脅迫状から始まる恋の形
初の短編です
夏の暑い日差しが降り注ぐ昼間。俺は、あるミッションを遂行していた。
影に潜み、人に紛れながらある店へ向かう。とうとうたどり着いたその目の前にあったのは本屋だった。しかしただの本屋では無い。えっちな本が売っている本屋だ。
俺がこんなことをする羽目になったきっかけは、数日前にさかのぼる。
数日前、俺の下駄箱にある一通の手紙が入っていた。やった ! 人生初のラブレターだ ! と思って開いたその手紙はラブレターとは似て非なるものだ。いわゆる不幸の手紙といった類のものだろう。その内容はこうだ
『7月10日に○○書店でエロ本を買ってこい。もしこのミッションを達成できなかった場合はお前の秘密をバラす。ミッションは全部で5つある。』
こんなもの無視すればよかったのだが生憎、この「秘密」とやらには心当たりしかない。もう一つの理由は実は前々から少し興味があったからである。よって従うことになってしまった。
夏の暑い日差しが降り注ぐ外とは大違いに涼しい店の中へ俺は侵入した。
はぁ、はぁ、やっとこの時が。俺のえっちな本がすぐ目の前に。
あとは俺好みの本を選りすぐりするだけ。舐め回すように物色している俺の姿は周りから見たら……これ以上はやめておこう。
「せんぱい……何してるんスか…… ?」
「…… !? ど、どうしてお前がここに」
俺の目の前にいたのはいま一番会いたくなかった相手。後輩の高城 円香だ。会うたびなぜかいつも絡んでくる唯一の女の子の知り合い。
「ってかせんぱい、こんな店でなにみてたんスか ?」
「だ、だめだ、引っ張るな !」
「いいじゃないですか ! みーせーてーくーだーさーいーよー !」
「あっ ! おい、やめろ ! ひっぱるな !」
まずい ! こんな本を見られたらなんてからかわれるかわからない。
……あっ !
「なになに……『ポニ楽天』」
「ち、違うんだ、たまたまなんだ、本当に偶然とっただけ !」
「せんぱい、こんな女の子に興味あるんスか ? ポニーテール……ふむふむ」
「せんぱい、ポニーテール好きなんスか ? 」
「別になんだっていいだろ」
まぁ、ポニテだけじゃなく可愛い女の子ならだれでも好きなんだけどな。その中でも最近のマイブームはポニテだというだけの話。
「せんぱいはポニテ好きっと……」
「おい、今何をメモした、そのメモを見せろ !」
「いやっすよ〜」
「……っと、今日のところはこれくらいにしておくっス、じゃあまた明日学校で……言いふらされたくなかったらちゃんと来るんスよ ? わかったッスか ?」
「ん、わかった、また明日な円香」
「……急に下の名前で呼ぶなんてなんスか……まぁいいッスけど」
そう彼女が言って帰って行く時、彼女の顔が赤らんでいた。これはもしかして照れているのだろうか ? 昨日買った『後輩と交配』の気になる後輩の落とし方ってページに書いてあったことが役にたったぜ。
まぁ、一件落着。とはいかないが一命をとりとめた。とりあえずあの本を買って今日のところはさっさと家に帰ろう。
----翌日
ふぅ……。昨日は凄かったぜ。昨日買った本のポニテの子可愛すぎだろ……。もう、これが典型的なポニテ、ポニテのあるべき姿って感じがしてたわ。そのおかげですごく眠い。
「そうそう、ちょうどこんくらいの長さのポニテで…‥って、なんでここにいるのかな ?」
「あっ、せんぱーい、おはようッス、眠そうッスね、昨夜はお楽しみでしたか ?」
少しニヤつきながら言ってくる円の顔は腹が立った、アイアンクローでも入れてやりたいレベルだ。
「し、してねえし !」
「結局|あの本〈・・・〉買ったんすよね ? 恥ずかしがらなくてもいいッス、せんぱいも男の子なんですから」
「……」
これ以上答える気力がねえな。よし、答えない。口は災いの元だしな。
「まぁいいッス、さ、早く学校行かないと遅れちゃうッスよ」
……きまずい。非常に気まずい。この道、普段この時間帯は誰もいないから今は俺と円香の二人きり。しかもなぜかこいつ異様に近いんですけど。もう近すぎて呼吸音が聞こえるくらいには近いと思う。
しかもなんだ ? 少し甘い香りが漂っている。これが噂に聞く『女の子の香り』ってやつなのか……。
「せーんぱいっ 」
「ん、なんだ ?」
「呼んでみただけッス」
なんだこいつ……いつもはこんな雰囲気にはならないはずなのに、しかもなんだよ『呼んでみただけッス、ふふっ』って、一瞬ドキッときた自分が嫌だ。
もうこれあれだわ、恋人だわ。周りから見たら絶対に恋人に見える ! はず !
「ん〜、せんぱいとはまだ恋人じゃないッスよ」
「エスパーか何かかよ !」
「実はそうッス」
「え、まじで ?」
「嘘ッス」
「嘘、ダメ、絶対」
ん、ってかさっき「まだ恋人じゃない」って言ってたけどワンチャンあるのか ?
こんなやりとりを続けていること数十分。もう学校は目の前、というか校門についていた。いつも一人で通学してたけどたまには悪くないな、ああいうのも。
「じゃあせんぱい、またッス」
「またって……次もあるのかよ」
……まぁいいか。1年に一回くらいはいいかもしれないな、それ以上は俺の童貞メーターが振り切ってしまう恐れがあるからダメだ。
時は流れ4限目の授業。昼前の最後の授業ということもあり周りを見ていると寝ている人もいる。
まぁ、俺は真面目なんで寝ないけどな。……寝ていてノート取れなかった時に写させてもらう人がいないとかじゃないんだからね ! 勘違いしないでよ !
授業中だけど何もする気が起きない、ふと外を眺めてみると1年生と思われるクラスが体育の授業をしていた。
ん、あれは……
舐め回すように外でやってた1年生の女子の体育の授業をのぞいてみると彼女が見えた。
ん、円香もこっちに気づいたようだ。……手を振って何か叫んでいるように見える。おそらく『せ〜ん〜ぱ〜い〜』とでも叫んでいるのだろうが俺には聞こえないよ。耳にバナナが詰まっているからな
と、まぁ、こんな無駄なことをしているうちに有益な授業が終わるチャイムが校内に鳴り響いた。
購買から帰って教室に入ると俺の席には一通の手紙がポツンと置いてある。
なになに『ミッション1を成功したようッスね、次はミッション2ッス女の子の手作り料理を食べさせてもらえ。以下略』……無理ゲーだわ。まず、知り合いの女の子が円しかいない。たった一人の女の子の知り合いに急にそんなことを言ったら1から0に減ってしまう。どうしたものか。
そう考えながら俺はいつものように屋上……の前の階段の踊り場で昼食を取っているとそこにもまた彼女が来た。
どうやらこの時間も俺の平穏は保たれないようだ。
「せーんぱーい ! お昼一緒してもいいッスか ?」
「……お前クラスに友だt」
「いますよ ?」
……やばい、円香の顔が般若のようになっている。俺のSAN値がピンチ !
「さ、せんぱい、たべましょ ?」
「は、はい……」
「やったー !」
もうこれあれだよね、脅迫に近いって言うかもう脅迫だよね。
「脅迫なんてしてないッスよ〜」
エスパーか ! やっぱりこいつエスパーだろ。それか人の心を読める怪物かなにかだろ。
「エスパーじゃないッス、読唇術ッス」
そうか、読唇術か、なら納得だ。うんうん、読唇術ね、読唇術。喋ってないのに分かる読唇術なんてあるんだなー。これ以上の追求はやめよう、まだ命が惜しい。
「それにしても、なんでいつも俺について来るんだ ? 俺といても別に楽しくないだろ ?」
「好きだからッスよ ?」
「え ? まじで !?」
「冗談ッス」
童貞をからかうの、ダメ。絶対。
「お詫びに私の作ったコレ、食べるッスか ?」
円香が「コレ」と示したものは彼女が作ったとは思えないほど綺麗な卵焼きだった。
「はい、あーんしてくださいッス」
え ? え ? え ? 何これ、そういう展開だっけ。いやいや、どうせ円香のことだ「やっぱあげないッス」とか言うに違いない。けどこれでミッションとやらもクリアできるしいっか。
「食べないんスか ? ほら口開けてくださいよ〜」
俺は口を開けるとそこには卵焼きが放り込まれた。その卵焼きは絶妙な甘さで食欲を誘惑してくる最高のおかず。
「あ、ありがとう……ん、美味い、本当にお前が作ったのか ?」
「そうッスよ〜、自信作ッス」
目の前には天使がいた。と、錯覚してしまうほどに彼女は眩しい笑顔を放っていた。
「あっ、せんぱい、ソレちょっと貰うッスよ」
「あっ、それ……」
「……ん、美味しいッスね、ありがとうッス」
「間接k……」
俺の初めてが ! あぁ……
「ん ? 間接 ? なんスか ?」
先ほど天使といったのは前言撤回したくなるほどニヤリと悪い顔をした小悪魔が目の前にいた。
「ヤッパナンデモナイデス、ハイ」
「せんぱい、早く食べないと昼休み終わるッスよ ? なんなら口移しで食べさせてあげるッス」
「イラナイデス」
「あっ、そういえば私委員会の仕事の件で呼び出せれてるんス、これで失礼するッス」
そういって円香は広げていた弁当を片付け、階段を一番飛ばしで下がっていった。俺も早く食べないと本当に昼休み終わっちまうよ……
昼休みが終わり、授業が始まっていた。昼食後、そしてこの天気。睡眠学習を行うには絶好のタイミングだ。
そんな中俺は眠気と戦いながら残りの授業をこなして行く。
放課後、自分の靴箱を開いてみると、見覚えのある手紙、いや、指令書が入っていた。またか……そう思いつつ開いてみるとこの間のミッションと比べると全然難易度が違った。その内容はこうだ
『明日、7/22に女の子とデートしてこい。お前の近くでで監視をしている』
……はぁ、無理無理無理。ってか一体なんたって俺にこんな命令が課せられてしまうんだよ。俺、前世で何かしたっけ ?
だいたい俺、女の子の知り合いとか円香くらいしかいないし、そんな都合いいこともな……い…… ?
「せーんぱい、どうしたんすか ?」
「タイミング良すぎだろ……」
「ん ? なんすか ? なんか言ったッスか ?」
円香はそう言って顔をしかめて頭に疑問符の花畑を咲かせていた。
「そうそう、せんぱい、明日あいてるッスか ?」
「ん、まぁ特に予定はないが指令はあるな」
再び円香の頭には疑問符が出ていたがまぁいいかと言った感じで話を続けられた。
「明日、ちょっと街の方まで一緒に行きませんか ?」
……神様タイミング良さすぎません ? まぁ、何はともあれ断る理由もないしな。
「ああ、いいぞ」
「じゃ、じゃあ明日10時に〇〇のところ集合ッス」
それだけ伝えると円香はそそくさと何かを隠すようにその場を離れた。彼女の顔を赤らんでいたのはその場にいた俺と彼女しか知らない。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜翌日
ふぅ、なんとか間に合った……円香はまだ来てないのかよ。ったくあっちが時間指定して来たくせにちゃんとこいよなって俺も人のこと言えねえや。
「せんぱ〜い」
ん ? どこからか円香の声が聞こえるが周りを見回しても円香らしき人物は見当たらない。
「せ〜んぱ〜い〜、ここッスよ」
いやいや、こことか言われてもどこだよ。
「もう、せんぱい ! ここですって !」
……その瞬間俺の中で時が止まった。目の前にはあまり目立たないほどのゴスロリを着ている少女が「せんぱいせんぱい」言っていた。もしかしてこのゴスロリが円香なのか…… ?
「な、なんすかせんぱい、じろじろみて、なんか変ッスか ?」
「変じゃないぞ、ただ、そのあれだあまりにも似合ってて声が出なかっただけだ」
円香は赤らんだ顔を下に向けて早く行こうと言わんばかりに俺の袖をひっぱりゆっくりとその時間を楽しむかのように歩き出した。
俺が最初に連れてこられたのは最近できたらしいクレープの店だ。ここにくるまで約10分くらい歩いたが会話はあまりなかった。そして店に入り注文を済ませて席で待っている間も会話はない。さすがの俺もこれはやばいと思い会話のキャッチボールの初球を投げた。
「な、なあ、円香、いい加減に喋らないか ? 流石にこの空気は耐えられそうにもないんだ」
「そうッスね……よし ! 今日は思いっきり楽しむッスよ ! 覚悟はいいっすか ?」
いつもの円香に戻ったところで注文していたクレープが届く、なんてナイスなタイミングなんだろう。ちなみに俺が頼んだのは一般的でこの店のおすすめのバナナクレープだ。円香は意外の意外にも抹茶クレープを頼んでいた。
「おいしいッスね」
「本当に美味しいなここのクレープ」
さすが有名店といったところだ。クレープの生地や生クリームにまでこだわりがあり甘さもちょうどいいくらいだ。
「せんぱいのクレープおいしそうッスね少しもらうッス」
パクッと俺の食べかけのクレープが円香の口に吸い込まれていく。あまりのことに俺も一瞬思考停止してしまったがすぐに思考を取り戻した。
「お返しにあげるッス、せんぱい、あーん」
「な、なんだよ急に恥ずかしい」
「この前もやったじゃないッスか何を今更恥ずかしいがってるんッスか ?」
俺は無言で口を開けるがとてもとても恥ずかしかった。
クレープを食べ終わり、店から出ようとした時に後ろの席からバキバキと男がコップを割ろうとしていたのが視界の端に見えた。一体なんだったのだろうか、そんなことを思いながら店から出た。
店を出た後、いつもの円香に戻っていた。そこからは普通に円香の服を買うのについて行き、昼食をとり、カラオケに行ったりして今日という日が終わろうとしていた。しかしその時、後ろからいきなり怒鳴り声が聞こえた。
「おい ! 高城円香 ! その男は本当にお前の恋人なのか !」
その怒鳴り声の主は朝、クレープ屋から出る時にこちらを見てコップを割りそうになっていた男だった。
「っ ! ほ、本当について着ていらっしゃったのですね、本庄誠さん」
円香の顔が苦虫を噛み潰したような顔になっていることからこの男は円香にとって何かしらの不都合になるのだろう。
「ちょ、ちょっと2人とも一体どうしたんd「せんぱいはちょっと黙っていてください !」
「本庄さん、せんぱいは本当に私の恋人です、もしそうじゃなくてもあなたと結婚する気は全くこれっぽっちもありませんので」
円香が感情のない声で本庄という男にそう告げると男の顔はみるみるうちに赤に染まっていった。
「なんだと !? 本庄家に逆らったらどうなるか教えてやろうか ? だいたい俺はお前の許嫁だぞ !」
「その許嫁とやらには私の意思は反映されてませんので、その約束を守る気もありませんし、もう半分くらい家から追い出されている私が逆らったところで別に何もありませんし」
「っ! いいだhろう、おいお前、俺と円香をかけて勝負しろ ! もちろん断らせる気もないし負ける気もない、日時は一週間後のこの時間俺の家で、勝負の内容は剣道だ」
「せ、せんぱい別に断ってくれてもいいッスよ ? これは私の問題ッスから」
「円香はその男と本当に結婚したいのか ?」
「いやッス、だから、だから助けてほしいッス !」
「本庄さん、その勝負受けます」
俺がそう告げると本庄の顔はたちまち赤く染まりイライラしながら帰っていった。そして円香もなぜか顔を赤らめて恥ずかしそうにしていた。
「せんぱい、ごめんなさいッス、面倒なことに巻き込んでしまって、実は今日のこれ、本庄さんにせんぱいが彼氏だと見せつけて諦めさせようとしてたんス……本当にごめんなさいッス !」
「別に気にしちゃいないさ、それより俺、剣道なんてやったことないから教えてくれよな、剣道部のエースさん」
「はい ! お任せッス、頼りにしといてほしいッス」
そのあと、俺と円香はこれからの予定を話しあって少しむず痒いままお互いが帰路についた。なんか今日はいろいろあったな……それにしても明日、しかも朝5時から練習ってだいぶきつくないッスか ?
翌日の早朝、俺はいつもよりだいぶ早く目覚ましに起こされた。そこから支度をして急いで待ち合わせの場所に向かうとそこには道着をきた可憐な少女、円香がすでに待ち構えていた。
「おはようございます、せんぱい」
「ああ、おはよう」
軽く挨拶を済ませるとこれからの練習の予定を円に告げられた。どうやら俺が練習するのは面抜き面と呼ばれるカウンターの技らしい。それを一点集中で練習して相手の不意をつく。それが円香の狙いだと言っていた。
それから決戦の日までの一週間、面抜き面をひたすら練習してなんとか形にはなったものの、本当に不意をつかないと決まらないというくらいの出来だ。
こうして最後の練習が終わり、俺と円香は緊張感漂う中、本庄の家に向かっていた。会話はないもののなんとなくだが円香の心情はわかる気がした。多分だが罪悪感と期待と希望。その他諸々が混ざり合ってなんて声をかければいいのかわからないのであろう。
「せんぱい、頑張ってくださいね」
ただ一言、その一言だけで俺は頑張れるような気がした。俺の中にあった不安や緊張も一気に吹き飛ばされた。そして決戦の時がやってきた。
「逃げなかったんだな、円香にまとわりつく虫が」
「……」
「おい ! 何か言ったらどうなんだ ! 俺が話しかけているんだぞ ! この俺が ! 庶民に ! 虫に !」
「早くやりませんか ? 俺、このあと円香と待ち合わせしてるんスよ」
そう言うと本庄の顔は怒りと企みが混ざったような顔でニヤリとしていた。よほど自信があるんだろう、だがそう思われても仕方ない。
そして、ついに戦いの火蓋が切られようとしていた。素人目の俺でもわかるが本庄は本当に達人級なんだろう。そして達人から見れば俺が初心者だって一目でわかる。そうわかると奴はある提案をしてきた。
「おやおや、君もしかして初心者かな ? それだったら制限時間の10分いないに一本でも取ることができれば君の勝ちでいい」
「……わかった」
「それでは、はじめ !」
審判らしき男がそう言うと本庄は手加減をすることもなくいきなり本気で俺に襲いかかってきた。
「一本 ! 面あり」
「ははははは、君、本当に初心者じゃないか ! すまないが僕も手加減はできないんだ、恨まないでくれよ」
「そんなこと言っていたら足元すくわれますよ」
俺がそう言うと一瞬本庄はこいつ何言ってるんだ ? みたいな顔になったがすぐ気にしなくなったみたいで次々と俺から面、胴、小手。と一本を取っていく。そして試合はラスト30秒。仕掛けるなら次が最後のチャンス。
「ははは、これで終わりだな」
本庄がそう言って仕掛けてきた瞬間、俺が一週間死ぬ気で練習した全てを本庄に叩き込んだ。パシンという音が全体に広がり、周りは一体何が起きたのだろうという顔をしていた。もちろん本庄も例外ではない。
「い、一本、面あり」
「お、俺が負けた…… ? こんな素人に ? ありえないありえない、こんなこと許されるわけがない、認めないぞ」
「ありがとうございました、それじゃあ僕は帰らせていただきます」
俺が帰ろうとすると後ろから壊れたスピーカーのような怒鳴り声が鳴り響いているが何はともあれ勝ったのだ。過程はひどかったが結果は勝利。そして俺がカバンから携帯を出そうとすると俺のカバンの中には見慣れた1枚の手紙、指令書が入っていた。
内容はこのあと公園に来いと言った内容だった。
俺はまたか、なんて回りくどいんだろう。そんなことを思いながら公園に向かう。
「せんぱい、その様子だと勝ったんですね !」
「やっぱりお前だったか、円香、なんでこんな指令書なんて回りくどいことしてたんだ ?」
俺がそう問い詰めると円香は困り顔で何かを決心したかのように答えてくれた。
「やっぱり、バレちゃうッスよね、その節はどうもすみませんでした、そして本当にありがとうございます、今日の件も、あの時も……」
「…… ?」
あの時ってどの時だ ? 俺が円香と初めて会ったのは今年の4月。円香が入学式の日に遅刻しそうになっているところを見つけて、そのあと近道やらいろいろしてなんとか2人で間に合った時が俺と円香が初めて出会った出来事の気がするがそれ以外にも俺と円香はどこかで会っていたということだろうか ?
「ははは、せんぱい覚えてないッスよね、少し過去のことを話してもいいッスか ?」
「ああ、頼む」
俺がそう言ったあと、円香はゴホンと空気を切り替えるかのように一度だけ咳をして話し始めた。
「去年の冬、私、家出してたんスよ。しかもこの公園で変な人達に絡まれて、もういまにも連れていかれそうになった時にせんぱいが警察を連れてきてくれたんスよ、そのあともせんぱいがコートをくれたのを今でも覚えているッス。そっからせんぱいの学校とかいろいろ調べていまに至るってわけッスよ」
去年の冬……、あっ ! 俺そのくらいの時期に意識朦朧としてて、コートとか無くした日があったような気がする。まさかその時に円香とあっていたなんて思わなかった。
「そういうことッス、ここで私とせんぱいは初めてあったんスよ、せんぱいは覚えてないと思うッスけど」
「すまない」
「いやいや、いいッスよ、それより4つ目の指令、聞いてもらってもいいッスか ?」
恐る恐る顔を真っ赤にしてまどかはそう聞いてきた。雰囲気的に最後の指令っぽいがこの後もまだあるのだろうか ?
「ん、俺にできることなら」
「じゃ、じゃあせんぱい、4つ目の指令ッス、私と付き合ってくれないッスか ?」
まどかが顔を真っ赤にしていた理由がわかった。そしてその全力の問いに俺は断る理由もない。いつからかきっと俺も円香を意識していたんだろう。
「お、俺でいいのなら」
「ありがとうッス ! もう私せんぱいにメロメロッスよ、メロメロでエロエロッス ! 逃さないッスから、覚悟してほしいッス !」
……はぁ、あの告白から10年が経ったのか。俺も円香いまやすっかり社会人だ。俺がなぜ今こんなことを思い出しているのかというと、それは今日、最後の指令書が俺の弁当に入っていたからだ。今日の18:00時に10年前のあの公園、俺と円香が初めて会った思い出の公園。そこに呼び出された。まぁ、もうそろそろだと思っていたし、アレも買ったし俺の準備は完了した。
仕事が終わった後、俺は急いで約束の場所へ向かう。全速力で息を切らしながら走って向かうとそこには俺の彼女、円香がもうすでにいた。少し遠目から見てみると1人で何かをつぶやいた後、よし ! と気合いを入れるように自分の顔を叩いていた。
「はぁ、はぁ、円香、待たせてごめん」
「別にいいッスよ、せんぱい、それと今日は何の日かわかるッスか ?」
「10年記念日だろ ?」
「正解ッス、せんぱい、最後の指令です、私と……」
こういうのは普通は男から言うもんだ。俺はそう思い円香が全て言い切る前にこの日のために買っておいたアレを出した。
「せんぱい……これって !」
「円香、結婚してくれ」
円香の顔はぐしゃぐしゃになって、声にもならない声で答えた。
「はいッス、よろしくお願いします」
そう答えた後、円香は再び泣き続け、会話にもならなかった、本当になだめるのが大変だ。今日も、10年前のあの時も。彼女はずっと変わらない。
翌日、また俺のカバンには脅迫状もとい指令書が入っていた。内容は
『えっちな本を買ってこい』
初の短編でどうしたらいいかよくわからなかったけどなんとか完成できました。
私のすきなッス娘をヒロインにできたので満足です。次は百合物をかけたらいいなと思います。
感想や批判、評価などお願い致します。