士ではなかったんですよね。まあ、いきなり放り出したりはしませんから安心はしてください」
料理は慣れた後当番制にするとして、その日は食事をしてから全員就寝した。
誰一人慣れた後という部分に疑問を抱かなかったのである。
座学として、まずダンは全員の得意な武器を聞いていた。
案の定後衛のウェンディとキョーコは武器ではなく、魔法増幅用の杖と答えた。
なるほど魔法使いなら体内から動かした魔力を体外に出す際に増幅して放ちたいものだ。とても理屈に適ってはいる。適ってはいるが、
「相手に接近された場合はどうするんですか?」
「え? 前衛を抜けられたらその時点で終わりじゃないんですか?」
ウェンディが答える。
なるほど。やはり魔法使いはそう考えるものなのだろうなとダンは思った。そしてダンの考えは違った。
「後衛でも武器を使って戦う必要があります。そもそも後ろから奇襲されたらどうするんですか?」
「あ~、確かにそうですけど」
「というわけで、全員に武器を使った訓練をしてもらいます。もちろん逃げるにしろなんにしろ体力がないと動けません。走り込みも行います」
にこりと笑うダン。
そこから地獄の訓練が開始された。
座学は魔物への対処方法や素材の回収方法などを中心に行った。薬草や水の確保の方法など冒険者が知っていて困ることのない知識だった。
ここまでは良かった。
「さあさあ、1に体力2に体力。魔物から逃げるにしても、まず体力は必須ですよ~」
ダンが全員を追い立てながら走り込みをしていた。全員限界まで走りこまされていた。完全にバテた者はその場に残して他の物を追い立てる。一度キョーコが演技で倒れたが、すぐさま演技と見破られて強制的に起こされて走らされていた。
「逃げられなかった場合戦うしかありません。限界まで腕を振るってくださ~い」
その後に木製の武器を持たされてダンとの試合。
フラフラになりながらもそれぞれが武器を振るうが、ダンはそれを同じ武器で受け止めて悪い姿勢や握り、足運びなどを指摘していく。
確かに正しい姿勢などに矯正すると武器がぶれなく振るえることは分かった。分かったが――
「これ、死にそう」
キョーコの言葉にウェンディもウンウンと頷いた。
2人はストレートの棒を持ってダンへと打ち掛かり、そして現在地面に突っ伏してる体勢だ。
そんな二人の間に棒が突き立てられる。
「まあ仕方がありませんが、実戦では根性で立ち上がってくださいね。いい的にされますよ?」
言われた2人は気合なのか喚き声なのか分からない声を出しながらダンへと打ち掛かっていった。
ドワーフのファーニは両手に1本づつ剣を持っていた。双剣と呼ばれるスタイルだ。
「本当にこれでいきたいんですか?」と同じく両手に1本づつ剣を持っているダンが聞く。
「すごいドワーフの冒険者が居て、その人のスタイルなんだ。あたしはソレを追いたいんだ」
ドワーフが双剣? とダンが首を傾げる。冒険者となって日が浅いダンは、それでも以前の兵士時代に有名な冒険者の『2つ名』くらいはある程度聞いたことはある。異名というかその冒険者を指し示すものだ。
「ちなみに何という方で?」
「名前は知らないんだ。でも『双剣』って二つ名が有名だって聞いた」
「まあ、やりたいなら止めはしませんが」
*
遠く王都でデカいくしゃみがした。
王国軍大隊長である。
「あら珍しい。風邪?」と副隊長にして大隊長の奥さんが声を掛けた。
「ふむ? 噂でもされとるんかの?」と特に悪寒を感じない大隊長が告げる。
「もしかしたら新人冒険者が噂してるんじゃない? 『双拳』みたいになってやるって」
「今時居るか格闘志望のヤツって?」
ファーニの勘違いはしばらく続く。
*
マロンはダンに積極的に質問をしていた。
「ダンさん、これの構えとか教えて教えて」
「いいですけど、マロンさんどれか一つじゃダメですか?」
困惑気味なダン。マロンの周りには様々な種類の武器が置いてあった。
「どれがウチに向いてるか分からんから、とにかく試してみたい!」
「わかりました、まずはですね――」
ダンは丁寧に各武器の構え方と振り方、使い方を教えていった。
クローディアは狩人志望で父親についていったことも何度かあったことから弓の扱いには自信があった。
それもダンの腕前を見る前までだったが。
「そうそう、筋がいいですねクローディアさん」
言われてクローディアは自分の的から横を見る。先ほどダンが同じ弓で矢を放った的だ。中心から見事にばらけている。それはもう見事な十字にだ。
ため息をついたクローディアは気持ちを切り替えて弓を構える。そこにダンが手を添えた。
ビクリと動揺するクローディアにダンの真剣そうな声が聞こえる。間近でだ。
「試しに弓術のアーツを撃ってみましょう。まずは基本の『オーラショット』です」
弓と矢を持つクローディアの手にダンの手が重なる。するとダンの熱がクローディアの手に伝わってきた。熱い。それに驚いたクローディアは矢を放ってしまう。
その矢はクローディアが標的にしていた的を越えて地面に刺さった。直後矢が光を放つ。
ボンッ! と地面の土がはじける。矢はその穴の中で倒れた。矢自体は無事だ。
「あとは慣れですよ。闘気は感覚ですからね、今の一射を思い出して練習してみてください」
そういってダンは別の者の訓練を見に行った。
クローディアは人生で初めての心の揺らぎに戸惑っていた。
ポーラとライとリンは同じ武器を選んでいた。
剣と盾。
「盾は受けるだけじゃなくて流すことも視野に入れてくださいね。ちょっとライさん、両手を使って構いませんから盾を構えて貰えますか?」
ダンに言われて剣を置いて盾を両手で構えるライ。ライが置いた剣を持って構えたダンが「行きます」と声を掛けた。
ゆっくりと振り上げた剣を、これまたゆっくりと振り下ろすダン。ライはソレを盾で受けようと掲げた。
ゴンッ! と鈍器で叩いたような音がして、ダンの剣を受けたライの身体が吹っ飛ぶ。
「お父さん!」「あなた!」と2人が駆け寄った。
ライは吹っ飛ばされはしたものの、腕の痺れ以外は大したケガをしていなかった。
「大丈夫ですか? 一応加減はしたんですが」
ダンも駆けよってライの様子をみる。
「はは、飛ぶのは初めてですよ」
ライは笑顔で言った。これなら大丈夫そうだとダンが説明をする。
「盾で受けて盾が無事でも受けた人が怪我をしていてはしょうがありません。そういう時は、ポーラさんちょっと攻撃してみてください」
簡単なレクチャーを受けただけのポーラが一瞬迷ったが、さあどうぞと盾だけを持ったダンに剣を振りかぶった。
それをダンは盾で受ける。その瞬間、盾に角度をつけてポーラの剣を受け流した。
ポーラは勢いそのまま前につんのめりそうになる。ダンは盾を手放してポーラの身体を支えた。
「こうすると力で劣っていても攻撃を防ぐことになります。盾で防御し、その後に剣で攻撃する。基本に忠実が生きるスタイルですね。最初はゆっくりと、そうですね、このパターンの攻撃でやってください」
そういって9つの剣の振り方を教えて、お互いの相手をするようにとダンが告げてまた別の場所に移動した。
ポーラは丁寧に動きを真似するように剣を振るう。
リンはそんなポーラを見てライに言った。
「あの子、本当にまじめにやってますね」
「ああ、馬の世話以外にとんと無頓着だったんだがなぁ」
「やっぱり見られてると張り切っちゃうものよ」
「見られてるって誰に?」とライが聞くがリンは笑うだけで答えない。
ポーラは顔を赤くしながら剣を振っていた。
≪女性陣サイド≫
そんなこんなで最初の3日間は悲鳴しか聞こえていなかったが、1週間もすると全員わずかに余裕も出てきた。とはいえ身体は悲鳴をあげていたが、リルのお世話にならずにお風呂に入れるくらいには余力が出来ていた。
「それで、話ってなんですか?」
浴室はそこそこ広いので女性陣全員で入っていた。今日はリルも一緒だった。
リルはレベルアップの為に森に入っては魔物を倒す作業を続けていた。訓練は体力が十分な時点で、リルだけ次の段階に移動していたのだ。今日はその終わりが偶々重なったのだ。
「ええ、我々はダンさんに助けられて今日まで恩を受けるだけでした」とウェンディ。
「ここらで何かお返しをしたいと思ってるんだ」とファーニ。
「そこでね、ものは相談なんだけど」とマロン。
「相談ですか?」
「そ、というか確認かな? リルさんってダンさんの妻なのかな?」とキョーコ。
その問いかけにリルは顔を赤くして狼狽える。
「え~っと、まだ、そうじゃなくて……。でもでも、そうなりたいなとは思ってまして」
「じゃあ、こんなのはどう?」
ゴショゴショと内緒話をするように集まる女性陣。リンだけはそれを湯舟から見ているだけだった。
≪女性陣サイドアウト≫
「ど、どうしたんですか皆さん」
リビングに戻ったダンはそこに居る面々に動揺していた。そこには下着姿で女性達が一同揃っていたからだ。
よくみればリンとライだけは居なかったのだが、その場の肌色の多さにダンは狼狽えていて気づいていなかった。
「ダンさんへ恩返しをしようかと」
「いえ、そんなことしなくても」
「受け取るだけじゃ私たちも申し訳なくて」
にじり寄る女性達にダンは後退していく。
「ちょっと汚れているかもしれませんが」
「あ、そう、皆さんに言いたいことが――」
「せめてものお礼です。受け取ってもらえますよね」
ダンが慌てて何かを伝えようとするも、女性達が近づいてくるのが早かった。ダンは壁まで後退する。
部屋の温度は人の体温で上がったのか、すこし女性陣の体の匂いが強くなった気がした。
この状況にダンは記憶の中で覚えがあった。とダンの顔に手が添えられる。
「どうですか、ダ・ン・さ・ん?」
その夜、ダンは流された。理性と共に。
何度か流された時の状況とまったく一緒だなと思いながら。
ダン式ブートキャンプ。
訓練を受けていくと常識が――
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順次公開していく予定ですが、これより先の話を見たい方は
アルファポリスでの投稿ページ
https://www.alphapolis.co.jp/novel/872180522/8274942
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