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首を突っ込むなら全身ダイブ


 ありったけの勇気を搾り出し、俺はチンピラマッチョ達の前にその身を晒した。

 こんなモブ共に負けてられない。そう思ったからだ。


「畜生っ、覚えてやがれ!」

「ま、待ってくだせぇ!」


 飛び出していく二人組。

 あっさりと撃退出来てしまった。口が開いていたことに数秒遅れて気付く程驚いた。

 だって俺、喧嘩もろくにしたことがない。

 もっとこう、必死に撃退する感じを想定していた。


 自分で言うのもあれだが、この鮮やかな撃退劇は、ゴルヴィークのお陰だ。

 勿論俺のことじゃない。

 ああいや、俺ではあるんだけど、今の俺の人格が目覚める前の俺だ。


 偉そうで威張り散らしてる割に実力の無い、小物。

 俺の知るゴルヴィークというキャラクターは、勇者相手に全くいいところを見せないままギャグのついでに散った、哀れな四天王最弱の男だ。


 しかし、この世界の彼は努力家であったらしい。

 生まれ持ったスキルに頼らず、訓練を積んでいた。

 しっかりとその記憶が俺の頭に、この身体に、宿っている。


 あいつらをとっちめられたのも、そのお陰だ。

 性格自体は俺が知っていたものと変わらないというか、理由があってそう振舞っていたようだ。

 もしかしたら。

 俺の知識にあった勇者の引き立て役も、見えないところで努力をしていたのかもしれない。

 勇者がクソチートだっただけで。


「あなた、大丈夫!?」


 俺の思考を中断させたのは、凛とした印象のある声だった。

 

「うおっ!?」

「怪我は? あんな奴らに向かっていくなんて無茶するわね! ――あっ、えっと、ごめんなさい」


 突然話しかけられてつい変な声を出してしまった。

 振り返ると、女の子がいる。

 さっきおばちゃんを庇っていた、ボリュームのあるポニテを携えた女の子だ!

 

 正面から見るのは初めてだけど、凛々しい顔立ちをしている。

 眼鏡もよく似合ってるし、あだ名を付けるとしたら《委員長》だな。


 たしか、おばちゃんにピリスって呼ばれていた。

 ピリスは、申し訳なさそうな表情をしている。猛然とまくし立てたことか、それとも、俺を驚かせたことに対してだろうか。


「いや、大丈夫。そっちこそ、怪我はない? おばちゃんも、大丈夫?」

「私は大丈夫、突き飛ばされただけだから。そうだ、お母さん! 大丈夫!?」

「アタシも平気だよ。ピリカと、お客さんが守ってくれたからね」


 おばちゃんがピリカに手を借りて立ち上がる。

 足腰もしっかりしているし、怪我をしている様子もない。

 良かった、本当に大丈夫そうだ。


「あいつら、本当に許せない……!」

「この店も、そろそろ潮時かね」

「お母さん! どうしてそんなこと言うの!」


 何か込み入った話になってきた。

 椅子やテーブルを片付けたら部屋に戻ろうと思ってたんだけど、これはどこまで首を突っ込んで良いものなんだろうか。


「そうは言っても、嫌がらせも段々酷くなっていくしねぇ。それに、母親としてはお前を危ない目に遭わせたくはないんだよ」

「でも――! 死んだお父さんみたいになるって言ったら、応援してくれるって言ってたじゃない! それに、この宿だって、お父さんとの大事な――」

「ストップストップ。とりあえず落ち着きなって」


 おばちゃんとピリカの間に立って、ピリカの肩を押す。

 やってしまった。思いっきり家庭の事情っぽいことに首を突っ込んでしまった。


 だって、おばちゃんに凄い剣幕で詰め寄っていくんだもん。

 しかもその姿は、とても悲しげに見えた。

 怒ってるのもあるんだろうけどそれよりも、とても悲しんでいるように思えた。


 そんな状態で放っておくのも、なんだか気まずい。

 一度首を突っ込んだんだから、最後まで行ってやる。

 一応さっきは助けた形になるんだし、邪険にはされない筈。


「ちょっと、あなたには関係ないことよ。引っ込んでてくれないかしら?」


 めっちゃ邪険にされた。

 それもそうか。

 恩人だったとしても、踏み入って欲しくないことくらいあるに決まってる。


「いいから落ち着けって。そんなんじゃ、話も出来ないだろ」

「話なんて……」


 まあ、俺も諦めないけど。

 こんな泣きそうな顔の美少女、知らんぷり出来るわけないでしょって。


「さっきの奴ら、一体何だったんだ? 何か知ってるっぽかったけど、教えてくれないか?」

「あなたには関係ないの。さっき助けてくれたことには感謝してるわ。けど、これ以上は自分達で何とかするべきことなの。お願い、放っておいて……!」

「いいや、あいつらは俺にも喧嘩を売ってきたんだ。その内また襲い掛かってくるかもしれないし、無関係じゃないぞ」

「で、でも――」

「すまないね。その子は、お客さんのことを巻き込みたくないんだよ」

「ち、違っ、違うからっ!」


 ピリカの台詞をおばちゃんが遮った。

 その言葉に、ピリカはワタワタしている。

 

 ピリカの性格がなんとなく分かった。

 真面目で几帳面で、芯の通った性格。間違いなく、いい奴だ。


「気を遣ってくれるのは嬉しいが、もう自分で巻き込まれに来たからな。こうなったらもう一緒だって」

「そうかもしれないけど」

「だから教えてくれ。あいつらはなんだったんだ?」

「分かったわよ。後悔しても知らないからね」



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