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右肩上がりの青春を  作者: pino2
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1.復活の田中

 あれっ?ここ何処だ? と思ったら身体の感覚がなく濃い霧に包みこまれているようである。


 そうだ、仕事だ。遅刻する。いや、そういえば、横断歩道を渡る時、車が突っ込んできて、子供を庇おうして、それから?


 俺は田中大介、今年で50歳の何処でも居る疲れたサラリーマンである。


 今日の予定や事故の瞬間のことを記憶がはっきりしないなか考えていると、誰かが立っているのが解った。サラリーマンの習性で俺は「あのぅ、どちら様で?」と少し丁寧に聞いてみた。


「わしは、神様じゃ。」


 よく見るとそこには、白い着物を着た小柄で白髭、杖を持った仙人みたいなおっさんが立っていた。


その答えに俺は、呆れ気味に

「あー、そういうのは、間に合ってるんで、壺は家に沢山あるんで、結構です。それから、此処は一体何処なの?」


老人なら少しは信じたかもしれないが、威厳の欠片もないおっさんだしね。


「大○△□居士(こじ)よ、事故を覚えておらんのか。てゆうかわしは本当に神様じゃぞ。」


 俺は記憶を辿りながら、「ところで、大○△□居士ってなんなの?」


 「なんじゃ、自分の戒名(かいみょう)も知らんのか。」


 「戒名?なんだそれ。知らんわ。誰のだよ。俺のか?」少し切れ気味に応える俺。


 「そう呼ばれるのが嫌なら、生前利用してたエロサイトのハンドルネームの〈夜明けのパパ〉とでも呼ぼうかの。それとも、昔に出会い系で使ってた〈リュウジ〉と呼ぶか。」


 「神様、悔い改めます。出来れば大介とお呼び下さい。」


「大介よ、とりあえず落ち着いて話を聞くがよい。」


神様の話を要約すると、俺は死んでしまったらしい。しかも、神様の手違いで。そのため、ある程度の希望を聞いてくれるらしい。


 「大介よ、何か心残りはあるか。」


「やっぱり、遺された嫁サンと子供の生活が心配なことかな。」


 「それなら大丈夫じゃ。ワシが保証する。」


「おー、流石神様、何か俺の家族に神対応して頂けるんですか。」


「忘れたのか大介。お前、生命保険にいっぱい入っとるじゃろ。しかも災害死亡の特約付きで。それに、相手の自動車の保険金も満額出るじゃろうし、通勤途中じゃから労災保険、家のローンもないから余裕で暮らしていけるじゃろう。」


 ドヤ顔で答える神様。ライフプランナーかよ。


 まぁ、安心して死ねるな。子供の結婚とか孫は見たかったかな。しかし、使えねえ神だな。


「何か文句があるようじゃが、大介はどうしたいかの。このまま成仏するも良し、生まれ変わるも良しじゃ。」


 説明によると、成仏は生前の行いにより審査され行き先が決まるそうで、今すぐに生まれ変わるなら希望を聞いて貰えるそうだ。まあ、希望を聞くといっても特殊能力を授かるわけでなく、異世界で冒険出来るわけでも無いらしい。人間を含む生き物の指定と時代や場所をおおまかに決めらるとのことである。後の成長は本人の努力と運次第で変わるらしい。やはり、あんまり使えない神様だな。


俺は少し考えて、

 「生まれ変わるとして今の記憶はどうなの?引き継げるの?引き継げた方が楽出来そうだしな。」


「またタメグチに戻ったな、まぁいい。答えは出来るじゃ。ただし、記憶無しならすぐに生まれ変わることが出来るが、記憶有りなら少しまわり道になるかのぅ。」


  少しまわり道ならいいかと、あまり深く考えず記憶有りの生まれ変わりを希望した。


「よし、記憶を持って生まれ変わるがよい。現代の日本人男性で良かろう。で、生まれ変わって何かやりたいことがあるのか。神童を目指すのか。しかしまた、4年生の算数で(つまづ)かねばよいがな。そして、大人になって、毎日同じように周りに気を使い、言いたいこと、やりたいことを我慢して生きて行くことになるぞよ。ノルマに追われ、楽しみといえば漫画喫茶と寝ることぐらいじゃろう。それと、エロサイトの・・・」


 相変わらず一言も二言も多いな、当たってるけど。でもそんなサラリーマンは多いと思うぞ。言いたいことばかり言ってたらストレスは溜まらんだろうが、行動が伴わないんだな。そうならないために頑張ろうと思うんだが。今度は同じ失敗はせず、楽しい青春を送るんだ。明るい未来が待ってるぜ。



「それでは、いくぞ。」


 意識が何処かに吸い込まれて行く中、そう言えば、まわり道のこと詳しく聞かなかったな・・・。



 気が着くと俺は「オギャー」と産声をあげることなく、薄暗い水の中にいた。溺れるとか混乱するとかはなく、泳ぐというよりは漂っていた。お腹の中か。


 赤ん坊として生まれる前はこんな感じなのかと考えていると神様の声が聞こえてきた。


「おーい、大介。聞こえるか。お前今イカの生まれたての赤ん坊じゃぞ。」


「はぁ?ふざけるなよ。人間じゃないのか。」


「まわり道を忘れたのか。」


 つまり、まわり道とは人間に生まれ変わる前に他の生き物に生まれ変わらなければならず、その回数も決まっておらず運次第らしい。

 また、自死は認められず生を全うしなければ次にいけないそうだ。それに、本能により考えるより先に、身体が動きエサ取ったり、危険を回避するからすぐには死ぬこともないらしい。


「少しのまわり道じゃなかったのか。」


「宇宙の誕生からしたら、ほんの少しじゃろ。」


  なんか詐欺に近いな。本当に使えない神だな。ティシュの方が役に立つぜ。ひょっとして、厄病神か。


「これ、そんなバチ当たりなことを考えるでない。それより、魚が後ろに来とるぞ。」


 気が着くと後ろに口を開けた魚が迫っており、一瞬で飲み込まれてしまった。


 「右に逃げれば良かったものを、バカじゃの。」


 生まれたてのイカに右も左も上も下もあるかよ。

 呆気なかったな、俺のイカ人生。別に長生きしてイカ大王になってテレビに出たかったわけじゃないけどさ。


 痛みも苦しみもなく意識が途切れてきた。次はどうかな?




 意識が戻り目を覚ますと真っ暗な世界であった。最初は何処に居るかは分からなかったが神様がセミの幼虫だと教えてくれた。


本能が優先して土の中でじっとしていても苦痛にならなかったが、たまに神様が声も掛けてくれた。


「大介、育っておるか。好き嫌いはしておらぬか。」


「相変わらずだな。木の養分だけしか無いのに好き嫌いもあるか。それより、何か面白い話はないのか。」


「春の新作アニメの話はどうじゃ。」


「アニメ観られないからいらねーよ。」


「それでは、そろそろ、お前は何ゼミか教えてやろう。喜べクマゼミじゃ。ワシの考えではクマゼミはセミの王様じゃ。因みに、ヒグラシが女王でアブラゼミが大臣じゃ。」


「じゃあ、ニィニィゼミは兵隊か、それって、雑学でもなければ面白い話でもないし。そんな、情報いらねーよ。」


「そう言えば嫁と子供が楽しそうに、ハワイ旅行の計画をしておったぞ。しかも、ビジネスクラスで。」


「けっ、・・・」


 そんな、やりとりをしながらも時は過ぎて地上へ出る時が来た。木に登って脱皮し、空も飛べ自由に動ける開放感から気が緩んでいて、小学生に捕まってしまった。もっと高い枝にとまれば良かったぜ。

  捕らえられた俺は虫カゴにいれられた。虫捕りの基本は、キャッチアンドリリースだろう普通は。親もちゃんと教えろよ。まったく。それに、クワガタと違ってエサも無いし飼える虫じゃ無いしね。鳴き出すとうるさいし。いいところ無いな。

 元々長くは生きられなかったうえ、エサもなく弱ってきて虫カゴの中で死ぬこととなった。

 別に大きくなってバルタ○星人になりたかったわけじゃないないけどさ。


さー、次行ってみるか。



「オギャー、オギャー」産院の分娩室で俺は目覚めた。

やっと回って来た。あー長かった。疲れたー。


 俺の側では父さんらしき人が泣きがら、

「香織、よく頑張ったな。かわいい子を産んでくれてありがとう。」


 いやいや、父さん俺の方が、流す涙なんて枯れ果てるくらいに頑張ったよ。父さんの子供になるために。それと客観的に見て、生まれたての赤ちゃんって、かわいいとはいえないと思うぞ。実際、可愛いと喜んでくれるのって身内だけだから。


「大変だったよ。疲れたよ。可愛い子供を授けてくれた神様に感謝だね。キャチボール出来るよ。」


 母さん、俺の方が大変だったよ。生まれ変わりすぎて疲れたよ。本当に。20回を越えた時点で数えるのを止めたよ。何回生まれ変わったか分からんよ。それに、俺が言うのもなんだが、神様に感謝は微妙だと思うぞ。ついでに言うと球技も苦手だ。


 一番多かったのは海の生き物な。流石、海は生命の源。神様が教えてくれたから自分が何なのか分かったけど、アジとサンマとイワシの違いなんてあんまり関係なかったな。


 次に多かったのは虫系かな。数えてた訳じゃ無いけどね。これも神様が教えてくれた情報だけど、新種の蝶にもなってたらしい。誰にも発見されず、カエルのご飯になったけど。


 以外と四つ足の家畜系は少なかったな。忘れられないのは一度飼犬になった時のことだな。

飼主は独り暮らしのばあちゃんで、いつも優しく世話をしてくれて家族のように話してくれたよ。起きる時間も寝る時間もいつも一緒でよく撫ぜてくれたよ。

 俺は愛玩犬だったので家の中で飼われていたんだが、ある雨の日、ちょっと買い物に出かけると言ってばあちゃんが出て行ったんだ。俺は嫌な予感がして止めようとしたけど、止まらなかったね。鳴いてただけだから、「行ってらっしゃい」とか「お土産買ってきて」って聞こえたんだろうか。

 日が暮れてもばあちゃんは帰っこず、鍵も掛かっているため外へも出られなかった。当然、エサも水もなくお腹がすいても口にする物は無く、体力を使わずじっとしていたが限界が来て死んでしまった。今でも

ばあちゃんがきっと何処かで元気でいると、信じているけど確かめる事が出来ないのが残念だな。


ちなみに、最後の神様情報によると、中肉中背で優しそうな父さんの名前は、田中大地、30歳のサラリーマンだそうだ。年齢より若く見える美人の母さんは田中香織、28歳で現在は休職中のことだ。どちらも前世の俺とは、ふた回り近く離れている。俺から見れば子供だな。



 生まれた翌日、病室で母さんが父さんに

「ねぇ、名前は考えているの。」


「あぁ、いくつか考えてるよ。一緒に決めよう。」


「どんな名前なの。」


「俺が大地で父親(おやじ)大吾(だいご)、爺さんが大輝(だいき)だから、大作、大吉、大介がいいと思うんだけど、どうかな。あと、少し読みが違うけど、大空(おおぞら)っていうのも考えたんだけど。」


「どれも、素敵な名前で迷うわね。」


 母さんの、素敵な名前というのもよく解らんが、俺的にはやっぱり大介にして欲しいと思う。前世と同じほうが間違えなくていいしね。

それにしても、父さん達のほうが若い名前で俺の名前のほうが古く感じるのは気のせいか。あくまでも、俺のイメージだが。

 大作は、どっこいとか無錫(むしゃく)の街ってイメージだし、大吉は、アタックチャンスと間違われそうだし、大空に至っては、俺みたいな疲れたサラリーマンが営業先で名刺を出すと、こいつ絶対に名前と違うって思われるだろし、スカイって勝手に読む人もありそうだな。それなら、ボールは友達の翼でもいいな。

 でも、本当は名前を人が追いかけるんじゃなくて、努力して強くなって立派になれば名前がついてくることは、前世で解っているんだけど、努力出来ずさぼってしまうんだな。

 それに、親が一生懸命考えてくれて、最初に与えてくれる物だから贅沢言わないで感謝しないといけないね。


俺は二人が大介と名前を挙げる度に母さんをじっと見たので、それに気付いた母さんが

「あら、この子大介がいいのかしら。」


 俺が笑った顔になると

「じゃあ、大介に決めるか。」

「はい、今日から貴方は田中大介君ですよー。イケメンに育つんですよー。」

「大介、早く大きくなってキャッチボールするぞ。」

あんまり、子供は期待通りにならないもんだよ。特にイケメンってゆうのは。キャッチボールにはまって少年野球やりたいって言ったらどうするの。親の負担は大きいよ。


 とにかく、俺の名前は大介に決まった。しかし、子供が自分の名前を決めるのもある意味凄いな。

これで名字も名前も前世と同じ田中大介になった。

 田中って名字は普通に多いし良かったよ。


これからが田中大介第2の人生だ。
































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