御社の活躍をお祈りしております
本日二回目の更新です。
「――はっ!?」
飛び起きた。
美人なメイドさんが面接で光り輝く必殺剣を振り下ろしてくるとかいう、とち狂った悪夢を見ていたような気がする。
ここは、さっきまでいた部屋?
一度目を覚まして練兵場に連れて行かれるまで俺が寝てた部屋だ。
内装も全く同じ。
さっきまでのは全部夢? 二度寝でもしてたのか?
「起きたか」
「のわぁ!?」
混乱してる俺の側には、スノウたんがいた。
本名スノウコーラル・ロウ・ターコイズ。
露出の多い服装のこのロリが、魔王である。
急に声を掛けられてびっくりした。
ネリアの姿はない。
一体何の用だ? さっきまでのが夢だとしたらこれから面接の話か?
「喜べ、お前は合格だ」
「ええ?」
合格? ということは、さっきの面接はとち狂った現実だったらしい。くそが。
っていうか何で合格?
俺がこうして寝てたってことは、最後の一撃で気を失ってたってことだし。
実力重視じゃなかったのか?
「最後の攻撃を防げなかったのに合格なんですか?」
「はっはっは、バカを言うでない。ネリアの奴、少しと言いながらほぼ全力全開じゃったからな。あんなもの、完全に防げるのは我ぐらいじゃぞ?」
「ええー……」
あのメイド、マジで俺を殺す気だったのか。
前世では結構好きだったけど、ダメだ。
なしなし。
今後一切関わりたくない。
もしかして今ここにネリアがいないのは、スノウたんが気を遣ってくれたんだろうか。
スノウたんマジ天使! 魔王だけど!
「だが、貴様はそれをいなして見せた。今もこうして生きておるのが、その実力の証よ」
「はぁ」
あの剣が振り下ろされた瞬間、体が勝手に動いた。
魔法も使ってたと思う。
使い方は分かるけど感覚はまださっぱりなんだよな。
俺の身体に染み着いたゴルヴィークの部分が、生存本能のままに動いたに違いない。
よくやった!
「じゃからお主は合格。晴れて魔王軍の一員となるのじゃ」
「待ってください。俺にそんな資格はありません」
「この魔王自らが認めると言っておるのに、何が不満じゃ?」
スノウたんの顔が険しくなる。
あっ、やばい、ちょっと不機嫌になった。
だがここはなんとしてでも断る。とにかく言いくるめるんだ。
「いくら魔王様が認めてくださっても、俺自身が納得出来ないんです。防ぎきれなかった、自分自身に。だから俺はもっと修行して、実力がついたその時に、魔王様のお力になりたいんです」
「ゴルヴィーク、お主……魔王軍に入ってから鍛えるのではいかんのか?」
「無理っす! 今の俺じゃ実力が足りないので! それでは失礼します!」
「我の話を、待て、待つのじゃ!」
待たぬ。
なんとか理由をこじつけて、疑問も持たれたが勢いでごり押しして脱出した。
部屋の前にはネリアが不機嫌そうな顔で立っていたが止められはしなかった。
彼女からしたら俺は不快な存在だからな。
作中でも扱いが酷かった覚えがある。
それが今は有難い。
そのままスノウたんにも諦めるように説得してくれ。
広い魔王城を飛び出した俺は、街へと戻ってきた。
なんとか辞退出来た、筈?
出来ただろう。多分。きっと。
急展開に驚いたがやっと落ち着けそうだ。
幸いお金は結構持っている。
一先ずどこかに宿を取って、少し休憩しよう。
両親によって下調べがなされていたようで、おすすめの宿を記した紙がポケットに入っていた。
無事に部屋を確保し、ベッドの上に倒れこんだ。
あー、なんか無駄に疲れた。
二回も気絶したせいか身体が重い。
兎に角、魔王軍への就職はこれでなくなった。
後はこのファンタジー世界を楽しむだけだ。
その為にも、まずはこの身体を使いこなせるようにならないといけない。
使い方は分かるけど、分かるだけだ。
機械に例えるなら、操作方法は分かるけど各操作の適切なタイミングや、流れるような動作が出来る訳じゃない。
二回も生き残れたのは奇跡だと思っていい。
もし身体が勝手に動いてなければ、死んでたらしいからな。
この世界恐ろしすぎる!
少し休憩したら魔法を使う感覚に慣れておこう。
なーに、身体が覚えてるし記憶自体もちゃんとある。
少し練習すればすぐに使いこなせる筈だ。
▼
ゴルヴィークが去って行った後には、魔王スノウコーラルが残されていた。
開け放たれたままの扉を見つめ、不敵に微笑んでいる。
その上機嫌な姿が、入口から入ってきた側近、ネリアの目にとまった。
「やっと帰りましたか。魔王軍への加入を辞退したようで、残念でございますね」
「確かに残念じゃのう。あ奴は、放っておくには惜しい逸材じゃ」
魔王をほぼ崇拝と言える程に敬愛しているネリアは、ゴルヴィークのことを気に入らなかった。
魔王の進む道を塞いだだけでなく、興味を示されているという事実に、ふつふつと怒りとも違うマイナスの感情が湧いてくるのだ。
実技試験にかこつけて殺そうとしたのも、事実である。
しかし、本人は悪いとは微塵も思っていない。魔王に気に入られるつもりなら、それぐらい当然の試練であると、そう考えている。
当然、辞退したところで残念等とは思わない。
今彼女の脳内を占めるのは、我が必殺剣を前に生きて帰るとは、魔王様のお誘いを無下に断るとは、という理不尽な怒りである。
「しかし、あのような者は魔王軍にはふさわしくありません。丁度良かったのではないですか?」
だが、同時に嬉しくもあった。
自らの策略で彼の者の脆弱さを暴き、本人が辞退したのだ。
これほど喜びを実感出来ることもそう多くない。
邪魔にしかならない無能を追い出せた達成感は確かにあった。
「何を言うか。あ奴は面白い。我は必ず配下に引き込んでみせるのじゃ」
「魔王様、考え直されては如何ですか?」
「ネリアよ。先程の試験で殺そうとしたことは不問に処す。あ奴の潜在能力も拝めたしのう。じゃが、これから先、我の許可無く手を出すことは許さん。これを魔王スノウコーラルの名の下に命ずる」
「……かしこまりました」
魔王の命令となれば、ネリアは逆らうことが出来ない。
喜びから一気に絶望へと叩き落とされたネリアの感情は、再びゴルヴィークへの理不尽な怒りに染まっていった。