7/19 夕方 始まりの音
トンカン、トンカン、トンカンカン
小雨の降る中、浜辺に軽快に釘を打つ音が響く。
明日のオープンに向けての、最後の仕上げに取りかかっているのだ。
塩害で傷んだ壁は綺麗に修復され、一年使われていなかった海の家は、ピッカピカに磨き上げられていて、もう何時でもお客さんを迎えられる状態になっていた。
皆で頑張った成果である。
料理の方も、危機からは脱したのか、何処からか帰ってきた海お姉ちゃんの顔は晴々としていて、いつもの倍の速度でメニューが決まっていった程だった。
だけど、忘れちゃいけないのが最後の大トリ。
これがなくっちゃ、〈海の家ARIKAアリカ〉は始まらない。
「そっち押さえて〜」
「あいよ〜♪」
「…………曲がってる」
「えぇっ!?」
「あら本当。もう少し、右斜め上……かしら?」
釘を打つ音に混じって、ワイワイとした皆の声が聞こえる。
盛り上がった白浜の上にちょこんと座り、その音と声に耳を傾けながら、汐はにっこりと頬を緩ませる。
始まりを告げる、この瞬間がとっても好きだ。
何かが始まる直前は、もうワクワクが止まらない。
楽しくて嬉しくて、走り出して行ってしまいそうで。
これから始まる、目も回るような忙しさの事を思うと、ちょっと憂鬱になるかもしれないけど。
その忙しさすら、楽しいのだから仕方がない。
まだ、母親や姉達程は、忙しい訳ではないけれど。
忙しく働いてる、お母さんを見るのが好き。
口煩く注意しながらも、さりげなくフォロー出来る陸お姉ちゃんが好き。
しんどいーと言いながらも、きちっとやりきっちゃう海お姉ちゃんが好き。
いつも笑顔でお客さん達をテキパキと捌いていく、空お姉ちゃんが好き。
海で、そして気付かれない所で頑張る、渚お姉ちゃんが好き。
キラキラを振り撒いて、働くお母さんやお姉ちゃん達は、とっても素敵。
早く自分も、そうなりたいと思う。
でもまだ、そんな皆を傍らでただ見ていたい、と思う自分もいる。
皆と居られて、素敵な皆を見ていられるのが、とっても好きなのだ。
「――っしゃ! こんなモン、かなっ♪」
と、最後にひとつ、力強いひと打ちが響き渡り。
完成の余韻が、周囲を満たす。
「わぁっ!」
汐はそれを、くりくりの栗色の瞳をキラキラさせて見上げる。
何もなかった海の家に、大きな大きな看板が掲げられていた。
海の家ARIKA〜アリカ〜
大好きな人の名を背負った、大事な大事な看板が。
「出来た、ね」
「…………うん」
「完成ね」
「やーっぱり、コレがないとねぇ〜♪」
「さぁーてと! 明日から、いそがっしくなるわよぅ〜?」
感慨にふける子供達に、母太陽が悪戯っぽくにやりと告げる。
しかし、それに子供達は「望むところ!」としっかり頷いて。
手を差し出し組み上げて、六人で円陣を作ると、
「それじゃあ明日に向けて――、頑張るぞ――!!」
『お――――っ!!』
太陽の掛け声に促され、声を上げて、皆で一斉に手を頭上へと振り上げた――……
海の家ARIKA〜アリカ〜
二十日朝九時、開店です!
チラシ配りあんまりしてませんが、(苦笑)たぶん皆来てくれるハズ!
皆さん遊びに来てやってください♪