伍 会話
「何してんだ?」
[パー…パー、トナーに連絡とれないかなって再確認]
「その携帯、完全に沈黙してるように見えるんだが、俺の気のせいか?」
[沈黙? どゆコト?]
「とりあえず形式上お前の言う通りにクロ子と呼ぶが、クロ子は携帯買ってもらったばかりなのか?」
[ずっと前から持ってたけど、普段は通信機があるから携帯電話って使わないのよ]
「通信機?」
[あの、アレよ。迎えに来てくれる…えー…妹とのプライベート回線があるのよ]
「どこかのご令嬢か何かでございますか?」
[ま、まぁそんなトコよ]
「しかしその妹に連絡できないんじゃ、どうしたって迎えに来てもらえないんじゃないか?」
[あたしのカラダ…携帯にGPSを仕込んでてね。あたしの帰りが遅いと迎えに来てくれるのよ]
「…よく迷子になるんだな。そうでなければそんな物付けられないよな」
[うるさいっ! 子供扱いしないで!]
「あっぶねぇ…急に暴れるなよ、ベンチがひっくり返るところだったぞ」
[あんたが悪いんでしょ]
「あんたあんたって、ちゃんと名前は言っただろ?」
[ツバキ、だっけ? 別にいいじゃない。小さいコトばっか気にしてると器の小さい男になるわよ]
「こいつ…」
[ねぇねぇ]
「ん?」
[チョココロネ食べないの?]
「急に食欲が失せてな。なんでだろうな? なぁ?」
[あたしがわかるハズないじゃない]
「本当に、こいつ…」
[いらないんなら、あたしが貰ってあげようか?]
「欲しいならそう言えよ。パンのひとつやふたつ、いくらでもやるよ」
[じゃ、仕方ないからあたしが食べひぇはへふへ]
「口に物を入れながら喋らない」
[ふぁーい]
「いい天気だな」
[もにもに]
「風が涼しくて、でも日差しは暖かくて、草や土の香りがして」
[もにもに]
「制服に拘束されてないなら、もっと気持ちよかったんだろうなぁ」
[もにもに]
「……」
[もにもっ…あ!]
「なんだ、どうかしたのか?」
[あたしが買ったのよりチョコが多い気がする]
「どこまでもどうでもいい上に、驚愕した点の度合いがあまりに小さすぎる」
[もにもに]
「…はぁ」
[もにもっ…!]
「奇妙な租借音で感情を表現しない」
[パールー!]
「真珠?」
[ごちそうさま。アレがあたしのお迎えよ]
「やっと解放されるのか」
[なんか言った?!]
「特にこれといって何も」