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右肩上がりの青春を  作者: pino2
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乳児の田中

  俺はすくすく育つように努力した。と、言っても「飲む」「打つ」「買う」じゃなくて「飲む」「寝る」「泣く」だけだが。伝説かもしれないが、よく出来た奥さんをもらった父親オヤジが「飯」「風呂」「寝る」の3つのワードだけで生活していたそうだ。今の俺に似ているな。


「飲む」については、最初はおっぱいに吸い付くのに照れがあったが赤ちゃんの本能が優先したのか、抵抗が無くなって遠慮せず飲めるようになったよ。父さんごめんね。もう少し我慢してね。


「寝る」については、生まれてから1ヶ月間ぐらいは1日の3分の2は寝ているから、寝ることが赤ちゃんの仕事と言えるな。俺って実は出来る男だったんだと思うよ。いくら寝てても上司に怒られないから赤ちゃんって、最高だな。


「泣く」については、困らせるためじゃ無くて何かを伝えるために必要で、泣くことしか出来なかったんだな。喋れると楽なんだけど、今喋るとドン引きだろうな。俺でも思うわ。


  生後ひと月のイベントで宮参りへも行った。父さんの地元の神社のようだ。父方のじいちゃんばあちゃんが一緒だった。2人とも俺が生まれた時、病院にも来てくれていた。そう言えば、母さんの方のじいちゃんばあちゃんは、何か事情があるのか見たことがないな。着飾ってもらって(ひたい)に「肉」じゃなくて、「大」と書いてもらって、どう見ても近所のおっさんにしか見えない神主さんに祈祷をしてもらった。御利益(ごりやく)なさそうだな。ほとんど寝ていたけどね。

  終わってからみんなで食事に行ったけど、主役の俺が何でミルクなんだよ。

 食事中の会話の中で、やはり母さんが少しアウェイだったな。父さんも、少しは地元の話は控えろよ。母さんはニコニコしていたが、家に帰ってからが怖いよ父さん。

  たまに、食事の手を止めてじいちゃんが

  「いつ帰って来るんだ。」とか言ってるし、今度のことか近い将来のことかわからないが、いろいろあるんだろうな。父さんは一人っ子なのかな。あと、じいちゃん、ばあちゃんも結構高齢そうだ。


  毎日いろいろなことがあるが、とにかく俺は寝て飲んで育った。

  首もわり寝返りも出来るようになった。頭では解っていても、なかなか身体(からだ)が思うように動かなくて苦労したよ。

  でも、それだけで父さん母さんは喜んで、、

「ねえ、大介が寝返りをしたわよ。ほら。」

「おぉ、よくやった、大介。流石俺の息子だ。頑張ったな。」

 なんか勘違いするわ俺。前は生まれてすぐに歩いて跳んで泳いで木にも登ってたんだけどね。

 

  母さんがほっぺをつんつんしながら

「大介くん、まだお(ねむ)ですか。」

 父さんはベビーベットを覗き込んで声を掛ける。

「大介、父さん行ってくるよ。」


 父さんもほっぺをつんつんしながら、

「大介、ただいま。いい子にしてたか。」

   父さん仕事から帰ったら手は洗ってね。

「大介くんは今日もいい子でしたねー。」


 毎日、父さん母さんに話しかけられるとやはり嬉しい。しかし、俺からは何も返すことが出来ない。何か喜ぶことを2人にしてあげたかったが、よく寝ることと泣いて困らせないようにするしか出来なかったな。でも、夜泣きをしなかったのは母さんをゆっくり休ませる助けになったと思う。でも、たまに我慢出来なくて夜泣きした時は母さんじゃなく父さんが、泣き止むまで抱っこしてくれたよ。これが我が家の力関係かな。朝早く出勤なのに父さんごめんね。


  夜はベビーベッドで寝かされ昼間はリビングに寝かされる。テレビの音が気になり身体の向きを変えてみるが全然見えない。仕方ないので音だけ聴いているが母さんワイドショー好きだな。もうお腹いっぱいだよ。たまには国営放送も視ようよ。

  夜、クイズの答えや犯人が解らないうちに寝室に連れていかれるとストレスが溜まるよ。そういうのに限って次の朝の夫婦の会話が

  「まさか、あれが犯人だなんてね。」とか、

  「あの答は笑えたねー。」と盛り上がってるし、もっと具体的に言ってよね。父さん母さんもうちょっとニュースも視ようね。


 首が据わるようになると、抱っこされることが多くなり、抱っこと同時にチューされることもたびたびだ。

  みんな年頃になるとファーストキスを意識するけど記憶にないだけで、ファーストもセカンドもサードもピッチャーもキャッチャーも結構身内がやってると思うよ。まあそんなのカウントする人はいないと思うけどね。

  母さんはまあいいとして、父さんはどうかと思うぞ。やっぱり俺は男は嫌だし。前世でこの話を子供にしたらしばらく口を聞いてもらえなかったな。今思えば反抗期だと思ったが俺が悪かったのかな。 

 そういえば、前世の家族の顔や名前、住んでいた住所がボヤけてはっきり思い出せなくなってきたな。これも神様の配慮かもしれないな。前の家族とはもう関わってはいけないということだろうか。よし、わかった。今の家族を大切にしょう。あー俺が大切にされるほうか。


「なあ香織、俺が大介を構うとたまに眉間にシワが寄るような気がするんだけど。それに、何か疲れた顔している気がするんだけど。」

「そんなの気のせいに決まってるわよ。大介まだ生後5ヶ月よ。」

 気のせいじゃないよ。 大切にしたいけど何か嫌だ。それに前世の疲れが残ってるんだよ。だから少し八つ当たりしてるんだよ。ごめんね父さん。


  お風呂もやっぱり、母さんに入れてるもらうほうがいいな。母さんは柔らかいから抱かれ心地がいいしね。別に母さんがポッチャリで、父さんが筋肉質というわけじゃないけどね。例えるなら父さんが岩風呂、軽石、黒だな。対して母さんは檜のお風呂、スポンジ、白という感じだな。父さん、大きくなったら一緒に入ろうね。もっと大きくなっら入れてあげるね。ディサービスで。

  でも、一緒に入らなくても俺が先に出されるから父さんに受けとられことになる。身体を拭いてくれるが結構雑だ。赤ちゃんは取り扱い注意だよ。


 動けるようになると、いろいろと視野も広がり家のことも少しわかるようになった。今住んでいるのは、マンションのようだ。高層マンションなんかじゃなく、部屋数はわからないがそんなに大きくはなさそうだ。父さんと母さんが今月の家賃の引き落としがどうとか言っていたし賃貸マンションだろうな。

 

  俺の住むマンションには生まれたばかりの子供を含め同い年の赤ちゃんが4人いる。母親同士は仲が良く、男の子と女の子が2人づつになるとのことで、盛り上がっている。よし、幼馴染ゲットだぜ。嬉しいな。だって、幼馴染なんて努力すれば、手に入るもんで無いしね。でも、おっさんくさいって、仲間外れにされたらどうしよう。


  母親同士仲が良いので、近所の公園に一緒に出掛けたり、誰かの家にお昼に集まっていた。子供同士はまだコミュニケーションはとれないが、お互いに人見知りはしなかったな。

 

  「(高橋さん、)美樹ちゃん可愛いわね。きっと美人になるわよ。」

  「香織さん、大介くんだって、お父さんによく似ていて、いいじゃない。」

  何がいいのか、父さんはイケメンじゃないし。確かに、俺と父さんは疲れた顔してるかもしれないけどさ。


  「(鈴木さん、)健太くん、お兄ちゃんに似てるからきっとモテるわよ。イケメン兄弟ね。」

  「大介くん、賢そうだしなんだか大物になりそうだわ。」

  健太くんママ、なんか言ってることが適当だぞ。それに○○そうっていうのは確定ではなく、そう見えるだけってのが多いからな。


  「(佐藤さん、)詩織ちゃんも可愛いわね。お姫様みたいで守ってあげたくなるわね。」

  「大介くんは金太郎みたいだね。」

  詩織ちゃんママ、それちょっと微妙だぞ。テレビのCMを観て言ってるのかな。サラリーマンの方だったら褒め言葉だが。


  詩織ちゃんのお母さんは俺と健太の手をとって

  「健太くん、早く大きくなって詩織を守ってね。大介くんも、何かあったら詩織の盾になってあげてね。」

  それ、同じように聞こえるかもしれないがちょっと違うぞ。


  母さんも微笑みながら

「大介くんって、お家の中じゃ一番可愛いのに、みんなといるとちょっと残念ね。」

  母さん、冗談だよね。相対評価は止めようよ。男の子なんだから他のことで頑張るからさ。


 高橋美樹、佐藤詩織、鈴木健太の3人が俺の幼馴染になる予定だ。みんな引っ越さないでね。賃貸マンションだからみんな将来は一戸建かな。俺の家はどうなんだろう。父さんは転勤とかあるのかな。


  美樹は一番よくハイハイをして動く。多分一番しっかりしているんじゃないかな。

  詩織は一番小さいからお母さんに抱っこされ、じっとしている。本当に守ってあげたくなる雰囲気の女の子だな。

  健太は赤ちゃんなのに落ち着いていて、優しい目をしている。それに、困った時は頼りになりそうだ。

  俺はと言えば、落ち着き無くキョロキョロしていた。だって他所(よそ)のお(うち)は珍しいからね。趣味とかこだわりが良く解るな。読みたかった漫画が全巻そろってるな、大きくなったら貸してもらおう。

  みんなでいると、誰もぐずらないから結構いい関係になれるかもだな。それに女の子2人は可愛くなりそうだ。まだ、あー、あーとかうーうーばっかりで会話が続かないけど。おもちゃの取り合いも無いしね。まあ、俺はおもちゃに興味は無いけどね。

  母親同士が仲がいいと子供同士も仲が良くなるかな。父さん達は蚊帳の外だな。


 その日から母さんが「たかーくなれ、たかーくなれ」と鼻をつまんでくるようになった。

 母さん、それ俺も前世でやったことあるけど全く効果は無かったよ、本当に。ちなみに、足を伸ばしてさすりながら「ながーくなれ、ながーくなれ」も同じだからね。ちょっと待ってよ、父さんにも勧めないでくれるかな。父さん力の加減が下手だから痛いんだけど。いくら俺でも泣いちゃうよ。

 

  誕生して一年近くなると歩き始めることが出来たよ。これまでハイハイで鍛えてきたから、もういいかなと思ってトライしてみたよ。

  たまたま近くに居た父さんに、つかまって立つことが出来た。ちょっと踏んづけてたから、まさに「大介、大地に立つ」だな。でも父さん感動してたな。踏まれて喜ぶなんてな。危ない人か。


 生まれてから そろそろ1年、乳児を卒業だ。


 

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