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緊急依頼を受注する

 ログハウスの中身を一通り確認したダンとリルは一度街へと戻ってきていた。

 食料などを買っていなかったためと、宿屋の支払いなどがまだ終わっていないためである。当然、ダンが収めた素材の支払いがまだされていない点もあった。


 宿屋へ戻り、手荷物を部屋へと置いたダンとリルはギルドへと向かった。

 ギルドの扉を開けて中に入ると、普段のギルドと何か違う雰囲気を感じた。ダンはぐるりと中を見渡すと、新人担当のミニーですら他の受付のヘルプに動いている姿が確認できた。そのミニーがギルドに入ってきたダン達の姿を確認するとダンを呼んだ。


「ダンさ~ん! こっちこっち」

 呼ばれたダンはカウンターへと近づく。ミニーはカウンターからロビーの方へと移動してダン達を迎え入れた。


「何かあったんでしょうか?」

「すみませんが、ギルドマスターの部屋についてきていただけますでしょうか」

 断る理由もないダンはリルを見て、ミニーを見た。それだけで意図が伝わったのかミニーは「リルさんもダンさんの仲間ですから、ご一緒にどうぞ」と答えてくれた。


 ミニーに連れられてギルドマスターの部屋へと到着したダンとリルは、ミニーの後に続いてギルドマスターの部屋へと入る。

 そこには何やら思案顔をしたバルザールの姿があった。


「僕達に何か御用でしたか?」とダン。

 その言葉にバルザールは頷いて口を開く。

「うむ、ちょっと問題が起きていてな。ダン、お前ゴブリンは知ってるか?」

 バルザールの問いかけにダンは頷く。


 ゴブリン。小鬼とも呼ばれる魔物。

 基本的に力は成人男性よりも少し弱く、その代わりに知恵があり、道具や仲間同士のコミュニケーションも行う。また中には知性を備えた魔族化した個体も居り、少数ではあるが街中で住んでいる者もいる。

「街中に居る時もあるのか?」

「僕も自分の人生で合ったのは2人だけでしたよ?」

 そのくらいに魔族化する割合は低く、基本生産的な行動をしないので害獣的な扱いの魔物である。


「そのゴブリンが出たんですか? でもゴブリン相手に荒事をこなす冒険者が負けるとは思えませんが」


 そう、成人男性よりも弱い。その基準となる成人男性とは市民などの非戦闘者を基準としているのだ。戦闘系スキルを保有する者が多い冒険者にとって、罠などに気を付ければそう脅威となる相手ではないはずなのだ。


「いや、事態はちょいとややこしくてな」

 バルザールの説明によれば、南にある近隣の村から「農作物の被害が出ている。足跡から人型の魔物のようだ」との依頼が入り、話からおそらくゴブリンだろうと低級の冒険者を数グループ調査依頼として送ったらしい。だが報告期間を大幅に過ぎても、どのグループも戻ってこなかったとのことだった。


 情報が無い中「オークか?」「いやオーガだったり?」などの意見が出てきて、ギルドの中の雰囲気は2極化しているらしい。俺が行く! といったイケイケ派と、慎重派のどちらかだ。


 ただバルザールとしても戦力の逐次投入は下手をすれば損害が大きくなるため、冒険者全体に待ったを掛けた状態だ。今がその段階だと言う。


「確認したいのですが、調査の冒険者たちはいつから居ないのでしょう? 後は消えた人数と大体の力量。……それとこの話を()()僕達に伝えたんですか?」


 ジト目でダンはバルザールに聞いた。冒険者に待ったを掛けておいて、まだ新人冒険者のダン達に伝える意図が読めなかったのだ。ダンは内心、使い捨ての可能性を疑ったのだ。


「今はだいたい1週間といったところだな。人数は4グループでえっと人数は「4人、2人、3人、6人の計15人になります」ってことだ。力量っていうと、まあまだまだ駆け出しってぐらいだったな。おいおい、妙な目で見るなよ。ダン達、特にダン! お前の強さを見込んでの話なんだからよ」

「どういう訳ですか」


「正直冒険者は危険と隣り合わせの職業だ。すべての依頼の結果は自己責任。でもだからと言って『竜の巣に人を送る』なんてのは俺も人としてやりたくはない」


 ちなみに『竜の巣に人を送る』は、死地に人を送るという意味である。確かに竜の巣に()()()()もせずに人を送るのは無謀な事だとダンも思う。


「かといって高ランクの冒険者に向かわせようにも、今この街にはちょうど()()()人が出払ってるのが現状だ」

 聞けば北の方角に小さなダンジョンが出来て、そこにほとんどの者が潜り込んでいるらしい。ダンジョンは資源の宝庫、冒険者としては稼ぎ場所があればそこに行きたがる。

 それで残ったのは若干名の中級の冒険者達となるのだが。


「正直、あいつらを送っても何故か()()()()()()気がしてな」


 バルザールは漠然とした感で、冒険者達を止めた。そして更に思い出したことがあった。それが――

「ダン、お前さんの戦闘力は現在ギルドでも上の方に居るだろう。そしてまだ冒険者()()()()だ。事態が大事になるなら仕方がないが、実際のところ何の確認も出来ていない。そこで」


 *


「そこで再度調査員を送り、そこから報告ないしは戻らなかった場合はギルドミッションでの大規模な山狩りを行う!」

 バルザールはロビーにて大々的に発表した。


 ギルドとて慈善事業を行う団体ではない。大山鳴動して鼠一匹ではギルドの財布は軽くなってしまうのだ。


 まあ、実際はダンからの素材の売買で多少の余裕はあるのだが。


 そこでまだ登録仕立ての冒険者ということで、低級冒険者のダンとリルの両名に再調査の名目で動いて貰おうと考えたわけだ。


「では今日より3日後までに報告をしに来てくれ。それがなかった場合、先ほどの山狩りを行う」

「以上だ。3日後まで解散!」バルザールがそういうと冒険者たちは三々五々と散っていった。冒険者たちも無償で何かをしようとは考えていない。あくまで騒ぎになったのは、ギルドが緊急の依頼としてギルドミッションを出すかもと期待して集まっていたからだ。


「……そういうわけでどんな魔物が居るのか、またその規模なんかだけでも探ってきてくれないか?」

「まあ、いいんですけどね。()()冒険者としての報酬だけしか期待は出来なさそうですね」トホホとダンはバルザールの考えた案に反対できないことに、ガックリと肩を落とした。


「……その分、素材の代金には色をつけてくださいね?」

 つまるところバルザールにというかギルドに素材の代金を支払ってもらわぬうちに、ギルドの財布というか金庫の金が減ったらそれだけ支払いが遅くなるよと人質を取られたようなものだ。


 ダンの釘をさす言葉にバルザールが震える。


『素材って確かアースドラゴンだったよな?……あれ? これって悪手だったか?』

「まあいいでしょう。幸いまだ日も高いですから、準備出来次第その調査に向かうとしましょう」

 冷や汗を垂らすバルザールを残して、ダンはリルを伴ってギルドを後にした。



 その後街中で食料を買い込み、宿へ戻って荷物を取ってきたダンは町の南の草原を進んでいた。

「さて、まずは依頼の村へと進んで行くとしますか」と地図を見ながらダンはリルに言った。

「はい。……あの、ダンさん?」

「はい? どうかしましたかリルさん」


 名前を呼ばれてダンが振り返った。その際、ダンの足元の草が揺れたかと思いきや、白い塊が凄まじい勢いで飛び出してくる。その向かう先はダンの足。

 パンッ! とダンは振り返ったその動きのまま、その白い塊を()()()()に蹴り飛ばした。

 ボテっと落ちたそれは角の生えた兎だった。


 一角兎。とりあえず小さい。角が生えてる兎。以上。


「いえ、一応仕留めた獲物をそのまま放置するのはいかがなものかと」

 見ればリルの両手にはダンが先ほどから蹴り飛ばしている兎が纏めて掴まれていた。

「あ~、たしかにそのままは不味かったですね。ではこれに入れてください」

 ダンはリルに向かって2と刺繍された肩掛けカバンを差し出した。それにリルは両手の兎を入れて、カバン自体を受け取った。

「あれ? 重さがない」

「それ結構優秀なマジックバックみたいですよ。まあ、()()()()()()()


 この間と別のボンボン貴族子弟の悲鳴が聞こえたような気がした。



 その後、兎を蹴り飛ばし、狼を手刀で討ち取り、草原からまばらに木々が生えている地域に差し掛かったダンは、その村を発見した。


 開拓地によくある容易な造りの柵の中の村を見たダンは、そのまま柵に沿って移動して、森と呼べるような木々の方向に続く足跡を発見した。


「こちらですか、行きましょうかリルさん?」

「え? あれ?」と困惑するリルを呼ぶダン。

 ダンに呼ばれたので、何かを気にしながらもダンに追いついたリル。

 その視線が問いかけていた。

「まずはこちらを片しましょう。()()()はその後に」

 リルに説明をしたダンは足跡の追跡を開始した。


 しばらくすると木々が多くなり、その奥に小さな山が見えた。足跡は目立たなくなってきたが、木々に付けられた擦られた跡などからダンは地面から隆起した岩肌の山に空いている穴に、その痕跡の主達が入っていったのだと確信した。

 リルに手で身を隠すように指示し、身を低くして隠れながらその穴――洞穴を観察する。


 そこには歩哨の様に洞穴を守るゴブリンの姿が見えた。2体。その手には粗末ながらも木で作られた槍を持っていた。一体は腰ミノだが、もう一体はボロボロの革鎧を着ている。サイズが明らかに合っていない革鎧を見て、ダンはおおよその事態の推移を予測した。


『報告に帰っている時間はなさそうだなぁ』とダンは腰のポーチから投擲用の手斧とダガーを2本づつ取り出した。リルに視線で合図を送る。リルが頷いたのを確認したダンは、低い姿勢のまま体をねじって、まずは両手で手斧を2本()()した。


 音はなかったが、間近に迫った斧にゴブリンたちは気づいて声を上げようとする。しかし斧が2本とも頭蓋を両断するように刺さると、ゴブリンたちはドサリと倒れてその息を引き取った。


 ダンはそれを視界の端に入れながら、すばやく岩肌に身を寄せて洞穴の中を伺った。


 中は暗く、しかし他のゴブリン達が出てはこないと確認したダンは、倒れたゴブリンを掴んで洞穴から少し離れた位置に移動させる。そしてリルを呼ぶ。

「これにゴブリン達を入れてください」とダンは4と刺繍された、先程と同型のマジックバッグをリルに手渡した。


「……黒い?」


 もともとフェンリルとして魔物の死体に忌避感はないリルは、ゴブリンの皮膚の色が気になった。

「地域性ってやつですかね? 死の森のゴブリンはこの色が多いですよ」

 ダンは最近見慣れた色のゴブリンに特に思うところはなかった。使わなかったダガーを籠手にしまって、手斧をゴブリンから回収する。


「さて、どれぐらい居るのやら」

 ヤレヤレとダンは洞穴へと足を踏み入れた。

読んでいただきありがとうございます。

順次公開していく予定ですが、これより先の話を見たい方は


アルファポリスでの投稿ページ

https://www.alphapolis.co.jp/novel/872180522/8274942

にてお読みください。


よろしくお願いいたします。

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