7/19 夜8時 子供たち会議
お母さんが、珍しく早めに寝ると、二階の寝室に上がっていった。
だが、誰も早々に寝るとは思っていない。
今日は仕方ない。
それはわかってる。
自分達にとってもたぶん特別な日だろうけど、お母さんにとっては、物凄く辛く切ない日だから。
お父さんが、いなくなった日。
何もこんな日に、いなくならなくてもいいと思う。
開店前日とか、あり得ないよね……
なんとなく嫌な雰囲気になって、私がふぅとため息を付くと、そんな雰囲気を吹き飛ばすかのように、海お姉ちゃんが帳簿とにらめっこしている陸お姉ちゃんに問いかけた。
「……なぁ、陸姉」
「……何よ」
「……ちょっとしたギモンなんだけどさぁ」
「……だから何よ?」
帳簿からは目を離さず、相槌を打つ陸お姉ちゃんに、海お姉ちゃんはとんでもない事を口走った。
「……オカン、いつまであの容姿なんやと思う?」
「ばっ……!」
慌てて海お姉ちゃんの口を塞ぐ陸お姉ちゃん。
お母さんはいないけど、きょろきょろ辺りを見回して、深々ため息を付く陸お姉ちゃん。
「……こんな時に、いきなり何言い出すのよっ!?」
「だって気になるじゃん? オカン、いい加減良い年なんだし。何時までも二十代前半に見られる容姿ってさぁ。……あたし等、それひーてるんじゃねーの、とかさぁ」
「……わ、若く見られるのは……、いい事なんじゃ、ないかなぁ……?」
突然の事に驚きながら、苦笑混じりに私がそう返すと、ぐりんっと此方に顔を向けて、海お姉ちゃんがニヤリと不敵に笑って言ってくる。
「四十になっても、五十になっても、六十になっても今と同じ容姿でも、そんな事が言えるかぁ〜? もしくは、五、六十になったらいきなり老け込んだとしても……」
「っ!? むっ……無理無理無理ぃ〜〜っ!!」
海お姉ちゃんの言葉に、ついついそうなった時の事を想像してしまって、ぶんぶん首を振って慌てて否定する。
さ、流石にそれは……ちょっと……ね?
「…………でも……、活き活きと働いてる女性は……何時までも若い……って説がある……」
と、今までソファの端で黙っていた渚が、ポツリと告げる。
「……それはまぁ、……一理あるわね」
渚の呟きに、顎に手を添え頷く陸お姉ちゃん。
「えぇ? なンそれっ!? ……どゆ事さ、陸姉?」
一人、納得した顔の陸お姉ちゃんに、海お姉ちゃんが慌てて聞き返す。
これには流石の私も興味津々で身を乗り出し、耳を立てる。
「……いかに敏感に、視線を察知するか。まぁ、意識の問題でしょうけど、〈見られてる〉意識を、どこまで伸ばせるか、どこまで努力出来るか、でしょうね」
「??? 陸姉……もーちょい、分かりやすく言ってくれん?」
「えぇと……? だからつまり……」
陸お姉ちゃんが言った事を、必死に噛み砕こうとする海お姉ちゃんと私。
「気の持ちようもあるでしょうけど……、ようはどれだけ自分を磨けるか、よ。〈こうありたい〉とか〈こう見られたい〉とか目標に向かって努力することによって、何時までも若々しく、輝いていられるって事」
「つまり……オカンは輝く事に努力してるから若々しい、と?」
「……確かに、見られてるって意識するだけでも、良く見られるように、って努力はするよね……。お化粧したり、とか……」
うんうん唸りながらなんとか答えを導き出す私達に、まぁ少なからず、遺伝ってのもあるにはあるんだけどね、と陸お姉ちゃんは呟いて、
「……女は、化ける生き物なのよ」
くすり、笑って言うのでした……。
しんみりするのを吹き飛ばす為に出た話題が、思わぬ方向に流れた今日この頃でした……。
気になるそれとか(笑)
子供たちだけ話