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WARS OF BLOOD  作者: K.O
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第一章 開戦

「もうすぐ日没だけど、準備はいいかい? ミリアちゃん」

 正四郎は街で一番高い建物の屋上に立ち、沈みかかっている夕日を見つめながら、隣に立つミリアに声をかけた。

 ミリアは両目を閉じ、腕を左右いっぱいに広げた姿勢で立っていた。

「はい、大丈夫です! 街の中ならどこにいたって察知できます!」

 ミリアは正四郎の問いにはきはきとした口調で答える。その間姿勢を全く崩さない。

 彼女は超能力者、先天的に固有の能力を持って生まれ、それを発現させたものである。

 彼女の能力『天空戦線スカイライン』は大気を操る。戦闘、探知、移動とその用途は多岐にわたり、効果範囲は半径数十キロに及ぶという破格の能力である。

 彼女は今支配した空気に自分の触覚をリンクさせ、町全体に探知の網を広げているのだ。集中を要する能力ではないが、姿勢を崩してしまうと建物や物体の位置を把握しなおさなければならなくなる。

「本当に、『天空戦線スカイライン』を全力で使っちゃってもいいんですか……?」

 ふと、ミリアは不安げな口調で正四郎に尋ねた。

「心配ないよ。この街にテロリストが潜伏してるって偽の勧告を出させたからね、君の全力を出してしまって問題ない」

 正四郎は優しく笑って言った。

「そう、ですか」

 ミリアはほっとしたように、しかしまだ不安そうに言った。

 彼女の力は強力すぎて、まだ幼いミリアの手に余った。探知や防御ならともかく、攻撃に使えば必ず周りを傷つけてしまうのだ。

彼女はそれを恐れていた。自分は必要なことをしているのだと割り切ってしまえばいいのだが、幼く心優しい彼女にはそれはできなかった。

「大丈夫だよ。その気持ちを忘れない限り、君は誰も傷つけないさ。君は君のやるべきことをやるんだ」

 正四郎はミリアのそんな心情を読み取って、見かけにそぐわない、大人びた笑みを浮かべて言った。幼い子供を戦場に引っ張り出すこと自体が間違いであるとは、言わない。

「はい、わかりました。弱音吐いちゃって、すみません」

 ミリアは正四郎の言葉で、ひとまず不安が晴れたようで力強い声で答えた。

「ふふ、その意気だよ、ミリアちゃん。手が空いている君以外に銃弾を完全に防げるものはいなかったからね、魔弾の射手と戦うには、君が必要だったんだ」

 魔弾の射手の銃弾は必ず当たる。銃弾を避けたり、当たる前に弾く能力を持つ人間は数多くいるが、体に当たる直前で止められる人間はミリアを含めて数人しか正四郎は知らない。

「必要だなんて、そんな……あ、ありがとうございます!」

 必要だ、という言葉が嬉しかったのか声を弾ませる。

「ふふ」

 彼女の返答に正四郎はただ笑う。うまくいったと。

 


「……! 来ました!」

 直後、ミリアはびくりと背を震わせ、閉じていた目を見開いた。

 すでに日は落ちている。

 隠れ家からはい出てきた吸血鬼たちが空気の網に引っ掛かったのだ。しかし、その数は事前に来ていた数からは全くかけ離れていた。

「あれ? 百? 二百!? 確か四人って……!?」

 完全に予想外な事態にミリアは混乱し、態勢を大きく崩す。

「落ち着くんだ、ミリアちゃん! 探知を続けてくれ、一番小さくて離れた所にいるやつを探すんだ!」

 正四郎は動揺するミリアに叫ぶように指示し、自分は眼下の町を見渡す。

 正四郎の目にも、道路にありえないほどの速度で人影があふれていくのがはっきりと視認できた。そればかりか、かなりの高度差があるはずなのに激しい腐臭までが漂ってきた。

「ヴィクターの仕業だな……まさかこんなやり方で来るとは……!」

 正四郎は数とたちこめる腐臭から、人影の正体を吸血鬼のなり損ない、ゾンビだと判断する。そしてこれが、街に潜伏する吸血鬼の一人、ヴィクター・ウォードの仕業だということを。

 ヴィクターがどこからか大量のゾンビを呼び出し、物量で敵を押しつぶす戦法を得意とすることは知っていたが、これほどの数で、これほど大胆に攻撃してくるとは想定していなかった。

「千や二千じゃきかないな、これは」

 そうしているうちにもゾンビはわきでるように数を増やしていく。すでに万を超えているかもしれない。

「これだけの人間を殺してきたってことか」

 眼下に広がる惨状に正四郎は冷淡な声で呟く。その瞳に哀れみや怒りの色はない。死神の性質から、この惨状がここでない場所で起こったとき、現実にどのような影響が及ぼすか判断し、殺しの優先度を変動させただけである。

「見つけました! すぐに飛びます、つかまってください!」

 真横からミリアの甲高い声が飛んできた。

 その声で、正四郎の思考は現実に戻る。

 今、自分が殺すべきは魔弾であり、ヴィクターではない。彼を倒すべきはジョージたちである。自分の仕事は、人間相手に絶対的な強さを誇る魔弾の射手と戦い、彼らがヴィクターを含む吸血鬼たちと戦いやすくすることである。自分の性質に振り回され、やるべきことを見失ってはいけない。

「うん、わかった」

 葛藤していたことをおくびにも出さず、正四郎はミリアの手を握る。

「じゃ、行きますよー!」

 ミリアは大きく目を見開き深呼吸し、床を蹴って跳び上がった。直後、周囲の空気が渦を巻き、ミリア、そしてその手を握る正四郎を中心にして回転し始める。

 二人は跳び上がったまま、地に足が着くことなく宙に浮かんでいる。『天空戦線スカイライン』の能力の一つ、空気の固定である。

「さあ、目標までひとっとびです!」

 ミリアが叫ぶと同時に、二人の背後で空気が収縮し--------一気に爆発する! すさまじい空気の奔流が、二人を巻き込み、驚異的なスピードで直進する!

 目指すは標的、魔弾の射手。




 


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