第1話 「男子高校生は準備体操の大切さを知る。」
テスト勉強にテスト勉強を重ねていたらこんな時期に、どれもこれも全て学校のせいです。
機械音痴で次話投稿の仕方をよく理解出来ていなかった水山には全く非は無いはずです。
7月初めの午後8時、日課のランニングの小休憩の間、俺は長野県という土地を盛大に呪った。
冬はこれでもかというほど寒い雪国のくせして、夏は首都圏よりも若干気温が低いだけで気温の高さを意識しない日など存在しない。
避暑地、などと呼ばれる地域もあるにはあるが、そんな場所は松本の上高地か軽井沢町くらいしかない。
長野の南の方に位置する田舎町は今日も死ぬほど暑い。神様がいるなら小一時間愚痴を言う権利くらいなきゃおかしい。なんていう恨み事をスポーツドリンクと一緒に飲み込んだ。
この地球が恨み事を吐いて気温が下がるような仕組みであったなら今頃全人類は凍死しているはず、そう自分に言い聞かせてペットボトルの中にあった残り少ないスポーツドリンクを一気に仰ぐ。
空になったペットボトルをゴミ箱に捨て、暑すぎる夜を走る。
今日はもう5㎞は走ったが不思議と疲れを感じない。これがランナーハイってやつなのかなぁ、なんて思いながら走っていると目の前に流れる大きな川の中に何か生き物らしき物が見えた。
「河童...じゃないよな。」
そんな馬鹿げた独り言を呟きながら手にしていた懐中電灯を照らしてみるが何も見えない。
...見間違いだったんだろうな。そう結論付けて踵を返そうとした時だった。
正体は分からないが確かに動物の鳴き声を聞いたのは。
何かいる、そう確信した俺は再び懐中電灯で川を照らした。
今度は闇雲にではなく、鳴き声がした方を重点的に。
いた。暗くて分かりづらいが小さい生き物...犬が川に流されている。
そう、気付いた時にはもう体が動いていた。
舗装されていた車道から思い切りジャンプし、緩やかな丘を飛び越え、河原に着地する。
その際に少し膝をぶつけたが何とか痛みを堪え、そのまま猛ダッシュする。
石まみれの河原はかなり走りづらかったがそんな言い訳を頭から振り落とし、冷静に考える。
この川は3年に1,2回地元の中高生が溺れて毎度騒ぎを起こしている。
理由はその学生たちがカナヅチだから、ではなく川の流れが急に早く、水位が急に下がる場所があるからだ。
そして、今走っているら辺がその場所。
もう少し下流じゃないとワンチャン俺も溺れる。
だけど、そんな事はもう気にしていられない。今この瞬間にもあの子は溺れ死んでしまうかもしれない。
そんな考えが頭をよぎり、走りながら川へと入る。
俺の喉元まで水位があり滅茶苦茶動きづらい。でも、それを想定に入れて入水するポイントを選んだ。
その想定に狂いは無かったたようで、川の真ん中に着た直後に真っ白なワンちゃんが俺の胸に飛び込んで来る。
が、それがいけなかった。
この子を抱き止めた衝撃により川底から足を離してしまい、体が後ろへと流される。
かなりヤバい。
ここから先は俺の身長よりも遥かに水位が高くなる。
何とかして川岸へと戻ろうとするも上手くいかない。抱えているこの子をなんとかしなくちゃ。
じゃないとこの子も俺も助からない。
そう考え、思い切り足をバタつかせる。手は使えないからこんな事しか出来ないけどそれでも少しだけ、川岸へと近づいた。
「この距離なら...いけるはず...!」
そう思い、岸へと思い切り手を伸ばす。するとあの子は俺の手の中から抜けていき、上手く岸の方へと泳いでいく。
次は俺の番。そう思い手と足を動かしたその瞬間、手と足にとてつもない激痛が走った。
(やっば、つったなこれ。)
よくよく考えれば当たり前だ。全身酷使したあとに準備運動もせずに河泳ぎなんて、むしろ今まで何ともなかった方が異常だったんだ。
「球技大会、出たかったなぁ...」
そう言っても川の流れは止まってはくれないし、つった手足が治る訳もない。
畜生、こんなことならしっかり準備運動しておけば...
いや、そんなことしてたら(別に準備運動を軽んじてる訳じゃないよ?)きっとあの子は助けられなかった。
どこからともなくワンちゃんの鳴き声が聞こえる。
あぁ、あの子無事だといな。そんな事を思いながら俺の体は、ゆっくりと沈んでいった。
ーーー 軽く、リズミカルな足音が聞こえ、俺は目を覚ました。
目の前には日本家屋独特の人の顔にも見える板で造られた天井が見える。
「どこなんだ、ここ。」
そう呟き、体を起こして辺りを見渡してみるも八畳程度の和室である、という情報以外は分からない。ポケットからスマホを取り出してみるが電源がつかない。おかしいな、このスマホ防水だったはずなんだけど。
この部屋を出て家主を探そうか?でも家主の許可なしに家を歩きまわるなんて非常識な事して良いのか?
明確な答えを出そうと頭を抱えていた時だった。
「この場合、おはようとこんばんは、どっちが正しいのかな?」
突然後ろから鈴の鳴るような声が聞こえた。
振り返ってみると白い着物に身を包んだ髪の長い俺と同年代であろう女の子が佇んでいる。
やべぇ、美人過ぎてなんて話しかけたら良いかわかんねぇ...
取り敢えず寝っ転がったまんまというのはよろしくない。俺は布団の横に正座し、深く頭を下げた。
「わざわざ助けていただき有難うございました。」
俺が言うと彼女は短く「助けた...ね。」と呟いた。
「何か?」
彼女の意味深な発言が気になり聞き返すと彼女は一瞬迷って、口を開いた。
「彼方ね、さっきの水難事故で死んでしまったの。」
マジかぁ。
これが、正直な感想だった。でも、あっこから助かるビジョンが思い浮かばないし、冷静に考えたら当然の結果とも言える。だから自分の死に対してはそこまでショックじゃなかった。
けど、俺には一つ気になる事があった。
「俺が死んだのは分かりました。じゃあ、俺と一緒にいたワンちゃんはどうなったんですか?」
無事であってくれ。そう願いながら聞いた質問に彼女は即答してくれなかった。
あの子の事を俺は助けられなかったのか?
もう一度同じ質問をするも彼女は視線を下に向けたまま口を閉ざしている。
「助けられなかったのか...」
掠れた声で誰に告げる訳でもなく呟く。
「別に死んじゃった訳じゃないよ。」
俺の独り言を聞いたのか彼女は慌てて否定してきた。
「むしろピンピンしてるというか、なんとうか...」
しどろもどろになりながら教えてくれる彼女に俺は少し違和感を覚えた。別にやましい事でもないと思うんだけどな...
まぁいいや。もう一つ聞きたい事があるし、そっち優先しよ。
「貴女一体何者なんですか?」
俺のこの質問に彼女はとても悲しそうな顔をし、一瞬押し黙った
「神志名春歌。神を志す名前で神志名。春の歌と書いて春歌、信濃の南部を統制する土着神...かな。」
土着神、スサノオとか大仏みたいなメジャーな神様ではなく、その土地特有の民間信仰のようなものだと聞いた事がある。
「その神様が俺に一体何の用ですか?」
「答える前に、一つ良い?」
「良いですけど、内容にもよりますよ?」
彼女からの質問に予防線を張って答える。変な事を言ってくるタイプには見えないが、念のため。
「えっと、そのさ、出来れば敬語はやめて欲しいな?それと、名前を呼び捨てで呼んで欲しくって。」
うん、まぁそこまで変な事は言ってないけど、初対面の人間...もとい神様相手にタメ語で呼び捨てはちょっとなぁ。
「ダメ...かな?」
「ダメじゃない。」
そう言ってしまってから口を塞ぐ。我ながら早計だった。まさか上目づかいされただけで堕ちるとは思わなんだ。
「いくらなんでもチョロ過ぎだろ俺...」
そう言って頭を後ろの壁に預ける。まぁハルが喜んでくれてるなら、まぁ、良いのかな...?
ひとしきり喜んでいたハルだったが急に何かを思い出したのか俺の目の前に座り、真剣な面持ちをして呟いた。
「ねぇアキ、異世界転生って興味ない?」
もしかしたら次は早めに投稿できる...かもしれません。
2週間以上動きが無かったら四級呪霊の餌食になったと考えて下さい。