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俺は未来のゲームデザイナー


 異世界チンピラやらロリ魔王とのごたごたがあった、翌日。

 宿のベッドで目を覚ました。

 ピリカに呆れられたり色々あったが、全部受け流した。

 最終的にはピリカの照れながらの


「……ありがと」


 までいただき、全身突っ込んだ甲斐があった。

 今更嘆いたって仕方ないしな。自分で関わったんだからこれも自分の責任だ。


 しかし、朝までぐっすり寝ても、日本の片田舎にある俺の家で目を覚ますようなことはなかった。

 やっぱり異世界転生ってやつなんだろうな。


 ゴルヴィークとして育ってきた記憶もある。

 これは多分、前世の記憶が蘇ったパターンだろう。俺は異世界転生に詳しいんだ。

 ライトノベルの知識でしかないけど。


 問題があるとすれば、ゴルヴィークの役回りだろうか。

 俺の好きな小説に出てくる噛ませ犬。それどころか、主人公にギャグのついでに倒される哀れな踏み台。

 四天王最弱。それが俺、ゴルヴィークだ。


 勿論そんな運命は御免だ。

 そうなると決まったわけではないが、可能性は高い。

 なら今の内に可能性を潰しておくにこしたことはない。


 と、思ってたんだけどなぁ。

 まさか魔王軍養成学校に入学することになるとは。


 さっきも言った通り、後悔はしていない。

 予想外だっただけだ。

 とりあえず、準備が出来たら連絡が来る。

 それまでは悩んでも仕方が無いし、大人しく待つしかない。


 尚、今の状況で逃げ出そうものなら反逆者としてお尋ね者確定コースらしい。

 スノウたん強権すぎるぜチクショウ。


 準備が出切るまで、ボーっとして過ごすつもりはない。

 魔王軍予備軍である学校なんて、あのクソ野郎を片付けたらさっさと辞める。

 そうした後、のんびり暮らす為の下準備を進めておきたかった。


 着替えて身だしなみを整える。

 ……元の世界では割と無頓着だった筈だが、しっかりと準備した。

 髪のセットにこれだけ時間をかけたことなんて無いのに。

 何故か無性に整えたくなった。ゴルヴィークとして生きてきた分の、習性かもしれない。


 髪の毛のふんわり感と角度に納得した後は、朝食だ。

 料金に含まれているからには食べないと勿体無い。

 客も疎らな食堂でパパッと済ませる。


 ああ、お米が食べたい。


 こういうとこまで中世っぽいのを悲しみつつ固めのパンを齧る。

 もう十時を周っていて、ピリカは学校へ行っているようだ。

 カウンターの置くではおばちゃんがのんびり仕込みをやっている。


「ご馳走様」

「ああ、お粗末様。これから出掛けるのかい?」

「あー、ああ。街を散策してくるよ」

「そうかい。心配ないと思うけど、気をつけるんだよ。人が多い分、質の悪いのもそれなりにいるからね」


 異世界チンピラはそれなりにいるらしい。

 やっぱり治安はそんなに良くないんだな。

 

「気をつけるよ。それじゃ行ってきます」

「いってらっしゃい」


 昨日のあれやこれやで、おばちゃんとも仲良くなった。

 気さくな感じで会話が出来る程だ。


 俺が貴族の出ということでかなり畏まられそうになったが、俺自身は何の立場も無いということで普通にしてもらうようお願いした。

 そうしたら、俺も敬語はいらないと言われたわけだ。


 話の流れでピリカともそういう風になっている。

 是非ともこれをきっかけにどんどん仲良くなっていきたい。

 真面目系ポニテ眼鏡美少女とか、俺得すぎる。


 血の気の多いロリ魔王や殺意さんとは比べ物にならない。

 あれらは関わっちゃいけない系だ。

 

「んー、いい天気だ」


 太陽が、賑やかな路地をいっそう明るく照らしている。

 俺が向かったのは、一軒のお店だ。

 宿から十分程の距離にあるそれは、古びた木造建築だった。


 本当にここれあってるんだろうな。

 なんかお化け屋敷と化してても違和感ないぞこれ。


 そのお店はそのくらいぼろい。

 看板と開店を意味する言葉が書かれた札がかかってなければ、店だと認識出来ないレベルだ。


「ごめんくださーい」

「いらっしゃい」


 声を掛けながら中へ入ると、すぐに返事があった。

 しわがれたお爺さんの声だ。


 店内にはいくつもの棚があり、彫刻らしきものが並べられている。

 奥にはカウンター。

 その向こうに誰かいる。

 数歩進む内にその姿がしっかり確認出来た。


 なんか偏屈そうな爺さんだなぁ。いかにもな職人、って感じの顔だ。


「軽やかな柳亭のおばちゃんの紹介で来たんですが……」

「おお、おお。ミレーの紹介か。一体何の用件だ?」


 偏屈そうとか思っててすみませんでした。

 普通に人の良さそうな感じだった。


「実はちょっとした依頼があってですね。これを作って欲しいんです」


 俺はポケットから、一枚の紙を取り出した。

 そこには、俺の下手糞なイラストが描かれている。

 とは言っても縦長の山みたいな単純なもので、だからこそ俺でも描けたわけだ。


 ちなみに、これは元の世界にもあったような普通の紙だ。

 過去に召喚された勇者が発明したらしい。


 その紙片をじっと見つめる爺さん。

 眉間の皺がすごい。顔中の皺が集まってるんじゃないのか?


「なんじゃこれは」

「駒ですよ、駒。実はゲームを作りたくてですね」

「ゲームねぇ」


 そう、俺の目的はゲームの作成だ。


 異世界ものの小説では、現代にあったものを再現することでお金を稼ぐことが多い。

 それを主軸にして無双する作品もある程だからな。現代知識は強い。

 俺も同じことが出来れば、この世界でのんびり暮らせるだろうと、そう思った。


 ゲームはよく使われるネタで、中でもリバーシが定番だったりする。

 再現するの滅茶苦茶簡単だもんな。

 白と黒の円盤を貼り合せるだけで出切るし。

 最初に考えた人天才過ぎじゃない?


「そう簡単に作れるものか? リバーシやチェスは今でも人気だから出来次第で売れるかもしれないが、どうしてもその二つと比べられてしまうぞ」


 爺さんは微妙な顔をしている。

 そう。この世界には既にリバーシとチェスが存在している。

 勇者ノブヒコよりも前に来た勇者が広めたせいだ。

 《いせハー》ではそのことが、ノブヒコ以前にも勇者が召喚されていたことの複線として語られていた。

 

 その事実が、爺さんの眉間に広大な山脈を築いていた。

 そりゃあその二つがかなり浸透してる状態で、ぽっと出のゲームなんて売れる気はしないだろう。

 原作程時間が経ってないみたいだから尚更だ。

 

「駒を一つと後は盤を作ってもらうだけで大丈夫なんで」


 しかし、俺は自信がある。

 きっと売れる筈だ。

 そもそも、俺はゲームの作成を依頼しに来た訳ではない。

 駒とゲームボードの試作を依頼しに来ただけだ。


 それさえしてもらえれば、後は全部自分で出来る。

 ゴルヴィークがかつて封印した、俺のスキルさえあれば。

  


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