魔王と魔王軍要請学校からの刺客
本日二回目の更新です
やっと納得してくれたらしく、ピリカは語ってくれた。
どうしてあんな異世界チンピラが、この宿に難癖をつけていたのか。
まず、ピリカはこの街、王都イルネスティにある学校に入学したばかりだという。
その名も、魔王軍養成学校。
そのまんまな名前の通り、卒業後は魔王軍の兵士になる人達が通う学校だ。
ピリカはそこで、落ち零れの判定を受けた。
剣の訓練なんかも始めて一年程しか立っていない上に、入学時に受けた鑑定で素質がほぼ無いことが分かったらしい。
それでもピリカは、必死に食らいつく為の努力をしていた。
いくら落ち零れ判定を受けても、それで退学になることはない。
努力次第で、普通に卒業して兵士になることは可能だそうだ。実際そういう人も過去にいたんだとか。
しかし、それを気に入らなかった奴がいた。
名前はミコラス。貴族の息子で、才能に溢れているらしい。
こいつが落ち零れのピリカに嫌がらせを仕掛けてきたらしい。
そのやり方は、陰湿。
正直言って吐き気がした。
それで、最近はこの宿へ対しても嫌がらせをしてくるようになった。
厳ついチンピラがイチャモンをつけてくるのも、今日が初めてではなかったらしい。
これまではおばちゃんが懸命に謝罪していたが、今日はピリカがいる時にやってきた。
真面目なピリカは真っ向から対立し、口論になり、ああなったそうだ。
「そのミコラスって奴は、とんでもないやつだな。あんなならず者っぽい奴まで雇ってくるなんて」
「あいつら、ミコラスのクラスメイトよ。学校で見かけたことがあるもの」
「マジで!?」
魔王軍養成学校は、年齢制限が緩いらしい。
下は十から、上は百まで。
やる気と根性さえあれば、広く受け付けるスタイルのようだ。
ちなみに、凛とした顔立ちに若干の幼さの残るピリカは十三歳。
うむ。全然いける。
「でも本当に、最低のクズよ。大人しくしてるかどうか分からないわ」
「ふーん、誰がクズだって?」
「えっ?」
吐き捨てるようなピリカの言葉に答えたのは、俺じゃない。
まさかといった表情で、ピリカが入り口の方へ顔を向けた。
俺もそれに習ってみると、開けっ放しだった入り口から男が歩いてくる。
その後ろには、さっき追い払った二人組が控えている。
「ミコラス……様!? どうしてここに……」
「僕の友達がこの安宿で暴行を受けたって言うじゃないか。そんな酷いことをしでかした奴を成敗してやろうと思ってね」
そうか、こいつがミコラスか。
意地の悪そうにニヤニヤしながら髪を掻き揚げたりなんかして、なんとなくイラッとする。
前世ではイケメンは皆敵だった。つまりこいつも敵でいいな。
「言っとくけど、それはそいつらが言いがかりを――」
「おっとぉ、僕にそんな口を利いてもいいのかな? その気になればこんな宿、いくらでも更地にしてやれるんだぞ?」
「っ……!」
ピリカが言い淀む。
それを見ているミコラスは、随分と楽しそうだ。
「はっはあ。やっぱり君みたいな落ち零れで遊ぶのは楽しいなぁ。けどそろそろ、終わりにしてあげるよ」
「それは――」
「勿論、君は退学に追い込む。この宿も明日には空き地になるだろうね!」
「そんな! そんな馬鹿なこと、許される筈が」
「ピリカ、落着くんだよ!」
「お母さん!? 離して!」
あんまりなミコラスの言い分に、ピリカが食って掛かろうとする。
それを、おばちゃんが身体を張って止めた。
この国は貴族制だ。
平民が貴族に暴力でも振るおうものなら、その場で処刑されても文句は言えない。
だからこそ、ミコラスはあんなにも酷い事が出来るんだろう。
「大体、才能も無い癖に僕と同じ学校にいるってのが気に食わないんだよね。どれだけ虐めてもめげないし、バカじゃないの? 精々、最後は楽しませてよね」
「なあ、ミコラスって言ったっけ?」
勝ち誇ったようにピリカを煽るクソ野郎に声をかける。
何故か唖然とした顔をしている。
この状況で話しかけてくるとは思わなかったんだろうか。
なんか自分の世界みたいになってたけど、俺もいるんだぞ。
これだからイケメンは許せねぇ。
「……そうだけど、そういう君は誰なんだい? さっきからずっといたみたいだけど、関係ない人は引っ込んでおいてくれないかな?」
「坊ちゃん、オレらをやったのはこいつですぜ!」
「ですぜですぜ!」
「何?」
最初は、俺のことなんてどうでも良さそうな態度だった。
しかし、異世界チンピラが俺のことを告げ口した途端、怪訝な顔を向けてきた。
俺のこと伝わってなかったのかよ。
「そうか、お前が。事情を聞いて即座に逃げたと思っていたが、まだ残ってたとは都合がいい。名乗る名誉をくれてやろう」
「俺はゴルヴィーク・ドラゴディアだ。チンピラに名乗ることのどこが名誉なのか、理解しかねるな」
「何ぃ……!?」
そうだ。貴族だなんだって、結局こいつもただのチンピラじゃないか。
異世界チンピラ親分だ。
ま、ゴルヴィークの人生に割り込んだ俺が言えることでもないんだけど。
そう考えるとあんまり偉そうにするのも恥ずかしいな。
「よく言った。貴様はミコラス・キュイジュールの名に賭けて、血祭にあげてやろう」
「お断りだ」
そんな物騒な祭は自分自身を捧げてくれ。
祭、祭か。そんなリア充イベント、とんと縁が無かったな。
気になってた女子を誘おうと思って声を掛けようと近寄ったら泣かれたりなんかして――うっ、頭が――!
「しかし、姓を持つということはお前も貴族か。それならば平民のように容易くはいかないか」
「じゃあどうする?」
「その名に聞き覚えがないということは、田舎貴族の出だろう? それなら、僕が通う王立魔王軍養成学校のルールにも詳しくないと見た」
「ルール?」
少し考え込んだと思ったら、突然何を言い出すんだこいつは。
学校のルールって、校則ってことだろ?
今日この王都に出てきた俺が知るわけが無い。
「やはりか。くくく、ピリカ、無駄な努力を繰り返しているお前なら、知ってるんじゃないのか? えぇ?」
「学校の、ルール……あっ!?」
楽しそうに笑うミコラス。
突然話を振られて困惑していたピリカだったが、すぐに声をあげた。
うわ、なんかすごい不安になるやつ。
「気になるか? では、教えてやろう。王立魔王軍養成学校とは。将来魔王軍の精兵となるべくして集められた者達の通う、魔王軍の下部組織である。よって、これに通う生徒は魔王軍所属とする」
「お、おう」
ミコラスが自慢げに教えてくれた。
でも今一わからない。一体何が言いたいんだこいつは。
生徒も魔王軍の一員ってだけだろ。
「これの意味が分からないのか。余程田舎暮らしが長かったようだね。どうやら頭の中まで喉からしい!」
「こいつ……!」
こっち見て爆笑してやがる。後ろの二人組も一緒にだ。
こいつら、マジで腹立つな。
ピリカは何かに気付いたようだけど、とても教えてくれそうにない。
顔はすっかり青ざめて、震えてしまっている。
一体あの校則が何だって言うんだ。
「あーはっはっは、あー、面白いよお前。その無知に免じて教えてやろう。つまりね――」
「我が魔王軍に歯向かう者には死を。そういうことじゃな」
「「「……え?」」」
「げっ」
またしても乱入者。
どいつもこいつも気軽に割って入りすぎでは?
いやまぁ、俺が言えたことではないけど。
問題は、そいつだ。
俺以外の全員が、その姿を見て間の抜けた声を出した。
俺の口から漏れたのは、絶望。
そう。そこにいたのは、我らがロリ魔王、スノウコーラル・ロウ・ターコイズその人だった。