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新人類に支配されても  作者: ぷちくん
アデスの村編
3/28

【第2話】『アデスの村』

村の外には恐ろしい存在がいる。


『死の天使』

決して人には勝てない存在であり、神の怒りの顕現といわれている。

それは巨大で、白いタコのような姿をしており、空を飛んでやってくる。

信仰無き者は、見つかれば絶対に生きて帰ることはできない。


挿絵(By みてみん)


しかし、アデスの村の中であれば別だ。

アデスの村には神官様が拵えた神の結界があり、死の天使を寄せ付けないのだ。


だが結界の力は絶対不変ではない。

神へ背く者がいれば結界の力は弱まり、そうなれば死の天使によって破滅がばら撒かれる。

結界の力を保つ為には、神アデスの教えに従わなければならない。


アデスの教え、それは三禁則と呼ばれるものである。

“研究の禁止”、“開発の禁止”、“記録の禁止”。

砕けた言い方をすれば、知るな、創るな、憶えるな、という戒律だ。


これの示すところは、太古の人間と同じ道を歩んではいけないということだ。

人間は他の生き物と違い、賢さという罪を背負っている。

その罪を封印することが、正しい生き方なのである。


太古の人間は、自らを神のような存在だと勘違いして様々なものを生み出した。

天にも届く家、死を拒む体、偽りの太陽、魂の支配。

そして生み出した多くの罪の結果、神アデスの怒りを買って滅びてしまった。

死の天使は、かつてのアデスの怒りであり、今なお愚かな人間を滅ぼそうとしている。

しかし慈悲深い神アデスは、改心した人間にまで死を告げることを躊躇われた。

教えを守り慎ましく生きる者には、救いの手を差し伸べた。

彼らは生き延び、偉大なる神より力を授かった。


それが神官と呼ばれる者達で、アデスの声を聴き、神の結界を生み出すことのできる者達だ。

神官は迷える人々を集め、村へ結界を張り、信仰の弱き者にも救いの道を示した。

人生とはつまり、アデスの教えを守り、慎ましさの中に幸せを見つけて生きることである。


もし教えに背く者がいたら、他の者が正さなければならない。

どうしても正さないというのあれば、それは神の敵。

悪に身を捧げた者は、絶対に滅ぼさなければならない。



夜明け前。

一人の男が、家の前に出て素振りをしている。

ゴウと風を巻き込み、簡素ながらも立派な剣が空を切り裂いた。


何度も何度も振るう。

汗を滲ませ、身体が温まるのを感じながらも振り続ける。

ずっと昔からの習慣であり、この男にとっては一日を始める儀式でもある。


「あと百回!」


彼の名はゴードン。

村で最も逞しい肉体を持ち、“最強の剣”の異名を持つ男。


ゴードンは村を愛し、己の役割に誇りを持っている。

彼の役割は、保安隊の隊長として村の治安を守ることだ。

神官は外の脅威から村を守り、保安隊は中の問題から村を守る。

アデスの村はそうして回っている。


「あと一回!」


獣のような眼光が輝き、渾身の一撃を振り抜くために全身の筋肉が躍動する。

獰猛にして清流、力と技が調和し、最高の一撃を叩き出す。

――――正に必殺。


何処にも触れていない筈の刃は、風圧という衝撃波を巻き起こし、細かい粒を巻き上げる。

人に当たれば、間違いなく命を奪ったであろう一閃。

しかし、艶めく刃は何も奪うことなく鞘へと収まる。


岩のような男は荒くなった呼吸を整え、額の汗を拭った。

冷たい季節の風が、火照った身体を撫でるのが気持ち良い。

地平を見れば太陽が昇り、神々しい輝きが夜を霧散させていく。

静謐な時間は終わり、村が目覚めようとしているのだった。


今日も一日が始まる。



そう思った折、誰かが自分の肩を叩いた。

反射的に距離を取って振り返り、戦闘態勢に入る。

睨みつけた先には、見知った友の顔があった。


「驚いたじゃないかラウス、相変わらず気配を消すのが上手いな」

「ようゴードン、朝から元気だな」


挿絵(By みてみん)


彼はラウス、保安隊副隊長の地位にあり、ゴードンの友人でもある。

ラウスはゴードン程逞しくはないが、絞られた無駄のない筋肉を持っている。

ゴードンが巨大な岩なら、ラウスは頑丈でしなやか木であると言えよう。


そして、ゴードンが村で“最強の剣”であるならば、ラウスは村で“最高の目”だ。

常識離れした観察眼であらゆるものを見抜き、天才的とも言える身のこなしで周囲に溶け込む彼を見つけられる者はいない。

ゴードンの背後を取れる唯一の人物と言っても良い。

実力は確かだが、時折意味もなく驚かせて反応を楽しむ困った奴だ。


そんなラウスは非凡な能力を神官様に買われ、特別な役割を任されている。

村の人々が悪しき物を隠し持っていないか、企みごとをしていないか見張るというものだ。


村は神アデスへの信仰によって守られている。

その信仰心を揺るがしかねない物、例えば古代の遺物などを隠し持っている者がいたとしたら大問題だ。

結界の力が弱まる前に、見つけて対処をしなくてはならない。


尤も、村は平和であり、ラウスは怠け者なのであまり仕事をしている様子はないが。


「それで何の用だ?娘自慢なら聞き飽きたぞ?」

「笑いごとじゃないぞゴードン、マジでまずいものを見ちまったよ」


怠け者のラウスらしからぬ切羽詰まった様子に、ゴードンは嫌な予感がした。

こんな表情の彼を、随分昔にも見たことがある。

あれは確か、“裏切り者を見つけた時”だった。


「アリストが神印のない女を家に隠してる」

「何だと!?」


驚きのあまり思わず大きな声を出してしまった。

しかし、ラウスがひそひそ話にしている理由を思い出し、すぐに平静を装った。

幸い周囲に人はいない。


「神印の無い女だと……?それは本当なのか?」

「ああ、間違いなく外から来た人間だ」


ゴードンは驚愕の事実に息を呑んだ。

神アデスを信仰する者は皆、洗礼の儀式により左目の下に神印を刻まれる。

縦に三本の線を引いたような刺青は、アデスの三禁則を示すものだ。

神官も含め、村人は誰だって左目の下に三本の縦線、アデスの神印を持っている。

無くて許されるのは赤ん坊くらいのものだ。


それが無い人間の女。

それも外からやってきた女だ。

そんな者を家に隠すということがどれほどの事か、わからない愚か者はいない。


大罪だ。

アデスを信仰するこの村において、アデスは絶対。

それに逆らう人間を匿えば追放は免れない。

追放されるということは、死ぬということだ。

外には“死の天使”がいるのだから。


ゴードンは頭を抱える。

ラウスがひそひそ話にしたのは、このことを神官に報告するかどうかという確認だ。

今、アリストという一家の命運は二人にかかっていた。


「それにしても悲劇だな。アリストさんといえば神官様に請願してヴィン坊を引き取った男だろう?親代わりの彼がまた罪を犯すとは、頭が痛い話だ……」

「あの時はヴィンの両親のおかげで飢饉から救われたし同情もできるが、今回の件が露見すれば慈悲なんてないだろうな」

「追放、死か……」


神官は良く言えば信心深い、悪く言えば融通の利かない人でもある。

神の教えに背く者であれば、例え女子供でも冷徹な決断を厭わない人物だ。

残酷にも思えるが、仕方のないことでもある。


もし神への不信を許して結界の力が弱まれば、村人全員の命が危険に晒される。

神官は村の命を背負っている以上、不信は許すわけにはいかない。

例え誰でも、どんな事情でも、罪は罪として裁かなければならない。

それが、大きな責任を背負うということだ。


しかしと、保安隊長のゴードンは思う。

神官はその立場故に、過剰に罪を罰する傾向にある。

以前追放された夫婦が良い例だ、彼らは食料の新しい保存方法を編み出し、村を飢饉から救った。

感謝されておかしくはないが、神官は彼らを追放した。

発明することは三禁則に反するからだ。


だからこそ、あのような悲劇を起こさない為にゴードンとラウスは協力している。

教えに背く者がいれば、神官に報告する前に二人で確認をする。

大した罪でなければ、自分たちで叱ればいい。

人間誰しも過ちを犯すことはあるのだから。


しかし、今回の一件に関しては違う。

外から来た神印の無い人間を匿う、それは擁護のしようが無い重罪だ。

報告を怠ったことがバレれば、ゴードンたちも共犯者として追放させられる可能性もある。


「神官様に報告するべきだろう、この一件は俺らの手に余る」

「やはりそうなるか、残念だがわかったよ」


「アリストさん……なんて愚かな事をしてくれたんだ」



「神の子らよ、今日も偉大なるアデス様のご加護に感謝を捧げ、その教えに従い、己が生を全うせんことを。祈祷」


村で一番大きい建物の教会で、神官の声が響く。

それに続き、手を合わせた大勢の人々が建物の最奥にあるアデスの像へ向かい祈りを捧げる。

これはこの村にとって、最も大切な儀式の一つである。


村の人口は千人ほど、その多くが毎朝休むことなくこの場に集って祈りを捧げる。

教会に入りきらない者は外の広場で、病気で体を壊した者は家の中から、像のある方へ祈りを捧げる。

目を閉じて微笑む者、何事かを呟く者、眉間に皺を寄せる者、皆それぞれ真剣に祈りを捧げている。


それもその筈、毎朝捧げる信仰の祈りがあるからこそ、村を囲む結界の力は強まり、自分たちはこの世界でまた一日生き延びることができるのだ。

もし祈りを疎かにし、信仰心を怠ったなら、数日と経たず村人は皆殺しにされてしまうだろう。

外には人の及ばざる存在、“死の天使”がいるのだ。


村には最も逞しい肉体を持ち、治安を守るゴードンという男がいる。

彼は保安隊長という地位にあり、神官から革鎧と剣を与えられている。


そんなゴードンであれば、もし獰猛な肉食獣に襲われても生き残れる可能性は高いだろう。

実際、村の外の森にこっそり探検に出た子供たちを「人喰らい」と名高い化け物から助け出したこともあった。

村人十人でかかっても勝てるか怪しい人喰らいに、たった一人で立ち向かって撃退したゴードンは、村でも有数の伝説の一人である。

そのゴードンが百人いても、死の天使に遭遇すれば間違いなく殺されてしまうだろう。


それほどまでに異常な存在が、この世界を覆いつくしているというのだ。

正に神の怒り、抗うのも愚かしい暴力である。


だからこそ村人達は、アデスという神に対し心からの祈りを捧げている。

死の天使の魔の手から生き延びるには、結界の力が絶対不可欠と知っているからだ。


「アデス様、私達をどうか御守り下さい」


いつも通りの祈りの呟きが木霊する。

誰も彼もいつも通りだ。

変わらぬ日々を過ごすために、いつも通り祈りを捧げる。


しかし、今日は“いつもと違う者達”が紛れ込んでいた。

常ならば他の村人達と同じように祈りを捧げる保安隊の男達が、今日は緊張感を滲ませて立っている。

視線はちらちらと広場に向けられ、時が来るのを待ち構えていた。


「神の敵は俺が捕まえに行く、ラウスは例の一家を頼む」

「気をつけろよ、ゴードン」


皆が祈りを捧げる中、保安隊の隊長と副隊長が小さくやり取りを交わす。

神官から与えられた革鎧を身に纏い、腰には武器をぶら下げ、胸には闘志を宿している。

幾許かの時が流れると、二人は保安隊の男達に目配せをした。

男達の表情が一層引き締まると同時に、神官が手を叩く。


――――祈りの時間が終わったのだ。

ゴードンに続いて十数人の男達が遥か南へ走り、ラウスに続いて十数人の男達が散開する。

逃げられないよう慎重に近づき、ある一家を取り囲む。

相手が気づいている様子はない。

保安隊副隊長のラウスは、警戒心を全身に滲ませながら声をかけた。


「アリストさん、少し良いですか?」





温かい季節の風が心地よく吹き抜ける。


村の外れの森で、野草を採集する少年が二人いた。

村には二つの森があり、一つは奥に山脈が聳える北の森、こちらには“人喰らい”と呼ばれる化け物が住んでいる。

以前、その森に肝試しで探検に出た子供達が人喰らいに襲われ、死にかけたという事件があった。

運良く保安隊長のゴードンが駆けつけ、誰も死ぬことは無かったが、あれ以来誰も北の森には立ち入っていない。


もう一つは南にある小さな森だ。

小動物こそいるが、猛獣は見かけない。

二人の少年、レオとヴィンは南の森の近くに住んでおり、彼らのような者が薪や薬草、野草などを集めていた。


「ヴィン、今日は遊び行くか?」

「うーん、どうしよう……」


普通の子供であれば、手伝いが終われば嬉々として遊びに出向くものだ。

しかし、二人に乗り気な様子はない。

ヴィンは両親を追放されてから、周りの態度が変わってしまった。

レオもヴィン程ではないが、一緒に住んでいることで変わった気がする。


腫物を触るように接する奴、疎ましそうにする奴、いじめてくる奴。

最初は色々な反応であったが、今では空気のような存在になり、誰も二人と関わろうとはしない。

大人であれば普通に接してくれる人は多いが、子供社会というのは残酷だ。

彼らの輪の中に、二人の居場所は無かった。

そして二人も、子供社会に自分たちの居場所を見出そうとはしていない。


全てはあんな出来事があったからだ。

両親を追放した、あの夜の出来事が。


「幸せになりなさい」


ヴィンは思い出した。

追放の夜、本当の母親から聞いた最期の言葉を。

ギリ、と奥歯が音を立てる。


「絶対に許さない……」


言うつもりのなかった言葉が漏れたことに気づき、ヴィンは焦ってレオを伺った。

人目のない森の中で気が緩んだとはいえ、気をつけなくては。

もし神官に聞かれていたら……


レオは表情を変えず、ヴィンの肩を叩いた。


「ヴィンの親は間違ってなかったと思うぞ、飢えて苦しい村を救ったんだ。そんな英雄を追放するなんて、間違ってるのはアデスの方だ」

「そうだね、ありがと」


レオが拳を差し出すと、ヴィンも拳を作って軽くぶつけてきた。

昔から何度も交わした挨拶のようなものだ。

ヴィンに沸き立った怒りは、拳の挨拶で薄れた。


レオには感謝している。

両親が追放されて以来、まるで家族のように一緒に過ごしてくれた。

レオだけじゃない、レオの両親も優しくしてくれた。

ヴィンだけが追放を免れたのは、レオの両親の働きかけがあったからだろう。

それを思い出し、ヴィンは再び感謝を伝える。


「レオ、ありがとう」

「むず痒いから二度も言うなって」


にいとレオが歯を見せて笑う。

背負った籠が野草でいっぱいになった頃、二人は村の結界付近まで来ていた。

木でできた結界の札が、並ぶように括りつけられている。

それは巨大な輪を描くように村を囲んでおり、二人は南の森の境界線にいた。


「ここから先は死の世界だったか?」

「らしいね」


結界の札に近づいてみると、真ん中には三本の縦線が刻み込まれている。

どう見ても木の板にしか見えないが、これが村を守っているというのだから驚きだ。

子供のいたずら心か、この先で両親を失ったヴィンへの慰めか、レオは結界を跨いで小躍りしながら先に進んだ。


「れ、レオ!危ないよ!」

「大丈夫だよ、ほら!まだ生きてる!ヴィンも来いよ!」

「死んじゃうよ!」

「死の天使は留守みたいだぜー!」

「もう、危なっかしいなぁ」


ヴィンも結界を超えてレオの元まで行く。

鼓動が早くなるのを感じる。

いけないことをしているという罪悪感、守られていないという不安感、出てやったという優越感、先に何があるんだろうという好奇心。

森の景色は殆ど変わらないが、境界線を一歩出れば大冒険の気持ちだった。

百歩ほど進んだ先で、レオが手招きしている。


「ヴィン、ここのキノコ持って帰ろうぜ」

「ええ、呪いとか付いてないよね」


しゃがんでいるレオの前には茶色のキノコが沢山生えている。

これは食べられるキノコだと親から教わった。


挿絵(By みてみん)


「大丈夫だよ、いっぱい摘んで神官様に食わせよう」

「そんなことできるの?」

「貯蔵庫に入れとけば食う可能性あるだろ」

「……なんで食わせたいのさ」

「外は地獄だよぉ~んって説教する神官様が、外のキノコ食ってるの面白すぎるだろ」


レオがゲラゲラ笑い、ヴィンも想像して笑いが漏れる。

くだらない反抗心だが、やってやるのも良いかと思えてくる。

レオとヴィンは次々とキノコを採集して籠に放り込んでいく。

目に入る範囲を全て取りつくし、籠は零れんばかりに溢れていた。


そろそろ戻ろう。

子供の手伝いとしては十分だろう。

森を抜けて少し歩くと、藁の屋根の家が見えてきた。

村の中心は建物が密集しているが、二人が住んでいるのは中心から南に離れた場所だ。

建物は点々と立っているのみで、周囲には畑が広がっている。


「母ちゃんただいま~、野草採って来たよ」

「あらレオ、ヴィン、いつもありがとうね」

「気にしないで下さい、お母さん」


木と藁と泥で作られた家は簡素なものだ。

扉というものは村では教会にしかないので、入り口は長い暖簾のような布があるのみである。

床は固められた土であり、真ん中に囲炉裏がある。

横には干し草のベッドが置いてあり、近くには桶や木の棚があった。

神官によって作って良い家というのが定められているので、これ以上に手を加えることは許されていない。


レオの母親であるマリーは、薬研を使ってこの辺りで採れる薬草を潰していた。

レオとヴィンはその横に籠を降ろす。

家には青々しい臭いが充満して鼻につくが、いつものことなので気にならない。

父は畑か誰かの手伝いに行っているのだろう。


「あら、こんなに沢山!二人とも頑張ったわね」


母親が近づいてきて、二人の頭を優しく撫でた。

レオは少し鬱陶しそうに、ヴィンは恥ずかしそうな様子で撫でられている。


「あら!キノコもいっぱいあるじゃない!」

「ああ、それは、ははは」

「いえ、いっぱい、あったものですから、くすくす」


マリーが首を傾げて子供たちを見ると、二人は目を逸らした。

レオは両手を頭の後ろに組んで口笛を吹き、ヴィンは下を向いてもぞもぞ揺れている。


「はぁ、危ない事はしないでよね」


マリーは呆れ顔で笑みを浮かべる。


「そういえばグスくんが、明日大会やるから来て欲しいって言ってたわよ」

「グス?うわぁあいつか面倒くせぇなぁ」

「呼ばれるなんて珍しいけど、うーん……」


マリーは交友関係を持ちたがらない子供たちを心配する。


「狭い世界なんだから、ちゃんと顔出して皆と仲良くしなさい。大人になって友達いないじゃ困るわよ」

「でもなぁ、グスってなぁ……」

レオはつまんなそうに頭を掻く。


「ま、まあ断っても面倒だし、僕なら大丈夫だから行こうよレオ」

ヴィンは取り繕ったような元気で喋る。


「じゃあ明日は行くとして、今日は何すっか」

「それなら、お父さんの仕事手伝ったら喜ぶわよ」

「えーまぁいいか」「行こうよレオ」

やることが決まり、二人はのんびり歩いていく。


「気をつけて行ってきてね」

見送る声が一つした。


今日も二人は村の一日を過ごすだけだ。

何に変哲もない、“平和”という名の日常を。

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