分からないことだらけでわかめ
魔王軍養成学校の生徒は魔王軍の所属。
つまり、生徒に危害を加えるということは魔王軍、ひいては魔王への反逆行為となる。
そんな理由で俺は処刑される寸前だった。
バカ貴族っぽいのが偉そうに言ってるだけならまだ何とでもなる。
そこで本当に偉い魔王が出てきたものだから、酷い話だ。
スノウたんもきっと、何も考えずに出てきた訳じゃないだろう。
さっきの話で言うと、生徒へ危害を加えた者が同じ生徒なら。
これは反逆でもなんでもない。ただのいざこざ、指導、どうとでも言える。
スノウたんはこの状況を利用して、魔王軍要請学校に入学しろと脅迫してきた訳だ。
なんて恐ろしいことを考えるんだこのロリ魔王は。
鬼か。いや魔王だった。
どうしてそんなに俺を魔王軍に入れようとするんだ?
俺が勇者にギャグのついでに爆殺されるところがそんなに見たいのか?
……いや、スノウたんはそんな未来のことは知らない筈だ。
理由は気にしてもしょうがない。
重要なのは、四天王なんかにはなってはいけないということだけだ。
俺は必死に考えた。
結局、この脅迫に乗ることにした。
そもそも選択肢が無い。
ここで断ったら処刑されるんだからな。酷すぎる。
それでもこっちの選択肢なら、まだ可能性は残されている。そう思ったからこそ、俺は決心した。
入学したところで、すぐに四天王になるわけでもないだろう。
それなら適当に学生やりながら、ミコラスを片付けてしまえばいい。
そうすれば俺が入学している意味も無い。晴れて卒業だ。
ようは、勇者が来る頃に善良な一般市民であればいい。
ピリカのことも心配だしな。いっそ丁度良かったのかもしれない。
「う、うむ? 何か思っていたのとは違うが……まぁ良いか! 許すぞゴルヴィークよ、貴様の入学を認める!」
「ま、魔王陛下!? そんなに簡単に入学を決めてしまわれて良いのですか!? こんな、どこの馬の骨とも知れない田舎者など――」
「我が許すと言ったのじゃ。魔王の決定に異を唱えるというのか?」
「い、いえ、滅相もございません……」
「今回は使えそうじゃったから大目に見たが、余り調子に乗るでないぞ」
「ははっ……!」
「ふんっ。ゴルヴィーク、入学の手続きが済み次第ここへ連絡を寄こす。しばらく待っていろ! はーっはっはっはぁ!」
なんていうやり取りの後に、スノウたんは去って行った。
ああ、ロリ魔王の高笑いは五臓六腑に染み渡るなぁ。
ついでに、ミコラス達も帰った。
「お前、魔王様にお目こぼしを頂いたくらいでいい気になるなよ? 学校で合ったら、覚えておけ!」
なんていうテンプレ捨て台詞もセットだ。
やっぱりこの世界のチンピラ達は、モブとしての役割があるんだろうか。
お約束すぎていっそ感動する。
簡単に跳ね除けられるように頑張らないとな。
で、今は食堂の片付け中だ。
異世界チンピラ、略してイセチン共が暴れたせいで散らかっていた。
夕方からは酒場としても営業するらしいから、そのままにはしておけなかった。
俺とピリカとおばちゃんの三人でかかれば、そんなに時間はかからなかった。
壊れたテーブル等は撤去して、空いたスペースは無事だったテーブルを移動して広く使う。
とりあえずの応急処置だが見栄えはずっと良くなった。
「えっと、その……」
「一応は貴族だけど、爵位も無い田舎者だ、気にしなくていいぞ」
「そう、助かるわ」
声を掛けようとして言い淀んでいるピリカへ、こっちから声をかけた。
多分そういうことなんだろうなと思ったが、当たっていたようだ。
明らかに緊張していたのがホッとした様な表情になった。
「片付けはこれで終わりよ、どうもありがとう」
「どういたしまして」
「それで、さっきの件、しっかり話をさせてもらってもいいかしら?」
お礼の言葉を受け取ると、ピリカの表情がまた変わった。
これは、怒っているような、迫力のある顔だ。
さっき問い詰めようとしてきたのを、先に片付けようと言って後回しにしたせいかもしれない。
一応確認の為に、おばちゃんの方を見てみる。
既にカウンターの向こうで夜の仕込みを始めていたおばちゃんは、大きく頷いてくれた。
許可が下りた。
これで思う存分話が出来る。
俺がすぐ近くの椅子の座ると、ピリカも俺の正面の椅子に腰掛けた。
「勿論。何か言いたいことがある感じ?」
「貴方ねぇ……当たり前でしょ。下手すると、本当に処刑されるところだったのよ?」
呆れたように眉間に皺を寄せて、ため息をつくピリカ。
真面目な表情が多いけど、案外感情が豊かで面白い。
よくありがちな、冷静冷徹クール系委員長とはまた違った感じに見える。
「聞いてるの?」
「聞いてるよ」
「はあ、魔王様もどうしてあんなことを……」
それは、スノウたんが魔王軍に歯向かう者には死を、なんて言った件についてだな。
あれは中々に無茶苦茶な理論だった。
学生に危害を加えたら反逆者なんて、肝心の学生の躾が完璧じゃないととんでもないことになる。
一般市民は生徒に対して抗議も抵抗も出来ないわけだからな。
襲われたりしたらもう死ぬしかない。
とても、マトモな人格があればあんなことは言えない。魔王なんていう、この国での最高権力者なら尚更だ。
あれは多分、俺を脅迫する為なんだろうなぁ。
そう思って、ピリカに話した。
俺がこの宿に来る前、城に向かう直前からの出来事を。
「えぇ!? ということはあなた、幹部候補の合格を蹴って、静かに暮らすための準備をしようと思ってたのにトラブルに首を突っ込んで、魔王軍養成学校に通うことになった。っていうこと?」
「そうだな」
「わけが分からないわ」
「そうだな」
大丈夫だ。俺もさっぱり分からない。
どうしてこうなにった。