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(仮題)異世界に里帰り  作者: 吉田 修二
1章 神界にて(チュートリアル)
9/29

7 総合演習・3 緑肌の小人

 翌朝。目が覚めると、いつもの運勢指数が告げられた。


『おっはー。頑張ってる-?

 今日の運勢指数は……なんと30%。

 うーん、事故には気をつけた方がいいわよ?』


「じゃあ、ストック分を充当してくれ。20%」


『……ちっ、しっかりしてるわね。

 はいはい、20%分充当するわ。

 これで今日も普通の日。まあ、それなりに頑張れば?』


 サクラの思念が遠ざかると、すぐさまGMを確認する。


 残り時間から逆算すると、現在の時刻はおそらくは午前5時頃。

 昨日の吸い物の残りとパンで手早く朝食を済ませると、ポーチから一枚の紙を取り出す。

 至極大雑把ではあるが、昨日探索した部分の地図が描かれていた。



 昨日一日で、おおよそ森南部の探索は完了した。

 午後の探索でレベルも1つ上がり、魔術師のクラスは2つ、剣士のクラスは3つ、それぞれレベルが上がっている。


 また、虚空のポーチの他にも、布の袋に入ったポーションを見つけている。

 こちらの中身は緑色の『下級マナポーション』、青色の『下級スキルポーション』がそれぞれ5本ずつ。

 それぞれ、MP、SPを30ずつ回復する。

 かなり充実した内容だが、そのかわり、入っていたのはただの布袋だった。

 まあ、これはこれで役に立つこともあるだろう。


 ボスとの遭遇は果たしていない。

 やはり最奥部、地図上は入口から真っ直ぐ北に向かった地点が怪しい。



 さて、ボスの強さはどれほどだろうか。

 修行においては一切の妥協をしないツカサが、「修行の総まとめ」として設定したボスだ。

 おそらくは、今の俺が死力を尽くし、かろうじて勝てるかどうか、というレベルだろう。


 また、南部の魔物が、比較的弱かったことも気に掛かる。

 北部では、より厄介な魔物と遭遇する可能性もあるだろう。

 それを見越した上での、赤・青・緑の3種ポーションかも知れない。



 ともあれ、いつまでもここに留まっているわけにも行くまい。


 野営の後始末をした俺は、再び森の探索に向かった。





 探索を再開し、10分ほど経っただろうか。


 聞き慣れた鳥の声、獣の遠吠えに混じり、微かな異音が混じっていることに気づいた。


 異音、というより、異声、と呼んだ方が適切だろうか。

 朧気ながら、法則性を持った『声』のように感じられた。しかも、時折笑い声のような物まで聞こえてくる。

 一層警戒を強めながら、正体を確かめるため、声が聞こえてきた方向へと足を向けた。



 しばらく歩くと、肉の焼けるような匂いが漂ってくる。

 つまり、少なくとも『肉を焼いて食べる』だけの知能を持った存在と言うことだ。


 幸いにして、ここは森の中。遮蔽物は腐るほどある。

 木々に身を隠しながら、慎重に歩を進める。


 程なく、『それ』の姿が視認出来た。

 緑色の肌をした、小人だ。

 額には一本の角があり、まなじりは大きく裂け、口元から覗くのは人に似た乱杭歯。

 薄汚れた革鎧に身を包み、地面に座り込んで、串に刺した肉らしき物をさかんに口にしている。

 地べたに直接座り込み、傍らには錆の浮いたダガーが置かれていた。

 似たような恰好のもう一人――1匹か?――と、盛んに喋り、下品に笑い合う。

 距離が離れているせいもあるが、何を言っているのかさっぱり分からない。

 少なくとも、俺の知る言語――エルガイア共通語はもちろん、日本語、英語とも違う言葉のように思う。


 その容姿は、図鑑で見た覚えがある。

 念のため【初級鑑定】してみると、俺の知識が正しいことが裏付けられた。



種族名  :ゴブリン・ポーン

分類   :魔物

LV   :5

経験値  :220/375

状態   :健康

HP   :94.5/94.5

MP   :15/15

SP   :57/57

ATK  :14

DEF  :17.1



 ……やっぱりゴブリンか。

 エルガイアにおいては、『火、道具を使う知能を持った魔物』って扱いだ。

 中には知能の高いモノもいたり、ヒトに友好的なモノもいるらしいが、基本的には、ヒトを獲物としか見なしていない。


 ゴブリンはヒトと同じように社会を形成する。

 力による厳しい階級制が敷かれており、群れの長ともなればかなりの戦闘能力を有している。

 もっとも、今だらけきってるのは、単なる雑兵みたいだけど。


 ――状況確認は終了。

 さて、戦うか否か。


 この森は、俺の演習のためにツカサが創った物だ。

 ならばここに住む魔物もまた演習用の仮初めの存在。

 ならばすべて敵と見なして良いのかもしれない。


 それにあのゴブリンには、知性らしきものは感じられない。

 共通語が話せるかどうかすら不明だ。


 ――ならば戦って殺すか、あるいは迂回するべきか。


 ――またあるいは、会話でそれ以上の結果を求めてみるか。


 少し迷ったが、とりあえず話しかけてみることにした。

 木刀は構えず、腰に差しておく。


 わざと音を立てて近寄ると、ゴブリン達は即座に俺の存在に気づいた。

 傍らに置いていたダガーを掴み、こちらに向かって威嚇の唸り声を上げる。


「待ってくれ。こっちには敵意はない。森の奥に行きたいだけだ」


 口々に喚き始める。

 もちろん、何を言っているのかは分からないが――こちらを指さし、嘲笑っているように見える。


 一見すれば刃物を持っていないことに調子づいたんだろうか?

 にやにやと笑ったゴブリンは、俺に近づき、一気に飛びかかってきた。


「――やっぱ、こうなったか」


 呟き、腰に差していた木刀を抜き打ちにする。

 額を割られ、もがくゴブリンの首目掛けて木刀を振り下ろす。


 ごきり、という鈍い手応えが伝わってきた。


 もう1匹は唖然としていたが、すぐさま身を翻し、逃げようとする。

 力の差を感じ取り、仲間を呼ぼうとしているんだろう。


 【チャージ】を発動させる。走り始めていたゴブリン目掛け、自分で走るよりも速く突進する。

 繰り出した突きはゴブリンの頸椎を砕き、一撃で息の根を止めた。

 うーん、やっぱり剣技は強いな。



 ゴブリン達のドロップ品は、角とダガーだった。

 角は、どうやら討伐証明に使われるだけらしい。

 ダガーは……なぜか錆がなかったが、とりあえず投げナイフにでも使おうか。


 さて、この場で応援を呼ばれる心配は無くなったが……当然、こいつらだけで終わりじゃないよなぁ。

 2匹の上、こっちを舐めきってたからどうにかなったけど、もっと数が多くなると面倒だな。

 1匹2匹を相手取ってる間に、援軍を呼ばれたらちょっとマズイ。


 最低限の知性があるってことは、当然連携だってしてくるはずだ。

 魔術で先手を取れれば、1:5くらいならなんとかなるけど、真っ正面からだと1:3くらいが限度だな。

 スキルを使わずに一撃で倒すだけの腕があれば良いんだが……まあ、無い物ねだりしても仕方がない。

 持てる武器を有効に活用する手段を見出すべきだな。


 罠でも張るか? 

 ――いや、防衛戦ならまだしも、探索で罠張ってどうする。張ったところで動かなきゃならないんだから。


 援軍が厄介なんだから、全部避けて進むか?

 ――いや、いずれは避けられない戦闘があると考えるべきだ。

 そうなれば、最悪、今まで避けてきた群れがすべて襲いかかってくることも考えられる。

 やはり、見つけたら少しずつ潰していくのがベターだろう。



 一分ほど考えたが、


『【初級察知】を駆使して有利な位置取りと魔術による先制攻撃。倒しきれず、援軍を呼ばれたら、一旦引くしかない』


 という結論に達した。

 援軍を呼ぶタイミング、援軍が駆けつけるまでの速度、援軍の平均数によってはどうにかなるだろうが、データの無い今はとにかく慎重に行くべきだ。

 ここでは例外とは言え、エルガイアに行ったら「HP0=死」なんだから。



 探索を進めると、5匹ほどのゴブリンの群れがいた。

 もしかしたら、その中には会話の出来るやつもいるかもしれない――そう思いつつ、俺は【ファイア・ボール】を放ち、苦痛に悶えるゴブリン達を、一匹ずつ、着実に狩っていった。


 

 どれだけゴブリン達を殺してきたんだろうか。


 見かけるたびに魔法で先制、1匹ずつ狩る。

 もちろん、すべてがうまく行くわけじゃない。援軍を呼ばれることも何度かあった。


 二、三度は退却していたが、応援で来るのがせいぜい5匹くらいだということに気づくと、以後は構わず殲滅を目指すことにした。


 もちろん、いい加減無傷ではいられない。

 でも、ゴブリンから食らう攻撃はせいぜい僅かに肉を抉る程度だし、数秒もすればその傷も完全に消え去った。


 いつ休憩出来るか分からないから、できるだけ魔術やスキルは温存する。


 気がつけば、今まで2回攻撃しないと仕留めきれなかったのに、1回で済むようになっていたからだ。

 気がつかなかったが、おそらくレベルが上がったんだろう。


 何度目かの遭遇戦。これまでよりも多く、10匹はいる。

 その中で一匹だけ、肌の色が緑ではなく、青いモノが居た。

 【初級鑑定】する。



種族名  :ゴブリン・チーフ

分類   :魔物

LV   :10

経験値  :2200/2540

状態   :健康

HP   :188/188

MP   :47/47

SP   :106/106

ATK  :73.1

DEF  :34.3



 ……今の俺と同じレベル、かな?

 念のため、簡易ステータスで確認する。



LV   :10

経験値  :1940/2540

状態   :健康


HP   :211/211

MP   :81/202

SP   :57/183

ATK  :107.8

DEF  :39



 ステータスは俺の方が高いな。

 まあ、今のところレベルアップごとに全能力値+1になってるから、レベルが同じなら当然なんだけど。


 1対1なら負ける気はしないんだけど、取り巻きが邪魔だな。

 だが、チーフはともかく、取り巻きの攻撃は一桁ダメージに抑えられるだろう。


 いっそのこと、強引に突っ込むって手もあるが……


 ――いや、待てよ。これならなんとかなるかも。



 ゴブリン達目掛け、俺は【初級風魔術】の【スリープ・クラウド】を使った。


 灰色の雲が、チーフを中心として五匹ほどのゴブリンを包み込む。



 魔術とは、己が魔力を用い、周囲のマナに働きかける技術の総称だ。

 だが、これを他者に用いた場合、同じ術者が同じ術を使っても、相手によって効果が異なる。

 これは、生きとし生けるものが須く魔力を持ち、無意識の内に周囲のマナに働きかけているからだ。

 つまり、魔力が高い者は、魔術への高い抵抗力を持つ。

 場合によっては、攻撃魔術を無効化することも可能だろう。


 だが、術者側が、被術者側の魔力を上回っていた場合、被術者側はマナの変質を止められない。

 特に状態異常系の魔術の場合、かなりの確率で影響を受けてしまう。

 

 そして俺は、今のところ、レベルアップのたびに魔力値が上がっている。

 【初級鑑定】の結果を見た限り、チーフの魔力値は俺よりも遙かに下だ。

 かなりの確率で、成功が期待できる。



 予想したとおり、取り巻きはもちろん、チーフすら、抵抗失敗して倒れ伏す。


 突然の事態に驚き慌てるゴブリン達に、俺は容赦なくダガーを投げつける。

 何本かは外したが、幸か不幸か、拾ったダガーは腐るほどある。

 次から次へとポーチからダガーを取り出し、投げ続けた。

 チーフ達を必死に起こそうとしていたゴブリン達は、俺を仕留めるほうが先と認識したのか、武器を構えて向かってくる。


 チーフの取り巻きだけあって、今まで遭遇した奴らよりもレベルが高い。

 だが、投擲でHPを減らした者が大半だ。俺自身のレベルも上がり、攻撃力も上がっている。


 問題なく、一撃で屠っていく。


 残ったのは、未だ眠り続けるゴブリン達。

 取り巻き達の頸椎を容赦なく砕き、チーフにも一撃する。

 さすがはチーフと言うべきか、一撃だけでは殺しきれなかった。


 目を覚まし、周囲の惨状に気づいたチーフは、俺に向けて怒号を上げ、手に持った幅広の長刀で斬り付けてきた。

 斬撃には黒っぽい光がまとわりついている。


「スキル!? 【スラッシュ】か!」


 一瞬驚くが、正直、それはルファにさんざん見せられた。軌道も速度もお見通しだ。


 問題なく避け、【飛燕】発動。胴に一撃し、返す刀で頸椎を砕く。


 無念の呻きを上げ、今度こそチーフは死んだ。



 ドロップ品は、ポーンのものよりも大きな角と、手に持っていた幅広の剣。

 【初級鑑定】すると、ブロードソードと出た。

 ATKが20も上がる。少なくとも、木刀よりはマシな武器だ。


 迷ったが、剣技はともかく、剣の振り方は習っていない。

 データ上の数値よりも、使い慣れた武器の方がいいだろう。


 そう判断し、ブロードソードはリュックの中に入れた。

 ポーンのドロップ品、および投げつけたダガーも、見つけられる限り回収する。





 その後、僅かに開けた場所を見つけたので、休憩することにした。

 また簡易食料と水筒で昼食を済ませ、GMで残り時間を確認する。


 ――あと7時間。泣いても笑っても、それで演習は終わりだ。


 ちなみに、現在Pは823。

 チーフがボスなら1000を超えていたはずなので、アレはボスではなかったということらしい。


 まあ、終わってみれば結構余裕だったしな。さすがにそう甘くはないか。

 地図を確認すると、大部分が埋まっていた。



 ――おそらく、終了時間前には探索が終わるだろう。



本話終了時の能力値は、

筋力:24(+7)、体力:25(+7)、敏捷:25(+12)、

器用さ:23(+12)、知力:24(+10)、魔力:25(+10)

となります。


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