ご挨拶
ピンポーン、と呼び鈴をならす。
するとはーい! という返事と共に、パタパタと此方に近付いてくる足音が聞こえる。
「どなた〜?」
なんだかわかって言っているその声に、苦笑が溢れる。が、陸に肘でつつかれ、はっとして姿勢を正し告げる。
「こんばんわ。ご挨拶が遅れまして申し訳ありません。夏休みの期間限定で、海の家ARIKAアリカに越してきました、青空と申します。短い期間ですが、宜しくお願いいたします」
そう言ってペコリ、とお辞儀する私同様、付いてきた子供達も頭を下げる。
それにまぁどうもご丁寧に〜と色素の薄いふわふわの栗毛を揺らしてお辞儀を返す相手様。
そのまま暫し待つ、が。
「ふふっ」
「あはは」
笑みが溢れて互いに頭を上げ、その手を取る。
「あーやちゃん久し振り〜! 元気だった?」
「うん、元気よ〜。太陽ちゃんも、元気そうで安心した。あ、ちょっと待ってね〜」
にっこりとしてあーやちゃんはそう言って、奥に向かって声をかける。
「陸ちゃん達、来たわよ〜」
「え、本当?」
「どこどこ?」
その声に、わっと周囲が一気に騒がしくなる。
それについつい、苦笑が浮かぶ。
うん、子供はやっぱり元気なのが一番ね〜。
「あ、ホントだ」
「総出かよ」
「! 汐姉!」
三人出てきた内のプラチナブロンドの幼女が、ウチの末っ子の名を呼びパタパタと駆け寄る。
「セリちゃん久し振り! 元気してた?」
それに笑顔で答え、芹香ちゃんをぎゅうとする汐。
「ご無沙汰してます、彩夏さん」
陸がペコリと頭を下げ、
「おぅ、ガキ共! 元気してたかぁ?」
「久し振りだね、千秋くん、鎮くん」
「…………久し振り」
海、空、渚がそれぞれ挨拶する。
「うわ、海姉変わってねぇ」
「ここじゃなんだし、上がってく?」
そんな三人に面倒くさげに鎮君。にこやかに千秋君。
うんうん、男の子ってなんかいいわ〜。まぁ、ウチんトコは海が、そんな感ではあるけど。
一人くらい、男の子がよかったわぁ。
「うぅん。私達は、ホントにちょっと挨拶に来ただけなの。まだまだ、やる事いっぱいあるし」
千秋君の申し出に、すまなさそうな表情の空。
「そう? でもここじゃなんだし、外出よっか」
「だな」
そう言って、千秋君と鎮君、芹香ちゃん達と海、空、渚、汐が玄関の外へ。
私は久し振りな彩夏ちゃんとお喋りに花を咲かせる。陸がこっちに残ってるのは、たぶん、ハメを外しすぎないよう私を見張る為、でしょうね。しっかりするようになったものだわ。
「……それで? 今年もやっぱり夏期限定?」
「たぶん、そうだと思う」
「いい加減、落ちつきゃいーのに」
「あたし等に言われてもねぇ〜?」
「…………無理」
各々喋っている合間で、汐と芹香ちゃんのきゃははという楽しそうな声が聞こえる。
「私を待たせるなんていい度胸ね汐姉! ぐるぐるの刑なんだから!」
「え、わっ? あはははは〜」
なんだかとっても楽しそう。随分仲良くなったものだ。
『……で。美女コン出る気ない?』
と。
いきなりの、鎮君千秋君から爆弾投下。
「……あ、あはは」
それに困ったように苦笑する空。
「………………」
じと〜っと、渚は二人を見やり。
「あ〜! それ、おじさんに禁止って言われたじゃん!」
「……美女コン?」
それにいけないんだ、と芹香ちゃんが声を上げ、汐が小首を傾げる。
「あのおっさん、今年も張り切ってんのかよ。……!」
あははっと笑ってそう言った海だったが、途端にニヤリとした笑みを浮かべ……
鎮君と千秋君をぐわしと両脇に抱え込み、
「わっ?」
「えっ?」
驚く二人を余所に、ニヤリとしたままこそこそと小声で囁く。
「んじゃお前ら、ウチんトコでバイトしな♪ ま、給料は出ねぇけど、昼夜のメシくらいは出せるぜぇ? 海ちゃん特製賄いメシ。……空くらいなら、なんとか上手く言って参加させてやんよ〜?」
にしし笑う海。なんだかとっても悪そうな事を話しているような。
「俺達のリスク、デカくねぇ?」
「いいじゃ〜ん? 勤労しなよ、青少年♪」
「……か、考えさせてください……」
ま、強制はしねぇよ? とニヤニヤしたまま言って海は二人を離し。
「…………海姉」
「っと。忘れるトコだった」
じっと手元を見やって呟く渚に、ああ、と気が付いたように海。
「はい。これ」
言って持っていた紙袋を差し出す。
「なに?」
受け取りつつ問う千秋君に、ニヤリとして告げる。
「引っ越し祝い。海ちゃん特製お赤飯〜♪」
「ご飯の時にでも食べてね」
にっこりと空がそう言っている間に、海がこっちに声をよこす。
「オカン! あたし等もう帰るからね!」
まったくもう。海にはもうちょっと、空の女の子らしさを見習ってほしいもんだわ。ま、アレも個性だけど。
「海の家オープンのチラシ入ってるから、ついでに宣伝しといてね〜?」
あっはっはと言いながら海が歩き出し。
「もぅ、海お姉ちゃんってば。それじゃ鎮君千秋君、お邪魔しました。お母さんに宜しくね」
ぺこり、礼儀正しくお辞儀して、その後を空がワンピースの裾を翻して追いかけ。
「…………お邪魔しました。汐、行くよ」
「あ、うん!」
会釈してぽそりと渚が告げ、それに汐が返事を返す。
「それじゃセリちゃんまたね。セリちゃんも、家に遊びに来てくれたら嬉しいな」
「仕方ないから、たまになら行ってあげてもいいわよ?」
にっこりそう言う汐に、芹香ちゃんが可愛らしい返事を返す。
「鎮お兄ちゃん千秋お兄ちゃん、お邪魔しました。それじゃ、おやすみなさ〜い」
次に傍らにいた鎮君千秋君にぺこりんとお辞儀し挨拶して、ひらひらと芹香ちゃんに手を振って、パタパタと栗色の髪を揺らしながら汐が渚の元へと駆けていく。
よしよし。皆ちゃんと挨拶出来て偉いわ。ま、合格点をあげられるのは空と汐だけだけど。
さて、私もそろそろ、おいとましましょうかしらね〜。
あーやちゃんにまた来る等の事を約束し、太陽ならびに陸は、家への帰路につくのだった。
ご近所様にご挨拶〜
とにあ様のURONA・あ・らかるとより、鎮君千秋君、芹香ちゃんあーやさん借りてます
おかしな点等ありましたら、ご連絡くださいませ
※ご指摘頂きました点、修正致しました
失礼致しました