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灰色の境界  作者: 宵時
第四章「……ええ。時を経て、俺は殺人者になった」 「〝英雄(ヒーロー)〟とは言わないのだな」
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4-6 最期の文化祭

 ホームルームが終わり、各自でグループを作って次々と教室から出て行く。舞台演出の枠が多い関係上、劇を披露するのは学生のみの今日と招待客を含む一般客までが楽しむ公開日、二日間で一回ずつの二回だけだ。

 教室に残っているのは俺とリオン、クレスに遥姫(ようき)とまとめ役の加賀見に様々な雑務をこなす刃助の五人だけだった。加賀見が室内に備え付けられたものではなく、自らの右手につけた腕時計を左手の人差し指で示しつつ口を開く。

「いいですかぁ、午後一時半集合で開演は二時きっかりですからねぇ」

「分かってる」

「いいか亮さんよ、その返事は遅れなかった時だけ口にしていいんだぞ」

「……じゃあ、どう答えればいいんだよ」

「善処します、とか遅れないよう気をつけますとかだな、うん」

「なんで遅れる前提なんだよ!」

 思わず語尾が強くなる。

 加賀見が口元を抑えつつ笑い、リオンは呆れたように首を振った。

 遥姫も苦笑いを浮かべている。

「イエス、マイマスターとかでもいいぞよ?」

「俺は加賀見の下僕でも部下でもメイドでもないっ」

「おやおやぁ、来々(くるるぎ)君には女装癖がおありで?」

「ないっ!」

 即座に否定し切り捨てる。加賀見は変わらず楽しそうだ。

 刃助が視線を上にして何か考えてから、明るく笑う。

「では証明してもらうとしようか」

「証明って……何の罰ゲームだよ。俺が何かしたか?」

「ああ、したとも。いや、正確にはまだ履行されてない、というべきか?」

「一体何のこと――」

 言いかけて、思い出す。〈知核人機(ニアリヒュー)〉発見から始まった今回の件。結局刃助や遥姫には何らまともな説明をしていない。

 戦うことに必死で、守ることに囚われすぎていて。自らの器で澱む何かを解き放って、霊剣の能力を引き出した結果ぼろぼろになって……。

 治療に専念して、急いで舞台練習をしていくらでもタイミングはあったはずなのに。

 いや。記憶の引き出しを開き、加賀見の表情を伺う。見られて恥ずかしい、みたいな照れ顔で首を振り、小さく舌を出してきやがった。つまり何も説明してないのか。

「あー…………その、あれだな」

「やっと思い出したか朴念仁め」

「えっ……亮、また何か悪さを?」

 リオンが疑念の目を向けてくるが、お前も一緒にいただろうが。都合の悪いことを記憶から消去しているのだろうか。それとも単にとぼけているだけか。俺達が受け継ぎ、やがては食われるであろう魂に刻まれた印は忘れることなど許容しない。

 小さく息を吐く。特に断る理由もない。リオンもクレスもアルメリアから離れることを口にした身だ。少しでも場や雰囲気を柔らかく和ませようとしているのかもしれない。

 三人が共に阿藤学園の生徒であり続けられるのも、今日と明日だけなのかもしれない。

 肩を叩かれる。刃助が悪いことを考えていそうな気持ち悪い笑みを浮かべていた。

「思うところがあるようだな?」

「……ああ。まぁ、な」

「であるならばエスコートせよ」

「誰を?」

「誰って貴様、ここでとぼけるか」

 リオン、続いてクレスの顔を見る。クレスの表情は爽やかな笑み。

「ほら、僕は色々と予定が詰まっているから、ね」

「……やっぱり文化祭後に行くのか」

「一時帰国、ね。きっとまた戻ってくるから」

 教室の外からクレスを呼ぶ女の声が聞こえる。最後だから、ときっとクラスの女子生徒皆と回らされるのだろう。それはそれで大変そうではある。

 リオンが小さく咳をした。

「お姫様達がお待ちですよ、騎士様?」

「そのようだね。じゃ、集合時間までには戻ってくるから」

「ごゆっくり、どうぞぉ」

「くそっ、これだからモテる男は……」

 加賀見から和やかに、刃助から嫉妬混じりに見送られるも笑顔のまま。

 クレスは笑顔の仮面のまま皆と出会い、そして別れていくのだろう。

 リオンが慰めるように刃助の肩を叩く。

計継(はかつぎ)君には私の案内をする、っていう重大な役目があるんだけど?」

「む、それは……こ、こんな落ちこぼれ目にそんな大役をぉっ!」

「いやいやいや、そんな大層なもんじゃないけど、ね」

 刃助のオーバーリアクションに若干引きつつ、リオンは意味ありげに目配せする。

 加賀見が受け取って、取りまとめるように手を叩く。

「さてさて、時間も惜しいですし、サクサクっといきましょ。あたしは色々と走り回らなきゃならないんで単独行動なんです。来々木君は姫としっぽりと、どぞどぞ」

「おい、しっぽりってお前……」

 抗議する暇もなく加賀見は逃げるように教室を後にした。リオンが刃助の手をとる。

「ほら、私達も行きましょ。男性がリードしてくれないと逃げられますのよ?」

「ふっ……お任せください! 亮、姫を任せたぞ」

「あ、ああ」

 当の遥姫には確認を取ることすらなくリオンと刃助が教室から出て行く。

 はっとする。元々、こういう段取りだったのかもしれない。喧騒に囲まれ、区切られ置いていかれたような教室で二人、俺と遥姫が向き合う。

 今更緊張するような状況でもないのに、やけに自らの鼓動がうるさかった。

「その、迷惑……だったかな」

 遥姫が俯いたまま、砕け散りそうなほど脆くか細い声でこぼす。

 迷惑なんかじゃない。むしろ、ここまでお膳立てされて拒絶する方がおかしい。

「そんな、ことは」

 口にしかけて、思い止まる。優しい言葉をかけるのが正しい選択肢なのか。いずれ、必ず訪れる別離を前に触れて深く踏み込んでしまうことは善とされるのか。

 真実を晒し、殺人者であることを明かして全てを打ち明けてしまえば終わる関係。それでも日常の象徴であり、守るべきもの。

 小さく首を振る。自らの内側で渦巻く疑念を否定し、長い呼吸と共に吐き出した。

 ゆっくりと右手を差し出す。

「……楽しもう。高校生活、最後の文化祭を一緒に」

「来々木君は、私でいいのかな」

「月城が……いや、遥姫が、いい」

 ばっ、と遥姫が顔をあげる。少しだけ涙ぐんでいて、目じりから透明な雫がこぼれて落下し、教室の床で砕け散った。

 自分でも驚いている。何故、と自らに問いかけつつ顔が熱い。

 ふんわりと柔らかくも暖かい手が俺の手を包み込む。遥姫は、笑っていた。

「やっと、名前で呼んでくれた」

「……すまない」

「もう、どうしてそうなるかな」

 泣きと笑いと困惑と呆れが複雑に入り混じった表情で遥姫が涙を拭う。

「うん。うん……めいいっぱい、楽しもう。来々木君」

「そうじゃないだろ?」

 聞かれて赤面する。やっぱり俺も顔が熱い。

「……亮、くん」

「及第点かな」

「えらそうに」

「ははっ……」

「ふふ、ふふふふ」

 顔を見合わせて笑いあう。こんなところだろう、と思った。

 もう一度手を触れ合う。指と指を絡ませる。体温を感じて、想いを受け取って、何者かに願い乞う。今だけは、この二日間だけは全てを忘れていたい、と。




 俺と遥姫は二人だけで学校内を回った。

 教室を使った学生主演、学生の脚本と監督で作り上げられた映像作品の上映会に、各種文化系クラブの展示会。昼の舞台まで余り時間はないので、ゆっくり見ては回れず広く浅くといった具合に活動結果と成果を見て触れて聞いて楽しむ。

 遥姫と二人きりで若干の不安はあった。が、劇の宣伝をしていた加賀見の力もあってか、生徒達の見方は〝劇場での主人公とヒロインが一緒にいる〟体だった。

 外に出る。空はよく晴れていて雲ひとつない。

 差し込む太陽の輝きがやけに眩しく感じられた。

 携帯で時間を確認する。十一時半、少し早めだが昼食をとっておいた方がいいだろう。

 隣で何かを言い出そうか、黙るべきか悩む風の遥姫に声をかける。

「昼ご飯、先にとっとこうか」

「えっ……う、うん。そうだね!」

「そう考えて、というか言い出したかったんじゃないのか」

「ど、どうして……」

「分かるよ、遥姫」

 自然と笑みがこぼれる。こんなに軽い気持ちは久々かもしれない。

 遥姫を連れて中庭を歩いていく。校舎近くには多くの出店がある。生徒達がクラスで出しているものと、阿藤学園に出資している系列企業の店が半々くらいだった。

 折角なので学生側の店で適当に見繕う。確保する目標はお好み焼きの店で二パック、塩焼きそばの店で二パック。そしてドリンクを二本。

 焼きそばを手渡してくれた男子生徒が意地悪な笑みを浮かべる。

「毎度あり。劇のカップル様はリアルカップルなのか」

「そうだ、と言ったら?」

「根暗野郎も必要最低限の男があったんだな」

「どうぞ自由に解釈してくれ」

 いちいち説明するのも面倒だ。遥姫はどう思っているのだろうか。肩を叩かれる。振り向くと満面の笑みで出迎えた女子生徒がドリンクを二本持っていた。

「はい、どうぞっ」

「いや、別の店で買おうかと思って……」

「違いますよぉ。サービスですぅ」

「サービス?」

 そのまま聞き返してしまう。俺の耳元で女子生徒が囁く。

「薬物事件から、ちょっと気になってたんですよ?」

 ぞくりとする。条件反射的に肩をはねさせるのだけは堪えて、目線で問う。

 女子生徒は恥ずかしがっているような、からかっているような真意の掴み難い調子で言葉を連ねる。

「根暗とか陰険とかマイナスなイメージも

多いみたいですけど、見てる人は見てるってことで」

「新手のキャッチセールスか詐欺かか」

「またまたぁ、そうやって疑っちゃうところも可愛いですよねー」

 よく分からない。何だか別方向からの視線が痛い。

「分かった、とりあえず受け取っておくよ。有難う」

「どう致しまして! 劇、楽しみにしてますからねっ」

「期待を裏切らないよう、なるべく頑張るよ」

 受け取る受け取らないの押し問答をしていても仕方ないので素直に引く。

 受け取ったドリンクを手から塩焼きそばの袋に入れて、お好み焼きの店へ向かう。

 ここでも大体反応は似たようなものだった。今更ながら自身の認知されている様に苦笑する。黒から白の世界に踏み込んだ者として、色が変わらぬよう混じることで精一杯だった。他人の反応や噂などいちいち気にしている余裕などなかった。

 お好み焼きを受け取って空いている席を探す。何故かずっと無言の遥姫が怖い。

「ふふふ、アツアツな日々を楽しみですなぁ、お二人さん?」

「うわっ」

 唐突に声をかけられ、本当に自然に声が出てしまった。

 加賀見が愉しそうに口元を抑えつつ笑う。

「来々木君、女の子に向かってそれは酷くないですかぁ」

「……悪い」

「まぁいいです。お探しの席は確保しておきましたんで、どぉぞ」

 レストランのウェイトレスよろしく、手で示される。中庭の一角に設けられた席のうち一つに〝幻想の贄華(ファンタズム・ニルヴァーナ)カップル席〟なる立て札がかけられたものがあった。

「……なんだ、あれは」

「何って来々木君と姫の特等席にござりますれば」

「加賀見、お前なんだか刃助化してないか」

「刃助化って、それはそれで失礼ですよぉ」

 溜息を吐く。とはいえロスタイムなしですぐ食べられるのは有難い。劇のために最後の打ち合わせもあるし服も着替えなければならない。早め早めに行動するに限る。

「加賀見は昼、どうするんだ」

「あたしはあたしで勝手にやりますんで」

「……そうか」

「じゃ、お二人でごゆっくりー」

 言うだけ言って加賀見は生徒達の波に混じって見えなくなった。

 立ち尽くしていても意味はない。席へと向かい、恥ずかしい立て札を倒して椅子を引く。机の上に塩焼きそばとお好み焼きとドリンクのボトルを置いた。

「さて、食べようか」

「うん」

 短く答えた遥姫が席に腰を下ろす。俺はその声に含まれた悲色に触れるべきか、触れざるべきか考えて触れないことにし、自らの食事に手をつける。

 会話のないまま俺が箸を運び、咀嚼(そしゃく)する音だけが響く。まるで世界からこの空間だけ切り取られ置き去られたように静か過ぎた。

「亮くんは、どう思っているの?」

 そう問うまで遥姫は食事にもドリンクにも手をつけずに、ただ座っているだけだった。

 俺は(すす)り上げた焼きそばを飲み込んでから、いつものように言葉を返す。

「〝何に対して〟が抜けているが」

「……その、名前で呼んでくれたっていうのは、ね。色々と期待していいのかな、って」

「それは……」

 どういう意味なんだ、とは尋ねない。問うまでもなく意味合いなど理解している。

 名前というのは個人を指し示す記号で、その呼び方は信頼距離を表していると思う。初対面の人間は苗字で呼び合い、共に様々な体験をして親密になったと互いに思えれば自然とあだ名や下の名前で呼び合うことになる。

 多分、それが一般的な解釈だと思う。

 俺が刃助やリオン、クレスを名前で呼ぶのも相応しき距離だから。本来ならば遥姫もその位置にいるはずで、だがずっと俺はそう呼ぶことを避け続けていた。

 どう返答するべきなのか。

「さっきのこと、怒ってるのか」

「さっきのこと、って何かな」

「何って、ドリンクのサービスを受けたことを、だな」

「嬉しそうだったもんね」

 何だか問い詰め方がリオンに似ている。

 出会った時、リオンは俺を殺すためにアルメリアに来たのだと思っていた。

 クラッドチルドレンは死を抱えている。限られた時間しか生きられない。呪いを越えるには愛を知るか、大量の命を貪るか、対極に位置する存在を殺害しなければならない。

 犠牲として選ぶのであれば一万か一人か。それとも、人ならざる存在としていつきながらも普通の人間として過ごしていくか。

 リオンは選ばなかった。そもそも、犠牲を強いることをよしとしなかった。

 そして確かに口にしていた。殺人者であっても、咎人であっても普通に当たり前の人生を生きる権利があるのだと。日常を過ごし、友人と笑いあい、特別な関係を築いて幸福を選ぶ道もあるのだと言っていた。

「違う」

「違わない。分かるから。ずっと、見てたから」

「……俺は、」

 俺は、あの時に死んだ。いや、死に損なったのだ。

 魂が砕けて散らばり、破片どころか中身を失った窓枠のような存在だった。

 生きながらに死んでいたから、生き続けるために理由を探すしかなかった。

 凶器を手にし狂気を浴びぶつけられながらも、駆逐していく道を選んだ。

 同じ悲劇を生まないように、罪なる存在を根幹から駆逐するために〈灰絶機関(アッシュ・ゴースト)〉として、〈紅の死神〉として殺し続けてきた。

 その罪を裏側に隠して、刃助や遥姫の前では〝普通〟を装っていた。

「俺は、こんなだから、うまく言葉にできない。

ただ、遥姫が思っているようなことは、何もない」

「嘘よ。リオンさんとか、鏡華ちゃんとか。あの時の、こととか」

「それ、は」

 確かに説明していない。できていない。

 しかし、今なのだろうか。この場でするべき話なのだろうか。

 いや、論点を摩り替えているだけだ。今までも、ずっと嘘を吐いてきた。偽り、隠し続けてきた。それは俺が触れざるべき白の世界の住人だと認識していたから、どこまでいっても俺は黒の世界に住まう人間で、一定の距離を置くべきなのだったと。

 だから、か。抱えているものを全て吐き出せと促しているのか。

「……ごめんね、嫌な女で」

「そんな、ことは」

「ううん。ごめんね、忘れて?」

 笑顔を振りまく遥姫。雫がこぼれて散る。俺が遥姫の名を呼んだ時とは別種の悲哀を含んだ色合いを見せて砕けていった。

 今になって、再認識することでもなかった。

 俺は刃助や遥姫にずっと強いてきたのだ。何かに気付いたとしても、察してくれと。触れないでくれと。お前達には関係ない、踏み入るべきではないと。

 俺の手で境界線を引き続けてきた。二人の意思を確かめることなく追いやってきた。

 違う。そうした強要を行ってきたことは俺自身も無意識のうちに帰るべき場所なのだと捉えていたのだ。

 だから、壊れることを恐れる。喪失から逃れるために覆い隠す。

 俺達は罪を繰り返すものは悪なのだと断定する。輪廻する因果を断ち切るために犯罪要因、前科者を(ゆる)さず殺害して世界から排除する。

 殺して、奪った裏側で何気ない顔で刃助や遥姫と語らい笑い合っていた。

 リオンの言葉は、奪っていない者の観点でしかない。やはり、俺が深く日常の側に踏み込んでしまうのは間違っていたのだ。

 恐らく、遥姫も刃助も気付いている。いや、推測が確信に変わったのは〈知核人機〉の一件だろう。あの場では、あの状況では偽りようがなく隠す術もなく、ああするしかなかった。

「……遥姫、俺は」

「いいの。無理に、言わせようとしてごめんね」

 何故なのだろう。どうして、俺はこんなにも迷っているのだろう。

 いつかは必ず訪れる時で、早いか遅いかの違いしかない。形あるものが、いつか必ず原型を失って崩壊するように、永遠に続いていくものなど何一つとして存在しない。

 全部ぶちまけてしまったら、どうなってしまうのだろう。

 そんな破滅へ突き進む願望が、ほんの少しだけあった。

「今は、集中しよう。最期の、文化祭なんだし」

「そうだね。最後、だもんね」

 沈黙。互いに黙々と栄養を摂取するために目の前の食べ物を口へ運び、溶かしやすいように噛み砕いて胃へと送り込んでいく。互いに吐き出そうとした言葉と一緒に。

 最初から分かっていたはずだった。

 千影に命じられ、守るべきものの尊さを確かめるのだと編入した時から理解していたはずだ。仮初の学園生活、偽りの日常……その壁を打ち砕いたのは、刃助であり遥姫で。

「そう、か」

 口の中で発し、漏れた息がすぅと小さく音を奏でる。

 二回目だ。全てを失い、空っぽになった器は一度満たされていった。

 だが、奪われ破壊された。姉と慕った少女を失い、己の無力さと浅慮さを噛み締めながら紅き覚醒を放つ呪いを引き受けたのだ。

 今、繰り返されつつある。世界で起こっている事変を、クラッドチルドレンが狩られていくのに何もできない。この体、持ちうる能力は敵を討ち破壊することしかできない。

 そんな自分自身を俯瞰し、無力感を覚えるところまで過去の焼き直し。

 食べ終わった塩焼きそばと、お好み焼きの器を重ねてドリンクを飲み干す。遥姫は先に食べ終わり、律儀に手を合わせてご馳走様と呟いていた。

「行こうか」

「うん」

 短く、必要最低限の言葉を交わす。

 遥姫からも器を受け取り、俺は揺らぎ続けた想いと共にゴミ箱へ叩き込んだ。

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