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聖剣守さんの一日

 王都近くの森の聖剣守さんは、森にある聖剣を見守る為に、一人で森の小屋に住んでいます。


「はふぅ~、おはようございますぅ~」


 小屋の中のベッドから身体を起こして、眠そうに目をしばしばさせているこの少女が、王都近くの森の聖剣守さんです。

 先ず起きて聖剣守さんがすることは、伸びたくすんだ茶色の後ろ髪を下手な三つ編みでくくること。

 そして寝巻から洋服に着替えて、洗面器に水を張ってから、顔をバシャバシャと音を立てて洗います。

 お給料で買った銅の手鏡に映る、鼻の上にあるそばかすをきにしながら、顔や髪におかしな部分がないかを確かめます。


「今日も、ごはんは、きっと、おいしいぞ~♪」


 薪に火を入れ、オーブンを温めている間に、パンをバスケットから取り出します。

 聖剣守さんの顔ほどもあるパンを、温めたオーブンの中に入れて焼きながら。その余熱でナイフを温めて置きます。

 オーブンから良い匂いがしてきたら、木のお椀に入れられたバターに、温めたナイフを入れて必要分取り出します。

 そしてオーブンから出したパンに、バターを気前よく多く塗りつけて、がぶっと一噛み。


「んぅ~、おいひぃ~♪」


 行儀悪くパンを食べながら、萎れてない野菜でサラダを作ります。

 自家製のドレッシングを振り、木のフォークで突き刺して、パンと交互に食べます。

 

「満腹満腹。お昼ごはんを作っちゃおう」


 食べきれずに半分食べ残したパンに切れ目を入れて、そこに野菜と薄切りベーコンをはさんで、サンドイッチに。

 それを綺麗な布で巻いて、バスケットに押し込むと、小屋の外へと出ます。

 まず目に飛び込んでくるのは、とてもとても高い塀。

 聖剣守さんじゃなくて、大きい大人の人でも手が天辺に届かないほどで、森の木々よりも高いです。

 この塀は他の動物や魔物が入って来れないように、ぐるっと森を囲んでいるので、右を見ても左を見ても塀が見えます。

 そんな塀に囲まれた森の中を、聖剣守さんは歩いていきます。

 歩いているのは、けもの道のような、雑草が生えてないだけのむき出しの土の道です。

 気にせずに聖剣守さんは歩き続けると、急に開けた場所に出ました。

 森がその場所だけ円形にくり抜かれたようなその場所に、一本の剣が台座に刺さった姿であります。

 台座はコケで緑色なのに、刺さっている剣は昨日突き刺したばかりのように、金色の装飾や銀色の刃の部分にくもりや汚れ一つありません。


「聖剣さま。ご機嫌いかがですか?」


 聖剣守さんが、そう剣の事を聖剣と呼びつつ言葉を掛けると、剣の柄に埋められた薄緑色の玉がきらりと光りを返します。


「そうですか。お変わりありませんか」


 おそらく木漏れ日が反射しただけなのに、聖剣守さんは律義にもそんな言葉をかけます。

 そして昼食が入ったバスケットを地面に置くと、剣と台座の周りに落ちている葉っぱや枝を拾って、この開けた場所を綺麗にしはじめます。

 その様子を見て剣が喜んでいるかのように、木漏れ日をキラキラと柄の玉が反射しています。


「ふぅ、少し綺麗になった。じゃあえっと、台座を綺麗にしたいんですけれど」


 下草の上に落ち葉も枝も無い事を見た聖剣守さんは、そう剣に言葉を掛けます。

 すると今度は光が刃の部分に反射したのか、ギラリと聖剣守さんの顔に光が掛かりました。


「ひぅ。台座も綺麗にした方が、はぅ、もっとお美しく、ひゃぅ、えのその、はうぅ」


 ギラギラと顔に刃の光が掛かるたびに、聖剣守さんは悲鳴を上げながら、そう剣に語りかけ続けます。

 しかし刃全体が一度大きくギラギラリと光ると、聖剣守さんは急に口に手を当てて黙ってしまいました。

 そのままもう一言も喋らないと体で示していると、日が雲に隠れたのか、ゆっくりと光が弱まって行きます。

 そこでホッと聖剣守さんがため息を吐きだすと、急に近くの木の上から、大きめな枝が落ちてきて、危うく当たりそうになりました。

 顔を青くした聖剣守さんは、黙ったまま許してほしいと言いたげに、ペコペコと剣に頭を下げ続けます。

 そのまま剣の光が弱まると、今度はまた玉の方がキラリと光ります。


「は、はい。お身体をお拭きしますね」


 聖剣守さんはその光に急かされる様に、バスケットの中から綺麗な袋を取り出し。

 さらにその中に入れられた、カイコのマユから作られるシルクのハンカチーフを取り出します。

 それは聖剣守さんが身に着けている服なんかとは、比べる事も出来ないほどに滑らかな手触りです。

 例えば聖剣守さんが気をつけないと、危うく落としてしまいそうに、滑らかなのです。


「し、失礼いたします」


 シルクのハンカチーフに皺を寄せないように気をつけながら、聖剣守さんは怖々と剣の刃の部分を磨いていきます。

 聖剣守さんの優しい手つきが気に入ったかのように、柄の玉はキラキラと綺麗な光を返します。

 しかしうっかりと聖剣守さんの指が、ハンカチーフから外れて刃に触れると、途端にギラリと刃が光ります。


「も、もうしわけありません~」


 ぎゅっと目をつぶって謝罪した聖剣守さん。

 そして怖々と目を開けて剣を確認すると、続きを催促するかのように柄の玉がキラキラしています。


「は、はい。お拭きしますね」


 そうして刃の部分を終わると。続いて鍔や持ち手の部分を拭き始めます。

 一通り、台座以外の場所を拭き終えてみても、元々あまり汚れてはいないようで、ハンカチーフは白いままです。


「はふ~、終わりました~。聖剣さま、拭き残しとかありませんか~?」


 聖剣守さんが袖で額に浮かんだ汗を拭いながら、剣に尋ねます。

 すると、少しだけ間が空いた後で、剣と台座に木漏れ日が強く差し込みました。

 光に照らされて、剣に施された綺麗な装飾と、磨かれてくもりのない刃が、より一層輝きを増します。

 その姿を絵に描き写せば、確かに聖剣と題名をつけたくなるほどの、神々しさがあります。


「あの、その、挑戦者が来なければ、また明日来ますね」


 聖剣守さんが『挑戦者』と言った途端に、あの瞬間が奇跡だったかのように、その輝きは急に無くなってしまいました。

 するともう、柄の玉も銀色の刃も光を返さず、ただの剣だった事を思い出したかのように、静かにコケで覆われた台座に刺さったままになってしまいました。

 聖剣守さんは、ハンカチーフを袋に入れ、その袋をバスケットに入れ、そのバスケットを持ち上げます。

 そしてけもの道のような通路に入る前に、一度剣に頭を下げてから、来た道を戻って行きます。

 そうして小屋の前まで戻ってきたのですが、小屋には入らずにそのまま真っ直ぐに進みます。

 小屋からのびるその道は、小石を埋めて作った、歩きやすい道です。

 そんな道を歩き続けると、段々と高い塀がもっと高くなって見えていきます。

 やがて聖剣守さんが見上げると首が痛くなるほどの高さに塀が見える。つまりは、塀の一角に最も近づくと、そこには大きな金属製の格子の、両開きの扉があります。

 聖剣守さんそんな門の近くに置いてある、自然の木の姿を利用しながらも、確りと飴色に輝く立派で背もたれつきの椅子に座ります。

 足が地に着かないので、ぷらぷらと動かしながら、斜め上を見上げて空の雲が動くのを見続けます。


「今日は誰か、挑戦する人がくるのかな~?」


 ぼんやりと雲を観察しながら、暇そうに一人椅子に座る聖剣守さん。

 しかしバスケットの中のお昼ごはんを食べても、日が夕日に変わっても、今日は誰も来ませんでした。


「さってと、お家に帰ろうっと」


 ぴょんっと椅子から飛び降りた聖剣守さんは、道を進んで小屋へと戻ってきました。

 そうして晩ごはんを自分で作って食べて、剣を拭いたハンカチーフを優しくゆっくりと洗って干し、干してあった別のハンカチーフを袋に入れてバスケットに。

 忘れた事がないかを確認してから、寝間着に着替えて、聖剣守さんはベッドの中に入ってしまいます。

 そうすると直ぐに寝息がしてきて、聖剣守さんは直ぐに夢の中へと旅立ったのでした。





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