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ちゃっかちゃっかの門番さん

 今日も聖剣守さんは、剣をハンカチーフで磨いた後、のんびりと雲を見ながら椅子に座っています。

 すると遠くの方から、ちゃかちゃか、と金属がこすれ合う音が聞こえてきます。


「あ、門番さんだ」


 その音が聞こえた途端、聖剣守さんは嬉しそうに椅子から降りると、門に触れるほど近くに寄ります。

 門の先は、大きな街道になっていて、そこを馬車や旅人が通って行きます。

 ときどき、聖剣守さんの事を不思議そうに見る人が居ます。ですがそういう人は、周りの人から聖剣守さんが聖剣守さんだと教えられ、納得して立ち去っていきます。

 聖剣守さんが待っているのは、馬車を使う人や旅人ではありません。

 では誰を待っているのかというと。

 王との方から、ちゃかちゃか、と一定の調子で音を出している人です。

 段々と、ちゃかちゃか、という音が、ちゃっかちゃっか、と大きく聞こえてきます。

 そうして音の主が現れます。

 それは聖剣守さんよりも、ずっと背の高い、金属製の兜と鎧を身に付けた、大柄な男の兵士さんでした。


「こんにちは、門番さん。また挑戦しに来たんでしょ」

「いつも出迎えありがとう、聖剣守さん。また挑戦しに来たよ」


 聖剣守さんはその兜で顔が見えない兵士さんと顔見知りなのでしょう、親しげに挨拶を交わすと、門の扉を開けてあげます。


「では、これは何時ものお布施だよ」

「毎回、お金渡さなくてもいいんだよ?」

「決まりごとは、守るのが兵士であり門番の、自分の務めだからね」


 そう言って、兵士さんは銀貨を一枚、聖剣守さんの小さな手のひらの上に置きます。

 聖剣守さんは、少しだけしぶしぶと、その銀貨を洋服のポケットの中に入れました。

 そして聖剣守さんは道案内をするように、先頭に立って、あのコケだらけの台座に刺さった、綺麗な剣の場所へと案内していきます。

 あの剣がある場所に続くけもの道。

 大柄な兵士さんは、鎧の端を木の枝に引っ掛けられたりして、ちゃっかちゃっか、と音を立てながら、聖剣守さんの後ろをついていきます。


「聖剣さま、兵士さんが挑戦にきましたよ」

「聖剣さま。相変わらずのお美しさですな」


 聖剣守さんに続いて、兵士さんもそう声を掛けます。

 すると懲りずにまた来たのかと言いたげに、剣の柄に埋められた薄緑色の玉が、控えめにキラリと木漏れ日を反射しました。


「では兵士さん、いつもの通りにタオルで手を拭いてくださいね」

「ああ、いつもの通りに、手を綺麗にしてから挑戦しないとな」


 聖剣守さんがバスケットから取り出した、綺麗に選択された安物のタオルで、兵士さんは手を綺麗に拭いていきます。


「ちゃんとキレイになりましたね」

「ああ、ちゃんと綺麗になった。聖剣さま、どうでしょう?」


 そうして綺麗になった手を、台座に刺さった剣に見せるようにして開きます。

 すると不承不承返事をするかのように、また木漏れ日が玉に反射しました。


「聖剣さまのおゆるしが出たので、兵士さんは挑戦してみてください」

「うむ。では聖剣さま、柄をお触りいたします」


 兵士さんは剣に歩み寄ります。

 そして両手で剣の柄を持ち、ぐっと力を入れて、台座から引き抜こうとし始めました。

 しかし確りと台座に刺さっているからか、剣は少しも動く素ぶりを見せません。


「……ふぬ……ふぬぬ……ふんぬぬぬ……」


 最初は黙って剣を引き抜こうとしていた兵士さんですが、段々とその口から男らしい野太いうなり声が漏れてきました。

 そんな様子を、聖剣守さんはハラハラと見つめています。


「ふんぬがあああああああ!」


 とうとう兵士さんが剣を抜こうと、大声を出してしまいました。

 すると突然、剣の刃が光を放ちました。

 そして上の方から太い枝が落ちてきて、兵士さんの頭に直撃しました。

 くわんっ、と良い音が周りに響きます。でも兜をかぶっていたので、兵士さんに怪我はなく無事でした。


「おおっと、いけないいけない。またやってしまった」

「もう兵士さん。抜くときは静かにしないと、聖剣さまが怒るっていつも言っているのに」

「すまない、すまない。なにせ、熱中するとその事しか頭になくなってしまう性格なのだ」

「分かっているなら、直したほうがいいですよ」


 剣も聖剣守さんの言葉と同じことを思ったかのように、柄の玉がキラキラリと光を反射します。

 その事に、兵士さんは申し訳なさそうな表情を浮かべて、頬を指で軽くかいています。


「性格の事は置いておいて、今日も聖剣さまを抜けなかった。また来月、挑戦しにこよう」


 剣はその兵士さんの言葉に、迷惑だと言っているかのように、刃をギラリと光らせます。

 いっぽうで、聖剣守さんは兵士さんに不思議そうな目を向けています。


「兵士さんは、なんども挑戦するよね。普通の人は、一度抜けなかったら諦めちゃうのに」

「趣味のようなものだ。諦めなければ、いつか抜けるかもしれない」

「聖剣さまは、そんな優しい剣じゃ――ひゃわ、ご、ごめんなさい!」


 ついうっかり失言してしまった聖剣守さんの目に、剣の刃から反射した光が直撃します。

 それを受けて聖剣守さんは、顔を青くして剣に向かって謝りました。

 そんな聖剣守さんをみて、兵士さんは笑い声をあげます。


「あはは。聖剣さまに気に入られているな。それは実に良い」

「うぅ、気に入られているのかなぁ……」


 窺うように聖剣守さんが剣に目を向けると、用が終わったら早く帰れと言っているように、剣の刃がギラギラと光っています。


「お、おじゃましました。ほら、兵士さんも早く帰ろう!」

「お、おい。背中を押さないでくれ。では、聖剣さま、また来月に」


 そうして二人は、台座に刺さった剣がある場所から、門の扉へと戻ってきました。


「もう、兵士さんたら、聖剣さまをいつも怒らせるんだから」

「あはは、すまない。いつも、ついうっかり」


 

「それじゃあ、兵士さん。また来月に。でもいつまで挑戦するの?」

「ああ、また来月。君の任期が切れるまで毎月だな」


 そうして二人は別れました。

 兵士さんは王都の方へと向かって街道を歩いていきます。

 聖剣守さんは、また門の近くの椅子に座って、また誰か来ないかを空を見ながら過ごします。

 今日はもう誰も来なくなったので、聖剣守さんは小屋へ戻って、食事をして寝てしまいました。






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