ひかりふわふわ
「光を食べたい」
「は?」
思わず変な声が出た。
この子の話は、いつも唐突すぎる。
「どういうこと?」
「だから、光をむしゃむしゃごっくん、って感じで、食べたいな~と……」
えへへ、と意味不明な事を発した張本人は、頭を掻きつつ照れ笑いをする。
……いやいやいや。
「えっと……あんた眩しがり屋だったっけ?」
「え?ううん。違うよ?」
きょとんとこちらを見つめる。
違うのか。てっきり眩しくて光が嫌いだから無くしてしまおうと思って、そんな発言に至ったのかと思った。
そのままたっぷり数十秒見つめあう。
ついにこちらが折れた。両手を挙げてまいった、と降参の意を示しつつ、ため息を盛大に吐く。
「ごめん。私は平々凡々の普通の人間の思考しか出来ないので、悪いけどそんな私にも分かりやす~く説明してもらえないかな?」
「なんで怒ってる口調なの?」
「凡人ゆえの嫉妬だよ。はい、3、2、1キュー!」
開始の合図として、手を鳴らす。
「えへへ……えっとぉ」
その意図をくみ取ってくれたらしく、素早く姿勢を正す。
しかも、ちゃっかり右手でマイクを持つふりまでしてる。
さぁスピーチ開始。一体どんな奇っ怪な理由が飛び出すことやら……。
「光って、温かそうだなぁ……って」
沈黙。
「……だけ?」
「だけ!」
うん。理解不能。
簡潔に理由を述べたご本人は、瞳を輝かせ、光を目で追い求めるように空を見る。
「ふわふわしてて、あったかくて……なんだか甘そうでしょ?」
雲か、とつっこんだら、雲はあったかくないもん!と反論された。ソーデスカ。
「でもさぁ、光食べちゃったら無くなっちゃうよ?そしたらどーすんのさ」
「え?そんなの簡単だよ」
その次の言葉に、目を見開いた。
「作ればいーじゃん!!」
作れるかっ!!とつっこめば良かったんだけど、なんだかこの子らしくて笑ってしまった。
無いなら作れば良いなんて、子供らしい単純な発想は、きっとこの子にしか出来ないだろうから。
「どーしたの?」
笑われるとは思っていなかったらしく、怪訝そうな顔をする。
光を食べる、か。
いいかもしれない。
まだ眉をひそめている顔を、じっと見つめる。
と、綿菓子のようになった光を口いっぱいに頬張っている姿を想像し、盛大に吹き出してしまった。
だけど、まぁ。うん。
とりあえず、凡人には理解できない思考だなぁ。
私もお腹が空いた時、いっそのことひかりを食べちゃえればいいのに、と思ったことがあります。
優しい味がしそうですよね。