「「この世界を否定する」」
空を見上げる。
そこにあるのは、夜の帳がおろされた、一面の闇。
光り輝く星ぼしが、その闇に彩を飾っている。
綺麗だ。
後数時間もすれば、夜も明ける。
今日は天気も良いし、雲も無いから、ブルーモーメントが見られるだろう。
とても、綺麗なのだろう。
心からそう思う。
本当に、心から、そう思っている。
だけど、綺麗だと思う反面、心の奥底で俺は、あの空を否定している。
何時、何処で、どの空を見上げても、あの空は本物にしか見えない。
だから、否定する。
あの空を肯定することは、この世界を肯定することと同義だから。
だから、否定する。
俺はこの世界を認めない。
俺はこの世界を受け入れない。
俺は、この世界を……
「私の可愛い××。貴方はなんて可哀想なんでしょう」
そこは、真白な部屋だった。
少しの汚れも見当たらない全面一色な壁と床。
クイーンサイズのベッドに、清潔感あふれるシーツ。
その全てが真白な部屋。
故に目に付くのは、その真白の中にある唯一の異物。
他には何もない室内の、唯一のベッドに横たわる人間。
痛々しいほどの白い肌に、色の抜けた長い白髪。
この白しかない部屋に、まるで溶け込むかのように白いその人間。
その頭部に、頭を覆い隠すような形をした機械が装着されている。
頭を覆う機械とそれに繋がる膨大な量のコード。
そのコードの先は床にある接続口にのびている。
機械からは、一定間隔で音が放たれており、時間の流れを感じられない真白の部屋で、唯一時を刻んでいる。
「私の大切な××。その世界は如何ですか」
その人間は、雪のようだった。
ベッドに眠る人間と同じ、痛々しいほどの白い肌、色の抜けた長い白髪、そして、凍てつくような鋭さを持った銀灰色の瞳。
何もかもが白く、そして冷たい。
ただ、その声色だけが、熱を持っていた。
「私の愛する××。それは、その世界は、貴方のものです。貴方だけのものなんですよ」
その顔に現れるは無表情。
何の感情も浮かんではいない。
しかし、その瞳は雄弁にモノを語っている。
親愛と呼ぶには甘く、敬愛と呼ぶには柔らかく、恋愛と呼ぶには盲目な、そんな複雑な色を持った感情。
「私の半身××。貴方はその世界では神も同義。その世界の全ては貴方のもの。その世界の全ては貴方の思うがまま」
機械に覆われていない、新雪の如き白いその頬に、似通った白魚のように白く細い手を添える。
頭部にある異物が無かったならば、まるで一枚の絵画のような美しい光景であっただろう。
「あぁ、私だけの××。私も早くそちらに行きたい。その瞳に私を写した貴方に会いたい。私の名を呼び、私に微笑みかける貴方に会いたい。この世界では、もう叶わないけれど、その世界では叶う、私のただ一つの願い。だから、貴方が居ないこの世界なんて……」
悲しきかな。
同じ時、同じ重さで放たれた、その同じ言葉は、しかし、全く逆の願いを込められて、霧散した。
俺は、この世界を否定する。
私は、"この"世界を否定する。