10/11〜12深夜 夢の外
※うろな町外話
「……それではフィル、お願いしますね」
闇も深まる時分。そう言ってきっちりシーリングで封のされた封書を、爆睡していたフィルを起こして、そっと差し出すラタリア。
神殿の紋を冠した、神官からの重要書。
「おうよ。俺様の名にかけて、きっちりばっちり届けてやるぜ」
重要書だといえども、ばっちり覚醒したフィルはいつものように飄々と告げ。そんなフィルに苦笑するラタリア。
「表側からは神官(私)が、裏側からは、助力くださった者達と郵便屋(貴方達)の方から出来るだけ押さえてみますが、何処までで、何時までもつかはわかりません。それに、フィルの方にも個別に追っ手が掛かる可能性がありますし」
道中、充分にお気をつけてと気遣うラタリアに、苦笑してフィル。
「俺様の心配より、自分の心配しろってんだよ。〈連れ戻されたら〉、真っ先に暗殺さ(ヤら)れんのラタリア(お前)だぞ?」
護衛は置いてくけどな、と呟くフィルに笑みを返す。
「私だってそう簡単に、ヤられてやる気などありませんよ。元老院に灸を据えるには調度良い機会ですし、あれらにもいい加減、解らせなければならないでしょう?」
にっこり、微笑み告げるラタリア。
「〈誰〉を、相手にしているのか。それに――、青空家の方々を、あまり怒らせない方が良い、という事をね」
「そりゃま、そーだよなぁ。なんせ太陽さん達だからなぁ〜。わからなくもねーけど」
またなんで? と訊ねるフィルに、くすりと笑ってラタリアは呟く。
「知らないというのは、本当に恐ろしいものですね。神殿が、国や各諸国からの援助金、それに個人からの寄付金によって成り立っている、というのはわかりますよね?」
「うん? あぁ、まぁそんくらいはな」
神殿預りの援助金でまかなわれてる、孤児院で世話になってんだからな〜と呟くフィルに、頷いて続けるラタリア。
「国や各諸国からの援助金など微々たるモノですし、情勢が良い、とは何処もまだ言い切れませんからね。援助金も、いつ途絶えるかわかりませんし。個人からの寄付金も同様で、此方は安定して、という訳ではないですしね」
「まぁ、個人からの寄付なんて、そん時そん時のモンだしなぁ」
「ですが、フィル。そんな不安定な状態だというのに孤児院でも神殿でも、不自由した覚えなどありませんよね?」
「!」
そうラタリアに言われて、はっとするフィル。
「……おいおい、まさか……」
驚いた表情で呟くフィルに、尚もにこりとしたままラタリアは告げる。
「毎月、私持ちの口座に二千万。年間にして二億四千――。場所は様々ですが、滞りなく振り込まれています。振込前日には私宛てで必ず、〈花マルのような太陽〉が描かれた封書が届くのですよ」
この意味、フィルならばわかりますね? とにっこりした顔をするラタリアに、ニヤリとした不敵な笑みを浮かべるフィル。
「ケケッ。さっすが所在さんだな、抜け目ねぇ〜! ま、これでいざって時も安心って訳だ」
そーと決まれば善は急げ、だ。と呟いて、よっとベットから立ち上がり。
「ジジィどもの、慌てふためく顔が見れねーのはちと残念だが、仕方ねぇ。変わりに、存分に暴れてくるとすっかなぁ〜」
呟いて入ってきた時同様に、ひょいっと窓枠に飛び乗るフィル。そんなフィルに、
「……暴れるのは勝手ですが、殺生はいけませんよ?」
東の国は殺生事には厳しいですから、などというラタリアの呟きに、転けそうになるフィル。慌てて体勢を立て直し、くるーりと後方を振り返って告げる。
「ジジィども(向こう)は、(邪魔する奴は)完っ璧に、殺る気満々で来ると思うんだが」
「でもいけません」
「ラタリア(お前)だって危ねぇんだぞ?」
「わかっています。ですが、殺生はダメです」
にっこり笑ってやんわりと言っているが、それには抗えない強制力があり。
ラタリアは聖職者だし(聖職者じゃなくてもだが)、言いたい事はわからないでもない。しかし、(どんな手を使ってでも連れ戻そうと)来る者をただ追い返しているだけでは、埒があかない。じゃあどーすんだよ、堂々巡りじゃねーかよー、とぼやくフィルに、ラタリアはとっても綺麗な微笑みを向けて。
「そうですね。――では、こうしましょうか」
と、前置きして。
綺麗な微笑みはそのままに、とんでもない事を言ってのけた。
「生け捕りにして箱にでも詰めて、神殿に送還してください。――元老院の前に直接、引き摺り出して差し上げますよ」
ふふっ、楽しくなりそうですね。と本当に楽しそうに笑うその笑みが黒い。
しかしそれに、やっぱこーでなくっちゃなぁ、とフィルは呟きニヤリとその口角を上げて、互いの無事を祈ってから、そっと窓から姿を消した。
夜の暗がりに鳥の羽ばたき音が一つ、静かに響き渡るのだった。
「これ以上はもう待てぬ! それに神官はただの飾り。我らがその意を、律儀に聞く必要などないっ!」
装飾過多な、豪奢に飾り立てられているその部屋に、一つ声が響く。
神殿の奥。隣接するように建てられている、元老院達の居区。老院内の一室。
数名の者共が集まり、ひそひそと何事か話し合っていた。
「神の声を聞くとはいえ、やはり神官はただの飾り。神殿には――」
「否。元老院(我ら)には」
「元老院には」
声が続き重なる。
「真なる主導者が、〈継承者〉が必要なのじゃ!」
「そうじゃ! 元老院の所にこそ――、〈継承者〉が、真なる主導者が必要なのじゃ!」
そうだそうだ、と周りから声が上がる。
しかし、そこに否定的な声が一つ上がる。
「しかし無理に連れ戻したとして、素直にゆうことを聞くとは思えんが」
その声にざわざわと周囲がざわめき、一時非難的な視線が交錯し合う中、暫ししてから一つ落ち着いた声が発せられる。
「それは最もなことじゃが、なに、そう心配する事でもない」
言いながら、互いの顔もわからぬような仄灯りしかない薄闇の中、数人が囲むテーブル上に、コトリと一つの香壺が置かれる。
「これは?」
訝しげなその声に、悠然とした穏やかな声が響く。
「〈傀儡香〉、という香じゃよ。そうじゃな、一週間、一定量嗅がせると、その者を意のままに操れるようになるのじゃよ。まぁ、これを使うは最終じゃがの。――相手は子供。どうとでもやりようはあるわい」
ほっほっほ。
仄灯りしかない薄闇に、不気味な笑い声が響くのだった。
傀儡香なんて、何処で手に入れてくるんでしょうね(苦笑)
物騒になってまいりました〜
ちょっとここらで、暫くストップかもです