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(仮題)異世界に里帰り  作者: 吉田 修二
1章 神界にて(チュートリアル)
4/29

2 Let’s study

 神界での生活が始まった。


 朝目を覚まし、半ばどうでもいい『今日の運勢』を聞き流し、ツカサの妻だという黒髪美少女(黒鬼(こっき)さんと言うらしい。正直、人間の名前とは思えなかった)が作った朝食を食べる。

 午前中はエルミナによる語学学習。

 昼食後、食休みを挟み、午後はツカサによる基礎トレーニング。

 へとへとになるまで身体を動かし、夕食後、就寝。

 毎日毎日、ほとんどそれの繰り返しだ。



 異世界で生活するだけなら、これほどきついトレーニングは必要無い。

 なら、どうしてここまで頑張っているのか――それは、俺が『冒険者』を目指すからだ。



 冒険者とは、読んで字のごとく、『危険を冒す者』。

 前人未踏の土地を探索し、魔物と呼ばれる害獣を倒し、日々の糧を得る。

 それが、エルガイアにおける冒険者だ。

 言うまでも無く、危険な仕事だ。


 だが、普通科高校生だった俺には専門知識も技術も無い。

 エルミナの加護があるから、エルミナの神官として生きていく道もあるそうだけど、『神を崇拝する』というのがどういう感覚なのか、いまいち俺にはぴんとこなかった。

 ――もちろん、エルミナ個人を嫌っているというわけではない。

 けれど、それと『崇拝』とは、また少し違うような気がした。


 ならばと提示された別の道が、『冒険者』だった。

 冒険者となった場合の最大の長所は、自由であること。

 守るべき戒律は最低限で良いし、定住しなければ税金を払う必要も無い。

 また、冒険者の身分であれば、町や村はもちろん、国の行き来もほとんど制限がない。

 大きな仕事をこなせば一度に大金が入ることもあるし、そこまで無理をしなくとも、食うに困ることはないらしい。


 特別運動が得意ってわけでもなかったけど、冒険者に必要なのは、身体能力、そして生への執念だ、とツカサは言った。

 技術だの効率だのは、経験を積めば嫌でも鍛えられるし、そのためのきっかけはここで学ばせる、と。


 ――正直、不安が無いと言えば嘘になる。


 でも、俺は冒険者になると決意した。

 未だ見たこともない大地を、自由に冒険する――想像したその光景が、魅力的に思えたからだ。 

 


 ちなみに、いつの間にか日常会話は、日本語から共通語に切り替わっていた。

 エルガイアの女神であるエルミナはともかく、ツカサやサクラ、はては黒鬼さんまで完璧に共通語が使えるとは、失礼だが、少々意外だった。

 まあ、神様だけあって、知力値も俺とは比べものにならないだろうから、当然か。

 最初はかなり苦労したが、今では大分慣れたように思う。



 それに気づいたのか、ある日の授業が終わる頃、エルミナがぽつりと呟いたことがあった。


「……覚えが早い」


「え、そう? まあ、エルミナのおかげで知力値が補正されてるからね」


「それも一因。でも、たった四日で、共通語の会話はもちろん、読み書きまでほとんど修得している。

 総能力値から予測すると、この段階に至るためには、まだ一週間程度掛かるはず」


「まあ、寝る前に予習復習はしてるから」


 そう言うと、エルミナは微かに目を見開く。


「……いつも、HPが1/4になるまでトレーニングをしていると聞いた。どこにそんな余裕が?」


「どこに、って……いや、晩ご飯食べて、少し休めば、それくらいの体力は回復するよ。

 まあ、さすがに身体を動かすのは無理だけど」


「確かに、安静にしていれば、自然とHPは回復するけれど。……もしかして」


 何かに気づいたのか、エルミナははっとした表情を浮かべる。


「『ステータス』で、ツカサの加護の詳細を見て」


「『ステータス』?」


 おうむ返しに訊ねると、エルミナは僅かに眉根を寄せる。


「……教わってないの?」


「え? 何が?」


 きょとんとしていると、エルミナは小さくため息を吐き、小声でぼそぼそと呟く。


「……どうしてこんな基礎的なことも教えてないの。経験主義も結構だけれど、基礎が伴わなければ何の意味も無いのに。そもそも……」


 長くなりそうだったので、慌てて遮る。


「え、ええと、それで、『ステータス』って?」


「……百聞は一見に如かず。『ステータス・オープン』と言ってみて」


「す、『ステータス・オープン』?」


 戸惑いながらも「ステータス・オープン」と呟くと、目の前に、半透明のウィンドウが現れた。


「なっ、なんだよこれ!」


「『ステータス・オープン』は、身体情報を数字化する生活魔術の一つ。

 あなたの身体が触れるマナが、身体情報を読み取り、明示する。

 これも魔術だけど、ただ情報を表示しているだけだから、MPは消費しない。

 魔術師のクラス以外でも使用できる、数少ない魔術。

 ――それより、表示された情報を見て」


 言われるままに、半透明のウィンドウに視線を走らせる。





LV   :1

経験値  :10/15

状態   :健康

クラス  :無職

信仰   :運命神の加護 Lv.1、斬神の加護 Lv.1、知識神の加護 Lv.1

称号   :異界経験者

HP   :103/103

MP   :108/108

SP   :98/98

ATK  :12

DEF  :17.5

スキル  :なし

魔術   :なし

装備   :布の服(DEF+2)、布のパンツ(DEF+2)

残ポイント:0





「……これが、俺の身体情報? 加護を貰う時に、筋力とか体力とかが上がるって聞いたんだけど、それは表示されないのか?」


「それを知るためには、【中級鑑定】というスキルを取得し、自身を鑑定するか、『残ポイント』が1以上必要。

 ちなみに『残ポイント』は、使用可能なBP――ボーナスポイントの量。

 このポイントを消費して、能力値を上げたり、習得可能なスキル、魔術に振り分け、習得することが出来る。

 BPは、レベルアップ時に、基本値+加護のレベルの一定値を得ることが出来る。

 基本値には個人差があり、一概には言えない。

 あなたの場合は3つの加護がそれぞれLV1だから、基本値+3を得ることが出来る。

 また、今はまだ何のクラスも取得してないけど、クラスのレベルが上がると、上がったレベル分のBPが得られる」


「……ええと、つまり、レベルが上がってBPが溜まるまでは見られない、ってこと?」


「そう。そして、それぞれの項目の詳細を知りたければ、知りたい項目をタップすれば良い。

 ――とりあえず今は、ツカサの加護――『斬神の加護』をタップしてみて」


 言われたとおりに操作すると、『ステータス』が表示されている窓とは別の窓が浮かび上がった。



名称:斬神の加護

Lv.1 刀の才能

 刀術スキルを取得・使用可能になる。

 筋力、体力、知力、魔力の基本値が5、敏捷・器用さの基本値が10上がる。

 剣術家のクラスレベル、および精霊術使用時の魔術師クラスレベルの成長率が20%上昇する。

 刀、精霊術を用いた戦闘の場合、得られる経験値が50%上昇する。

 HPの自動回復が備わる。(1秒につき1%) 



 表示される情報を見て、「へえ」と呟く。


「刀かぁ。剣と魔法にも憧れるけど、刀使いってのも恰好いいよなぁ」


「……さすがは概念神の加護。レベル1にもかかわらず、まさしく破格」


 耳もとでエルミナの声が聞こえ、思わずぎょっとして振り返る。

 いつのまにか、正面にいたはずのエルミナは、俺の肩越しに表示される情報を見つめていた。

 これまで向かい合わせに授業を受けていたが、ここまで密着されることはなかった。

 花のように甘く心地良い香りが漂い、彼女の体温まで伝わってきそうだ。


「そ、その、エルミナさん?」


「……HP自動回復。なるほど、この効果か。2分も休憩すれば完全に回復する。

 いえ、行動中も有効? なら、実際のHP値以上に行動可能時間が延びる」


「……そ、それって、すごいの?」


「『すごい』なんてものじゃない。オルフェリアとジルの加護も自動回復が備わるけど、割合は1秒につき0.5%。

 しかも比較的得られやすいオルフェリアの加護でもLv.2が必要だし、ジルに至ってはLv.3。高位神官クラスでなければ得られない」


「エ、エルミナの加護は?」


「私の加護も自動回復が備わるのはLv.3。しかもHPではなくMP。回復量も1秒当たり0.5%だし」


 表情も声も変化はないが、何やら落ち込んでいるような気がする。慌ててフォローした。


「い、いや、MPが自動的に回復するなんてすごいよ! 回復魔術と合わせれば、回復薬いらずじゃないか!」


「……でも、私は知識と魔術の神だから、信仰するのは魔術師志望だけ。

 魔術師は合理的で論理的な思考の持ち主が多いから、神への信仰とは相性が悪い。

 魔術師として大成している信者も、加護レベルは2くらいまでだし、あまり恩恵を与えてあげられない」


「だ、大丈夫! 俺が熱心な信者になるから! 新しい街には行ったら必ず神殿にお参りに行くし、週ごとの礼拝にも欠かさず参加するから!

 そうすれば、いつかエルミナだって俺の加護レベルを上げてくれるだろ?」


「……うん。熱心な信者なら、加護レベルは上げやすくなる」


「いやー、エルミナの加護がLv.3になるのが待ち遠しいなぁ! そうすれば戦闘でも魔術使い放題だし、怪我してもすぐに回復できるし!」


 必死に慰めようとする俺を、エルミナはじっと見つめていたが、やがて、にっこりと微笑んだ。


「……ありがとう、タクミ」


 初めて見る彼女の笑みは、愛らしく、美しく――思わず時間を忘れ、じっと見惚れてしまった。





 そんな日々を繰り返していると、ある日、トレーニングが終わった直後、「ぴろん」とかいう間の抜けた電子音が、どこからともなく聞こえてきた。

 思わず辺りを見渡すが、特別なものは何もない。

 幻聴か何かだったのか、と思っていると、ツカサが微笑を浮かべていた。


「おや、どうやらレベルが上がったようだな」


「レベル……アップ? い、今のが?」


「うむ。ステータスを確認してみよ」


 戸惑いながらも「ステータス・オープン」と呟くと、目の前に、半透明のウィンドウが現れた。





IM   :レベルアップ(1→2)

      筋力+1、体力+1、敏捷+1、知力+1

      「運命神の加護」により、能力値追加上昇

      筋力+1、器用さ+1、魔力+1

LV   :2

経験値  :16/45

状態   :健康

クラス  :無職

信仰   :運命神の加護 Lv.1、斬神の加護 Lv.1、知識神の加護 Lv.1

称号   :異界経験者

HP   :106/109

MP   :113/113

SP   :103/103

ATK  :14

DEF  :18.2

スキル  :なし

魔術   :なし

装備   :布の服(DEF+2)、布のパンツ(DEF+2)

残ポイント:8





 IMは、多分だけど、「インフォメーション・メッセージ」の略かな。


「って、かなり能力値上がってないか? しかも、『運命神の加護』により追加上昇?」


「ふむ? ……ああ、なるほど。サクラの加護の効果だな。

 詳しく効果を見たければ、『運命神の加護』をタップしてみれば良い」


 言われたとおりにしてみると、表示画面が切り替わった。



名称:運命神の加護

Lv.1 運命の風見鶏

 起床時、運命神のお告げにより、その日の運勢を知ることが出来る。

 就寝後の起床、もしくは前回お告げを聞いてより、24時間経過すると、新たにお告げを得る。

 また、運勢を減少させ、後日、充当することが出来る。

 取得経験値が50%上昇する。

 また、レベルアップ時、ランダムで3つの基礎能力値が1上昇する。



「……え? お告げを聞くだけじゃ無かったのか?

 しかも取得経験値50%上昇の上、レベルアップ時に基礎能力値3つ上昇。

 ……よく分からないが、これってかなり強力なんじゃ?」


「まあ、あんなでも運命を司る女神だからな。因果律操作はお手の物だ。

 ――しかし、今の今まで『運勢の操作』については聞かなかったのか?」


 俺が頷くと、ツカサは小さくため息を吐いた。


「……相変わらず、あれの横着も酷いものだな。

 まあ、確認方法を聞いていながら、今まで確認せぬ主も主だが」


「うっ……そう言われると反論できないな」


「――まあ良い、明日の朝からはより注意深く『お告げ』とやらを聞くが良い。

 ――ともあれ、主の上昇値は4か」


「上昇値?」


「レベルアップ時に上がる能力値の数だ。積んだ経験の種類によって、ある程度は制御可能だ。

 午前中はエルミナと知力を磨き、午後は我の元で筋力、体力、敏捷を上げておるからな。

 この4つが選ばれたのも当然の結果だな」


「……なるほど。

 あ、残ポイントが8になってる。すぐに使った方がいいかな?」


「能力値の上昇か? とりあえず、スキル習得のために溜めたほうがよかろう。

 ちなみに、スキルや魔術は、習得可能であれば、タップすることで確認できる」


「なるほど。……どっちも習得可能なモノは無し、と……。

 ――あ、そうそう、これで能力値が確認できるんだっけ」


 『残ポイント』をタップすると、別のウィンドウが現れる。



残ポイント:8

筋力:14(+5)、体力:13(+5)、敏捷:13(+10)、

器用さ:11(+10)、知力:13(+10)、魔力:11(+10)



 ……うーん、多いのか少ないのかよく分からん。


 能力値を前に、うんうん唸っていると、ツカサが呟く。


「さて、いよいよレベルが上がったな。明日以降を楽しみにするが良い」


「……それって、今日までよりも厳しくなるってことか?」


 そう訊ねると、ツカサはにやりと笑った。


「いいや。明日『から』厳しくなるのだ」


 同じ意味のように思えるが……もしかして、ツカサの基準では、今日まではぜんぜん厳しくなかったってこと?


 ――ふと過ぎったそんな不安が真実だと、次の日、俺は身を以て知ることになった。



ちなみに、算出能力値の計算は、


HP:体力×6×(1+LV/100)、小数点以下は表示せず

MP:(魔力+知力/5)×4×(1+LV/100)、小数点以下は表示せず

SP:(器用さ+知力/5)×4×(1+LV/100)、小数点以下は表示せず


で計算されています。


ATKについては、装備武器、クラス等によって計算式が異なりますので、タクミが武器を装備したときに紹介しようと思います。


ちなみに、適正の無い武器を装備した場合は、単純に筋力+武器の攻撃力で計算されます。

今回表示されたATKは、装備武器無し、格闘適正無しのため、単純に筋力値のみの数値です。


DEFは、現在のところ「体力×0.3+敏捷×0.2+器用さ×0.2+防具の防御力」で算出されています。

係数はクラスによって変動する場合があります。(特に魔物)

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