魔王強襲
本日二回目の更新です
「はっ――!?」
何かすごい夢を見てた気がする。
俺の好きな小説の四天王になってる夢を。
ああ、夢で良かった。
寝てたみたいだけどここはどこだ。
布団派なのに何故ベッドなんだ。
どこかに泊まってたっけ。
辺りを見回してみる。
すごく広い。高級ホテルかってくらい広い。
泊まったことないけど。
どこだここは。
ふと、ベッドの近くの姿見が目に入る。
そこに映っているのはどう見ても俺じゃない。
四天王最弱の男、ゴルヴィークだ。
夢じゃなかったよおおおおおおおおおおおおおおお。ひぎいいいいいいいいいいいいいいい。
いっそ夢であって欲しかった。
いや落ち着け、落ち着くんだ。
勇者の視界に入りさえしなければ、普通にファンタジー世界を楽しめるんじゃないか。
そういう結論に達しただろう!?
さっきのわくわくするような光景を思い出せ。
あれは確かに、俺が憧れた光景だ。
剣と魔法の世界で冒険者となって活躍する。
そのチャンスが目の前に広がってるんだ。
大丈夫、大丈夫だ。
勇者と敵対さえしなければ良い。
大人しく、慎ましやかに生きれば大丈夫。
とりあえずは魔王軍にさえ関わらない様にすれば、問題ない筈。
小説だと、魔王が調子に乗って世界征服を目論んだのが全ての元凶だ。
魔族連邦国イクリプス。それが魔王の納める国の名前だ。
特徴として、魔族と呼ばれる種族が多く、魔法文明が発達している。
別に全人類の敵、というわけでもなく、国の一つでしかなかった。
魔王がはっちゃけるまでは。
隣国であるセイルニア王国に宣戦布告して戦争状態に突入。
魔王が調子に乗るレベルで強かった魔王軍のおかげで、イクリプスが優位に立っていた。
困ったセイルニア王国は、古来から伝わる勇者召喚の儀式を慣行。
こうして勇者ノブヒコが呼び出され、物語が始まる。
物語の中で、ノブヒコはイクリプスの一般市民に危害を加えることはなかった。
調子に乗った魔王が悪いし、それに追随して調子に乗っていた魔王軍が悪いんだ。
だから敵対さえしなければ大丈夫。
出来ればこの国からも脱出したいところだが、家族もいるしそれは流石に出来ない。
しつこいようだけど、とにかく魔王軍にさえ入らなければ大丈夫なんだ。
この街でおとなしーく、楽しく暮らしていこう。
で、ここはどこなんだろうか?
「魔王様、ここは我々が対応しますので直々に出向かれる必要は」
「ええい、しつこいぞネリア。我の魔獣が轢いたのであれば、我自身が謝罪をするのが筋ではないのか?」
何か騒がしい声が聞こえてくる。
この壁の向こうが通路になってるんだろうか。
近づいてきてるなぁ。
なんて思っていたら、扉が開いた。
「なっ」
「おお、目覚めておったか。調子はどうだ? 怪我はないか?」
部屋に入ってきたのは、青い髪の少女。
つるんぺたんの少女。
その髪は綺麗な青で、膝くらいまであるストレートだ。
やたら露出の高い格好をしてて、しかし恥じらう様子もない。
頭の横からは立派な悪魔の角が二本生えている。
後ろには、メガネをかけたクールな感じのメイドさんが付き従っている。
敵意の籠った目で俺を睨みつけてくる。
言葉が、出ない。
「ネリア、起きてるかと思ったがどうやら意識は戻っていないようだの」
「突然のことで呆然としている、というのが正しいでしょう。尊敬すべき魔王様の御前にあれば、当然の反応です」
俺はこいつらを知っている。
この二人を知ってるぞ!!
この幼女の名前は、スノウコーラル・ロウ・ターコイズ。
調子に乗って隣国に宣戦布告した挙句に勇者にぼこられて、なんやかんやあってハーレム入りした、魔王!
典型的な魔王ロリ。ロリ魔王?
アニメ化はしてなかったから声優はいないが、実物の声はイメージ通りのロリ声!
偉そうな魔王口調とのギャップが素晴らしい!
前世ではヒロインの中で一番好きだった。
だけど今の境遇を思うと、怒りしか湧いてこない。
このロリが調子に乗ったお陰で俺はあんな惨めな死に方を――!!
……落ち着け、別に、今の俺がそうなる訳じゃない。
スノウたんが悪い訳じゃないんだ。
そしてもう一人、魔王スノウコーラルの側近にして戦うメイド、ネリア。
黒に見間違えそうな濃い紫の髪に、長身でスレンダーなボディ。
クールで苛烈で魔王様ラブな、魔王の副官だ。
魔王は勇者に命を救われて落ちるんだが、その時にネリアも恩を感じて一緒に落ちる。
それからのデレっぷりはこれまでのギャップも相まって大変よろしい。
スノウたんとセットで色々妄想したくなる美人さんだ。
そんな二人が何故ここに?
どうして俺の前に姿を現す?
今絶対に会ったらいけない類の人達では?
「お前、ゴルヴィークだったな。怪我はないか?」
「――はっ!? あ、えっと、大丈夫みたいです」
身体を動かしてみても痛みはほとんどない。
右肘を少しすりむいているが、それだけだ。
あれ、どうして俺の名前を知ってるんだ?
ゴルヴィークの記憶の中に魔王の姿は無かったから、顔見知りってわけじゃなさそうだけど。
「魔王様の誇る魔獣馬車に撥ね飛ばされて擦り傷だけで済むとは、相当な強運の持ち主のようですね」
「いや、そうではない」
ネリアのバカにしたような言葉を、スノウが否定した。
やめてなんかすごい睨んでる。
俺は何も言ってないのにやめてもらえませんか。
「この者はあの一瞬で急所を躱し、さらに魔法で防御をしたのだ。ランページライノの突進の衝撃を全てな。撥ね飛ばされたというよりも、衝撃を和らげる為に自ら跳んだのであろう」
「まさか、あの一瞬でそのようなことを?」
ネリアが驚きつつも疑うような視線を俺に向けてくる。
凄いなゴルヴィーク、あんな一瞬でそんなことしたのか。
俺の事?
何かしたつもりはなかったんだけどな。
染み着いてるゴルヴィークの部分が咄嗟に動いたのか?
ランページライノって作中ではかなり強いモンスターとして描かれてたから、まともにぶつかってたら死んでただろうし。
普通の冒険者なんかじゃ束になっても蹴散らされるような感じの奴。
勿論、ノブヒコは瞬殺するんだけど。
「そうであろう?」
「え、あっ、まあ」
実感が全くなくて他人事みたいに聞いてたから、適当に頷いてしまった。
否定したところで変な目で見られるだけだろうしいいか。
しかし、話が読めてきたぞ。
どうやら俺は魔王の魔獣馬車とやらに撥ねられて、治療の為に運ばれて来たらしい。
――ってことはもしかしてここは魔王城!?
あああああああああああああああああ!!!
なんてこった! はめられた!
早いとこ脱出しないとノブヒコの踏み台にされてしまう!?
「くっくっく、その若さであの対応力、そして魔法の腕。興味が沸いたぞ」
「えっ」
「魔王様!?」
「ゴルヴィークよ、お前、幹部候補募集の求人を見て応募したのだろう?」
「まぁ、はい」
魔王が取り出したのは、数週間前の俺が出した応募書類。
そして、今日の俺が持っていた面接の日程が書かれた紙と、履歴書のような書類。
無いと思ったら魔王に回収されてたのか!
だから俺の名前を知ってたんだな!?
「ということは、撥ねられたのも、面接の為に我が城へ向かう途中だったのだな?」
「はい」
最早言い逃れ出来そうな雰囲気ではない。
もしここで、
「何かの間違いですー。帰りますー」
なんて言ったら、今もすっごい睨んできてるネリアに殺される。
彼女は四天王よりも強いのだ。
成長しても四天王最弱だった俺が勝てる相手ではない。
「良かろう、我が今ここで面接をしてやろうではないか」
「魔王様!?」
「うぇっ!?」
無理無理無理無理。
マジ俺なんてただの小物なんでマジ勘弁してください。