5 総合演習・1 迷宮狩り
早いもので、俺が地球を離れ、神界に来てから、もうじき1ヶ月の時間が過ぎようとしている。
午前中はエルミナ指導のエルガイアの地理・風土・文化の学習、および魔術の講義と実践。
午後は基礎トレーニング後、ツカサ指導の剣術の講義と実践、ルファによる模擬戦。
週に一度の休養日には、読書をしたり、黒鬼さんに料理を習ったりして、身体と心を休めている。
先週はサクラの気紛れで、ゲーム大会が開かれた。
さて、俺の現在のステータスは以下の通りだ。
LV :8
経験値 :940/1335
状態 :健康
クラス :初級魔術師 Lv.6、見習い剣術家 Lv.8、初級剣士 Lv.3
信仰 :運命神の加護 Lv.1、斬神の加護 Lv.1、知識神の加護 Lv.1、戦女神の加護 Lv.2
称号 :《斬》を目指す者
HP :187/187
MP :181/181
SP :169/169
ATK :99.3
DEF :26.1
スキル :雷流・見習い(P)、俯瞰(P)、先の後(A:5)、後の先(A:5)、旋舞(A:10)、飛燕(A:20)、
スラッシュ(A:10)、チャージ(A:15)、初級鑑定(A:0)
魔術 :初級地魔術、初級水魔術、初級火魔術、初級風魔術、
初級光魔術、初級闇魔術、初級無魔術、初級精霊魔術
装備 :木刀(ATK+5)、布の服(DEF+2)、布のパンツ(DEF+2)
残ポイント:66
筋力:21(+7)、体力:22(+7)、敏捷:22(+12)、
器用さ:21(+12)、知力:21(+10)、魔力:22(+10)
……うん。改めて見ると、なんかいろいろとおかしいよな。
つーか刀しか振ってないのに、なんで「初級剣士」のクラスがあるの? しかもレベルも3まで上がってる……だと?
あとルファ、加護レベルを上げてくれるのはありがたいんですが、エルミナの前で言うのはやめてください。すんごい睨まれちゃったんですけど。
ちなみに、ルファの加護Lv.2は、「筋力、体力、敏捷、器用さの基本値が2上昇し、HPの自動回復(1秒で0.5%)を得る」んだそうな。
ツカサの加護も合わせれば1秒当たり1.5%HP回復。
今のところは約2.8くらいしか回復しないけど、今後HPが上がればかなりの効果だな。
さて、新規取得スキルの効果だが、
後の先 :行動待ちの状態で、ターゲットから攻撃を受けた場合、知覚速度が倍加する。
飛燕 :リスク無しに二連続攻撃できる。【先の後】との併用可。
スラッシュ:最終付与ダメージに、筋力×10%の追加ダメージを得る。(斬属性)
チャージ :ターゲットに敏捷値×1.5の速度で突進、所有武器による突きを放つ。また、最終付与ダメージに筋力×10%、敏捷×10%の追加ダメージを得る。(打属性)
初級鑑定 :対象の名前が分かる。生物の場合は簡易ステータス、アイテムの場合は簡易説明を閲覧できる。
となる。
このうち、【後の先】、【飛燕】は刀術スキルだ。
……しかし【飛燕】といい【旋舞】といい、雷流は連撃、というか攻撃後の隙を如何に少なくするかに重点を置いてるみたいだな。
【後の先】、【先の後】と組み合わせれば、ほとんど反撃させずに倒しきれる。
この一月、相手からの攻撃は防御するんじゃなくて、回避することを前提とした訓練だったからな。
【スラッシュ】、【チャージ】は……うん、何で覚えてるんだろう。
BPも使ってないし。あれか、喜々としてそれらを使うルファの攻撃を避けまくってたから覚えたのか?
おかげさまで、どんな技かはよく理解できたけれど。
【初級鑑定】も、勝手に覚えてたスキルだ。たぶん、日頃の勉強が実ったんだろうな。
エルミナの課題をこなすために、何度も何度も辞書引いたからな。
……それで生物の簡易ステータスまで見られるようになったのはちょっとおかしい気がするけど。
ちなみに『簡易ステータス』とは、『ステータス・オープン』で参照できる能力の中から、数値情報と『状態』を抜き出したステータスのことだ。
俺自身を【初級鑑定】した場合、以下のようになる。
LV :8
経験値 :940/1335
状態 :健康
HP :187/187
MP :181/181
SP :190/190
ATK :108.3
DEF :28.1
さて、習得スキルとかにはちょっと気になる点もあるけど、加護のおかげで、基礎ステータス的にはそれなりの実力を手に入れることが出来た。
もうすぐここでの修行は終わりだけど、エルガイアに行っても冒険者としてやっていける――と、いいなあ。
「……そろそろ、一ヶ月か」
朝食後、日本茶を一口飲んだツカサは、ぽつりと呟いた。
「そうだな。お前らには本当に世話になったよ。ありがとう」
神一同に向かって、深々と頭を下げる。
黒鬼さんはいつものように、にこにこと微笑み、ツカサは一つ頷いただけだったが、エルミナたちは誇らしそうに、同時にどこか照れたような笑みを浮かべた。
うんうんと何度も頷き、サクラは宣った。
「そうねえ。ほんと頑張ったわ。私」
おまえには特に世話になった覚えはないんだけどなぁ、と思いながらも、口には出さなかった。
「私の加護のおかげで成長早くなったし、毎朝運勢予報もしてあげたし。超頑張ったわよね」
「まあ運勢予報は役に立ってるのかどうかよく分からなかったけど。
――そうだ。ついでに、今日は60%だったから、10%ストックしといてくれ」
「そりゃここで危険な目に遭うことなんてほとんどないから、自覚も無いでしょうよ。
――まあ、ストックはしてあげるけど」
「どうも。――まあ、3つとは言え、能力値上昇は確かにありがたかったな」
「そうでしょそうでしょ? それにほら、ゲーム機とか持って来たの私だし。いい気分転換になったでしょ?」
「そうだな。一番ムキになってたのはおまえだけど」
うぐっ、と、何かを喉につまらせたかのような表情で呻くサクラ。
その様子をじっと見ていた黒鬼さんは、いつものように微笑みながらこう言った。
「サクラ様は、加護だけ与えていれば良いのではないでしょうか」
「な、なんでよ!」
「……言ってもよろしいのでしょうか?」
「……ええ。そんなこと言われて流されたら、かえって気になるわ」
では、と答え、黒鬼さんは心なしか大きく息を吸った、ような気がした。
「まず第一に、サクラ様には概念神としての威厳が微塵もございません。概念神と言えば神の神、神にさえ畏れられ、敬われる至高の存在。『運命』という比類無き、ある意味ではツカサ様の『破壊と創造』よりも恐るべき概念を司っているにもかかわらず、その態度も仕事ぶりも外見どおりの小娘そのもの。何にでも好奇心旺盛なのは結構なことですが、それが許されるのは、ヒト、もしくはエルミナ様のような『知』に属する神に限られます。なまじ絶対的な力を持っているだけに、あなたの好奇心は災いしか齎しません。しかも飽きやすいために齎した災いのフォローも無し。あなたのおかげで我が君が何度下げなくとも良い頭を下げ、する必要の無い後始末をしてきたか、忘れたとは言わせませんよ。加護を望む者に最低限の加護を与え、後は自宅を警備していればよろしいのではありませんか?」
浮かべた笑みを崩さぬまま、一息に言い終えた黒鬼さんは、ほう、と、一仕事終えた後のようなため息を吐く。
よっぽど溜まっていたのか、どことなくその笑みも柔らかい。
「い、言いたいこと言ってくれんじゃねーのよ……」
さすがに頬を引きつらせながら、サクラは呟くと、黒鬼さんに向けてびしっと指を突きつけた。
「いーわよ、上等よ! そこまで言うんなら、今度の総合演習、この私が仕切ってやろうじゃねーの!
序盤で絶対勝てそうもないボスと遭遇、イベント戦闘かと思いきや負ければ普通にゲームオーバーとか、ゲームオーバーにはならないけど生身を失うとか、失ったあげく神殿に囚われるとかどうよ!」
「『どうよ』もクソもないわ。誰が許すか、戯け」
座ったままでぼんやりと二人の確執を見守っていたはずのツカサは、一瞬のうちにサクラの背後に移動すると、その頭頂部に拳骨を振り下ろす。
超一流の武人にして武神であるツカサの攻撃を、女神とはいえ非戦闘系、しかも不意を打たれたサクラに避けられるはずもない。
ごん、というかなり痛そうな音が辺りに響き、サクラはばったりと床に倒れ伏した。
ツカサが黒鬼さんに目線を向けると、万事了解した、といわんばかりに一礼し、黒鬼さんはサクラの右足を引きずって退出した。
……あ、頭が扉の縁にぶつかった。
自然現象でも眺めるような目でそれをじっと見つめていたツカサは、やがて俺に向き直る。
「――さて、無駄な前置きが入ったな」
「い、いや、構わないよ」
しまった、つい呆気に取られてしまった。
俺の動揺には気づく素振りを見せず、ツカサは続ける。
「主がここに来て、間もなく一ヶ月が過ぎようとしておる。
正直なところを言えば、我の弟子を名乗らせるには、修練の質も時間もまったく足りておらぬが、それでも、こと『エルガイアにおいて、冒険者として旅立つ』レベルには十分に達した」
「いわゆる『駆け出し冒険者』ってやつか。
基準が分からないから何とも言えないけど、ツカサがそう言うんなら、そうなんだろう」
「基準か? 平均で良いならば答えよう。LVは3、クラスレベルは1だ」
「はあはあ、なるほど。それなら確かに、俺の今のレベルは十分に平均を超えて――っておい! ちょっと超えすぎてね!?」
思わず叫ぶ俺に、ツカサは表情ひとつ変えず頷いた。
「そうだな。主の言うとおり、確かに『数値上は』十分だ。
――だが、逆に問おう。タクミよ、主は、敵と見なしたものを、躊躇わずに殺せるのか?」
「それは――」
俺は反論しようとし、そこで凍りついた。
そうだ。いくら厳しかろうが、一日のほとんどすべてを費やしていようが、今までしてきたことは、所詮は訓練。
冒険者とは、読んで字のごとく、『危険を冒す者』。
それは致死性の罠に充ち満ちている未踏のダンジョンであったり、魔物との命を懸けた戦闘であったり、またあるいは、それらを乗り越えて手にした財宝を狙う、盗賊達との殺し合いであったりもするだろう。
もちろん、十分な実力があれば、死の危険を回避することも出来るだろう。
殺す気で襲いかかる敵を、生かして捕らえる、あるいは退けることも出来るだろう。
だが、所詮は駆け出しである俺には、そんな実力なんてあるはずもない。
死にたくなければ、殺す気で襲い来る敵を、悉く殺し尽くさなければならない。
その覚悟があるのか、とツカサは訊いた。
おまえは、おまえ自身の生が、他者の生を否定してまでも価値のあるものだと思っているのか、と。
その問に、俺は――――――――――――答えることが、出来なかった。
「……すまない。分からない」
答えとも言えない答えに、しかしツカサは、侮蔑することも、哀れむこともなく、ただ頷いた。
「落ち込むことはない。むしろそれが当然だ。
生きる者すべてに平等な価値があり、その価値は星よりも重い、などと言う愉快な寝言を信じ込まされてきた者が、何のきっかけもなく、価値観を逆転させ得ることなど無い」
「……寝言なんかね、やっぱり」
「戯れ言よりもなお酷い言動は、寝言と言うより無いであろうよ。
人間すべてが平等? ならばなぜ、日々のニュースで報ぜらるる訃報は、権力者ばかりなのだ?
学園に入学した一般人の子は話題にもならず、貴種の子が話題にになるのはどうしてだ?
他国の十の命を生かすために、自国の十の命を犠牲にする為政者に、主は疑問を感じぬのか?
餓死しそうな孤児を救うため、己が妻と子を殺し、その血肉を与える者に、主は嫌悪感を感じぬのか?
――どれだけ綺麗事で取り繕おうと、命に貴賤はあり、優先順位がある。
己自身と、その近しき者を尊ぶのは、生物として当然のこと。弱者への施しが出来る者は、己自身が裕福な者だけだ」
ツカサの言葉は、俺の心に麻薬のように染み渡った。
あと一つ、決定的な何かがあれば、俺は望んでこれまでの価値観を壊していただろう。
いや、むしろ、そうしてくれと望んでいた。
だが、残念なことに――いや違った、幸いなことに、ツカサは話題を切り替えた。
「さて、話は戻るが、数値上は、主は駆け出し冒険者として優秀と呼べるだけのものを身に付けた。
だが、冒険者として生きていくためには、まだまだ己を信ずる域にまでは達しておらぬだろうし、なにより、そのための実戦経験が圧倒的に足りぬ。
――そこで、主への餞別として、総合演習を用意した」
「……さっき、サクラが言ってたやつか?」
「うむ。――まあ、安心せよ。主の師である我ら三人が知恵を絞り、創り上げた課題だ。
あの考え無しの思いつきなど微塵も入っておらぬよ」
「それは安心した――って、言っていいのか?」
「ああ、安心するが良い。今の主ならば死なぬ程度の課題に過ぎぬ」
「……そりゃどうも」
結局命の危険はあるのかよ、と思いつつ、肩をすくめる。
「それで、その課題ってのは?」
ツカサは、にやり、と小さく笑い、告げた。
「――『迷宮狩り』だ」
迷宮狩り。エルガイアの民にとっては、特別な意味を持つ言葉だ。
エルガイアには、『迷宮』と呼ばれるモノがある。
ラフィール大陸には、ヒトが知るかぎり10、エルミナ曰く12の迷宮が存在する。
それは大地に穿たれた、『一の神』の遺産。あるいは爪痕。
『一の神』の負の想念を核として、世界に満ちるマナ、滅ぼされた魔物や魔族の怨念に満たされた場所である。
それら、言うなれば『世界の負の意志』とでも言うべきモノは、新たな魔物の核となり、魔物を生み出し続けている。
どれだけ迷宮に蔓延る魔物を倒しても、時間が経てば新たな魔物を生み出す核となる。
やがて迷宮で育った魔物は、迷宮を離れ、周囲の町や村を襲い始める。
そうして生まれた新たな怨念は、やがてマナに溶け、迷宮に溜まり、新たな魔物を生み出してしまう。
まさに永久機関。創造神の呪いに相応しい、恐るべき循環だ。
だが、迷宮は『一の神』の負の想念を核としている。すなわち、その核を破壊すれば、迷宮は消滅する。
もちろん、もはや本体が滅ぼされたとは言え、また、核の正体が、『一の神』のごく一部の欠片に過ぎないとはいえ、創造神の負の想念だ。
並の人間、平均的な冒険者では為し得ることではない。
その難事を成し遂げた者――その偉業を讃え、英雄の代名詞として呼ばれる尊称。
それこそが、『迷宮狩り』だ。
現在までに、5つの迷宮が踏破されているが、偉業を成し遂げた者の内、未だに生きているのは一人だけ。
ルファの信徒、もうじき200才になる獣人の英雄、「オルナック・ラスタビート」だけだ。
彼が『迷宮狩り』を成し遂げた後、150年の長きにわたって数多くの冒険者が迷宮に挑んだが、未だ彼に続く者は現れていない。
エルミナに学んだ迷宮に関する基礎知識が瞬時に脳裏に浮かび、知らず、顔が青ざめる。
だが、ツカサは苦笑し、手を振った。
「案ずるな。これから主が狩るのは、我が創った疑似迷宮だ」
「……疑似迷宮?」
「演習用に創った、迷宮とほぼ同じ理論で構成された異界のことよ。
これまで主が学んだことを生かせれば、十分に攻略は可能だし、死ぬこともない。
いくらなんでも、駆け出し未満の主に、『ちょっと迷宮を狩ってこい』などと言うはずがなかろう」
「そりゃ助かるが……『死なない』ってのはどういう意味だ?」
「簡単に言えば、疑似迷宮内でHPが0になっても、主は死なぬ。ただ、ここに引き戻されるだけだ。
……なんと言ったか……そうそう、『おお勇者よ、死んでしまうとは情けない』だったか? あれと同じよ」
「ああ、あの国民的RPGの。……あれって、どういう理屈で死なないんだ?」
「さて、ゲームのことはよくは分からぬ。
だが、今回の場合で言えば、『HPが0になる』事象が確定した場合、ここに転移すると設定しておるな。
ちなみに、この仕組みを作ったのはサクラだ」
「事象が確定……つまり、『運命』が決定するってことか。なるほど、そりゃ確かにあいつの領分だわ。
あいつもきちんと神様してんだな」
思わず本音を呟くと、ツカサは苦笑した。
「まあ、そう言ってやるな。ああ見えて、先代とは比較にならぬほど良心的な神なのだ。
……何せアレは、世界の維持やヒトの幸福など考えもせず、自分好みの運命を勝手に確定しておったからな。
それが確定された者にとっての幸福であるならばまだマシだが、アレにとっては最悪の結末を見ることこそが喜びだった。
――我らも、アレにはずいぶんと弄ばれたものよ」
そう呟くツカサの身体から、一瞬、漆黒と深紅のオーラが立ち上ったように見えた。
それは言うなれば、憎悪であり、殺意であった。
思わず一歩後じさると、ツカサは苦笑した。
「……すまぬな。もう終わったことだというのに。
――さて、話を戻すぞ。ともあれ、疑似迷宮で主が死ぬことはない。
そしてその結果にかかわらず、ここでの修行は終了だ」
怯えを押し殺し、訊ねる。
「……結果にかかわらず? じゃあ、最初の敵に殺されてもOKってこと?」
「そうだ。だが、もちろん進めば進むほど主の利益となるように出来ておる。
敵を倒すごと、迷宮を踏破するごとにな。最良の結果は、もちろん核を滅ぼすことだ」
「なるほど。ポイント制みたいな感じか?」
「どちらかといえば得点制だな。その意味は、主がこの演習を受ける意思表示をしたときに明らかになろう」
少しばかり悩んだが、命の危険はないと神に保証されたし、確かにいい経験になるだろう。俺は頷いた。
「――分かった。総合演習、受けるよ」
そう宣言した直後、「ポーン」と軽い電子音が響く。
同時に、目の前には『ステータス・オープン』を唱えたときと同じような、半透明のウィンドウが表示された。
『GM:イベント「神々の総合演習」を受託しました。
目標 :疑似迷宮の核の撃破(500P)
終了条件:①核の撃破
②自身のHPが0になる事象の確定
③タイムアップ(残り時間:36h29m)
現在P :0/1000』
「……何か、変なウィンドウが出てきたんだけど?」
「それはGM――『グローバル・メッセージ』だ。
イベント開始時、あるいはクエスト受諾時に表示される。
表示後はウィンドウのタップで消去でき、『GM・オープン』でいつでも再確認が可能だ」
「なるほど。つまり、迷宮攻略に適した行動を取る、あるいは結果を得ることで、この『現在P』に相当するポイントが入ると。
――ちなみに、ポイントが減ることはあるのか?」
「加算方式であるから、減ることはない。
行動次第では、想定最大獲得P――つまりは現在Pの分母以上のPを入手できよう。
だが、できれば500P以上を目指すが良い」
「俺が得るであろう利益に関わるからか?」
「そういうことだ。――ちなみに、タイムボーナスはない。時間ぎりぎりまでポイント稼ぎに努力せよ」
「了解」
そして、俺はツカサの先導に従い、校舎を出た。そこにはいつものように、一面の草原が――
「………………は?」
思わず間の抜けた声が漏れる。
――いや、確かに草原はあったんだけど。
その奥、いつも基礎トレーニングで行うランニングの目標であった一本の木が消え、代わりに、大森林が広がっていた。
「……あの。まさか、アレが?」
訊ねると、ツカサはにやりと笑い、頷いた。
「左様。あれが今回の総合演習の課題、我の創りし疑似迷宮。
――その名も、『修練の森』だ」




