チラシ配り!1
手始めに、ということで。
いきなり、北の森近くで、降ろされる汐と、汐の目付け役に任命された渚。
母太陽と長女陸は、塩害によって傷んだ木造の海の家とその隣にある借家の壁を張り替える為、そのままワゴンで木材店に行くようで。
次女海は試作品作りに勤しんでいて、三女空は、(ジャンケンで)それを味見出来る権利を獲得したので、一緒に家にいる。
頑張って、配って来て
そう言われ汐は嬉々として、渚は無言で、便乗した訳なのだが。
(……いきなりここは、ないと思う……)
胸中で呟き、はぁとため息を吐く渚。
なんで北の森? と首を傾げたくなるが、あの母の事だ。そう深く考えてはいないだろう。
なんで手始めが、人気の無さそうな所なのか。
冒険心があるのは結構だが、それは自分で体感してほしいものだ。
母親の気まぐれも、困ったものである。
はぁ、と二度目のため息を吐く渚を余所に、汐はなんと森の中を、ずんずんと進んでいく。
「…………なんで、森? あっちに建物、ある……」
るるんっとウキウキで前を進む汐の肩を捕まえ、建物の方を指差しつつ、訝しげに渚がそう訊ねるが、
「だいじょ〜ぶ、だよ!」
にこにこしたまま、汐がそう言う。
(………………)
根拠はないのだと、思いたい。だが、そう思えないのも、また事実。
汐がにこにこした(こーゆー)顔をしている時は、大抵〈あの力〉絡みなのだから。
汐が言うには、物にもキラキラがあって、物の周りもキラキラしている事が多いんだそう。
だけど、キラキラを一番強く発しているのは人間で、汐的には他のものより随分と見やすいんだとか。
私には、わからないけれど。
でも、そんな汐が「だいじょ〜ぶ」といっているのだから、たぶん、誰かは、いるんだろう。
今日は生憎の曇り空で、暑い。こんな時は一日中海に潜っていたいけど、そんな勇気は私にはない。
陸姉の、カミナリを受ける勇気は。
そんなモノを受けるより、自分の仕事とお手伝いを、キチンとしていた方がずっといい。
陸姉のカミナリのせいで海に潜れなくなるのも、発明品を作れなくなるのも、どっちも嫌だから。
たまにそれを好んで受けようとする、男どもの気が知れない。
「……!」
物思いにふけっていたせいで、また汐が先に行ってしまっている。
ここまで来てしまっては流石に諦めるしかないので、渋々その後を追う。
木々のお陰で影になり、道端より若干涼しいような気もするが、こんな曇りの暑い日では、逆に湿度が高い気がして、なんとなくベタつき感を覚える。
「…………(うー)」
ベタつきの嫌な感じを覚えつつ、早く済ませて帰ろうと、歩みを早めるが、ガサリ、という音にびくっとする。
(…………な、なに……?)
立ち止まってそろり、と視線を走らせる。
(…………何か、近付いて来てる…………?)
ドキドキ、心臓の鼓動が高鳴る。そんな時に限って、嫌な噂話が脳裏に過る。
北の森って、幽霊出るらしいよ
それを思い出した途端、直ぐ側でガサッという物音。そして見える、白いモノと二つの赤い光。
「ひっ!?」
上擦った声が出る。
幽霊、なんてそんなヒカガク的なモノ、いる訳がないのに。
「わぁっ! きれ〜い」
「!?」
と、汐がその白くて赤いモノに、歓声を上げて駆け寄っていく。
止めようとするが、身体が強張っていていうことをきかない。
その間に汐はその白くて赤いモノの側にたどり着くと、にこにこと何かを話してその手を取り、チラシを渡していた。
…………ん? 手を取り……?
汐の行動を疑問に思い、ぱちくりと目をしばたいて、もう一度眼前を見やる、と。
「……あ、あの……何か驚かせてしまったみたいで、ごめんなさい……?」
その白くて赤いモノ――白い髪に白のワンピースで赤い瞳の女性――は、おずおずといった感じで謝ってきた。
――人だった。
その後、うろな家という所に行って、なんだかやたらはっきり思ったことを言ってくる子と、その子を注意したキヨちゃんと呼ばれている人と、黒と白のパーカーを着た、たぶん双子の子達に会った気がするが、渚の記憶は彼方だった。
渚ちゃん、怖がり(笑)
桜月りま様のユキちゃん
煙花よもぎ様のうろな家の方々をちらりとお借りしました