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(仮題)異世界に里帰り  作者: 吉田 修二
2章 駆け出し冒険者
19/29

6 黒竜の牙・後編

前編がちょっと引き気味のところで終わってましたので、頑張って後編を作成しました。


後編は前回の直後から。

蓋を開けてみるとほぼ戦闘回でした。

 称号を『戦女神の弟子』に変え、先導するシルファさんの後に続く。


 訓練場は、入口近くの扉から行くことが出来た。

 中は球形のドームで、床は剥き出しの地面。広さは、おそらく直径20mほどか?


 今まで一度も利用したことは無かったが、職員に依頼し、一定の報酬を支払うことで、熟練の冒険者などから指導を受けることも可能らしい。

 また、パーティ同士の模擬戦、パーティ内での戦力確認などでも利用される。

 今の時間は空いていたが、ほぼ毎日利用されており、利用時間は最大で1時間。

 だが、シルファさんの権限により、今回の『稽古』は30分限定となった。


 俺たちは訓練場の中央に歩み寄る。

 ちなみに、シルファさんは、ドームの入口近くで待機している。

 その傍らには救急箱らしきものがあり、何故か緑色の弓を手に持っている。

 ……もしかして、俺が危なくなれば割って入ってくれるつもりなのか?

 いやー、さすがにそれは厳しいんじゃないかな。

 シルファさんの実力は知らないけど、このおっさんマジ強そうだぞ。

 ……彼女の出番が来ないことを、俺の知る神々に祈っておこう。


 ヴォルトは備え付けの木剣を手に取り、俺は自前の木刀を構える。

 彼我の距離は5mほど。攻撃には、互いに数歩の移動が必要だ。

 稽古の名目上、真剣を使わないのは当然だけど……木製だとしても、十分に殺傷できることは、修練の森で経験済みだ。

 ヴォルトのATKは、初見の時よりも当然下がっているだろうけど、『まともに当たれば死ぬ』覚悟はしておいた方が良さそうだ。


「――さて、準備は良いか?」


「ああ、いつでも」


 俺がそう答えると、ヴォルトはにやりと笑みを浮かべ――一気に突っ込んできた。


 速いことは速いが――今の俺と同じくらいか?


 【後の先】を発動し、振り下ろされた木剣を余裕を持って避けつつ、すれ違いざまに胴に一撃。

 同時に【飛燕】を発動させ、無防備な背中に振り下ろし、その場を飛び退く。

 鎧の上と言うこともあり、ほとんどダメージは無いだろう。


 その証拠に、ヴォルトは振り向き、にやりと笑う。


「ほう、なかなかやるな。だがその程度じゃあ、俺を倒すのは無理だな」


「どうかな? 確かにダメージはほとんど通ってないみたいだけど、ゼロじゃないだろ?

 さっきのがあんたの全速なら、いずれは倒れることになると思うけど」


「言うじゃねぇか。――良いぜ、それなら見せてやるよ。

 圧倒的な実力の差ってやつをな」


 そう言うと、ヴォルトは再び突進してきた。

 その速度も、振り下ろされる剣速も、先ほどと大差ない。

 ただ、違いと言えば、木剣が赤い光に包まれているくらいで――


 瞬間、背筋に悪寒が走り、一気にその場を飛び退く。

 飛び退く最中、確かに見た。

 赤い光に包まれた木剣が、交差するような軌跡を描き、先ほどまで俺が立っていた場所を十字に切り裂くのを。


 に、2回同時攻撃!? 【飛燕】だって、あそこまで無茶な軌道にゃならないぞ!


「良く避けたな。――だがその顔、【クロススラッシュ】を見たのは初めてか?」


「【クロススラッシュ】……? 【スラッシュ】の上位スキルか!」


「そう言うこった。クラスが『剣士』にまで上がれば覚えられるぜ。

 ――ついでだ、良いことを教えてやろう。

 俺のクラスである『バーサーカー』は、『剣士』の2つ上のクラスだ」


 ……ってことは……俺の『剣術家』も『剣士』と同じ2段階目のクラスだから、やっぱり2つもクラスに差があるってことか。


「ついでに、もう一つ先、『上級剣士』のスキルも見せてやるよ」


 唖然としている俺に構わず、ヴォルトは身体を捻り、左肩の上に右手を添える。

 俺が跳んだことで、間合いは再び5mほど離れている。言葉どおりに『見せる』のが目的なのか、それとも――


「よく見とけ。これが【ソニックブーム】だ!」


 そのスキル名だけでおおよその内容を理解した俺は、即座に横っ飛びに避ける。

 案の定、ヴォルトが勢いよく剣を振り下ろすと、斬撃がそのまま赤い光となって飛んできた。

 かろうじて回避は間に合ったが、光が当たった地面は、まるで切り裂いたかのような傷跡が刻まれた。


 木剣であれほどの威力とは……【クロススラッシュ】なんて話にもならない。

 もしもあれがまともに当たっていたら、俺の紙装甲じゃ、文字通り紙のように切り裂かれ、俺の身体も両断されていたかも知れない。


 地面を眺め、慄然としている俺に、ヴォルトは楽しげに言い放った。


「さあ、どうしたどうした? まだ『稽古』は終わってないぜ!」


 ……要するに、まだまだ手の内は見せきってない、ってことか。


 いくら稽古と言ったところで、ヴォルトにとっては、それは名目でしかない。

 あいつの目的は、俺を痛めつけること。

 結果として死んでしまっても、それはそれで構わない、程度には考えているだろう。


 ――だが、そのつもりなら、それはそれで結構だ。


 雑魚相手の一方的な戦いには、いい加減飽き飽きしていた。

 生きるか死ぬかの戦い。

 自分が全力を尽くし、なお届かないであろう相手との死闘。

 どうやら、俺はそういったものを求めていたらしい。


 それは俺に加護を与えた神々の影響なのか?

 それとも、俺自身に戦いを求める気質があったのか?


 ――そんな考えが一瞬頭を通り過ぎたが、考察は無視。


 今はただ、立ち向かおう。

 全力を尽くしてもなお届かない、この目の前の強敵に。


 俺の顔つきが変わったことに気づいたか、ヴォルトは僅かに目を見開き、そして、嬉しそうに笑った。


「――ハッ。結局てめえも俺と同類か!」


「さてね。そんなのはどうでもいいさ。

 ――雷流剣士、タクミ・サイジョー。参る!」


「――狂戦士ヴォルト。受けて立とう!」


 そして俺たちは同時に地面を蹴り、真っ正面からぶつかり合った。





**********



 依頼のため、オルグの街を離れていたアスタは、数日ぶりに冒険者ギルドの扉を潜った。

 無表情だったアスタだが、いつもとは違う周囲の反応に、僅かに眉根を寄せる。


 過去の業績、そして現在の取っつきの悪さが組み合わさり、注目はされるが話しかけられない、というのが常だった。

 だが、その日に限っては、誰一人彼女に注目する様子は無く、どことなく、ギルド全体が浮き足立っているような雰囲気だ。


 すぐに顔馴染みの受付嬢、シルファの姿を探すが、今日に限って姿が見えない。

 たまたま休みとかち合ったのだろうか、と思い、仕方なく、『報告所』に向かう。


 アスタの威に当てられたか、受付嬢は緊張しきりだったが、報告自体は滞りなく完了する。

 ついでとばかりに、彼女に聞いてみる。


「シルファの姿が見えないようだが……今日は休みか?」


「え? い、いいえ。その、『黒竜の牙』の方が……」


 その名を聞いただけで、アスタの眼光は一層鋭さを増す。


「なんだと? あのクズ共が、また何かやらかしたのか?」


「い、いえ、そうではなくてですね。

 ――その、リーダーのヴォルトさんが、新人に稽古を付けるとかで『訓練場』に向かわれまして。

 それで、シルファさんがその付き添いに」


「ヴォルト? あの飲んだくれが新人に稽古だと?」


「は、はい。私も詳しくは知らないんですけど、ヴォルトさんの冒険者の資格を取り消すとか取り消さないとかで揉めてましたね。

 それで、どういうわけか、ヴォルトさんが新人に稽古を付けることに」


「……なんだそれは。まったく事情が分からんぞ」


 すみません、と頭を下げる受付嬢に軽く謝罪し、報酬を受け取ったアスタは、そのまま真っ直ぐに訓練場に向かった。





 訓練場の扉を開く。

 真っ先に目に入ってきたのは、中央付近で戦う2人の姿。


 1人は、アスタも良く知る人物。元パーティメンバーの、狂戦士ヴォルトだ。

 久しく見たことは無かったが、現役時代と同じように、凶相に笑みを浮かべて木剣を振るっている。

 もう1人は、どことなく見覚えのある、黒髪黒目の少年。

 ヴォルトの猛攻を巧みに避け、あるいは弾き、あるいは逸らし、隙あらば一撃、二撃と攻撃を加えている。

 先の受付嬢の話では新人だとのことだが、その見切り、無駄のない動作は、一定の訓練を受けた剣士のものだ。


「――アスタさん?」


 声をかけられ、目を向ける。

 そこには、アスタの良く知る受付嬢の姿があった。

 だが、常にその美貌に浮かべている柔らかな笑みは無く、不安と緊張で顔色が真っ白になっている。


「――シルファ。これはどういうことだ?」


 シルファは目線を戦う2人に戻しつつ、簡単に事情を説明してくれた。



 聞き終えたアスタは、思わず舌打ちしていた。


「――己の実力不足を棚に上げ、逆恨みとは。

 栄えある『黒竜の牙』も、そこまで堕ちたか。

 ――ミディアやナッシュに顔向け出来んな」


「それより、あの2人を止められませんか? アスタさんの言葉なら、ヴォルトさんも無碍には――」


「……無駄だよ。あれに私の言葉は届かない」


 袂を分かったその日のことを思い出し、アスタは呟く。


「そ、それでも、強引に止めることは――」


「止めてどうする。あの2人は、自ら望んで戦っている。余計な手出しなど無粋なだけだ。

 ――何より、今止めたところで、問題は何も解決しない」


 事の起こりは、新人が『黒竜の牙』の既得権益を侵したこと。

 新人の行動には、何ら責められる要素は無い。

 新人故のがむしゃらさで、能力の限り依頼を受け、そしてそれを達成した。ただそれだけのことだ。


 普通ならば、先輩冒険者や、あるいはギルド職員によって、それとなく注意され、自重する。

 またあるいは、『黒竜の牙』のメンバーが直接『忠告』し、萎縮する。

 だが問題は、その新人が、新人離れした才能の持ち主だったということだ。


 通常、冒険者はパーティを組み、複数人で行動する。

 それは生存率を上げる、最も手っ取り早い手段だ。

 だが、複数人で行動するということは、その分、準備や移動に時間が取られることを意味する。

 結果として、受けられる依頼の頻度もそれほど多くはならず、既存の冒険者の権益も、それほど侵しはしないだろう。


 だが、1人でやれる実力があるのなら、パーティにこだわる必要は無い。

 準備は一人分のために最低限で済み、移動も自分のペースで行える。

 能力があれば、受ける依頼の頻度を上げても問題は無いだろう。


 幸か不幸か、あの新人には一人で依頼を受け、達成するだけの実力があった。

 それだけに凄まじい勢いで『黒竜の牙』の権益を侵し、彼らに危機感を抱かせた。

 そのリーダーであるヴォルトが担ぎ出されたのも、自然の成り行きだろう。


 そして、今回の『稽古』。

 これは、稽古によって新人を痛めつけることにより、今までのことを水に流す、という意味合いなのだろう。

 同時に、調子に乗るようなら、また『稽古』をすることになる、という警告の意味も含んでいる。


 また、もしも新人が『稽古』でヴォルトを圧倒するようなら、もはや『黒竜の牙』に取るべき手段は無い。

 かつて英雄とも呼ばれ、隻腕となった今なお高い実力を持つヴォルトを倒せるならば、もはや抗う術は無いからだ。


 だが――さすがに、そう上手く事は進まないらしい。


 ヴォルトの上段攻撃を避けた新人だが、未だその身体が宙にある間に、ヴォルトの剣が赤い光を帯びる。

 振り下ろしに倍する速度で振り上げられた木剣は、新人の左腕を強かに打ち据え、跳ね飛ばした。





**********



 激痛が脳を焼き、刹那の浮遊感の後、俺の身体は地面に叩き付けられた。

 食いしばった歯から苦悶の呻きが漏れる。

 見ると、左腕はその中程から、有り得ない場所で、有り得ない角度に曲がっていた。


 苦痛を堪え、【マイナー・ヒール】を使う。

 僅かに痛みは和らいだが、折れた腕までは戻らない。


「――どうした? もう終わりか、ガキ」


 嘲るような声に、顔を上げる。


 勝利を確信したような顔で、ヴォルトが俺を見下ろしている。


「どうする? この辺で止めておくか?」


 にやにや笑いながら、ヴォルトはそう告げる。

 なるほど、腕の一本ともなれば、『制裁』、もとい『稽古』には十分って事か。

 おそらく、ここで俺が負けを認めれば、こいつもこれ以上の『稽古』はしないだろう。


 だが――


「――はっ。冗談」


 木刀を地面に突き、よろめきながら立ち上がる。


「これで、ようやくあんたと対等になったって事だろう?」


「――っく、くはははははっ! 良いねえ、どこまでも面白ぇガキだ!」


 大笑し、ヴォルトは木剣を上段に構える。


 また【ソニックブーム】か? それともただの上段斬りか?


 【ソニックブーム】だとしたら回避は必須だが、タイミングを見て避けることも難しいだろう。

 突進してからの上段斬りだったとしても、片腕では受けきれるとは思えない。


 ならここは――死中に活を見出す!


 全速で地面を蹴る。


 まだ距離はある。ヴォルトは俺の行動に目を見開いていたが、やがて嬉しげに笑みを浮かべ、身体に捻りを加える。


 やがて放たれる【ソニックブーム】。

 もう少しだけ、距離はある。ヴォルトの【ソニックブーム】が当たり、俺の攻撃が当たらないくらいには。


 ――【後の先】発動。

 俺は両足に力を入れ、ヴォルトの足元目掛けて飛び込む。


 【ソニックブーム】は確かに強力な中距離攻撃だが、斬撃によって発動する以上、ほんの僅かに、上段よりも下段の発動が遅い。


 それに加え、言ってしまえば所詮は『線』の攻撃でしか無い。軌跡を誘導できれば、そして、それを視認し、行動することさえ出来れば、近距離でも避けるのは不可能では無い。


 一気に姿勢を低くした俺の左足を、飛翔した斬撃が掠めるが、今も疼く左腕に比べれば、ほんの些細な痛みでしか無い。


 躱しきった、と思うよりも速く前転、両足が地に着いた直後に身体を撓め、一気に飛び上がり、【昇竜】を発動。

 だが、ヴォルトの側頭部目掛けて繰り出した木刀は、素早く引き戻された木剣によって阻まれる。


 惜しかったな、とでも言うように、ヴォルトはにやりと笑う。


 確かに【昇竜】を防がれ、未だ身体が空中にある俺には、ヴォルトの反撃を避ける術は無い。


 だが――そう簡単に諦めるか!


 【先の後】発動!


 攻撃後の隙が無くなる。

 もちろん、空中にある以上全力攻撃なんて出来るはずも無い。

 その上、今の俺は右手一本で木刀を振るっている。両手で振るうよりも、攻撃力も安定性も落ちている。


 だが――刀を振るうことができるのなら、そこで諦める道理は無い!


 やがて俺の上昇速度はゼロになり、緩やかに落下を始める。


 俺の攻撃を受け止めたヴォルトは、直ちに剣を振り上げ、迎撃の構えを取る。


 ――速く。何よりも速く、鋭い一撃を!


 体勢が悪い? 踏ん張りどころが無い? 何より刀を支えるのは右手だけ?


 そんなことは知ったことか!


 俺の行動を、一刀を遮るのが常識であり、物理法則であるというのなら――


 ――俺は、その法則そのものを斬り捨てる!


 一刀如意。意志と同時に放たれた一刀は、稲妻のごとく空気を斬り裂き、巻き込み、やがて従え、無数の斬撃となってヴォルトを襲う。


 目を見開いたヴォルトは、迎撃の手を止め、俺の刀を受けようとする。


 だが、刀はあっさりとヴォルトの木剣を両断し、纏っていた鎧に大きな傷を付ける。

 同時に斬り裂かれた空気が唸りを上げ、剥き出しになっていた肌を大きく斬り裂いた。


 やった、と思う間もなく、俺は背中から地面に墜落する。


 肺の中の空気が無理矢理に押し出され、俺の意識は闇へと引きずり込まれた。





**********



 新人が地面に叩き付けられ、ヴォルトが地面に片膝をつく。

 一部始終を見ていたアスタは、声を上げることも出来なかった。


 ――何だ、今のは?


 その思いが、彼女の心を埋め尽くしていた。


 左腕を折られ、それでも闘志を失わなかったのは、確かに素晴らしい。

 【ソニックブーム】の僅かな隙を見出し、それを付いて飛び込んだ、その着眼点も見事なものだ。

 そして、その後の飛翔しながらの一撃。

 片腕ゆえに安定性に欠けていたが、攻撃後の隙を付いた見事な一撃だった。


 ――あの場に立っていたのが自分だったら、そこで終わっていたかも知れない。


 アスタは冷静にそう判断していた。


 だが、堕ちたりとはいえ、さすがは元英雄。

 即座に木剣を引き戻し、一撃を受け止めたその技量に、背筋が寒くなるのを感じた。


 ――やはり、まだあの男には及ばない。


 脳裏に閃いたその言葉を、怒りで焼き尽くす。


 そして、必殺の一撃を受け止められ、無防備に宙に浮く新人の敗北を確信した。

 それは、受け止めたヴォルトも同じだったことだろう。


 だがその直後、有り得ないことが起きた。


 新人の木刀が銀光に包まれ、刃そのものの輝きを放つ。

 スキル発動の光に似ていたし、アスタの理性もそう囁いていた。


 ――だが、違う。


 アスタの直感は、理性の声を否定した。


 その直感を裏付けるように、放たれた銀光は収束し、やがて、木刀を刃そのものへと変質させた。


 果たして木刀――いや、すでにただの刀と言うべきか――は、ヴォルトの木剣を容易く両断し、鎧に大きな傷を付けた。

 そして刀に斬り裂かれた空気は、そのまま刃と化し、ヴォルトを襲う。

 防御の姿勢に入っていたヴォルトには避けようも無く、風刃は思うさまヴォルトの身体を切り刻んだ。


 その一撃に、すべての気力を使い果たしたのだろう。

 新人は受身さえ取れずに地面に叩き付けられた。



 気を失っているらしい新人に視線を向ける。

 決着が付くと同時に駆け寄っていたシルファが丁寧に介抱しているが、それはもはやどうでもいい。

 床に転がった刀に視線を向ける。

 すでに刀は金属の輝きを失い、ただの木刀に戻っていた。

 一瞬、あれはただの錯覚だったのか、とさえ思ってしまう。


 だが、アスタは自らの目と直感を信じていた。


 ――あれはたしかに起こったことだ。


 ――だが、あれはスキルではないし、魔術でさえ無い。


 ――だが……それならば、あれは一体何だったのだ?


 改めて、気絶している新人に視線を向ける。

 シルファの介抱を受ける新人は、穏やかな顔で眠りについていた。



というわけで、久々のアスタさん登場でした。

タクミ君との会話はゼロでしたけどね!


さて、今回も死闘の末に新スキルを取得しました。

詳細については次回明らかになりますが、アスタさんの疑問が晴れるのは、もうちょっと後になる予定です。


なお、アスタさんが疑問に思った謎の『現象』につきましては、現在『小説家になろう』上で『シーカー』を連載中で、プロとしてもご活躍中の、安部飛翔先生よりアイディアのご提案を頂きました。

この場を借りて、深く御礼申し上げます。


※(10/6)誤字訂正

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