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(仮題)異世界に里帰り  作者: 吉田 修二
3章 王国の闇
29/29

4 パーティ初心者の心得・その1「まずは互いの能力を確認し合いましょう」

遅くなりましたっ! 申し訳ありませんっ!


……そして今回はステータスの見せ合いだけで、あまりストーリーの進行はなかったりします。

 さて。パーティを結成し、気合い十分――約1名の気合いに引きずられたとか本当のことを言ってはいけない――の結成式(?)を終えた俺たちだが、その直後、早々に危機に陥っていた。

 いや、正確には、危機を感じているのは俺だけなんだけど。


 直後、セシルはこう告げたのだ。


「――では続いて、互いのステータスを見せ合おうかの」


 一瞬固まり、すぐに理由を問い質した。


「……なんでまた?」


 セシルはさも不思議そうな表情を浮かべる。


「我らはパーティ、すなわち命を預け合う仲間となったのじゃ。

 互いをさほど知らずとも、まあそれなりには戦えよう。月日を重ねれば、語られずともある程度は察せよう。

 じゃが、それはあくまでも『ある程度』でしかない。

 有効な戦術を立てるためには、何よりも情報が重要じゃ。

 戦うことになる魔物、戦場となる場所の地理と風土、そして何より自らが持つ戦力。

 それらの情報を可能な限り集めることで、生存率を上げることができる」


「……確かに、言ってることは分かるけど……」


 そう、間違いなく正論なのだ。

 今まで俺が1人で冒険者をやっていられたのは、自分に出来ることと出来ないことをある程度把握できていたからだ。

 だが、遭遇するであろう魔物の情報を調べることは怠りがちで、ほとんど場当たり的に対処してきた。

 もしもグレーターキマイラと対峙した時、対キマイラ用の対策があれば、逃げる必要すら無かったかも知れない――ってのはさすがに自信過剰かな。


 とにかく、情報は万金の価値を持つという意見そのものには同意できる。

 問題は――不思議そうな顔をしているはずのセシルの目に、一瞬、悪戯っぽい光が浮かんだことだった。


 ……単に俺のステータスを見てみたいってだけの理由じゃないだろうな?


 そんな俺の疑念を見抜いたか、セシルは真剣な表情で――そのはずなのに目が笑っている気がしたが――「うむうむ」と何度も頷く。


「お主の気持ちは分からぬでもないぞ。先も言ったように、情報は極めて重要じゃ。

 隠すことで敵の背を刺す刃となり得るし、敵の刃から身を守る盾ともなろう。

 これまで1人で活動してきたお主が、その情報の開示を渋るのは当然じゃ」


「そ、そうか。それなら――」


「じゃが! じゃがしかし! 情報の共有はパーティの義務! それを怠れば、本来であれば勝てるはずの戦にも敗れよう!」


「ぐ、むう……」


 声高に主張するセシルの前に、俺は呻くことしかできなかった。

 俺の中に生まれた迷いに気づいたか、セシルはいっそ優しげと言って良い声で告げた。


「そう難しく考えることはない。何もお主のすべてを晒せと言っておるわけではないのだぞ?

 パーティを結成はしたが、信頼関係の構築はこれからじゃ。互いに信を置くことができれば、そこで改めて語り合えば良い。

 ――じゃが、共に戦う以上、互いの戦力は開示せねばならぬ。こればかりは譲るつもりはないぞ」


「む、むう……」


 ……なんというか。最初に大きな要求をしながら、難色を示されると小さな要求――おそらくは本命――に切り替える話術は、どこかで聞いたことがあるような気がする。何とかの原理とかだったっけ。

 でも、確かにこれは断りづらい! 言っていることが妥当だと思えばなおのことだ!


 悩みつつも、公開の方向に傾きつつあった俺の思考を読んだのか、セシルは更なる妥協を提示した。


「まあ、人に要求しておいて、自分が見せぬのもどうかと思うし、まずは妾のステータスを見せようか」


 そう言うと、俺の返答を待たずして、セシルは「ステータス・オープン」と唱えた。


 当然ながら、向かい合っている俺には裏返しで表示されていたのだが、セシルは右手の人差し指を立て、くるりと回転させる。

 すると、表示されていたステータスもまた同じ方向へと回転し、俺の正面に彼女のステータスが表示された。


「え、そんなこと出来たのか!?」


「何を言う。こんなものは初歩の初歩じゃろう。

 ……それよりもほれ、妾のステータスを見るがよい」


 内心の困惑を一旦抑え、言われるままにステータスを見る。



LV   :15

経験値  :7,722/8,700

状態   :健康

クラス  :魔術師 Lv.5

信仰   :知識神の加護 Lv.3、癒聖女の祝福 Lv.5

称号   :魔術の求道者

HP   :179/179

MP   :312/312

SP   :141/141

ATK  :44.9

DEF  :29.2

スキル  :中級鑑定(A:0)

魔術   :中級水魔術、中級火魔術、中級風魔術、

      中級光魔術、中級闇魔術、中級無魔術

装備   :魔術師の長杖(ATK+3)、レザーキュイラス(DEF+8)、隠者のローブ(DEF+3)、絹の手袋(DEF+1)、癒聖女の指輪

残ポイント:40



 ……レベルは俺より低いけど、MPはかなり高いな。

 MPは主に魔力と知力の値で求められるから、そのどちらか、あるいは両方が俺よりも高いんだろう。

 ATKとDEFが低いが、半ば以上前衛の俺と比べても仕方が無い。

 ……杖でぶん殴るのが主体の魔術師でなくて、心の底からほっとした。


 いや、それ以前に気になることはいくつもある。


「……まず聞きたいんだけど。この『癒聖女の祝福』って何なんだ?」


「癒聖女、すなわち『慈愛と癒しの神』イリュアの地上代弁者たる、聖女アリシアの祝福じゃよ」


「聖女アリシア? どっかで聞いたような……って」


 ――思い出した! 聖女アリシアは、ここイリス王国の第2王女じゃないか!

 ラフィール大陸の基礎知識として、各国の有名人の名前はエルミナに聞いてたけど、その中でも特に印象深かったうちの1人だ。


 聖女、聖人は、セシルの言ったとおり神々の地上代弁者だ。

 どの神も信者の中から最低でも1人を選び、その称号を与えることで、地上に干渉できない自らの代わりとしている。

 たいていはその神を崇める神官の、最高司祭がその称号を得る。

 いくら神の声を聞けるといっても、その人物がさしたる発言力を持たないのなら、せっかくの神の言葉も無価値となるからだ。


 だが、王女アリシアはその心根をイリュアに愛され、聖女としての称号を授けられた。

 その理由は――知識を司るエルミナでさえ分からないらしかった。


『――イリュアは優しい。誰にでも平等に。そうであれと創られたのだから、当然と言えば当然なのだけれど。

 けれど、だからこそ、誰か1人を特別に思うことはない。

 誰もが大切だということは、裏を返せば、誰も大切では無いということだから。

 ある意味では最も残酷な女神である彼女が、それでもただ1人特別視したヒト。

 それがイリス王国の第2王女、アリシア。

 彼女は「ただ何となく」なんて言っていたけれど、本当かどうかは分からない』


 どこか遠くを見つめながら、エルミナはそう呟いていた。


 ……思考が逸れたな。

 とにかく、聖人、聖女の称号は俺たちヒトにとっても、神々にとっても特別な称号だ。そうそう得られるものじゃない。

 しかも、セシリアに与えられた祝福のレベルは5、つまりは最高値。

 ならば当然、セシルはアリシアに近しい存在と考えるべきだ。


 ――まあ、実はそんな推論はほとんど無意味なんだけどな。


 アリシアと同じく――いや、エルミナがアリシア以上に熱心に説明した人物の名は、さすがに覚えている。

 そしてその人物はイルス王国の第1王女、つまりはアリシアの姉だそうだ。


 ――なるほど、それで『セシル』ね。


 ……でも、何だって冒険者なんかやろうとしてるんだろう?

 地位はもちろん、金だって不自由しない身分だろうに。


 ――まあ、多分本人にとっては必然と言える理由があるんだろう。

 もちろん、出会ったばかりでその理由を話すはずもないんだろうけど……どうにも厄介事に巻き込まれるような気がするなぁ。

 俺に対処できるレベルの厄介事なら良いんだけどな。



 とにかく、それ以上はその項目には触れず、次の疑問点へと話題を移す。


「――まあ、それはそれでいいや。ところで、この称号は何の意味があるんだ?」


「ふむ、『魔術の求道者』か。これはそれほど珍しい物ではないぞ。

 取得条件は、『魔術のみでレベルを10上げる』こと。

 効果は最終魔法威力が5%上昇、そして魔術使用時の獲得熟練度が5%上昇じゃ。

 熟練の魔術師ならば持っていて当然の称号じゃの」


「なるほど。……ちなみに、『最終魔法威力』の定義は?」


「『知力値、魔力値などを参照し、本来得るはずだった結果』じゃな。

 この称号を持つ者は、攻撃魔術ならば与ダメージ、状態異常魔術ならば成功率、補助魔術ならば上昇率、あるいは下降率がそれぞれ上昇する」


「へえ。状態異常の成功率が上がるのはすごいな」


「そうじゃろう? 通常ならば彼我の魔力値の差で無効化される場合でも、成功率が5%はあるということじゃからの」


 えへん、と胸を張るセシル。

 ――でも、これは確かに自慢するだけの価値はある。

 少なくとも俺の戦闘スタイルだと、この称号を得るのは難しい。


「さて、ついでじゃから能力値も見せておこうかの」


 そう言うと、セシルは『残ポイント』をタップした。



筋力:16、体力:26、敏捷:26、

器用さ:21、知力:44(+5)、魔力:45(+7)



「……ふむ。やっぱり知力と魔力は高いんだな」


 というか、その2つだけやたらと高いな。まさしく魔術師といった能力値だ。


「それはそうじゃろう。余剰のBPはほとんどそれに注ぎ込んでおるからの。

 まあ、端数が余れば体力値や敏捷値に振っておるが」


 体力値はHPに直結し、敏捷値は単純に行動速度に直結し、また、DEFに影響する。

 魔術師は後衛職だが、それらが高ければより安全に戦える。

 ……多分、セシルのように『長所を伸ばす』、あるいは『弱点を補う』ためにBPを使うのが基本なんだろうな。

 俺の場合、『神界の扉』があるから、どうにもBPを派手に使う気にはなれないんだよなぁ……。


「BPが40も残ってるのはどうしてなんだ?」


「行動如何によって有用なスキルが取得可能になったとしても、BPが無ければ取得できんじゃろう?

 それに、次なる『上級魔術師』にクラスアップできれば、『上級魔術』を取得できる。

 そのために、ある程度は溜めてあるのじゃよ」


「なるほど、それもそうだな」


 上級の魔術を取得するためには、1つにつきBPを20消費する必要がある。

 セシルの場合は(おそらく)取得可能なのは6属性だから、すべて取得するためには20×6で120のBPが必要だ。

 ……俺の場合は160必要になるが。


 とにかく、これでセシルのステータスお披露目は終わった。

 色々と突っ込みどころが多い内容だったが、彼女自身がその内容に触れるつもりは無いようだ。

 おそらく、聞いたところではぐらかされるだけだろう。


 そう思っていると、彼女は意味ありげな視線を送ってきた。


「さて、それでは――」


 ……俺のステータスを見せろ、と続けるつもりなんだろう。

 まあ、覚悟は決まった。「見せろ」と言うなら見せてやろうじゃないか!

 不敵な笑みを浮かべる俺に、同じような笑みでセシルは応え――そして、アスタさんを振り向いた。


「――アスタ! 今度はお主が見せてくれぬか」


「――はい。分かりました」


「って、おい! 今の流れでどうしてアスタさんに振るんだよ!」


「いや、『来るなら来い!』みたいな顔をしておったじゃろ?

 万全の体制で待ち構えているところに正面から挑むというのは、どうにも気が引けてのう」


「選択する戦術の傾向としては俺も同じようなものだから、気持ちは分からないでもないけど!

 今はそういう場面じゃなかっただろ!」


「ふむ、まあお主の言うことも一理あるのう。

 ――じゃが断る! 妾は、好物には最後に手を付けるタイプじゃ!」


「くっ……!」


 お前はどっかのお姫様か! なんて言いたかったけど、かろうじて口を閉ざした。

 皮肉にならない皮肉ほど虚しいものは無い。


「ほれほれ、そんなことよりアスタはすでにステータスを開いておるぞ。そちらを見るがよい」


 促され、アスタさんに向き直る。

 誤魔化されたというのは分かってはいたが、アスタさんのステータスは確かに気になる。



LV   :33

経験値  :107,758/117,330

状態   :健康

クラス  :上級剣士 Lv.8

信仰   :戦女神の加護 Lv.3

称号   :獣剣姫

HP   :422/422

MP   :73/73

SP   :312/312

ATK  :285.4

DEF  :109.9

スキル  :獣化(A:0)、俯瞰(P)、上級察知(P)、上級隠密(A:15)、

      スラッシュ(A:10)、チャージ(A:15)、クロススラッシュ(A:15)、

      リバース・エッジ(A:20)、ソニックブーム(A:25)、グランドスラッシュ(A:50)

魔術   :なし

装備   :ミスリルソード+1(ATK+60)、ミスリルアーマー(DEF+45)、ミスリルガントレット+1(DEF+15)、ミスリルレギンス(DEF+20)

残ポイント:21



 ……半ば予想はしてたけど、やっぱり強いな。

 あれ、レベルは前回鑑定した時32だったような……って、あれから3週間近くも経ってるんだから、そりゃレベルも上がってるか。


「ところで、この称号は何なんです?」


「……『獣剣姫』か。これの効果は『剣を用いた戦闘の場合、ATKが5%増加し、スキル後の硬直をゼロにする』というものだ。

 また、私たち獣人の固有スキル【獣化】を用いた場合のペナルティを軽減する効果もある」


「そりゃまたとんでもない称号ですね……。

 それで、その【獣化】ってのは?」


「獣人の裡に眠る、獣の因子を呼び起こすスキルだ。

 種族によって効果は異なるが、私たち猫科の獣人の場合、たいていは敏捷値が大きく上昇し、筋力値が小さく上昇する。

 私が【獣化】した場合、敏捷値が20%上昇し、筋力値が10%上昇する。

 ただし、【獣化】している間は1秒当たりHPが2%減少する。

 もっとも、私の場合は『獣剣姫』の称号があるため、減少するHPは1%に留まるが」


「それでも、最大で100秒しか使えないってことですか。

 ――あ、ポーションとか回復魔術があれば……」


「もっともな考えだが、【獣化】によって失われたHPは、それらの手段では回復できない。

 おそらくは、『外傷で失ったHPではないから』なのだろう。自然回復に任せるしかないのだ」


「……そりゃまた、リスキーなスキルで」


 いざというときの切り札としては有効だけど、長期戦には向かないな。


「ということは、自動回復も無効なんですか?」


「いや、自動回復は効果がある。オルフェリア様の加護があるから、結果的に私が失うHPは1秒当たり0.5%。

 つまり、200秒は使えるということだ。

 ……まあ、それでも持続時間は3分少々でしかない。短期決戦向きのスキルだな」


「切り札があるのは心強いですけど、頼りすぎるのも危険ってことですね」


「そういうことだな」


 短く答え、アスタさんは頷いた。

 そして『残ポイント』をタップし、能力値を表示させる。



筋力:53(+7)、体力:51(+2)、敏捷:51(+2)、

器用さ:49(+7)、知力:14、魔力:11



 浮かび上がる数値を一瞥し、セシルが「ほう」と感嘆の吐息を漏らす。


「うーむ、さすがに圧巻の能力値じゃな」


「まあ、俺よりもレベルは14も上だし、セシルに至っては2倍以上の差があるからな。

 ――筋力と器用さの補正が多いみたいですけど、これは装備の?」


「そうだ。ミスリルソードには筋力+5、ミスリルガントレットには器用さ+5の補正がある」


「さすがは『獣剣姫』、良い装備を使っておるのう」


 からからと笑うセシルに、アスタさんは一礼で応えた。


「さて、それではメインディッシュと行こうかの」


「……はいはい。分かってますよ。

 ところで、俺のステータスってにほ――ヤーマン語で表示されるんだけど、まさか読めないよな?」


 そう言うと、セシルは目を見開いた。


「なんじゃと!? そんなはずは――いや、確かに『ステータス』は己の能力を確認するものじゃから、己にとって分かりやすい表記となるのは必然か。

 ――ふむ。じゃが、ステータスを読み取ったということは、大陸共通語の読み書きは出来るのじゃな?」


「ああ。少なくとも本を読む程度は出来るぞ」


「ならば、物は試しじゃ。ステータスを開く際に、共通語で表示されるように念じてみよ」


「はあ。それで上手く行くのかねぇ」


 半信半疑ながら、言われるままに『共通語で表示されろ』と念じつつ、「ステータス・オープン」と唱えてみた。



LV   :19

経験値  :17,130/18,475

状態   :健康

クラス  :魔術師 Lv.2、剣術家 Lv.5、剣士 Lv.4

信仰   :運命神の加護 Lv.1、斬神の加護 Lv.1、知識神の加護 Lv.2、戦女神の加護 Lv.3、鋼精霊の祝福 Lv.1

称号   :知識神の寵児

HP   :314/314

MP   :289/289

SP   :300/300

ATK  :203.6

DEF  :57.8

スキル  :雷流(P)、俯瞰(P)、初級察知(P)、先の後(A:5)、後の先(A:5)、旋舞(A:10)、飛燕(A:20)、昇竜(A:25)、隼(A:30)

      スラッシュ(A:10)、チャージ(A:15)、クロススラッシュ(A:15)、リバース・エッジ(A:20)、ソニックブーム(A:25)

      初級鑑定(A:0)

魔術   :中級地魔術、中級水魔術、中級火魔術、中級風魔術、

      中級光魔術、中級闇魔術、中級無魔術、中級精霊魔術

装備   :打刀+2(ATK+30)、ブロードソード<+カタリナ>(ATK+20)、スチールアーマー<軽>(DEF+20)、レザーブーツ(DEF+3)、神界の扉

残ポイント:83



「おおっ、本当に共通語で出たぞ! いやー、試してみるもんだな!」


 思わぬ発見に小躍りしそうになるが、そんな俺には気づかず、セシルは呆然と呟く。


「……ちょっと待て。こちらからは良く見えぬから、反転させてくれぬか?」


「反転って……確か、こうか?」


 言われるままに、ステータスの前でくるりと指を回す。

 浮かび上がっていた文字は、俺の意に従い、セシル達に向けて反転した。


 セシルはもちろん、アスタさんまで近寄り、呆然とステータスを眺めている。



 ――たっぷり10分以上は経った頃。


「何じゃこのステータスはーっ!?」


 頭を抱え、セシルが絶叫した。


「まずはクラス! 複数クラス持ちは珍しいがありえぬと言うほどでもない! じゃがそれが3つなど聞いたことも無いわ!

 それに剣術家と剣士はどちらも剣を使うクラスじゃろうが! 何故それが別々のクラスとして両立しておるのじゃ!」


「いや、剣術家は刀を使う『技と速度』を主体としたクラスだし、剣士は剣を使う『力』を主体としたクラスだろ。

 性質はぜんぜん違うぞ」


 冷静に指摘してみるが、セシルは未だ混乱から立ち直っていないようだ。


「そして信仰! 加護と祝福を同時に受けるのならまだ分かる! じゃが加護を4つ、しかも不仲で有名なエルミナ様とオルフェリア様の加護を共に受けておるじゃと!?

 さらには『斬神』、『運命神』とはいったいどの神のことじゃ!?」


「まあ、そこは突っ込まれるだろーなー、とは思ってたな」


 聞こえてはいないと知りつつも、独り呟く。


「更には魔術! 7属性すべてに加え、人族とは相性の悪い精霊魔術まで使えるじゃと!?

 魔術師専業の妾でさえ6属性しか使えぬと言うのに!」


「……『大賢者』と呼ばれたナッシュでさえ5属性だったな」


「ああ、やっぱり珍しいのか」


 エルミナも『前代未聞』って言ってたしな。


「そしてこれまでのよりはインパクトに欠けるが、地味にHP、MP、SPがどれも高い!

 ――MPは魔術師の妾に匹敵するほど高く、SPはレベル33のアスタとほぼ同等。つまり、能力値のバランスも良い。

 下手をすれば器用貧乏になりかねぬが、これほど高い水準で纏まっておるのなら、『万能』と呼んだ方が良さそうじゃ」


「しかもオルフェリア様の加護レベルは私と同じ、つまりはSPの自動回復も出来る。

 SPが切れたら通常攻撃に切り替えて時間を稼ぎ、やがてSP切れと思い込んだ相手に強力なスキルを叩き込む、という戦術も使えるな」


「あー……つまりアスタさんはそんな感じで戦ってる、と。

 でもこっちのSP切れを狙うとか、そこまで知性の高い魔物っているんですか?」


「いるぞ。――だが、戦う相手は魔物だけとは限るまい」


「……それは、まあ、そうですね」


 たとえば俺がエルガイア(ここ)に来た日に遭遇した強盗だとか、この宿屋で揉めた『黒竜の牙』のメンバーだとか。

 冒険者は魔物と戦うために戦闘能力を磨くんだけど、同じヒト同士で争うこともあるだろう。

 そういった相手と戦う際には、単純な戦闘能力の高低よりも、戦術こそが有効な場合もある。


 ――さて、密かにその戦術面での活躍を期待している1人は、俺たちのやりとりなどどこ吹く風、未だ俺のステータスを食い入るように眺めていた。


「装備品は……ふむ、『打刀+2』の補正効果が気になるが、あとはそれほど――」


 そこまで言いかけ、セシルはぴたりと動きを止めた。


「――待て。この『神界の扉』とは何じゃ?」


「ああ、それは――」


 何の気なしに解説しようとして、そこでようやく気がついた。


 神界の扉は、文字通りに神界へと通じる扉を創る効果がある。

 これまで使ったことはなかったから、どうなるのかは分からないけど、行き先は神界だ。

 つまり、こんなものを持ってるってことは、俺が神様と親しい――少なくとも、直接顔を合わせても良いと認められているってことだ。


 その効果を正直に話すとすれば、これを授けられた経緯も話す必要がある。

 嘘で塗り固めれば切り抜けられるかも知れないけど、咄嗟に信憑性のある嘘なんて思いつかない。

 ――まあ、真実の方が信憑性なさそうな気もするが。


 だとすると、ここで俺が言うべきことは――


「――悪いけど、それについては答えられない」


「なんじゃと?」


「そもそもステータスを見せ合った趣旨は、『互いに戦力を開示し合い、有効な戦術の選択肢を増やす』ことだろう?

 でもこれには、特に戦闘に有利になるような効果は無い。

 だから、これについての説明は拒否する」


「む、むう……」


 セシルは不満そうに唸っていたが、やがて1つため息を吐いた。


「……確かに、そうじゃな。とすれば、『斬神』、『運命神』についての説明も黙秘する、と言うことじゃな?」


「そうだな。悪いんだけど」


 言葉どおりに悪いとは思いながらも、俺はきっぱりとそう告げた。

 セシルは一瞬鋭い眼差しで俺を睨んだが、やがて溜息交じりに口を開く。


「――いや、気にすることはない。

 確かに気にはなる――それこそ夜も眠れぬほどに気になるが、お主の言うとおり、戦術そのものには影響せぬからな。

 妾の方こそ、好奇心を優先し、お主の事情に土足で入り込もうとしたことを謝罪しよう」


「いいよ、気にしてないから。――それで、能力値も見せた方がいいのか?」


「そうじゃな。頼む」


 頷くと、俺は『残ポイント』をタップした。



筋力:36(+7)、体力:37(+7)、敏捷:37(+17)、

器用さ:37(+17)、知力:36(+10)、魔力:36(+10)



「……予想はしておったが、これはまたかなり平均的な能力値じゃの。そして補正もとんでもない、と。

 ――これは件の神々の加護かの?」


「まあ、そうだな。『打刀+2』の敏捷・器用さ+5の補正も含まれてるけど」


 複雑な表情で能力値を眺めていたアスタさんは、やがて独り呟いた。


「……補正を含めれば、獣人の私よりも敏捷値が高いとは……。

 そして器用さにもほとんど差が無いのか」


「補正ありきの能力値ですよ。素の能力値だと、アスタさんの方が圧倒的に上です。

 それに俺のメイン武器は刀ですから。筋力値よりも敏捷値が高い方がダメージ量が多くなるんですよ」


 そう答えると、アスタさんは納得したように頷いた。


「……なるほど。低レベルにもかかわらずグレーターキマイラと渡り合えたのは、異常に高い敏捷値のせいか。

 しかもそれが攻撃力にも繋がるとは……剣術家とは恐ろしいクラスだな。下級の前衛職の中では、剣士を超えるかも知れん」


 アスタさんの言葉に、セシルは僅かに首を傾げる。


「まあ、パーティで戦闘する場合には、必ずしも利点があるとは言えぬがの。

 敏捷値が高ければ確かに敵の攻撃を回避しやすいが、後衛を守りつつ戦うのには向かぬ。

 ……ふむ。最前線で敵の攻撃を引き付けてもらえば良いのかな?

 横合いからアスタが強力な一撃を繰り出し、妾は後衛で魔術を行使する。――おお、それなりに形になるではないか」


 自分で言いつつ、ぽん、と手を打つセシルだが……。


「……それ、俺への負担が半端なくないですかね?」


「そうかの? それならばタクミ、お主はこれまでどうやって戦ってきたのじゃ?」


「今まで? ……ええと、距離が離れてる時は魔術で先制して、後は突っ込んで相手の攻撃を回避しつつ反撃を――」


 ……あれ。考えてみたら、ほとんどセシルの案と同じだ。

 しかも自分以外の攻撃が加わるから、より楽になる……?


 真面目に考え出した俺に気づいたか、セシルはにやりと笑う。


「ほれ、そう捨てた案でもなかろう?」


「まあ、確かにな。基本的な方針はそれで良いと思う」


「うむ。もちろん初めは上手く機能しないじゃろうが、実戦を重ね、互いの呼吸が分かるようになればどうにかなろう。

 ――タクミ、お主の明日の予定はどうなっておる?」


「明日? 午前中はヴォルトのおっさんに稽古付けて貰うつもりだから、午後からなら空いてるな」


「……ふむ」


 セシルは真剣な表情で何かを考えていた様子だったが、やがてアスタさんに向き直る。


「アスタ、お主の予定は?」


「明日は特に予定はありません」


「そうか。……ではタクミ、明日はお主の稽古を見学させて貰って良いか?」


「え? いや、俺は構わないけど……おっさんが首を縦に振るとは限らないぞ?」


 戸惑いながらそう答えると、セシルは不敵な笑みを浮かべる。


「なに、嫌とは言わせぬよ。――そうじゃな、アスタ?」


「――はい。力尽くでも首を縦に振らせて見せましょう」


「……そ、それ、同意を得ているとは言わないですよね?」


「ほほほ、気にするな。――さて、ずいぶん長いことお邪魔したの。今日のところはここらで解散としよう」


 セシルは笑いながらベッドから腰を上げる。


「ではな、タクミ。また明日」


「ああ、また明日」


 セシルは小さく手を振り、アスタさんは俺を一瞥して小さく頷くと、2人とも俺の部屋から出ていった。





『――ってことがあったんだけど。やっぱり、ステータスを見せたのはマズかったかな?』


『――ふむ』


 部屋に1人残った俺は、ツカサに今日の出来事を相談していた。


『主が彼の2人を「命を預け合う仲間」と認めたならば、己が手の内を晒すのは悪いことではない。

 セシルとか言ったか? 彼の者の言うとおり、「己を知る」ことは戦術において重要だからな。

 ――しかし、出会ったばかりの者に己がすべてをさらけ出すなど、なかなかに豪胆だな』


『……そう言われると……。

 で、でも、異世界から来たとか、概念神についての詳細は喋ってないし!』


『だとしても、主が特異な存在であることは十分に察せられておろうよ』


 くつくつと、愉快そうに笑う思念が伝わった。


『――まあ、それはそれで良い。

 今までの「将来有望な冒険者」という評価が、「怪しげな背景を持つ冒険者」に変わっただけだ。

 少なくとも、現状ではさしたる不利益にはならぬであろう』


『あ、怪しげな背景……そう言われると否定できないけど……。

 ……でも、いつかは話す日が来るのかな?』


『さてな。それは我にも分からぬよ。

 ――だが、主のためにも、その日が来ることを祈っておこう』


『ありがとう。……ところで「祈る」って、神様のあんたが何に祈るんだ?』


『さて? せっかくだからエルガイアの大地にでも祈っておこうか』


 愉快そうにそう告げるツカサだが、彼が司る概念は『破壊と創造』。


『――大地震が起きたりとかしないよな?』


 そう訊ねると、ツカサは珍しく笑い声を響かせた。


『くっ――ははは、まさかまさか! それでは「祈り」ではなく「呪い」であろう!

 まあ、もしかしたら今年は豊作かも知れぬな』


『……それはそれですごいな。さすがは神様ってところなのか?』


『まあ、豊穣は我の管轄外だ。何の効果も無いかも知れぬがな。

 ――ともあれ、共に戦う者を得られたのは幸いだ。

 その結末がいかなるものであれ、その経験は主の糧となるであろう。

 これからも、大いに励むが良い』


 その言葉を残し、ツカサの思念は遠ざかっていった。



 跪いていた身体を起こし、装備を外してラフな恰好になると、そのままベッドに横たわった。


「……『結末がいかなるものであれ』、か。せっかくだから良い関係を築きたいもんだけどな」


 そうは思っていても、実際にどうなるかは分からない。

 互いに『命を預けるにたる仲間』と思えるか、あるいは――


「――ま、それはこれから分かることか。今の段階でうだうだ考えてても仕方ない」


 明日の予定は、午前中は今までと同じくおっさんとの稽古。

 その後はパーティとして初めての行動だ。

 いきなり依頼を受けるのか、あるいは受ける依頼の検討だけで終わるのか。

 いずれにしてもさっさと寝て、明日に備えておくべきだろう。



 目をつむり、徐々に思考の速度を落としていくと、やがて俺の意識はすとんと落ちていった。




次回はギルドでのあれこれです。


うむむ……ぜんぜん章タイトルの内容まで進めない……。


ちなみに、アスタさんのスキルの中で触れていないものがいくつかありますが、ひとつひとつ説明するのはさすがに冗長かと思いましたので、カットしました。

だいたい、スキル名から想像できる範囲の効果です。

いずれ本文中で解説するかと思います。


※11/5 一部加筆修正

※11/6 誤字訂正

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