表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/373

10/11〜12深夜 夢の外


※うろな町外話






「……それではフィル、お願いしますね」


 闇も深まる時分。そう言ってきっちりシーリングで封のされた封書を、爆睡していたフィルを起こして、そっと差し出すラタリア。


 神殿の紋を冠した、神官からの重要書。


「おうよ。俺様の名にかけて、きっちりばっちり届けてやるぜ」


 重要書だといえども、ばっちり覚醒したフィルはいつものように飄々と告げ。そんなフィルに苦笑するラタリア。


「表側からは神官(私)が、裏側からは、助力くださった者達と郵便屋(貴方達)の方から出来るだけ押さえてみますが、何処までで、何時までもつかはわかりません。それに、フィルの方にも個別に追っ手が掛かる可能性がありますし」


 道中、充分にお気をつけてと気遣うラタリアに、苦笑してフィル。


「俺様の心配より、自分(てめぇ)の心配しろってんだよ。〈連れ戻されたら〉、真っ先に暗殺さ(ヤら)れんのラタリア(お前)だぞ?」


 護衛は置いてくけどな、と呟くフィルに笑みを返す。


「私だってそう簡単に、ヤられてやる気などありませんよ。元老院(あれら)に灸を据えるには調度良い機会ですし、あれらにもいい加減、解らせなければならないでしょう?」


 にっこり、微笑み告げるラタリア。


「〈誰〉を、相手にしているのか。それに――、青空家の方々を、あまり怒らせない方が良い、という事をね」

「そりゃま、そーだよなぁ。なんせ太陽(ひかり)さん達だからなぁ〜。わからなくもねーけど」


 またなんで? と訊ねるフィルに、くすりと笑ってラタリアは呟く。


「知らないというのは、本当に恐ろしいものですね。神殿(ここ)が、国や各諸国からの援助金、それに個人からの寄付金によって成り立っている、というのはわかりますよね?」

「うん? あぁ、まぁそんくらいはな」


 神殿預りの援助金でまかなわれてる、孤児院で世話になってんだからな〜と呟くフィルに、頷いて続けるラタリア。


「国や各諸国からの援助金など微々たるモノですし、情勢が良い、とは何処もまだ言い切れませんからね。援助金(それ)も、いつ途絶えるかわかりませんし。個人からの寄付金も同様で、此方は安定して、という訳ではないですしね」

「まぁ、個人からの寄付なんて、そん時そん時のモンだしなぁ」

「ですが、フィル。そんな不安定な状態だというのに孤児院でも神殿でも、不自由した覚えなどありませんよね?」

「!」


 そうラタリアに言われて、はっとするフィル。


「……おいおい、まさか……」


 驚いた表情で呟くフィルに、尚もにこりとしたままラタリアは告げる。


「毎月、私持ちの口座に二千万。年間にして二億四千――。場所は様々ですが、滞りなく振り込まれています。振込前日には私宛てで必ず、〈花マルのような太陽〉が描かれた封書が届くのですよ」


 この意味、フィルならばわかりますね? とにっこりした顔をするラタリアに、ニヤリとした不敵な笑みを浮かべるフィル。


「ケケッ。さっすが所在(アリカ)さんだな、抜け目ねぇ〜! ま、これでいざって時も安心って訳だ」


 そーと決まれば善は急げ、だ。と呟いて、よっとベットから立ち上がり。


「ジジィどもの、慌てふためく顔が見れねーのはちと残念だが、仕方ねぇ。変わりに、存分に暴れてくるとすっかなぁ〜」


 呟いて入ってきた時同様に、ひょいっと窓枠に飛び乗るフィル。そんなフィルに、


「……暴れるのは勝手ですが、殺生はいけませんよ?」


 東の国は殺生事には厳しいですから、などというラタリアの呟きに、転けそうになるフィル。慌てて体勢を立て直し、くるーりと後方を振り返って告げる。


「ジジィども(向こう)は、(邪魔する奴は)完っ璧に、殺る気満々で来ると思うんだが」

「でもいけません」

「ラタリア(お前)だって危ねぇんだぞ?」

「わかっています。ですが、殺生はダメです」


 にっこり笑ってやんわりと言っているが、それには抗えない強制力があり。


 ラタリアは聖職者だし(聖職者じゃなくてもだが)、言いたい事はわからないでもない。しかし、(どんな手を使ってでも連れ戻そうと)来る者をただ追い返しているだけでは、埒があかない。じゃあどーすんだよ、堂々巡りじゃねーかよー、とぼやくフィルに、ラタリアはとっても綺麗な微笑みを向けて。


「そうですね。――では、こうしましょうか」


 と、前置きして。

 綺麗な微笑みはそのままに、とんでもない事を言ってのけた。


「生け捕りにして箱にでも詰めて、神殿(こちら)に送還してください。――元老院(あれら)の前に直接、引き摺り出して差し上げますよ」


 ふふっ、楽しくなりそうですね。と本当に楽しそうに笑うその笑みが黒い。

 しかしそれに、やっぱこーでなくっちゃなぁ、とフィルは呟きニヤリとその口角を上げて、互いの無事を祈ってから、そっと(そこ)から姿を消した。


 夜の暗がりに鳥の羽ばたき音が一つ、静かに響き渡るのだった。






「これ以上はもう待てぬ! それに神官(アレ)はただの飾り。我らがその意を、律儀に聞く必要などないっ!」


 装飾過多な、豪奢に飾り立てられているその部屋に、一つ声が響く。


 神殿の奥。隣接するように建てられている、元老院達の居区。老院内の一室。

 数名の者共が集まり、ひそひそと何事か話し合っていた。


「神の声を聞くとはいえ、やはり神官(アレ)はただの飾り。神殿には――」

「否。元老院(我ら)には」

「元老院には」


 声が続き重なる。


「真なる主導者が、〈継承者〉が必要なのじゃ!」

「そうじゃ! 元老院の所にこそ――、〈継承者〉が、真なる主導者が必要なのじゃ!」


 そうだそうだ、と周りから声が上がる。

 しかし、そこに否定的な声が一つ上がる。


「しかし無理に連れ戻したとして、素直にゆうことを聞くとは思えんが」


 その声にざわざわと周囲がざわめき、一時非難的な視線が交錯し合う中、暫ししてから一つ落ち着いた声が発せられる。


「それは最もなことじゃが、なに、そう心配する事でもない」


 言いながら、互いの顔もわからぬような仄灯りしかない薄闇の中、数人が囲むテーブル上に、コトリと一つの香壺が置かれる。


「これは?」


 訝しげなその声に、悠然とした穏やかな声が響く。


「〈傀儡香〉、という香じゃよ。そうじゃな、一週間、一定量嗅がせると、その者を意のままに操れるようになるのじゃよ。まぁ、これを使うは最終じゃがの。――相手は子供。どうとでもやりようはあるわい」


 ほっほっほ。

 仄灯りしかない薄闇に、不気味な笑い声が響くのだった。



傀儡香なんて、何処で手に入れてくるんでしょうね(苦笑)


物騒になってまいりました〜



ちょっとここらで、暫くストップかもです



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ