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11/4 忘れた訳じゃない




「……そーゆー事言ってると、また調教おしおきするよ?」


 くすくすくす。

 闇夜に薔薇色の瞳を煌めかせて、イルが愉しげに微笑む。

 

「……」


 そんなイルを睨むだけに留め、らちがあかないと視線を外しかけたフィルは、更に体重をかけられた腹傷に呻いて唇を噛み。否応無く目を合わせさせられる。


「本当に、フィル君って自分の立場をわかってないよねぇ〜♪」

「……っ、い、っから……いいっ加減に、足を」



 退けろーーなんて言葉は、すぃと開かれたその薔薇色に阻まれる。

 相変わらず、顔に貼り付けられているのは胡散臭い微笑み。

 だが、その目だけは微笑んで(わらって)おらず、何処までも何処までも冷たい、氷のソレが宿っている。


 此奴チェーイールーの言動や行動が「読めない」のは何時もの事だが、今回の事に関するチェーイールーの行動原理のアテが全くないフィルには、それこそ訳がわからない。


 その事が分かっているのだろう。

 開いていた目を閉じいつもの糸目でにっこりとすると、踵で抉っていた腹傷から足を離し今度はそれを撃ち抜かれた腕に変え、イルは微かに前倒しながら呟いた。


「僕としては別に、誰がどうなろうと、どうでもいい事なんだけどね?」


 疑問形にしているが、完全に肯定されているイルの言葉に、みしりと音を立てる腕の悲鳴を聞きながら、フィルはその顔を見上げる。

 先と変わらず笑みを貼り付けたその表情。そこから何かを読み取るのは長年共いても尚、難しい事で。

 ただただ見上げてくるフィルに、イルはくすりと呟いた。


「そう、たとえフィル君が無鉄砲に突っ込んで、負傷し(ミスっ)て死にかけたとしても、ね」


 小首を傾げ可愛らしくそういうが、腕にかかる負荷が可愛くなどない事を伝える。


「けどーー、『七護守り』もとい『創詠・継承者』の事に関しては、そうも言ってられないんだよねぇ」


 不本意だけどと呟きながら。フィル君だってわかるでしょう? という目線を向けて続ける。


「過去の過ち、忘れた訳じゃないでしょ? ねぇ?」


 当事者と言っても過言じゃないもんねぇ〜? と告げてくるその微笑みに、フィルは苦虫を噛み潰したような顔をする。



 今より遥か昔。

 永い長い闇を抜け、漸く……いや、なんとか七護守りとしての一歩を踏み出したフィルは。

 近づき深く添い過ぎた為に、あってはならない過ちを犯した。


 心優しき継承者は、囚われの身となり。

 その継承者の護守りであった守人は、翻弄されて狂気にのまれ。


 狂い堕ちた継承者と護守りを「止める」為。


 力を無理矢理呼び覚まし、町を一つ消滅させて。


 残りの護守り全員で、二人を世界から「葬った」。

 何処へともいけはせぬ、遥か彼方に。



「……っ」


 何時まで経っても癒えはしない、イタい所を抉り出されて。顔を顰めたまま何も言えなくなったフィルを、静かにイルは見下ろし。


「君は最強じゃない。そんな事、言わなくてもわかってるでしょ?」


 僕に勝てた事一度もないんだからね、と付け足して。


「もう少し彼女の護守りなんだって、自覚を持った方がいいんじゃないかなぁ? ーー君達は「近すぎる」。そんな状態でフィル君に何かあれば当然、堕ちるのは彼女だよね」


 また、自らの手で。

 愛しい人を殺めたいの?


 イルの言わんとしている事が分かってしまって、二の句が継げずフィルは唇を噛む。



 護守りとしてまだまだ若く。

 あまりにも無知だった。


 ただ、側で二人の幸せを。

 見ていられたら、それだけでよかった。


 その時は、

 そんな事になるなんて、思ってなかった。

 そんなつもりは全くなかった。



 だが事態は引き起こされ、最悪の結果だけが、深く深く刻み込まれた。



「……忘れた訳じゃない」


 自分が情けなくて、自嘲の笑みが溢れる。


 近づき過ぎている事も。

 深入りし過ぎている事も。


 わかってる。わかってるんだ。

 嫌と言う程。


 だけどーー、

 遠くから、陰ながら守るだけなんて、出来ない。出来るわけなかった。



 出会った(あの)時、互いが互いを求めたから。



 側で守ると永遠様に誓った。

 悲劇を繰り返さない為にも。


 今度こそ。



「っ」

「……(くすっ)」


 僅かに、その蒼の瞳に強いいろが戻る。

 その事に幾らかの納得をしたのか、イルはくすりと音を立てて笑み。

 理解くらいは出来たみたいだね、と前置きして。


「僕の手を煩わせるーー、なぁんて事に、ならなきゃイイよ。もとより僕は「彼女」に手を、貸すつもりはないんだからね」


 そう告げてフィルの腕から足を離すと、くるりと踵を返してヒラリと手を振るイル。

 解放されてゆっくりと身体を起こしたフィルは面倒臭さそうな目を向けたまま、はぁと一つため息を吐いた。




 フィルとイルの一部始終を、見るとも聞くともなしに傍観していたラタリアは。


 99.9%が、揺るぎない自身イルの為だとしても。

 たった0.1%だったとしても、少なからず仲間フィルの身を、案じているのだろう事が。


 あのイルから、ひと匙でも読み取れた。


 その事に驚き微かに紫水晶の瞳を瞬いてから。

 ほんの少しだろうとも、変化があるのは喜ばしい事だと、ラタリアは溢れる嬉しさにその目を柔らかに細めたのだった。

イルの変化はいい事なのか、それとも


ちまちまでも、頑張って進めよう、ともがいてみたり(苦笑)

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