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森の中の家にご招待する

 ポーラの家の中で一夜を過ごしたダン達一行は、朝早く村を出発した。

 ポーラ、クローディア、ライ、リンは村を出るときに村へと向かって、揃ってお辞儀をしていた。



 村を出て、木々が少なくなり草原地帯へと景色が変わる。前を先行するダンは契約の巻物に映し出される地図を見ながら進んでいた。


「なんでホーンラビットが一撃で死ぬんだろ?」

「というか、アレ()()()()()()()()()ない? どう見ても蹴ってるはずなんだけど」

 後ろで声がする。


 とりあえずゴブリンのところから出てきて、少しずつ感情が戻ってきている印象だ。これは良い傾向だとダンは思いつつ皆の先頭を歩く。


 そして草原地帯が終わりを迎え、目の前に森が現れた。ダンは契約の巻物に向かって言う。

「タマモタマモ、起きてる?」

『……普通に聞こえておるぞ主殿。なにか用かな?』

「ちょっとお客様が居るんだけど、人数が多くてね? 家までのエスコートに人手が欲しいんだ。こっちまで来れるかな? 森の外縁部なんだけど」

『ふむ? まあ主のおかげで結界石は万全じゃから、ワシがちと離れても問題はないぞ? それでどこに向かえばいい』


「あれ? タマモの方でこっちは分からないの?」

 ダンがおや? と不思議そうな顔をした。てっきり巻物の地図とタマモの認識がリンクしているものだと思っていたのだ。


『……主。それはワシの位置は分かる道具のようだが、ワシは主の位置を知る道具ではない。なにか目印はないかの? それを目指して行けば合流できるからな』


 ふむ確かにとダンは思った。と、ダンは視界に()()()()()()()()()モノを見つけた。

 何か後ろで慌てる声が聞こえてきたが、ダンは契約の巻物越しにタマモへと告げた。


「今から()()になりそうなモノを打ち上げますから、周りを見ておいてくださいね」

 そういってダンは腰のポーチ長い柄の先端が金属で補強された棍棒を取り出した。


「ダンさん!」と誰かの慌てた声が聞こえたが、ダンはタイミングを計るためにそのモノから視線を外せなかったので、誰が言ったかは分からなかった。とりあえず、


「よいしょっ!」


 ダンは軽い掛け声と共に、下からかち上げるスイングでそのモノ――イノシシ型魔物の顎を打ち抜いた。棍棒がしなりを作るほどにイノシシは重かったが、ダンは棍棒を最終的には振り上げきった。


 自ら突進していたベクトルと、ダンの棍棒による打ち込みで顎を強制的に挙げられたイノシシは、その時点で力が加わった首の骨が折れ、さらにダンの攻撃の力の方が大きかったため、その胴体も空高く打ち上げられることになった。


 ヒュ~と空に打ちあがるイノシシ。それは木々の背の高さを超えて空へと舞った。


『……あれか? なにか塊が木の上に見えたぞ主』

「それそれ、その下に居ますからお願いしますね」

『心得た! そちらに向かうぞ』とタマモの返事が聞こえる。ダンは振り返って全員にそのことを告げようと――首を傾げて全員の様子を見た。


「……どうしたんですか皆さん?」

 全員ポカンと口を開けて、空のイノシシを見ていた。

 しばらくしてイノシシは当然ながら落下してきたので、ダンがその体を受け止めた。これはこれで食材となるからだ。


≪エルフ女性視点≫


 その光景に私は昨日から何度目になるか分からない驚きを感じていた。


 目の前でイノシシ型の魔物、おそらくボア種でもかなり強そうなその魔物が宙を舞っていたのだ。それを行ったのは私をゴブリンから助けてくれた青年だ。

 青年、だろう?


 人種にしか見えないし、いくら若作りしてもソレとなく分かるものだ。目の前の青年からはそれを感じないことから、おそらく見た目通りの年齢だろう。

 しかし巨人族やドワーフ族の力持ちのような。いや、下手をしたらそれ以上の膂力でもって、自分の体重の何倍もありそうな相手を打ち上げたのだ。


 聞いた話では『英雄』と呼ばれるような存在は、その見た目にそぐわぬ力を発揮するという。冒険者ではB級やA級は『準英雄』、さらに上のS級などの者達は『英雄』と並ぶという。


 とすると青年は上級冒険者なのだろうか。


 私はエルフとして長い年月を生きてきたが、里で子供たちに知識を伝えていた時の好奇心が高じて冒険者へとなった変わり者だ。まさか低級の段階(E級やF級がそれにあたる)でゴブリンの慰み者にされるとは思わなかったが。


 そんな状況でも青年は動じることなく私にある道具を渡してきた。それは女性の体内を浄化する為の道具だった。たしかに私はその知識を持っていたが、あの状態の私はそれに思い至ることなく自身の生を諦めていた状態だった。しかし今は青年から借り受けた道具で、自身とあの場に居たすべての女性の処置をすることが出来た。腹に出来た脹らみもなくなりスッキリとしたものだ。


 青年は何者なのだろう。

 驚き以上の好奇心が私の中で膨らみ始めていた。


≪エルフ女性視点アウト≫


 その場に座って待つことしばし、ダンはそれに気づいて立ち上がった。

 木々の隙間からタマモがその姿を見せたのだ。その姿を見て悲鳴が聞こえる。『おっといけない』とダンは振り返って説明する。


「大丈夫、魔物ではありませんから。タマモ、こちらお客さんだから」

『確かに体が大きいから怖がらせちゃったかな?』と思いつつタマモに説明するダン。タマモはその女性達を見て距離を置いて立ち止まると、一度頭を垂れてから挨拶した。


『主の地を守る守護獣タマモだ。客人よ、歓迎しよう』


 その様子を見て女性達の緊張がわずかに溶ける。ちなみにライとリンとも一緒になって女性達と同じ反応をしていた。馬は敵意がないのに気付いているのか、草をモシャモシャと食べていた。


「それじゃ森に入りますか。タマモ、()()()を頼むよ」

『承知』とタマモがクルリと回れ右して森に入っていく。ダンは巻物の地図を見ながら歩き始めた。リルは最後尾で後ろの警戒をする隊列で、一行は森の中を進み始めた。先ほどのイノシシは2の刺繍がされたマジックバッグにしまわれていた。

 途中熊が出てきたが、ダンが一撃を加えるとその熊の首が一回転して倒れた。ダンは再びマジックバッグにしまうと巻物を開いて進行方向を確認した。


『すまん、一匹通してしまった』

 慌てて戻ってきたタマモに気にするなと言って、ダンは先へと進む。

 ダンが作った伐採道に比べて手つかずの自然のままの森は中々歩きづらかった。


 それでも昼を過ぎたころには目的地の広場が見えてきた。


 広場へと入ったダン達は唯一の建物のログハウスへと向かった。

 リルとタマモを除くその他の面々は、森の中に突如現れた広場に驚きを隠せなかった。


「さ、皆さんこちらに……む」

 ログハウスに案内しようとしたダンは、しかし全員に待ったをかけて一人ログハウスへと入っていった。中に入れると思っていたので全員が困惑顔をした。中にはやはり汚れた者は建物に居れたくないと心変わりしたのかと思った者も居た。


 すると直ぐにダンが入り口から出てきた。

 その手には湯気の立つ大きな桶があった。それを入り口の傍に置くと、ダンは6のマジックバッグから布を取り出して言った。


「すみません、ログハウスの中は靴を脱いでから入ってください」

 申し訳なさそうな顔で言うダン。

 その後全員の足を拭いてログハウスの中へと案内するダン。リルとタマモも入ってきた。


 リビングにあるテーブルの上にせっせと村から持ってきた物も含めて、まずは服を取り出していくダン。それがある程度の量になると、ダンは全員に言った。


「それじゃお風呂に案内しますね。全員同時には……いけるかな? あ、ライさんは僕との組み合わせでお願いします。タマモは――そもそも風呂ってわかる?」

『馬鹿にするな。湯治だろう? 昔はこの地にもあった』

 プリプリするタマモも引き連れてダンは皆を風呂場に案内した。


「あ、女性陣は()()での治療もお風呂場で受けてください。とりあえず1週はお願いします」

 1週は7日。大昔に誰かが言って、今やそれが全国的に定着している文化だ。

 あとタマモは女性組だった。メスだったのねとダンは思った。


 *


 ログハウスの風呂は赤と青の魔石から作られる、熱と水で絶えずお湯が出る造りとなっていた。

 現在排水はログハウス裏手の排水管から垂れ流しだが、一応スライム桶のパーツもあったから、どこかでスライム捕獲しないとなぁとダンはぼんやりとした顔で考えていた。


 現在リビングのテーブルにはダンとライの2人が座っている。2人してお茶を啜っていた。

 そのうち女性陣(タマモも含め)が戻ってきたので、交代して風呂場に向かうダンとライ。


「いやぁ、風呂なんて初めてですよ」とライ。

 ダンも実家では風呂なんて入った経験はなかった。せいぜいがお湯を布に含ませて絞ったもので体を拭くだけだった。場所によっては川で水浴びなども行うらしいが。ライの中身はポーラの父親。そしてあの開拓村は井戸で水を確保していた。あの村では風呂は難しいだろう。


 ダンは軍に居た時に王都の湯屋を梯子していた。実家から出てきての王都生活は本当に充実していたなぁとダンは思った。実家のある()()は本当に何もなかったからだ。

 そんなことを考えながらダンは風呂場へと続く扉を開ける。脱衣所で服を手早く脱ぎ、浴室へと入った。ライも遅れて入っていく。


 これが風呂かぁと感心するライは、そこでダンが動いていないことに気づいた。

「どうかしましたか?」

「風呂は……、風呂ってやつは」

 そして顔上げた。目には涙。


「さっぱりするための、心の洗い場なんだよぉ!」

 魂の慟哭をするダン。

 浴室は女性陣+タマモの9名の汚れを受けていた。


 *


「これからしばらくココで生活をしていただきますがルールを決めます」

 やけに長い時間風呂場から戻ってこなかったダンが、全員の揃っているリビングに戻るなりそう言った。


「居させていただいている身です。決まりは守りましょう。ねぇ皆さん」

 エルフの女性が代表して言う。皆も同意するように頷いた。

「わかりました。まず風呂は毎日入ること。以上です!」


 全員沈黙状態になった。


「……それだけですか? こう、もっと決めることがあるような」


「それだけです!」

 ダンははっきりと断言した。してから『やばい」と言った顔で付け加える。


「……それ以外はおいおい決めましょうか。まずは部屋割りは適当に使ってください。たぶん寝床とか数は足りるはずです。誰と部屋を同じにするかは話し合って決めてください」

「ええ、それは話し合って決めます」


「あ、あとログハウスの外に出てもいいですけど、土地の結界の外には出ないでくださいね。たぶん今の皆さんだと死んじゃうんで」

 そのダンの言葉にギョッとして皆が「どうして?」と尋ねる。


 ダンは首を傾げながらとりあえず答えた。


「皆さんゴブリンに捕まるくらいの実力ですよね?……ああ、嫌なことを思い出させるつもりはないんです。ただ、そのくらいの実力で死の森に入れるんですか? 僕、この土地にはまだ来たばかりなので良く分かってなくて」

 ダンの言葉に先ほど以上の沈黙が下りる。強張る気配もあった。


「え、っと? 死の森って、ニアラの東の?」

 エルフ女性の問いに肯定の頷きを返すダン。

「死の森と、周りの森は、繋がってるんですか?」


「? いえ、()()が死の森の中ですけど?」

 一瞬ののち、阿鼻叫喚の雰囲気にリビングが支配された。

ダンの認識+説明クオリティが合わさると危険。




読んでいただきありがとうございます。

順次公開していく予定ですが、これより先の話を見たい方は


アルファポリスでの投稿ページ

https://www.alphapolis.co.jp/novel/872180522/8274942

にてお読みください。


よろしくお願いいたします。

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