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ouroboros  作者: 卯月月兎
第1章 暗い炎
2/2

歯車は回り出す

二話目です

主人公はまだ出ません

動物実験から早2年。

ouroborosについて明らかになった事が増えた。

一つ、ouroborosを移植された生物は稀にouroborosを喰らう細胞を作り出す事がある。我々は抑制細胞と名付けた。

二つ、それらの細胞も培養可能でありouroborosに抗体を作れなかった生物に移植すればバランスを取る事が出来る。ただし、定期的な摂取が必要。

三つ、体内のouroboros細胞が多ければ多いほど肉体の強化が大きい。しかし、ouroborosが多い為体内バランスを保つのが難しく大概の個体は死滅する。

四つ、ouroborosはあらゆる細胞、細菌などを食す為がん治療や医療目的にも有効である事が判明。しかし現状ではリスクが高く臨床には至っていない。

五つ、ouroboros細胞を移植された個体は爆発的に細胞が増える為、身体に傷を負ってもすぐさま回復し圧倒的な治癒能力を持つ。肉体の強化も同様の力である事が判明。

しかし、どちらの能力も大量のエネルギーを必要とする為、生物の肉や血液を大量に摂取する必要がある。

六つ、エネルギーが補給出来ないと対象は極度の飢餓感に襲われると思われる。その為、他の生き物を積極的襲う様になると考えられる。

七つ、ごく稀に大量のouroboros細胞を体内に宿しても死滅しない個体が現れる事が判明。その個体は抑制細胞を自由に生み出せる器官を身体に持っている模様。

強力な個体になりやすい。我々はレアと呼称する事にした。また、身体の大きい生き物であればあるほどレア個体は現れにくい模様。

八つ、ouroborosに核となる生物の細胞を与え培養していき、成長させる実験においてouroborosは核になった生き物の形に寄せる様に成長する事が分かった。核の種類が多すぎると成長出来ないようだが二つ三つなら問題ない模様。純粋なouroboros種なんてものが産まれるのも近いかもしれない。



他にも細々としたものはいくつかあるが大まかな発見としてはこの八つが大きいだろう。


赤崎はこの2年を振り返り、深く主任席の椅子に体重を預けた。分かった事は多く研究自体は楽しかった。人の役に立つ可能性も見出した。だがこの研究を外部から嗅ぎつけて、直接赤崎にコンタクトを取りに来る不届きもの達の事を考えると思わずため息が出る。


人を救う画期的な技術も使い方を間違えれば簡単に人殺しの道具になる。

つまりは…そういう事だ。

人にouroboros細胞を移植して強力な兵士を作ろうなどと言う。勘弁して欲しい。


ouroborosは人体における既存細胞の比率で1割を超えると完全に死滅させる事が出来ない。ouroborosの核を人体に移植した際の増殖試算は30分でその1割を超える。

そんなもの兵士にする為に大量に移植したら殆ど人間が死ぬだろう。よしんば生き残ったとして大量の新鮮な肉や血を手に入れられなければ飢餓衝動に苛まれ下手をすれば人を殺し喰らうかもしれない。


そんな連中にこの研究データは渡せる訳がない。

「…人生ままならぬものだ…」


思わずひとりごちたくもなる。

これ以上余計な輩が現れる前に全て処分した方がいいのではないか。

そう考えない日はない。いや、ouroborosは第三者の手に渡った場合あっという間に増やす事が出来る。世界に拡散した場合もう止める事は出来ないだろう。


そんな事を考えていると赤崎の研究室に珍しい来客が来た。


「お邪魔するよ赤崎くん。今少し時間いいかね?」


「天道所長!どうしたんです?こんな遅くに。」

夜の23時を回り、訪ねて来たのは天道成蹊(てんどうなりみち)。この天道研究所の所長であり、

ouroborosの第一発見者である。


「いや、なんて事ないのだがね。最近君が思い悩んでいるように見えたものだからちょっと話でもしようと思ってね。ああ、無理にとは言わないよ。私に話せる事があるなら話してくれればいい。抱え込むよりはマシなんじゃないかな?」


「天道所長…ありがとうございます。ではお言葉に甘えて…実はouroborosについてなのですが良からぬ事を考える連中がいまして。どうやら兵器へ転用しようとしてるようなんです。もし第三者の手に渡れば拡散は容易だ。だからこそouroborosを廃棄した方が良いかと考えてしまいまして…」


「…なるほど。確かにそれは危険な事だ。しかし、ouroborosは紛れもなく人類の希望とも言える存在だ。使い方を誤らなければ多くの人々を救い、生活を豊かにする可能性がある。…君にこの研究を任せきりになってしまっているのは申し訳ないと思っている。しかし、もう少し様子見てあげて欲しい。今声をかけて来ている三社に関しては私がなんとかあしらっておく。だからまだ研究を頑張ってみてはくれないか?」


「所長…えぇ、分かってます。俺がきっと小心者なんでしょう。それに、物事はメリットだけでは語れない。リスク管理をして初めて利益を得れる。所長が大手の製薬会社からの研究依頼で手を離さないのは存じてます。ご自分で見つけたouroborosを研究出来ない悔しさもわかるつもりです。」


「赤崎くん、小心者は悪い事ではないよ。君は先が見えているという事だ。実際かなり危険なリスクが伴っているのも事実。君は立派にやっているよ。」


「所長…」


「製薬会社の件もね、もともとは断ろうと思っていたんだよ。でも状況が変わって受けない訳には行かなくなった。浅ましいが大手だし実入りがいいのもね」

天道は苦笑いを浮かべながら話を続けた。

「ouroborosをこの手で研究出来ないのは確かに悔しかったが君が居たからこそ任せようと思ったんだ、赤崎くん。君ならきっと成果を上げてくれる。そう信じたからこそ任せたんだ。」


「天才と呼ばれ数々の論文を発表し、世界の発展に大きく貢献した生きる伝説、天道成蹊からそんな事を言われると流石に照れますし、弱音なんて…吐けないですよ…」

頬を掻きながら恥ずかしそうに語った。


「はっはっはっ!赤崎くんも言ってくれるじゃないか!私も、背中がむず痒くなって来たよ。」


「それはそれは、…お互い様ですね。」


「ははは!…うむ。少しは明るい顔になったかな。あまり思い詰めずもう少し肩の力を抜いてやるといい。責任は私がとる。では、そろそろお暇しよう。お休み赤崎くん。頑張ってくれたまえよ」

天道は優しく微笑みながら研究室を後にした。

「あー、気を遣わせてしまったな…」

一人残った赤崎はそうぼやいて明日から気合を入れなおす事に決めた。

そして帰る支度をしている時だった。

赤崎は身体のバランスを急に崩し床に倒れ込んだ。


「ぐ…うぅ…苦しい…なんだこれは…動悸が…」


そしてそのまま、研究室で意識を失った。







………




「残念ですが…ステージ4の食道がんです。既に身体中に転移してるのも確認されてます…余命は…後二カ月ほどです。」

その日、白亜の部屋で赤崎翔は、無慈悲な宣告を受けた。

動き始めた歯車は止まらない

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