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(仮題)異世界に里帰り  作者: 吉田 修二
1章 神界にて(チュートリアル)
8/29

6 総合演習・2 修練の森

 まだ午前中だというのに、森の中は薄暗い。

 朝露を吸ったためか、踏みしめる地面は柔らかく、一歩大地を踏みしめるごとに、僅かずつ身体が沈み込む。

 遠くからは鳥の鳴き声が聞こえ、近くからは虫の声が聞こえる。


 そして、それ以外の『何か』の気配が、遠巻きに俺を観察しているのが感じ取れた。

 おそらくは獣、あるいは演習の対象となる、魔物の類だろう。


 慎重に歩を進める俺が身に付けた装備は、さすがに、これまでのようなジャージではない。

 「餞別の前渡し」とのことで、革製の装備品一式を身に付けている。


 背中には旅に役立つものが入っているというリュックを背負い、腰のベルトにはこれまで愛用してきた木刀と、刃渡り十五センチ程度のナイフが差し込まれている。

 獲物を捌いたり、近接戦での牽制に使え、と渡された。

 鑑定してみると、ATK+2程度の効果。

 なるほど、木刀以下の攻撃力じゃ、牽制程度にしか使えないわな。



 木々は不均等にそびえ、その形に法則性はない。

 だが、目印になるほど特徴的な形の木は無い。

 森歩きはもちろん、山歩きさえほとんど経験の無い俺では、適当に進んだところで迷うのは確実だろう。

 だから、時折木の幹を削り、「どの方向から来たか」を示す矢印を刻んでおいた。

 そしてリュックの中からメモ用の紙を取り出し、簡単に地図を描く。

 それが功を奏したのか、あるいはある程度進んだことが良かったのか、GMを確認すると、現在Pが23になっていた。



 目の前の茂みががさりと音を立てる。

 唐突に、というわけでもない。

 先ほどから、気配の一つが俺に近づき、隙を窺っているのは分かっていた。


 現れたのは、緑色の毛並みの犬だった。牙を剥き、こちらに向かって低く唸っている。


 慌てず騒がず、【初級鑑定】する。



種族名  :フォレストウルフ

分類   :魔物

LV   :1

経験値  :13/15

状態   :健康

HP   :84/84

MP   :9/9

SP   :33/33

ATK  :33.1

DEF  :26.8



 直訳すると、森狼。

 狼だったのか。……見た目は、ほとんど犬だな。


 ……うん。ステータスをぱっと見た限りでは、油断しない限り負けないだろう。


 木刀を抜き、正眼に構える。

 ほぼ同時に、森狼は地面を駆け、真っ直ぐに俺に迫り来る。


 やがてがばりと口を開き、飛びかかってきた。狙いは首元か。


 半身になって突撃を避け、同時に胴体目掛けて木刀を振り降ろす。


 「ギャン」と悲鳴を上げ、森狼は地面に叩き付けられた。


 その頭部目掛け、躊躇なく木刀を振り下ろす。


 ただの木刀であるはずのそれは、容易く森狼の頭部を砕く。


 びくり、と森狼の全身に震えが走り、やがて動かなくなった。





 初めて、自分の意志で生き物を殺した。


 胸に僅かな罪悪感が広がる。


 だが、こいつを生かすために、俺が死んでやる必要はまるで無い。


 正当化と言うにも憚られるような言い訳を自分自身にしていると、やがて森狼の死体は、宙に溶けるようにしてかき消え、その毛皮だけが残った。

 困惑したが、とりあえずは【初級鑑定】する。



アイテム名:森狼の毛皮

簡易説明 :魔物「フォレストウルフ」の毛皮。防寒・防滴性能小。売却可。



 ……つまり、いわゆるドロップ品ってことか?


 そう言えば、魔物は「負の想念を核とした存在」とか言ってたな。

 つまり、生物っぽい動きはするけど、生物そのものじゃないってことか?

 溶けるようにして消えたのは、核が破壊され、想念に戻ったから、ってところか。

 さすがファンタジー、なんて変に納得しながら、背負っていたリュックの中に毛皮を放り込む。



 ちなみにこのリュック、見た目は何の変哲も無い、古ぼけた革のリュックだが、RPGで言うところの「アイテムボックス」に相当するらしい。

 収納するときにはリュックの口を開いた状態で、収納物を手に取ると、勝手に収納される。

 取り出すときには収納アイテムの一覧が脳裏に浮かび、その中から取り出す物を思い浮かべて中を探れば、すぐさま手に触れる。容量は無限で、中にある限り劣化もしない。

 しかも、このリュック自体が亜空間の扉になっており、たとえ地方神でも傷つけることは出来ないとか。

 理屈は……聞いたけど、さっぱり分からなかった。


 要するに、これを背負ってさえいれば、背中の攻撃に関してはほとんど心配いらない、ってことだな。



 そんなことをぼうっと考えていたのが悪かったのか、気がつけば、三つほどの気配が近寄ってくる。

 動きのパターンと言い、大きさと言い、おそらくはさっきの森狼の仲間だろう。


 リュックの口を閉め、背負い、木刀を構えて待ち構える。


 果たして、茂みの奥からは、三匹の森狼が走り込んできた。


 森狼たちは幻惑するようにジグザグに走り、やがて三方向から飛びかかってくる。


 正面、右肩、左肩。悪くない連携だと思うけど、対処できないこともない。


 俺は【飛燕】を発動させ、正面の森狼目掛け木刀を振り下ろし、直後、一歩分右に動き、返す刀で右手側の森狼に振り上げる。


 二匹は吹き飛び、一匹の攻撃は回避できた。


 未だ無傷の一匹が地面に着地した直後、背中に向けて木刀を振り下ろし、地面に縫い付け、頭部を潰す。


 吹き飛び、痛みにもがいている二匹に走り寄り、同じように頭部を潰す。



 ふう、とため息を吐くと、前回のように森狼たちの死体は溶けるようにして消え、アイテムを残す。


 今度は爪と牙、尻尾だった。いずれも装飾品に使われるらしい。つまり、売却専用アイテムと。



 ――いや、しかし、真面目に修行しといて良かった。


 森狼たちの動きはツカサはもちろん、ルファの動きとは比べものにならないほど遅かったし、対処のための体捌き、木刀の振りは実に有効だった。


 もっとも、ツカサの言うとおり、俺が勝てない魔物は設定されてないってのが大きいだろう。

 本物の迷宮だと、こいつらみたいな雑魚の他に、唐突に強敵が現れる、ってこともありそうだ。


 ……というか、それを見越して設定してそうだ。勝利に奢らず、慎重に進むとしよう。





 探索を続け、森の奥へと進む。

 時間は――この森に入ってから、三時間くらいは経ったようだ。


 その間に遭遇した魔物は、フォレストウルフが2回、ホーンラビットが3回、スピアーバードが2回。



 ホーンラビットは、その名の通り、額に鋭い角が付いたウサギだ。

 武器はもちろん額の角で、突進しかしてこなかった。

 攻撃法法と言い、HPと言い、フォレストウルフの下位互換ってところか。



 スピアーバードは、なかなかの強敵だった。

 HPは100以下、DEFも15程度と、森狼よりも打たれ弱い。

 だが、それを補ってあまり有るのが、70越えのATK、そしてそれを生かす攻撃方法だった。

 普段はぎりぎり視認できる、という程度の高度で獲物を待ち構え、攻撃範囲に入った瞬間、獲物目掛け、超高速で飛び込む。

 その嘴は堅く鋭く、急所に当たれば、今の俺では間違いなく即死だろう。



 初遭遇時、飛び込んできた槍鳥の羽根が微かに木の葉に触れ、その音が耳に入った直後、ほとんど無意識の内に地面を転がっていた。


 直後、今までオレが歩いていた場所を、黒い何かが貫いた。


 柔らかい地面に顔まで埋まり、必死に抜け出そうとしているそれを呆然と眺めた俺は、反射的に【初級鑑定】をかける。



種族名  :スピアーバード

分類   :魔物

LV   :3

経験値  :100/110

状態   :健康

HP   :52/72

MP   :9/9

SP   :22/42

ATK  :74.5

DEF  :15(胴)



 魔物! 気がついて良かった、と胸を撫で下ろしていると、もがいていた槍鳥の頭が地面から抜け掛かっている。


 まずい、と思うよりも先に踏み込み、躊躇なく木刀を振り下ろした。


 未だに、半ば頭部が地面に突き刺さっている槍鳥では、避けることも、衝撃を逃がすことも出来ない。


 ぼきん、と首の骨を砕く嫌な感触が手に伝わってくるが、努めて無視する。もちろん、即死だ。


 槍鳥の身体は宙に溶けるようにして消え、残ったのは、名前の通り槍のように堅い嘴だった。

 加工して、槍の穂先なんかに使われるらしい。



 ふと気になって、頭上を見上げる。


 ――なるほど、たしかに多少は木々が減り、空を見ることができ、黒い点のような物が動いているのが見える。

 おそらくは槍鳥だろう。また飛びかかってこられてはたまらないと、急いで木々の密集している場所へと移動する。


 これからは周囲の状況だけじゃなく、頭上にも警戒する必要があるようだ。





 探索を続ける。


 警戒しながら歩を進めていくと、これまで見てきた物よりも、二回り以上大きな木があることに気づいた。

 なんとなく気になって調べてみると、大きな洞があり、中には革で出来たウェストポーチが入っていた。


「……なぜにウェストポーチ?」


 思わず呟いたが、この森が今日出来たことを考えると、ツカサのプレゼントなんだろう。


 ポーチを手に取り、中身を確認する。


 入っていたのは、紅い液体の入った試験管が五本。【初級鑑定】する。



アイテム名:下級ポーション

簡易説明 :HPを50回復する、下級のポーション。飲んで良し、患部にかけて良し。



 HP50回復、か。自動回復が2.8/1秒だから、20秒攻撃を受ける心配が無ければ使う必要は無いな。


 でも、強敵との戦闘時に、咄嗟に回復する手段があるのはありがたい。

 【初級水魔術】の【マイナー・ヒール】もほぼ同じ効果だけど、あれは詠唱の必要があるし、MPも消費するしで、咄嗟に使うのは難しいからな。

 しかも、持ち運びしやすいようにポーチ付きとは、まったくありがたい。

 ポーションを使い切っても、ちょっとした小道具を入れておくのに役立つだろう。


 ほくほくしながらポーションをポーチに戻し――ふと気になって、ポーチにも【初級鑑定】をかけてみる。



アイテム名:虚空のポーチ

簡易説明 :斬神の贈り物。タクミ専用で、第三者の所有不可。

      100個までのアイテムを収納可能。ただし、ポーチ以上の大きさの物は入らない。

      収納したアイテムは劣化せず、破損しない。

      ポーチの口が開いていても、手を入れない限りは中身を取り出せない。

      また、収納物の重量は0になる。

      ポーチ自身も劣化せず、あらゆる攻撃を無効化する。

      

      P.S 剣術の腕を磨くのは大変結構だが、剣技と魔術も使ってやるが良い。二人がむくれておるぞ。



 やっぱり、このポーチ自身も魔導具か。効果は、リュックの簡易版だな。


 というか、むしろ中身よりも貴重なんじゃ?

 収納アイテム数に制限があり、リュックのように収納サイズ無視ってわけにもいかないみたいだけど、それこそ最初から入ってたポーションのように、咄嗟に取り出す必要がある物を入れておけるのは非常に便利だ。


 防具代わりにもなるみたいだし、腹の前に回して装備しよう。



 ……しかし、この追伸は……。


「……確かに、ぜんぜん使ってなかったなぁ。正直に言えば、使う必要も無かったんだけど。

 でも、いざ実戦で使おうとしたときに使えないんじゃ話にならないし、ちょっと練習してみようか」


 見ているかどうかは分からないが、わざと口に出して言ってみる。すると、


『うむ、それが今回の演習の目的だからな。さまざまな技を試し、自分に合った戦い方を身に付けよ』


 なんて、満足げな声が、どこからともなく聞こえてきた。


「ツ、ツカサ!? やっぱり見てたのか!?」


『当然であろう。我のみならず、二人も固唾を呑んで見守っておるぞ』


「それは……ありがたいというか、くすぐったいというか……。そう言えば、二人とは話せないのか?」


『直接見えずに神の声が聞こえるのは、その神の定めた神域のみだ。

 今後、主がエルガイアに降りたならば、それぞれの神殿を訪れるが良い。二人の声が聞こえよう』


「分かった、そうするよ。……ところで、何でツカサの声は聞こえるんだ?」


『我は概念神、世界の一部だ。すなわち、どこであろうと我の声を聞くことはできる』


「……全部の世界が、ツカサの神域みたいなものってことか?」


 半ば呆れながらそう訊くと、ツカサは『そのようなものだな』なんて平然と答えた。

 ……分かっちゃいたけど、かなり規格外だな。


『――ふむ? ……そうだな。――タクミ、エルミナからの伝言だ。

 「ステータス上に問題が無くても、初めての実戦が続き、精神的には疲労しているはず。

  そろそろ昼になるし、昼食もかねて、安全そうな場所で休憩するべき」

 だそうだ』


「それもそうだな。――エルミナに、ありがとうって伝えといてくれるか?」


『その必要は無い。声を届かせることが出来ぬだけで、二人は常におまえを見守っておるよ』


「そっか。……これがいわゆる『マリア様が見てる』ってやつなのか」


『西洋人的感覚だな。まあ、こちらでは感覚でも何でもない、ただの事実だが。

 ――さて、無駄話はここまでだ。

 エルミナの言うような安全な場所は、ここから少しばかり北に行った場所にある。まずはそこまで行くが良い』


「わかったよ。いろいろとありがとう」


『気にするな』


 軽く笑うような気配と共に、ツカサの声は聞こえなくなった。

 ずっと見守ってくれている人がいる。姿が見えなくても、その確信は俺を勇気づけてくれた。





 太陽の位置から方角を推測し、北に向かう。


 五分ほど歩くと、小さな湖に辿り着いた。


 周囲は木々に囲まれ、頭上を警戒する必要も無い。

 リュックの中から水筒と携帯食料、結界石を4つ、そしてシートを取り出し、敷いたシートの四隅に結界石を乗せ、魔力を流す。



 結界石は4つセットで、囲まれた領域を、魔物に認識出来なくさせる効果がある。

 効果範囲が大きくなればなるほど消費MPが大きくなるが、理論上、無限のMPがあるのなら、世界すべてを覆うことさえ可能らしい。

 ……まあ、世界の4隅ってどこだよ、って気もするけど。


 ともあれ、今回は小休止だけなので、そうそうMPは消費出来ない。シートの範囲だけで十分だろう。



 結界を張ったシートの上に腰かけ、レーションを齧り、水筒の中身を飲む。

 水筒の中にはエルミナが聖別した水が入っており、魔物をひるませる効果があるが、安全な生活用水としても利用出来る。

 しかも、放っておけば勝手に中身が満たされるという、旅の友として非常に役立つ品だ。



 固形の携帯食料は、カロリーメイトにそっくりだった。見た目はもちろん、味も。

 まあ、まずいって訳じゃないが、好んで食べたいような味じゃない。簡単に栄養補給出来るってメリットはあるけどな。



 小休止がてら、GMを確認してみる。現在Pは382。


 それなりに魔物は倒したし、アイテムも見つけたし、妥当な結果……なのかな?

 比較対象がないから何とも言えないけど。



 さて、経験値はどれだけ溜まったんだろう。期待しながらステータスを開く。





LV   :8

経験値  :1204/1335

状態   :健康

クラス  :初級魔術師 Lv.6、見習い剣術家 Lv.9、初級剣士 Lv.3

信仰   :運命神の加護 Lv.1、斬神の加護 Lv.1、知識神の加護 Lv.1、戦女神の加護 Lv.2

称号   :《斬》を目指す者

HP   :187/187

MP   :166/181

SP   :84/169

ATK  :99.3

DEF  :37.1

スキル  :雷流・見習い(P)、俯瞰(P)、初級察知(P)、先の後(A:5)、後の先(A:5)、旋舞(A:10)、飛燕(A:20)、

      スラッシュ(A:10)、チャージ(A:15)、

      初級鑑定(A:0)

魔術   :初級地魔術、初級水魔術、初級火魔術、初級風魔術、

      初級光魔術、初級闇魔術、初級無魔術、初級精霊魔術

装備   :木刀(ATK+5)、レザーアーマー(DEF+10)、レザーグローブ(DEF+2)、レザーブーツ(DEF+3)

残ポイント:67





 さすが実戦、数時間で260も経験値が入ったか。

 修行の時は半日かけて100入るかどうかってとこだったからな。


 木刀ばっかり使ってたせいか、『見習い剣術家』のクラスレベルも上がってるな。

 たしか、10になると見習いを卒業出来るって話だし、神界を出る前までには卒業したいもんだ。


 お、新しいスキルを覚えてる。効果は――



 初級察知(P):警戒時、視界内の半径10m圏内に存在する生命体の数、おおよその距離を察知出来る。

         非警戒時、および視界外の気配の察知は5m圏内。



 ……なるほど。たぶん、森に入ってすぐ、警戒しまくってたときに習得したスキルだな。


 あまりにも自然に気配だとかその数だとかが分かったもんだから気がつかなかったけど、たぶん、これまでずっと発動してたんだろう。

 槍鳥の不意打ちを避けられたのも、このスキルのおかげか。



 さて、ついでだから『自然回復』についておさらいでもしてみるか。


 自然回復とは、時間経過と共にHP、MP、SPが回復することだ。

 自動回復に似ているけど、その効果は低く、1回復するのに1分程度らしい。

 理屈としては、HPは生物の持つ自然治癒力によって、MPは体内の魔力が周囲のマナを取り込むことによって、SPは精神が安定することによって回復する。

 毒や麻痺といった状態異常も、自然回復の対象だ。


 ただしその性質上、活動時にはほとんど働かないため、自然回復を活用するためには、適度な休憩が必要になる。


 消費の度合いにもよるけど、半分を割り込んだらさっさと休憩した方がいいってことだな。





 1時間ほどが経ち、ステータスを確認すると、MPもSPも最大値にまで回復している。

 そろそろ、午後の探索を始めよう。



 5匹の森狼の群れを、【初級火魔術】の【ファイア・ボール】で牽制し、木刀でとどめを刺す。


 【ファイア・ボール】は、掌ほどの大きさの火球を飛ばし、着弾すると爆発する、という魔術だ。

 もちろん木刀の攻撃には劣るが、相手の間合いに入るまでにHPを削れるのは大きい。

 これまで2回は木刀で殴りつけていたけど、【ファイア・ボール】を食らった森狼は、木刀の一撃で倒すことが出来た。

 その上、遠距離からの攻撃で逃げ腰になってたから、攻撃を食らうこともなく、安全に倒すことが出来た。



 ほくほくしながらドロップ品を回収する。



 この戦いの前には、剣技の【スラッシュ】、【チャージ】も試してみた。


 【スラッシュ】は単純に与ダメージの増加に役立ち、【チャージ】は、逃げる角兎を追撃するのに役立った。

 今はそれほど効果を実感出来ないけど、強敵相手には有効だろう。それに、戦術の幅も広がるし。





 しばらく探索を進めていたが、辺りが薄暗くなっていることに気づいた。

 GMで残り時間から逆算すると、そろそろ日が暮れる頃だ。

 良い野営の場所があれば、今日の探索はここまでにしよう。



 それからさらに30分ほど歩いていると、小川に辿り着く。

 周囲には身体を休める程度のスペースもあるし、時間的にも丁度良い。


 小川を挟んで15㎡ほどの範囲を結界石で囲み、リュックから簡易テントセットを取り出す。

 掌ほどの大きさの、ミニチュアのテントだが、地面において魔力を流すと、みるみるうちに大きくなる。

 これもやはり、注ぐMPの量によって大きさが変わる。

 俺一人が寝泊まりする分なら、それほどMPは消費しないのがありがたい。



 周囲の森から枯れ枝を集めて火をつけると、小川から鍋に水を入れ、火にかける。

 森で入手していたキノコ(もちろん、【初級鑑定】で毒性がないことは確認している)、香草の類を入れ、塩と醤油で味付けし、ドロップ品の角兎の肉、槍鳥の肉を適当にぶつ切りにして投入。


 30分ほどでシチューっぽい吸い物が完成したので、パンと一緒に食べる。

 醤油ベースだから、できればご飯が欲しかったところだけど、さすがに炊き込みまでする気力は無いからな。


 ちなみに、米そのものは、リュックの中に入っている。もしも今後、誰かとパーティーを組むことになったら、挑戦してみよう。



 適当に作った割りには、吸い物の味は悪くない。教師役の黒鬼さんに感謝だな。



 温かい食事で満足した俺は、小川の水で身体の汚れを落とし、火の後始末をする。


 おおよその片づけが終わったのを確認すると、知らず欠伸が漏れた。予想外に疲れているらしい。


 程なくしてテントに入り、寝袋にくるまる。


 一日気を張り詰めていたせいか、あっさりと眠りに落ちた。



登録タグに『加護がチート』がありますが、今回の内容でも分かるように、実際には『援助がチート』です。

リュック一つを取ってみても、それを売れば小さな街が丸ごと買える程の価値があります。

また、タクミの武器である木刀も、本人はただの木刀と思い、【初級鑑定】すらしていませんが、実は、折れない、欠けない、砕けないの3拍子揃った一品です。普通はあれだけばかすか殴りまくってたら、速攻で折れます。

もちろん、タクミは気づいていません。


そして今更かつまったくの余談ですが、刀系統を装備したときのATK計算式は下記の通りです。


※クラスが『見習い剣術家』の場合

表示上のATK=斬属性のATK+打属性のATK+武器のATK

(斬属性のATK=筋力×0.7+敏捷×0.9+器用さ×0.5

 打属性のATK=筋力×0.5+敏捷×0.4)


クラスが上がると、係数が+0.1されます。


剣の場合は別の計算式になります。

こちらは、剣を装備した仲間が増えたときに紹介する予定です。


魔物の場合、攻撃方法によって個別の計算式を用います。

【初級鑑定】で表示されるATKは、最大の攻撃方法を用いた場合の数値です。

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