豆粒の様に小さな私と大きな彼
私は昔から小さかった。
身長はもう十代後半になると言うのに、十歳に満たない子供程度しかない。
何をするにも時間がかかり、家事は勿論、魔物とろくに戦うこともできない。口下手なため会話にも時間がかかる。
そのくせ嫉妬しやすく、器の小ささも併せ持っている。
私は、ちっぽけな自分が大っきらいだった。
そんな私と唯一仲良くしてくれたのは幼馴染の彼だけだった。
彼は私と正反対で身長が高く、社交性のある人だった。
口下手な私にも積極的に話しかけて来てくれて、よく遊びに連れて行ってくれた。
彼から「豆ちゃん」とあだ名で呼ばれ出して、最初は恥ずかしかったけど段々嬉しくなった。
――気づけば彼が好きになっていた。
勇気を振り絞って告白し、付き合えるようになった時は初めて自分に自信が持てた。
知らない人ともある程度話せるようになったし、家事も早くこなせるようになった。
彼は私の成長をとても喜んでくれて、それでもっと頑張ろうと思えた。
だけど、幸せも長くは続かなかった。
神からのお告げがあり、彼が勇者として旅立つことになったのだ。
旅立ちの日。彼の背にしがみ付き、行かないでと呼び止めてしまった。
頭ではいけないとわかっていたのに、身体が勝手に動いていた。
彼はみんなのために旅立とうとしているのに、私は自分のためだけに止めようとしていた。
泣きじゃくる私を彼は困った顔を浮かべながら、大きな手で優しく撫でてくれた。
――あぁ、私は本当に小さい。
毎日ベッドで泣きながら、彼が帰って来るのを待ち続けていると、もう二十歳を超えていた。
彼は見事魔王を討伐したらしい。
国を挙げてのパーティが開かれているとのことだが、私が呼ばれることはなかった。
長い旅になったのだ、彼はもう私の事なんて忘れてしまったのだろうか?
そう思うと涙が溢れ出ていた。
「豆ちゃん」
後ろから聞こえた声に振り向くと、彼が立っていた。
これは夢かと涙をぬぐっても、やっぱりそこにいる。
呆然とする私の前に立つ彼は多くの苦難を乗り越えてきたためか、以前よりも大きく感じられた。
その後ろには姫様や聖女様といった魔王を討伐した仲間たちが見える。
もしや旅の中で愛が芽生えたとか? 別れ話をしに来たとか?
不安が大きすぎて嫌なことばかり考えてしまう
彼の言葉を震えながら待っていると、予想に反して抱きしめられた。
「今まで待たせてごめん。ようやく迎えに来れたよ」
姫様たちは、私を見に来ただけだった。彼は旅の中でもずっと私のことを話していたらしい。
折角のパーティも王様の顔を立てるため参加はしたが、早く村へ戻るため私を招待しなかったそうだ。
「豆ちゃん。結婚しよう」
彼の大きくてきれいな瞳がこちらを見つめてくる。
私は恥ずかしくて俯いてしまったけど、何とか頷くことができた。
結婚式では皆が私たちを祝福してくれた。
余りにも幸せすぎて、勇者である彼と私は吊り合わないのではと思わず口に出してしまった。
「そんなの関係ない、僕は豆ちゃんが好きなんだ。例え何があっても豆ちゃんを愛しているよ」
――あぁ、やっぱり大きいなぁ。
この時の幸せは誰よりも大きかったと思えた。