圧迫面接(物理)
本日一回目の更新です。
魔王軍と関わらない様にしようと思ったのに、早速魔王に捕まった。
しかも今から面接するとか言い出した。
その面接を受けないように逃げるつもりだったんですけどぉ!?
「魔王様、このようなどこの馬の骨とも知れない者の面接等、魔王様がなさらなくとも」
おっ、今いいこと言った。いいこと言ったよネリアさん。
そのまま魔王を止めてくれ。
なんやかんや有耶無耶にして面接はばっくれるから。
「こやつは面接を受ける資格を持ってこの王都まで来ておるのだぞ。それに、あのドラゴディア家の長男だ。血筋は我が魔王軍の誰と比べても遜色ない筈である」
「あの、ドラゴディア家の?」
「うむ。伝説の神滅魔竜の流れを汲むというあの、ドラゴディア家だ」
あの、じゃないよ。なんだよドラゴディア家。
そういえば作中でもゴルヴィークが何か言ってたっけ。
何が由緒正しい血筋だよ。そんなのいらない、いらないから。
誰か輸血して押し流してくれ。
「しかし魔王様」
ネリアが何か言おうとする。
いいぞいいぞ。
俺の生まれが良いからってそんなことで諦めちゃだめだ。
頑張ってボーンオブホース俺を追い出すんだ。
「ここではいささか狭いと思われます。専用の会場か、せめて練兵場へ移動した方がよろしいかと」
「うむ、そうだな!」
諦めてんじゃねええええええええええええええ!!!
何アドバイスしてるんだよ。
狭いって何? この高級ホテルみたいな部屋じゃ狭いの?
面接するだけなら充分じゃない?
一体何をするつもりなんだ?
「では、行こうかのう!」
「ちょっ、ちょっと待っ」
スノウたんが俺の手首を掴んで歩き出す。
おうふ、スノウたんの小さなお手手が俺の腕を――いたい、いたたたた。
少しでも抵抗しようとすると的確に食い込んできて滅茶苦茶痛い!
しかも後ろからついてくるネリアさんの視線が刺さる。こっちも痛い!
そんなに睨むなら、スノウたんをなんとかして止めて欲しい。
そのまま連れてこられたのは、校庭みたいな場所だった。
さっきネリアさんが練兵場とか言ってたっけ。
「よし、それでは面接を始めようかの!」
「うへぇ」
練兵場の真ん中で、俺と二人は向かい合う。
ああ、今すぐ逃げ出したい。
でもそれをするとネリアさんにぶち殺されるのが見えてるから、なんとかなぁなぁで終わらせたい。
目指せ不採用!
「まずは、我が魔王軍を志望した動機を聞かせてもらおうか?」
「えっと、遊ぶ金ほしうっ――」
「どうした?」
「いえ、なんでもないです」
適当に答えようとしたら、ネリアにプレッシャーをかけられた。
一瞬手がピクリと動いて、剣に伸びようとしていた。
それが俺には、『ふざけたらその首刎ね飛ばすぞ』というメッセージに思えた。
ねぇ、この肌にピリピリ刺さってるのって貴女の殺気だったりしません?
「どうした、はよう答えんか」
「誉高き魔王軍で、私の才能を役立てようと思いました」
「うむ、うむ。まぁそんなものはおまけじゃがな。我が魔王軍は志望動機なんぞより、能力重視。だからこその幹部候補募集じゃ」
当たり障りのない解答に落ち着いた。
他の部分で減点されればいいだけだ。
きっと魔王が直接面接するなんてイレギュラーの筈。
少し機嫌を損ねれば、そのまま不採用にだってなれる筈だ!
っていうかおまけかよ!
ふざけんなよマジでもう可愛いなちくしょう! ふー!
じゃあそこのメイドさんは何故怒ったんだ?
スノウたんの前でふざけようとしたからか?
多分、そうだな。
「それでは実技試験に移るとしよう。ネリア、相手を頼むぞ」
「かしこまりました」
やっぱりあるのか、実技試験。
そりゃあるよね。わざわざここに移動してきたくらいだし。
普通に問答して終わりならあの部屋で十分足りてる筈だ。
スノウたんは、俺とネリアが向かい合うのを横から眺められる位置に移動した。
スノウたんと直接戦うんじゃなくて、あくまでも審判の立ち位置で採点するわけね。
魔王と戦うことにならなくて良かったけど、ネリアも遙か格上だ。
これが面接だっていうのが唯一の救――待って待って、どうして剣を抜いてるんですか!?
それ明らかに真剣だよね!?
「あの」
「なんですか?」
「訓練用の剣とかじゃないんですか?」
「貴方は、戦闘時に相手が訓練用の武器を持ってると思ってるんですか?」
「試験の時の相手は持ってると思います」
俺の渾身の本心も、ネリアは気にしなかったらしい。
抜いた真剣を構えた。
こいつこのまま俺を殺そうとしてるんじゃないだろうな!?
スノウたんも止めるつもりは無いらしく何も言わない。
待って待って、マジでこのまま戦わせる気!?
ゴルヴィークの記憶は残ってるとは言っても、魔法やなんかを俺の意識が出てから一回も使ってない。
せめて練習する時間をくれません!?
「はじめぃ!」
「死になさい!」
空気を読めないロリ魔王様の声が響き渡る。
そして突っ込んでくるネリアさん。
この人思いっきり死になさい言ってるよ?!
とにかく生き残る。それだけを考えることにしよう。
呼び出し方は――分かる!
俺の手の中に黒い剣が現れる。
これは代々受け継いできた魔剣で、ゴルヴィークのメインウエポンだ。
首を狙って放たれた一撃を、逸らす。
ひいいいいいいぃぃぃぃ、なんかギャリリリィイン!! みたいなすっごい音した!!
間に合って良かった!!
「確実に刎ねたかと思いましたが、少しだけ褒めてあげましょう」
「それはどうも」
全く嬉しくない。
試験で首を刎ねようとするな。
「それでは私も少しだけ、本気を出すとしましょう」
「げ」
「ほう」
ネリアの剣に膨大な何かが集まっていく。
あっ、俺知ってる! あれ魔力だ!
その魔力は、巨大な光の剣を形作った。
あれってくらったら消し飛ぶ奴だよね。
「ネリアの必殺剣か。くくく、ゴルヴィークよ、どう対応するのか我に見せてみよ!」
ねぇスノウたん、知ってる?
必殺剣って、必ず殺す剣、って書いて必殺剣なんだよ?
「はぁっ!!」
「ひぃっ!?」
さっきよりも数段早い踏み込みでネリアが迫る。
そして、眩く輝く剣が振り下ろされた。