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(仮題)異世界に里帰り  作者: 吉田 修二
1章 神界にて(チュートリアル)
13/29

超外伝 ストライキファイター・セカンド

本外伝を読まれる方へ、注意事項がございます。


・時系列は1章4話の直後です。

・サクラがわりと前面に出てくる話となっております。サクラが生理的に受け付けない方は、読まれないことをお勧めします。

・本外伝は、読まれなくともストーリーに一切の支障はありません。むしろキャラのイメージを損なう可能性があります。

・作者の悪ノリとお遊びで、勢いのままに書かれた、今まで以上の駄文です。かなり見苦しい面もあるかと思います。


以上にご同意頂き、心の準備が出来た方のみお読み下さい。





「……聞いてない」


 喜々としたルファにズタボロにされ、這々の体で学舎に辿り着いた俺を出迎えたのは、珍しく慌てるエルミナだった。

 ぎこちない手付きで包帯を巻き、ガーゼを当ててないことに気づいて包帯をほどき、「治療魔術を使えば良かろう」のツカサの一言で我に返り、一言で全身の傷を癒して溜息一つ。

 そこへ空気の読めてない約一名が「自動回復があるのだから、放っておけば治るだろう?」なんて言い放ったおかげで、ようやく増えた一人に気付くと、恐ろしく冷たい目で彼女――ルファを睨む。


 で、冒頭の一言である。


「――どうしてあなたがここにいるの」


 ルファは肩をすくめ、意外なことに皮肉な笑みを浮かべる。


「どうしても何も、戦士を鍛えるのだろう? むしろこれまで呼ばれなかった方が不思議だぞ。

 ――それより、お前こそどうしてここにいるのだ?」


「私はタクミの教師。エルガイアの共通語、歴史、文化、それに魔術を教えている」


「魔術? 戦闘中にそんな余分な思考を割くなど自殺行為だ。

 今は戦士として腕を磨き、魔術はそのあとで教えればいい」


「タクミには魔術の才能がある。

 将来どのような道を歩むにせよ、魔術の知識は無駄にはならない」


「だから、それは将来学べばよかろう? 未熟な今は、むしろ選択肢を狭めることこそ成長の効率化に役立とう」


「魔術を集中的に学ぶ時間など、これから取れるとでも思ってるの! この脳筋が!」


「何だとこの魔術バカが!」





「……え? 何? あの二人、仲悪いの?」


 呆気に取られて呟くと、ツカサが「うむ」と頷く。


「魔術は、エルミナが創ったモノ。故に、それには余人では想像も出来ぬ思い入れがある。

 だが、オルフェリアは生まれながらの戦士でな。

 戦場に魔術という余分な要素を持ち込んだと、昔からエルミナを快く思っておらぬのだよ。

 そして、魔術に強い思い入れのあるエルミナは、公然と魔術を否定するオルフェリアを嫌悪しておる」


「じゃあ何でルファを呼んだんだよ!? 衝突するに決まってるだろうが!」


 思わず詰め寄るが、ツカサは珍しく眉間にしわを寄せ、ため息を吐いた。


「……呼んでおらぬ。あれが勝手に来たのよ」


「……は? 勝手に?」


「元よりここは、我が創った神界ぞ。我の招待が無ければ、概念神といえども辿り着けぬ」


「それじゃあ、どうしてルファはここに来れたんだ!?」


「知らぬ。あれについては考えるだけ無駄だ。

 ――まあ、そこの不肖の妹が手を回した可能性も否定できぬがな?」


 ツカサの視線を辿ると、言い争いを続ける二人の女神を肴にしながら、暢気に煎餅をかじっている一人の女神。


「ん? ふぁに、にいふぁま?」


「人と話すときは、口に物を入れるでない」


「んっく――ごめんなさいねぇ、何せ育ちが悪いもんで。

 んで? あれを呼んだのが私じゃ無いかって?」


「そうだ。我があずかり知らぬ以上、我が神界に干渉できるのは主の概念くらいのものであろう」


「やーね兄様、いたいけな妹をそうそう疑うもんじゃないわよ?

 ――ま、確かに今回は私の仕業だけどね」


 答えると、サクラはにやりと笑う。

 ツカサは目を細め、訊ねる。


「どうしてだ?」


「それが最適だったからよ」


「『視えた』のか?」


「ええそうよ。まさにそのとおり。

 私が『視た』限りでは、おそらく最適の未来に辿り着けるわ」


「――そうか。ならば、仕方あるまいか」


「そう、仕方あるまいなのよ」


 何やら納得したツカサだが、俺はまだ納得していない。


「サクラ、ルファを呼んだのはお前なんだろ? だったら、あれをなんとかしてくれよ」


「あれ?」


 気がつけば、女神達の言い争いは、そろそろ実力行使に移りかけていた。


 エルミナの周囲には、彼女の身長ほどの直径を持つ、さまざまな色の球体が合計10ほど浮かんでいる。


 ルファはいつしか流麗な細工が施された鎧兜に身を包み、目算で2mを超える大剣を構えている。





 ――それを一瞥し、サクラは「面倒臭っ!」と毒づいた。


「――ったく、意志ある神ほど面倒な存在は無いわねぇ。良い神は死んだ神だけだ、ってやつ?

 たかだか一世界を回す歯車の分際で、兄様の神界を汚そうとするなんて。

 ――今すぐ破滅の未来を持ってきてあげましょうかね」


「止めぬか戯け。――良いから、あれをなんとかして来い」


「ええー。殺し合いたがってんだから、勝手にやらせておけば良いじゃない。むしろ死ねば?」


「――ふむ。そうか。死ねば良いか。それもそうだな。

 死を肯定するとは相変わらず愉快な性癖の持ち主よの。

 ――久々に、死んでみるか?」


 どこからともなく取り出した刀を構えるツカサ。

 瞬時に立ちのぼる、鮮烈な、余分な物など全くない、純粋な殺気。

 その余波だけで、遠く離れた場所でいがみ合っていたはずの女神達は顔を真っ青にし、争いを止めていた。

 もちろん、それをまともに浴びたサクラは頬を引きつらせる。


「ジョ、ジョーク! サクラちゃんジョークよ!

 ていうかほら、もう争い終わってるみたいだし! むしろ最初から兄様が止めれば良かったんじゃない!」


「戯けが。『できる者』と『すべき者』はまったく別の概念だ。

 ――それで? 『できるが、本来すべきでは無い者』にすべき事を為された主は、なんとする?

 『本来すべきであった者』よ」


「サー! 今後の共同生活において、仲良くする、あるいは最低限、衝突しないよう取りはからいます、サー!」


「――ふむ。まあ良しとするか」


 呟くと、ツカサの持っていた刀は、何処かへと消え去った。


「丁度良い。明日は休養日とする。

 ――サクラよ。万事うまく取り計らえよ?」


「サーイエッサー!」


 直立不動でそう叫ぶサクラを一瞥し、ツカサは一足先に学舎へと戻っていった。





 緊張感のある夕食を終え、各人私室に戻っていると、サクラによって強制的に呼び出された。

 場所は――なぜか、俺の部屋。

 メンツは俺、エルミナ、そしてルファ。

 オレらを集めるなり、サクラは告げた。


「よしお前ら、協力しなさい」


「だがことわ――嘘です、何でも仰って下さい」


 反射的に断ろうとした俺は、ぎろりと凄まじい目で睨み付けられ、知らずへこへこと頭を下げていた。


「なかなか良い態度ね。

 ――んで。そこの二人も良いわね? なんてったって、元凶はあんたらなんだから」


「どうして私が――」


「そもそもこいつが――」


 互いに互いを指さす二人を一瞥し、サクラは深々とため息を吐いた。


「――こりゃダメね。処置無しだわ」


「おいおい、ツカサにさんざん脅されてただろうが!」


「そりゃ分かってるわよ! でも、このアホ共は本気でどうしようもないじゃない!」


「そこを何とかしろよ! お前概念神なんだろ? 偉いんだろ? 仕事の都合上、弁が立つとか言ってただろうが!」


「そりゃ兄様の話よ! 誰が私もそうするって言った!? 私はいつも上から目線で命令するだけよ!」


「おま、それ胸張って言うことじゃねーだろ! だいたい、文脈から考えたら、お前だって言葉で説得してるように思うだろうが!」


「嘘は言ってないわ! あんたが勝手に勘違いしただけじゃない!」


「うわーこいつ最悪だー!」


 思わず頭を抱える。

 あれか? まさか、こいつの言動、常に本当かどうか疑わないといけないのか?





 現実逃避のため、言い争う女神達を見ると、彼女たちは再び魔術と剣で対決しそうになっている。


「……何というか、あれだな。戦場からようやく帰ってきたら、待っていたのはそれ以上の地獄だった、みたいな」


「見たまんまじゃない」


「まあ、そうなんだけど! ……しかし、剣と魔法か。そんなのは、お話の中の世界だけだと思ってたんだがなぁ」


「魔術ね、魔術。……まあ、そうよねぇ。現実でドンパチすんのは勝手だけど、こっちを巻き込むなって話よねぇ。

 ……ん?

 そうか、それだわ!」


 何かを思いついたのか、サクラはパチンと指を鳴らした。


 そして争う二人の女神は、学舎を破壊しかかったところで、騒ぎに気づいたツカサに止められ、全員頭に拳骨を落とされた。

 




 翌日。俺たちは燦々と日の光が降る草原に――背を向け、学舎の遊戯室に来ていた。


 ビリヤード台、ダーツ、カードゲーム用のテーブル、それに混じってなぜか大画面のテレビと、接続された古今東西のゲーム機。

 その中央で、発起人はふんぞり返っていた。


「諸君! よくぞ集まってくれたわね!」


 サクラだった。いつものドレスはダサいジャージの上下に姿を変え、額にはハチマキなんぞしている。

 集まった――もとい、集められたメンツは、今この学舎で生活している全員。

 半ば諦めたような表情の一同を、なぜか満足げな顔で見回すと、サクラは告げる。


「今日集まって貰ったのは他でも無いわ! 新入りの戦バカもとい闘争の女神オルフェリアの歓迎会と!」


「誰が戦バカだ!」


「そしてオルフェリアの女性的な魅力に嫉妬する成長不良の小娘もとい知識と魔術の女神エルミナの!」


「……誰も嫉妬なんてしてない。してないったらしてない」


「『とにかくてめえら仲悪すぎんだよ! ゲームでも通じてちったあ仲良くなりやがれ大会』に参加して貰うためよ!」


 酷すぎる大会名を自信満々に宣言するサクラ。

 それを路傍の石でも見るかのような視線で見つめていたツカサは、僅かに目を細め、「ふむ」と呟く。


「――趣旨は分かったが、具体的に何をしようというのだ?」


「あ? んなもん適当にどれか選んで――あ、ウソウソ、嘘ですよ兄様。ちゃんと考えてますって。えへへ。

 ――というわけでタクミ! あんた、この中だとどれが得意?」


「って、いきなり俺に振るのかよ! ……まあ、強いて言えばTVゲームか? というか、他は正直やったことないし……」


「あんた、ちょっとは趣旨を理解しなさいよ! そこの脳筋雌ゴリラが、ボタンが四つ以上あるゲームなんてできるとでも思ってんの!?」


「誰が脳筋雌ゴリラだ! ――ふん、舐めるなよ。

 この闘争の女神オルフェリア! およそ戦いと名の付くものならば、だいたい負けん!」


「え、ちょっとは負けるの?」


「戦いに100%など無い! あるのは勝者と敗者だけだ!」


「いや、だから、その勝者側に必ず入ってるんじゃ無いかって話であってだな」


 俺の突っ込みはまったく耳に入らない様子で、ルファはエルミナに不敵な笑みを向ける。


「さあ、エルミナよ! この私の挑戦、受けて立つか!」


「――笑止。この知識と魔術の神エルミナに、良く知らないけど知的っぽい遊戯で勝負を挑むとは。

 その思い上がり、修正してやる……!」


「良く知らないのかよ! っていうか、知的っぽいのはさすがにハンデ有り過ぎだから禁止な」


「何と……! まさかの裏切り……!」


「いやいや裏切ってないから。

 ……というわけでサクラ、ここは一つ、公平に格ゲーとかどうだ?」


「……公平、かしら?

 そこの脳筋は小足見てから昇竜とか超余裕そうだけど。

 技とか知らなくても野生の勘で何とかしそうね」


「いい加減私を動物扱いするのは止めろ!」


 がるる、と唸るルファを「どうどう」と宥めつつ、言葉を続ける。


「そこはほら、エルミナには魔術があるし。自己強化に限ってOKってことにしとけばいいんじゃないか?

 その差が無くなれば、わりと戦術の要素もあるし」


「……なるほど。自称女神(笑)の野生の勘VS合法ロリの『さすが忍者汚い』的戦術ってことね。

 それなら、まあ、勝負になるかしら?」


「……色々と突っ込みどころが多すぎるが、とりあえず、私は自称では無く女神だ」


「……好きでこんな身体じゃ無いのに……」


 戦う前からすでにグロッキー状態の女神達。





 とにかく、ゲームは俺の独断と偏見で、『ストライキファイター・セカンド』に決定した。


 このゲームは、会社の横暴によって、労働組合を強制解散させられた労働者達が巻き起こす、さまざまなドラマを描いた格闘アクションゲームである。

 タイトルからして一作目がありそうだが、どうも某有名格闘ゲームをパクっ――あやかったらしく、これが一作目だ。

 発売当初、ちょうど格闘ゲームがブームだったこともあり、奇抜な設定にかかわらず、それなりに売れた。

 だが売れてしまったことで何かを勘違いしたらしく、続編も作られたのだが、所詮奇抜な設定だけがウリのゲーム、ほとんど売れず、制作会社は倒産の憂き目に遭ったとか。


 登場キャラも個性派揃いだ。

 たとえば主人公のリョウは、淡々と日々の仕事をこなす、リストラ寸前の労働者だ。

 だが、仲間達が起こした怒りのストライキに同調し、止めさせようとする会社側の刺客を、実力で退けていく、というバックストーリーを持っている。

 何故リストラ寸前の労働者が、それほど格闘に優れているのかは、おそらく、突っ込んではいけない。


 労働者達は、ストライキ中はリョウを英雄ともてはやすが、やがてラスボスの社長を倒し、労働組合の復活を約束させると、用済みとばかりに首謀者としてリョウを差し出す。

 クビになったリョウは、一人寂しく会社を去る――という、一見救いのないエンディングだが、その戦いを見ていた闇金業者にスカウトされ、次回作では恐怖の取り立て屋として活躍する。

 ――あれ、やっぱり救いなくね?



 練習の風景を見るのはフェアでは無いというツカサの主張により、互いに、自室に新たに用意されたテレビとゲーム機で練習することに。





 やがて、1時間の練習を終え、二人とも遊戯室に戻ってきた。

 両者共に、自身の勝利を確信しているのか、不敵な顔だ。


「ふっ――エルミナよ、敗北を認めるなら今のうちだぞ。

 私の『モランチャ』の噛み付き攻撃がお前を待っている!」


 ルファ……なんだってよりにもよって唯一の野生児キャラを選んじゃったんだよ……。


 ちなみに、モランチャは外国人労働者で、日本語がたどたどしい以外は普通の好青年だったのだが、戦闘中は先輩従業員の与えた謎の薬を飲むことで理性を無くし、まさに獣のごとき身体能力を手に入れる。

 技の入力判定がなぜか一人だけかなりシビアに設定されており、時折プレイヤーの操作を裏切って、必殺技を不発することから、「さすが獣」「ビースト扱いづらいわぁ」とかなり不評なキャラだった。

 次回作では唯一リストラされたことからも、不人気ぶりが窺える。


「ふん。そんなケダモノ、私の『ゲン』の前では子犬に等しい。

 魔技・養老拳の餌食となるが良い」


 エルミナ……お前もどうしてよりにもよって玄人向けのキャラを……。


 ゲンは、定年を迎えたが、その技術力を惜しんだ会社が嘱託として残した。

 普段は気の良い嘱託技術者だが、実はラスボスの社長の父親で、ストライキの中心人物を闇から闇へと葬っていく、ある意味ラスボス以上にラスボスっぽいキャラだ。

 老人だけに動きは遅く、攻撃力も低い。

 だが、養老拳と自ら名付けた多様なカウンター技を用い、ほとんどあらゆる攻撃――飛び道具さえも――対応できるかなりの強キャラだ。

 ただし、技のほとんどは複雑なコマンド入力を必要とし、状況に応じて即座に使うのは難しい。

 プレイヤーにはずば抜けた先読み能力を要求される。



「……この勝負、モランチャが持ち前のトリッキーな動きで、どれだけゲンの先読みをつぶせるかに掛かってるわね」


「ああ。特にモランチャはジャンプ失敗とか意味不明な必殺技を無駄に数多く持ってるからな。

 いくらゲンが強キャラでも、扱うエルミナがプレイ歴1時間じゃ、かなり厳しいだろう」


 俺とサクラがそんな顔で語り合っていると、ツカサが遠い目で俺たちを見つめていた。


「……主ら、詳しいな」


「まあ、結構やり込んでるから」


「とりあえず、ひととおりの有名どころはプレイ済みよ!」


「そうかそうか。それはすごいな」


「――ツカサ様。そんなことより、お茶が入りましたよ」


「ああ、すまぬな」


 あっさり興味を無くし、ツカサと黒鬼さんは優雅なティータイムとしゃれ込んでいた。


「くっ……これがゲーマーとリア充の差だって言うの……!」


「おのれリア充! いちゃつくんなら俺らの見えないところでいちゃつけってんだ!」


 俺たちの血を吐くような叫びは、しかし、当然のようにリア充には届かなかったとさ。





 そんな悲しい出来事もあったが、とりあえず、バトルが始まった。



 先制したのは、やはりモランチャ。

 両手を地面に突き、四つ足で地面を駆ける。

 これにより、2倍の速度で走ることが出来る――という設定だった気がするが、やってることはただの前方ダッシュで、全キャラ標準装備だった。


 迎え撃つゲンは慌てず騒がず、上段カウンターの構えを取る。

 キャラによって異なるが、ダッシュ攻撃は大半が上段攻撃判定を持つ。

 それはモランチャも例外では無い。

 早速ゲンが先制か――と思っていると、モランチャはゲンの直前で飛び上がり、背後に回る。

 着地するなりしゃがみ込み、下段小キックから中キック、大キックへと繋げる。

 一連の攻撃で、ゲンのHPは1/5程減少し、間合いが離れた。


 ひとまずはここで、仕切り直しとなった。



「おおっ、初心者のくせにチェーンを使いこなすとは、野生の勘って結構侮れないわね」


「いや、それ以前のダッシュジャンプは、おそらくゲンのカウンターの構えを見てから瞬時に切り替えたな。さすがはルファだ」


 自然と2人でにわか解説者になった。



 ともあれ、吹っ飛ばされたゲンはダウンしたが、ルファは起き攻めしようとはしない。

 そのままの距離を保ち、ゲンが起きあがるのを待っている。

 さすがはルファ、騎士道精神に溢れている――と言いたいところだが、おそらく、ゲンの起き上がりカウンターを警戒してのことだろう。

 ゲンは何事も無く立ち上がると、そのまま、モランチャに向かってダッシュし始めた。


 だが――遅い! さすがは全キャラ中最遅のゲン! 辿り着くまでにあっさり迎撃されそうだ!


 案の定、モランチャはダッシュで近寄り、小パンチを放つ――が、ゲンの目がぎらりと光ると、放たれた腕を掴み、一気に投げ捨てた!


 今度はモランチャが地面に叩き付けられ、ゲンと同程度までHPが減少する。


「うおっ、ダッシュカウンターか! あれタイミング難しいんだよなー」


「つーか、ダッシュ中にレバー半回転とか、プレイ時間1時間弱の素人にはまず無理な操作よね。

 それを行う戦略と度胸、それに正確なレバー操作。

 魔術の補佐があるとは言っても、さすがは知識と魔術の神ってところかしら」


 その後も一進一退の攻防が続く。


 モランチャは持ち前のトリッキーな動作でカウンターの暴発を誘い、反撃。

 対するゲンは、巧みな試合運びで「攻撃せざるを得ない状況」を作り出し、HPを削る。


 だが、チェーンコンボを軸にしたモランチャの攻撃は、徐々にHPの差を広げ、やがて、1本目はモランチャが先取した。



「いやー、なかなか白熱した展開だったわねー。とても今日初めてゲーム機を触った2人には思えなかったわ」


「エルミナの試合運びは素晴らしかったけど、ルファがなんとか押し切った、って感じだったな。

 でも、これである程度モランチャの動きは見られただろうから、2本目はエルミナが有利かもな」


「そうね。まあそこは、プレイヤーの野生に期待、ってところね」



 2本目は、俺たちが予想したとおりの展開となった。

 モランチャはトリッキーな動きで攪乱するが、ゲンはそれをほとんど読み切り、着実にカウンター。

 稀に読み切れない攻撃を貰うこともあるが、大勢を覆すほどでは無い。

 危うげ無く、ゲンが勝利した。


「うーん、こりゃ勝負決まっちゃったかしら?」


「そうだなぁ。さすがにもうルファには手が無いだろう。動きのほとんどを読まれちゃってたからな」



 だが3本目、ゲームは意外な展開を見せる。


 モランチャはこれまで以上にトリッキーな動きで画面狭しと暴れまくり、ゲンを翻弄し続ける。


 ゲンもカウンター出来る攻撃はカウンターし、着実に反撃していくのだが、攻撃よりも翻弄を重視したモランチャは、それ以上にカウンターの暴発を誘い、反撃を重ねていく。


「なんと! 今までの2本は、エルミナにあえて慣れさせるためのものだったってこと!?」


「……いやー、勝てそうも無いから、がむしゃらに操作してるだけのような気がするけど」


 だが実際、素人のガチャプレイこそ読みにくいものはない。

 何せ、適当にレバーとボタンをガチャガチャしているだけなのだから、操作している本人でさえ、次にどんな動作をするのか分からないのだ。

 対戦相手にとってはなおのことだろう。


 エルミナはカウンター狙いは諦めたらしく、ひたすらに防御を固め、モランチャの隙を狙って反撃する。

 だが、ルファは唐突にガチャプレイを止め、要所要所で巧みに回避する。



 いつしか、両者のHPはほとんど無くなっていた。

 どちらも、小パンチ1発で敗北が決定する。


 こうなると、どちらもうかつに動けない。ある程度離れた位置で睨み合う。



「――ふっ。日がな一日部屋にこもり、愚にも付かないお勉強を続けるお前にしては、なかなかやるではないか」


「――あなたこそ。朝から晩まで猿のように走り回っている割りには、意外に頭が回る」



「おお……闘いを通じて、二人の間に友情が芽生えようとしているのか?」


「そんなのは少年漫画の世界だけで十分なんだけど……まあ、目的は達せそうね。結果オーライかしら」



 どこか生温かい目で見守る俺たちには気づくはずも無く、二人はさらにヒートアップ。


「だが、いつまでもこうして睨み合っているわけにも行くまい。――次で、決着を付けるぞ!」


「望むところ。――受けて立つ!」



 次の瞬間、画面が暗転し、モランチャの身体が青く光る。

 HPゲージの残りが1/6を切ることで発動できる、超必殺技のモーションだ。


 モランチャの超必殺技は、重力を無視した回転飛び込み。

 当たれば今のゲンのHPでは耐えきれず、敗北。

 防御しても、連続ヒットでHPを削り続け、これもまた敗北。

 しかも、この技だけは、何故か当て身系の攻撃を無効化する。

 当時、一部のコアなゲームファンの間で話題になったが、制作者側からは何のコメントも無かった。

 今では単なるバグだという説が根強い。


 つまり、現状でエルミナが取りうる手段は、ジャンプで避けることだけだ。

 だが、ゲンのジャンプ発動は全キャラ中最遅。

 飛び上がる途中で打ち落とされる。

 まさに詰みの状態。エルミナの敗北は避けられない。



 だがエルミナは、俺が予想もしなかった手段を選ぶ。


 モランチャの画面暗転が終わった直後、再び画面が暗転し、ゲンの身体が赤く光る。



「なにっ!? 超必返し!?」


「おそらく、ほとんど同時にコマンド入力してたのね!」



 ゲンの超必殺技は、相手に高速――これまでの闘いは何だったんだ、と思うほどの超高速――で近寄り、膝蹴り。

 それがヒットすれば乱舞系の攻撃に、防御されれば投げ系の攻撃に変化するという、ある意味ゲンらしい、2段構えの技だ。


 一見すると隙の無い技のように思えるが、移動中は無敵時間が無いため、うまくバックステップで避ければ、飛び道具で迎撃できる。

 だが、モランチャには飛び道具系の必殺技はないし、なにより、すでに必殺技のモーションに入っている。

 避ける手段は無い。


 俺たちが固唾を呑んで見守る中、画面上の両者は高速でぶつかり合い――そして、共にはじけ飛んだ。



「ダブルK.O.か!」


「まあ、そうなるわね。

 ……ということは、この勝負、引き分けね」


 ほっとしたようにため息を吐くサクラ。

 まあ、どっちが勝手も角が立ってただろうからなぁ。そう考えれば、まさに最適の結果ってことか。


 見れば、プレイヤー二人はがっちりと握手を交わし、互いの健闘を称え合っている。



「――やるな、エルミナ。見直したぞ」


「――あなたも。ただの筋肉バカじゃ無かった」



 おお、ついさっきまではあんなに仲の悪かった二人が、互いを認め合うように……。

 うんうん、やっぱりゲームってのは偉大だな。

 そんな感慨に浸っていると、サクラが両手を打ち鳴らした。



「はい、というわけで、因縁の対決はこれで終了。

 ――どう? 仕事上、お互いに譲れないところはあるでしょうけど、だからといって個人の人格までを否定するのは間違ってる、ってのは分かってもらえたわよね?」


「ああ、そうだな。――凄まじい読みだった。どこに攻撃してもカウンターされるような気がしたぞ」


「それはこちらも同じ。読まれているのに気付き、その読みを外すことに集中するとは。

 分かっていても、なかなか出来る事じゃない」



 2人の感想を聞き、サクラはうんうんと大きく頷く。


「はい、大変結構。――さて、二人が互いを認め合ったところで、今度は全員でプレイしてみましょう!

 ……もっとも、私のリョウに勝てると思うのならの話だけど?」


「上等。さっきのでゲンの使い方はだいぶ分かった。

 ――リストラ候補のロートルが、定年後も会社に頼まれて嘱託となった、優秀な技術者に勝てるはずも無い」


「ふっふっふ。私のモランチャによる、野生の攻撃に恐れ戦くが良い!」


「おっと、俺のレンによる華麗な連撃を忘れて貰っちゃ困るな。

 今日ゲームを触ったばかりのヤツに、レンの攻撃が見切れるかな?」



 俺たちが盛り上がる中、珍しく、ツカサは困惑したように呟いた。


「……ふむ。全員と言うことは、我らにも参加せよと?」


「そうなるでしょうね、ツカサ様。ゲームは初めてですが、精一杯頑張ります」


 黒鬼さんはいつものように、にこにこと微笑み、ツカサは深々とため息を吐いた。





 その後、俺たちは全員総当たりのリーグ戦、トーナメント戦、相方を変えてのタッグ戦を楽しみ、休養日は大成功で幕を閉じた。



 ……ちなみに、俺はその中でただ一人全敗だった。

 いやいや、CPU並の超反応に人間様が勝てるはずないし。


 ふん。所詮はゲーム、悔しくも何ともないね!





 ……次の休養日は、格闘じゃ無いアクションゲームで勝負してやる。



手直しの進捗にも因りますが、2章投稿は9/13中の予定です。

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