ギルドに報告に行く
森の広場から続くダン手作りの道をテクテクと街へと向かって歩いていく。
時々出てくる狼や熊を手刀で切り捨て、2のバッグにしまいつつ街へとたどり着いた。
「よお、久々に見たな」と門番。
もはやダンが東の森に入るのも出るのも気にしていない様子だ。
チェックを受けて街に入ったダンはまずギルドへと向かった。
ギルドのロビーに入るとやや人が多い気がした。この間の熱気がまだわずかに残っているのか。そういえば報告がなければギルドミッションが開始されるのだったかとダンは思い出した。
カウンターに向かうダンの姿に、あちらこちらで呟きが聞こえる。
「おい、アイツって確か」
「調査に行ってたやつじゃね?」
あの場に居た冒険者だろうか。
とりあえず受付のミニーが居るカウンターへと向かうダン。カウンターに到着して、コンコンとカウンターを叩くとミニーが顔を上げてダンを見た。
「ダンさん!」というミニーに「どうも」と声を返すダン。
「調査結果と報告に来ました。えっと、ここでよろしかったですか?」
「ギルドマスターも聞きたがっていると思いますので、どうぞこちらに」
そしてミニーに案内されてギルドマスターの部屋へとたどり着いたダン。ミニーがノックしてダンが戻ったことを伝えると、「入ってくれ」とバルザールの声がした。
部屋に入ると中にはバルザールだけではなくダニエルと呼ばれた職員も居た。
「それでどうだった?」
随分と抽象的な問いかけだが、まあ調査結果の報告をしろと言うことだろう。ダンは答え始めた。
「はい。まず南にあった村は全滅していました。さらに南にあった山の洞窟にてゴブリンを発見。内部に潜入し調査と殲滅を開始しました。途中捕まっていた冒険者と村人を保護、その後一番最奥に居た上位種ゴブリンを倒してきました。村の方はアンデッド化していた村人が居たため全員を火葬にて浄化しました」
ダンがスラスラと答えて「以上になります」と口を閉じた。
頭の中で整理しているのだろう。バルザールもダニエルも、それとなぜか残っていたミニーも数分黙ってしまった。その間ダンは癖で、後ろ手に組み肩幅で足を開いて待ちの姿勢になる。
とようやくバルザールが頭を上げた。
「あ~っと? ゴブリンを殲滅したの?」
「そうですけど……、魔物でしたから害しかありませんでしたし」
「生存者が、居た?」
「とりあえず我が家で身柄は守らせていただいてますが?」
「村が全滅? それってこの辺りか」とバルザールがニアラの街を中心に描いた地図の中を指さした。ダンの感覚の距離と照らし合わせて、大体あっていたので「そうです」と答える。
フルフルとバルザールが体を震わせた。なるほど怒りで言葉が出なかったのかとダン。
「大事じゃねぇか!」
「……辺境の開拓村としては良くあることでは?」
「こんな事態、良くあったら全滅してるわ!」
どうやらダンの思っていた事態よりも深刻だったようだ。
「それと冒険者の遺体とゴブリンも回収したんですが、そちらはどうしましょうか?」
素材買い取りの部屋へと場所を移されて、回収できた冒険者の遺体とゴブリンをなるべく放してマジックバッグから取り出していく。
ミニーが後ろで吐きそうになっていた。
バルザールはその遺体とゴブリンを検分していく。
「何人かはカードを持っているな。確認に――っておい、ミニーとりあえず手の空いてる職員呼んで来い。それとこっちは! ブラックゴブリン、か? 内部の色も間違いない。それにコイツはでけぇな」
動けないミニーを叱咤し手を呼びに行かせて、ゴブリンに手を伸ばしたバルザールが汚れの色では無いことに気づいた。そして他と比べて一回り大きいゴブリンに思案顔をする。
「まあ、体が大きくて力頼りの進化をしただけのゴブリンでしたが」
「んなわけあるか! こいつはチーフ系のゴブリンだな。キャプテン級か? どっちにしろこのゴブリンの数はヤバイ事態になる前段階だったんだろうな」
ダンが結局倒したのは100体ちょっとだった。ダンの感覚ではゴブリンでこの数はまだ安全なくらいだったのだが、どうも違ったようだ。
『うちの地方だとまだ捨て置くレベルなんですけどね』と思っても口にはしないダン。せめてこれがオーガだった場合は討伐に動くかもしれない。
「ゴブリンなら千――」
「おい、ダン。本当にこいつら南の洞窟内に居たのか?」とバルザールに声を掛けられて、ダンは思考の中から出てくる。
見ればバルザールの顔は真剣だ。
「ええ、先程の村から先の山みたいなところにあった洞窟で」
「あそこは洞穴だったはず」とバルザールが言うと、「ゴブリンは穴を拡張することが多いですよ」と経験からダンが言った。
そこにミニーが職員を連れて戻ってくる。
「ギルドマスター。人手を集めてきました」
「よし、その遺体から誰なのか分かる証拠を集めろ。何人かはゴブリンの魔石を抜き出す作業だ」
そういえば今までの魔物からも魔石を抜いてなかったなとダン。
魔石。
魔素を貯めておく魔物の内臓のようなもの。人種の中には魔臓と呼ばれる魔力を変換する臓器がある。違いとしては石と付くように固形なことだけだ。働き自体は何ら変わりがないと昔とある魔導士から教授されたことがある。
バルザールは職員に指示するとロビーへと向かった。
「当初予定のゴブリンの巣は討伐が出来た。だが親玉だけはブラックゴブリンだったことから、街の全周を調査することにした。その調査のをギルドミッションとする!」
その言葉に聞いていた冒険者は2通りの反応をした。賛成と不満の感情だ。
賛成派はようやくギルドミッションが出たと喜び、不満派はそれが『調査』という点に嫌な顔をしていた。おそらく報告書が苦手な者達なのだろう。
だが報酬が出るということで皆受付のカウンターへと並び始めた。
それはそうとして、
「どうして親玉だけがブラックゴブリンと言ったんですか?」
ダンが討伐したのは全て黒いゴブリンだった。
「というか、あれってこの地方のゴブリン色じゃないんですか?」
「なんだよゴブリン色って?」とバルザールが怪訝な表情でダンを見た。
そしてバルザールが簡単に説明を始める。魔物の色はその自然の魔素の色合いを強く受けて変わり、その魔素の濃度が濃いほど色濃く、最終的には黒い色になるそうだ。
人種の場合、黒い髪は『魔力なし』と言われることが多いのだが、魔物は黒い方が強いらしい。
為になったと「ほへ~」とダンが息を漏らした。
「うちの地方は黒っぽいのが多かったですからねぇ」
「……どこの魔境だよソレ」とバルザールの呆れ顔に、「北の方ですよ」とダン。
「何て名前の街なんだ?」
ダンはちょっと考えて答えた。
「街は無いですね。王都では『北の最前線』って言えば分かる人は居ましたが」
その言葉にバルザールは衝撃を覚えた。昔まだ冒険者時代にその名前を聞いたことがあるからだ。
曰く、毎日が死と隣り合わせの土地。
人類種の境界、その最北端であり王都の領土の北側を支える最前線だと。
ほぼ魔物行進とも思えるほどの魔物が大量発生する地。噂ではその最奥には悪魔が住み、濃厚な魔素を放出して魔物を生み出しているとかなんとか。
ダンの異常なまでの戦闘力に一つ合点がいったバルザールであった。
「そういや保護した冒険者達はどうするんだ?……というか保護だよな?」
若干の疑いの目でバルザールが聞いてくる。
何故そんな目で見るのかと思ったダンだが、すぐに思い当たるとバルザールへ答えた。
「もちろん。魔素が抜けるまでと、このままだと二の舞になりそうですからね、併せてちょっと訓練をつけています」
そして紙を1枚受け取ると、保護した人物の名前を列挙して書き出した。それをバルザールへと手渡す。
バルザールはソレを受け取ると、ガシガシと頭を掻いてから「分かった」と言った。
冒険者は何をしても自業自得。それを特定の冒険者だけ優遇したりすればギルドが立ち行かなくなる。特にギルドマスターの立場では贔屓と捉えかねられない。
「魔素が抜けるまで」とダンが口にしたので、そういった基礎知識は持っていると考慮して、その冒険者達の処遇はダンへと任せようと思ったのだ。
「だが受けた依頼は失敗と判断させてもらうぞコイツラは」
紙をヒラヒラとさせてバルザール。確かに依頼が遂行出来なかったら失敗と取るしかない。
「まあ、彼女たちも分かっているとは思いますよ」
「あと、お前さんたちの評価も普通のゴブリン調査として処理させてもらう」
それも無闇な混乱を避けるためだろうとダンは頷いた。
そして2人はカウンターで依頼を受ける冒険者達を見ていた。
「……。それはそれとして、この間の素材の代金はもう用意出来たんですよね?」
「ふぁ!?」とバルザールは妙な声を上げた。すっかり忘れていたのだ。
*
ギルドを出て、ダンは街中の市場を歩いていた。
食材、日用品、あと服と靴を買いそろえるためだ。
かなりの額になった素材の代金を片手に、市場の店を覗いては目的のものを買っていく。
野菜や果物、豆や小麦粉、飲料代わりに弱い果実酒などを買っては、5と刺繍された食材を入れるマジックバッグへとしまっていく。
そして古着屋でメンバーそれぞれの体格を思い出しながら服を多めに購入。靴はとりあえず布袋のような簡易のモノを買った。
≪不審者サイド≫
そんな買い物を続けるダンの姿を見ている人物が居た。
街中に溶け込むように一般人の格好をしているが、その所作は手練れの盗賊のそれだった。
その男はダンをギルドからずっと追っていたのだ。
ダンとバルザールの会話、そしてダンが受け取った重そうな報酬。それらをギルド内で見た男はパーティ内で相談したのち、男が斥候としてダンの足取りを追っていたのだ。
『買い物であの報酬が減っちまうが、それよりもあのマジックバッグだ! それにゴブリンに襲われた女も居るみたいだし。こりゃ久々に儲かりそうなヤマだぜ!』
男から更に離れてついてくるパーティにハンドサインで連絡をすると、移動を始めたダンを追って男も移動を開始した。
ダンは段々と東街へと移動していく。ここは宿が多い。するとこの近くかと男は思ったが、ダンはそのまま移動を続けて東門へと到着した。
『おいおい、まさか外なのか!?』
男のその予想通り、ダンは東門を抜けていく。さすがにこの格好では街の外には出られないと考えた男は、後ろに居るパーティメンバーを呼び寄せると、持ってもらっていた防具を手早くつけて武器を装着し、東門へと駆け寄っていった。
そこには門番が居て、「おや珍しいな」といった顔をしていた。
「ここを今冒険者が通っていかなかったか?」
見ていて知っている男は、しかし探すような素振りを見せつつ門番へと聞いた。
聞かれた門番はあっさりとダンが通り抜けたと告げる。
「俺たちはアイツの忘れ物を届けに来たんだ。それで、あいつはどこに?」
堂々と嘘をついて男が言うと、門番は東の森を指さした。「馬鹿な!」と思わず声を出しそうになった男は、続く門番の言葉を聞いて得心した。
聞けば森に『道』が出来たらしく、そこからダンがいつも森の中に入っていくという。
『道』と言えば魔物避けを施した『街道』と同じものだろうと当たりをつけた男は、東門から見えるその『道』へと走っていった。男のパーティメンバーも続いて走っていく。
あまりにも唐突な行動に、門番は声を掛けそびれてしまった。
「ま、ダンの知り合いなら大丈夫か?」
≪不審者サイドアウト≫
その後森の中から悲鳴が聞こえ、その後に駆け込んできた男達へと慣例的にチェックをしてもらった門番は、男達が犯罪を繰り返していた者達だと気づいて捕縛をしていった。
捕縛をされながらも、男達が「助かった」と言っていたのが門番の印象に残った。
ダンに係わるとひどい目にあう事例。
正確に言えば、危害を加えようとすると逆に痛い目を見る。
結果は自業自得なのだが、逆恨みをする者も居たりする。
……止めておけばいいのに(遠い目)
読んでいただきありがとうございます。
順次公開していく予定ですが、これより先の話を見たい方は
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