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灰色の境界  作者: 宵時
第三章「争いを生むものを廃絶し、恒久和平を実現する」「貴様に世界は救えない」
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3-15 Re:birth desire

 棄てられた街に金属質の音が鳴り響く。

 ストラがゆっくりと右腕を掲げて軍勢の動きを制する。

 数にして目視できるだけでも三十はいる。何故、こんな軍勢の接近を許してしまったのか。

 もとい、私にとって最狂最悪の〝人間〟がいることに気付けなかったのか。

「気配遮断機構を使っていましたから」

「……そう、ですか」

「おやおやァ、元気ないですなァ……まさか雑魚相手に負傷しましたか」

「教える義務も、意味もありません」

 小ばかにした笑みを浮かべながら、饒舌にストラが語る。

 相変わらず全てを覗き見て知っているような眼をしている。

 色合いに含まれるのは再会の喜びと、獲物を前にした征服欲求。

 目的の達成のみを望み、全てを利用しようとした男。確かに、ウランジェシカの特薬機関で葬ったはず。

 〈死神〉のような力もなく、ただ妄執のみで生き長らえるとは思えない。

「腑に落ちない、といった顔ですね。そんなに不思議ですか」

「……そんな人形の軍勢を引き連れて、何のつもりですか」

「ふふふふ。あくまで触れないつもりですか。それもいいでしょう」

「人間の革新、でしたか。そこのソレも、ある意味では一つの到達点でしょう」

「どうやら目論見はバレていたようですねェ……いや、認めたくなかったのか」

 ぶつぶつと何事か呟きながら、ストラが瞼を閉じて金色の瞳を隠す。

 警戒は怠らない。千影から与えられた命は機械人形、もしくは類する人型兵器に関わる施設及び人物の捜索。遭遇した場合は即座に殲滅とサンプルの回収。

 論理の元になっているのが千影本人ではなく、〈蒼の死神〉リオン・ハーネット・ブルクと〈紅の死神〉来々木 亮という話だが千影が命じるのであれば、そう動こう。

 この身は刃。数多の生物を破壊し、根絶するための戦略兵器。

 私を使えるのは千影だけ。最期の黒刀を振るえるのは私の認めたたった一人の主だけ。

「何を(くわだ)てているのか存じませんが、戦乱を引き起こす火種は消します」

「あぁ、そうでしたね。〈灰絶機関(アッシュ・ゴースト)〉が掲げているのはそんなフレーズでした」

「軽口にも下手な挑発にも付き合う義理はありませんが」

「問答無用、ということですか。ふふふ、冷酷な仮面を被ってもココロは隠せませんよ」

「…………別に」

 吐き捨て、言葉尻を切り捨てる。

 恨みがないとは言い切れない。が、ストラに向ける敵意は千影の命によるもの。

 そんな精神の揺らぎすら見通しているかのように、ストラが目を細める。

「ふふふふ。再会の杯を交わすのに肴もなければ寂しいでしょう。貴女に情報をあげます」

「付き合う義理はない、と言ったはずですが」

「まぁまぁ、そう尖らないでくださいな。貴女にとっても必要な情報であるはずですよ。

そう、かの統率者……あの悪魔のような女傑への手土産にでもすればよろしいかと、ね」

 ぎちり、と奥歯を噛む。今すぐ切り裂き、焼き尽くして灰燼にしたい。

 私を導くものを、主を侮辱する者は許さない。

 が、ベラベラと内情を喋ってくれるのであれば聞かない手はない。

 ストラが生き延び、何をしたのか全く興味はないが千影が必要とする情報には興味がある。

「少しは聞く気になりましたか」

「……遺言代わりくらいには」

「ふふふふ、殺すことは確定ですか。一度殺せなかった者をどう殺害せしめるつもりですかな」

「あの時の私と、今とでは違いますから」

「ふふ、そうでしょうね。そうでなければ〝意味〟がないですから。

ですが、それは私にも同じことが言える。各国を巡り、駆け回って

収集してきた情報をハル王に提供して造り上げられた人造兵器。

知核人機(ニアリヒュー)〉が世界に変革をもたらすのですよ」

 人間の姿を模した、人間ではない存在。旧日本時代から使われてきた人間が行える作業を肩代わりする代替物。人体を構築するのは効率が悪く、主に腕を模したメカニカルアームが利用されていたと聞く。

 わざわざ人型に設えたのは親しみを込めて、一般市民に媚を売るため……そう情報にあった。

 道化師がつける仮面のように、薄ら笑いを貼り付けた顔でストラが続ける。

「情報分析に長け、技術の研鑽を惜しまないアルメリアにおいて、中枢を司る〈灰絶機関〉に

所属される〈死神〉様には不要かもしれませんが、ハル王は旧時代から続く流れを変えました。

ライン作業を行う者は機械人形の手に代わり、各種の交通機関は疲れを知らぬ機械制御が担い、

修理もリペアマシンが開発され人の手は排除されていきました」

「〈蒼の死神〉の両親であるコッペリア・マタオート・ブルクとフランツ・ブラッドレイ・ブルクの提唱した理論に基づいている、と聞いています。人間が人間らしく生きられるように自由で平和な時間を生み出す、と」

「その通り。当初は反発もありましたが、どうしてもプログラムだけでは

対応できない部分を人力に任せることで反対派を鎮めて押し通しました。

最も、この動きも国内でオートメーションを浸透させるための方便に

過ぎなかったようですがね。現在の、本当の目的に繋げるための布石です」

「……何が言いたいのですか」

 五指を広げ、虚空を叩こうとする意志を見せる。

 講義をさせるためにだらだらと喋らせているわけじゃない。

 何の情報も得られないのであれば、さっさと殲滅して終わり。

 たとえ万群だろうと、混成の術式を使えば滅ぼし尽くせる。

 ストラは左の眉をあげて、小さく鼻で笑った。

 まるで聞き分けのない子供に対して呆れているかのように。

「そう焦らず聞きなさい。ハル王は考えたのです。人間が幸せに

生きられるよう、完全な代替物を造り上げるには何が必要か。

人間のように細かな動きができるようになるには、何が必要なのか。

行き着いたのは膨大な情報と、それを解析する機能、そして蓄積する

場所をいかにして生み出すか。これらをどう制御していくか」

「……脳の電子化、といったところですか。

確かに、記憶など突き詰めれば情報の羅列に過ぎません。

ただし、状況に応じて引き出しに収納した記憶を使い、

最適な答えを出すというシステムは並大抵では成し得ないはずです」

「成し得たのが〈知核人機〉なのですよ」

 まるで自分が造り上げたかのように満面の笑みで宣言するストラ。

 全て収集され吸い上げられた末に作り変えられたものだ。

 生来アルメリア人は借りてきた物事に独自の観念を加えて発展させてきた民族。

 ハルが主導し〈灰絶機関〉が手足となって動き集めてきたものの集大成が、人間がより幸福に生きられるシステム造りだと言い切るのであれば、民を思う賢王であれただろう。

 ただ相対する〈知核人機〉の軍勢は明らかに性質が違う。

 人の役に立つモノではなく、ヒトを鏖殺せしめるためのモノ。

 明確な敵意や害意が存在するわけではない。

 ただ、静かだ。穏やかで和やかで、流れる動作で殺人を行いそうな……まさに、機械。

 機械的に不必要な人間を間引く、私と同じように。

 ストラが両目を見開き、鮮血のように赤い舌を出して下唇を舐めた。

「そう、貴女と同じです。命令通りに殺人を行うだけの兵器」

「……違います。私は、千影様のために殺すのです」

「ふふふふ。それだけじゃありません。彼ら人造兵器は文字通り、人造なのです。

僻地で集めた人間を使い、膨大な情報を溜め込んだ記憶回路を用い、脳髄を利用した

思考機関で演算させる……何とも合理的なシステムです。ゆくゆくは犯罪者の脳髄も

利用していくそうで、造り出した〈知核人機〉に警備させれば素敵なサイクルの完成ですねェ」

「……やはり、貴方は腐っている」

「ふふ。何を怒っているのです? ヒトに追われた〈渇血の魔女〉にとって、仇敵がどうなろうと

知ったことではないでしょう。それとも選んで脳髄を利用するのが非人道的だとでも?

貴方達も選んで殺すことを高尚なものだとしているでしょうに」

 くつくつとストラが笑う。

 合間から漏れる声は、心底不思議だと言わんばかりの口調で。

 違う。私にとって、人間の生き死になどどうだっていい。

 ただ息苦しい。何故か。どこから来ているのか。

 殺人機械は物言わず、命令を待つ犬のようにストラに付き従っている。

 私は、違う。

「違い、ます。千影様は、罪を根絶しようとしている。引き起こす心を殺し尽くす」

「無理ですよ。ヒトは求め続ける。満たされるはずのない欲望の器を満たそうと、奪い合って

争い戦い続ける。遺伝子レベルで組み込まれたものを排除したいならば、根絶するしかない」

「……たとえ、尽きないとしても尽きるまで殺し続けるだけです」

「ふふふふ。それもハル王が〈知核人機〉を生み出すために

利用したことでしょう。世界平和という名目を掲げて、他国の

技術を食い漁り、獲得した情報で造り上げた結果がコレです」

「…………それを貴方は個人的な嗜好のために利用してる」

 空気が凍りつく、ような感覚。

 肌の触覚を奪うような、気持ち悪い風が私を舐め回す。

 ストラの表情が変わった。

 他者全てを(あざけ)るような、高慢で優雅ともいえる笑みから一転して、触れるもの射抜くもの全てを氷付けにしてしまうような冷たくおどろおどろしい金眼に。

 獲物を(なぶ)る目ではなく、確実に息の根を止めようという抹殺の意志が見えた。

「ええ、その通りです。正直なところ、ハル王が何を考えているのかなんで、どうでもいい」

 覆い隠すような、薄っぺらい笑みを浮かべるストラ。

 地雷を踏んだか。いや、猛って狂って仕掛けるならば御しやすい。

 何から造られようが知ったことではない。

 目の前の男は災厄をもたらす狂人であり、それが道具として操るなら壊さない道理はない。

 ストラが右腕を掲げ、ぴんと立てた人差し指で私を指し示す。

「私は、貴女が欲しい。最期の血脈たる〈渇血の魔女〉の末裔が」

「まだ不老不死などに囚われているのですか」

「ええ。〈知核人機〉は代替物でしかない。永遠には程遠い代物ですよ」

「……そこまで生き長らえて、何を願い果たすのですか」

「全ての人間が、等しく無限の闇に堕ちるのを見届けたい」

 性的絶頂を迎えたような、恍惚とした表情で宣告した。

 金色の(まなこ)に宿る、暗く深く底の見えない闇。

 月日が経過しても邪悪は歪み(ねじ)れていて、ぼろぼろに腐蝕していた。

「〈黒の死神〉として宣告します。〈知核人機〉及び扇動者ストラ。

戦乱の呼び手と見なし、この世界から消し去って差し上げましょう」

「ふふ、ふふふ、ふふふふふ。やって御覧なさい。できるものならねェッ!」

 引き裂くように笑うストラ。掲げられた腕に応じて〈知核人機〉の軍勢が顔をあげる。

 吐き気がした。より濃密になっている悪辣さに。たとえ、それが同族嫌悪から来る不快感でもあっても、目の前の邪悪は駆逐しなければならないと思った。

 自身の内側に呼びかける。〈渇血の魔女〉の魂が成り代わったもの、血晶から命を削りだし魔力へと変えて全身にまとうように、黒衣の内側に流していく。

 跳躍し、距離を取りながら右手の五指を内側に曲げて拳銃を形作る。

「……焼き穿(うが)て、ヴォル・バレット」

 緋色の光が瞬き、人差し指から生み出された炎弾が空を駆け抜けていく。

 通常の弾丸とほぼ同じ速度で突き進む弾丸は、ストラの体を貫くことなく間に割り込んできた〈知核人機〉によって防がれた。反応速度は常人以上、だが予想済みの行動。

 朽ちかけた建物の壁を蹴りながら屋上を目指す。

 宙空にいる最中、左手で虚空から碧緑(へきりょく)の輝きを呼び出す。

「断ち切れ、ヴェイジング・エッジ」

 手刀を繰り出し、裂かれた空気が渦巻いて風の刃を生み出した。

 放たれた刃は荒れ果てた街道に悠然と立つストラ目掛けて疾走する。

 首を斬り飛ばす……はずが、別の個体によって防がれた。

 爆音が鳴り響き、鼓膜を叩く。風を受けて空を舞い、廃家の屋根に降り立つ。

 鉄骨造りだが、壁も屋上部分も朽ちかけて体重をかけすぎると崩れそうだった。

 風を生み、体を浮かせようとした時、視界の端で青い光が瞬く。

「くっ……」

 魔力を爆発させ、無理矢理生み出した推力で急転換。

 先程までいた箇所に槍のような飛来物が風を切り裂いていった。

 さらに遅れて第二射、第三射が飛び交う。

 ストラの攻撃か、それとも〈知核人機〉のものか。

「関係ありません」

 虚空を叩く。右手側で揺れる波紋は紅、左手で波打つのは深緑色の刻印。

 全て焼き払えばいい。術式を思い浮かべ、脳内で巡らせる。

 仮に焼失していなくても特大の氷剣を叩き込んでやればいい。

 思考を回すうちに魔力は世界の理を捻じ曲げ、あらざる力を生み出す。

 燃え盛る炎が、あらゆるものを切り刻む刃風と共に地上へ降臨する。

「我が同胞の魂が()き叫ぶ。焼き散り爆ぜろ、ヘブンス・ヴォルカ」

 落下していく。爆音が轟き、地盤が落ちたように足元が揺れる。

 広範囲への面攻撃として多用する術式。酸素を巻き込み、極限まで凝縮させた爆発と風の刃、さらに一気に酸素を燃焼させることで呼吸することすら許さない死の空間を造る。

 何らかの方策によって無力化されない限り、人間に生き残る術はない。

「そう、何も対策していなければ、ね。ふふふ、ふふふふ」

「馬鹿、な……」

 愕然とした瞬間、足元から無数の銀槍が飛び出す。

 反射的に身を(よじ)るが、魔力の防御壁を突き破って左腕を貫いていった。

「かっ…………」

 思わず苦悶の声を漏らすも、唇を噛んで口内に残る激痛の叫びを押し留める。

 感覚のない左腕が鮮血を噴き出す。肉が抉れ、骨が露出していた。

 防衛本能で麻痺した痛覚が伝えている。

 かなりの深手だ。黒衣の下に魔力を通していなければ千切れていたかもしれない。

 右手で虚空を叩き、真紅の輝きを生み出す。

「アウェイク・パワーコネクト」

 短く術式を唱える。残る細胞が活性化し、急速に分裂し損傷した箇所を覆い隠す。

 急造だが魔力を通せば使える。ないよりは、あった方が当然いい。

 体は重力に引かれて落ちていく。

 さらに飛来してくる凶器を前に、右手を掲げ全力で魔力防壁を張る。

 音すら置き去りにして迫るのは銀槍だけでなく、短刀や剣、両刃の鎌と節操がない。

「くぅ……ッ」

 野犬が噛み付くように、次々と防壁に切りかかり食い込む。

 さらに魔力を注ぎ込むが、一点突破とばかりに大量の銀槍が空をかき切る。

 過重に耐えられず防壁に亀裂が入る。

 乱雑に投げつけられる様々な武具の波に押し流され、ビルの壁面に叩きつけられた。

「かはっ」

 圧迫され肺から酸素が逃げ出す。が、このまま(はりつけ)でいるのは非常にまずい。

 予め構築していた〈失われし血晶(ロスト・プリズム)〉を解放する。

「……セパレイト・クラウン」

 体の周囲に散在する水分を固めていく。

 自らを中心にして水晶の殻に閉じ篭もるように、さらに固めていく。

 鈍く光る武具の隙間から〈知核人機〉の軍勢と共にゆっくりと歩み寄るストラの顔が見えた。

 この上なく(たの)しそうに陰湿な笑みを浮かべている。

 この体を照らす光と、空気の屈折で余計に姿が捻じ曲がって見えた。

「ふふふ。篭城して何とかなると思っているのですか」

 答えてやらない。いや、答える余裕がなかった。

 太陽が少し傾き、背後に影を生み出している〈知核人機〉達を観察する。

 全てが同じ個体ではなく、いくつかの特徴があった。

 まず最前列に立つものは両腕にブレードを装備している。

 ブレードは肘辺りから腕の外側を通して展開されているため、恐らく両腕に内蔵されているのだろう。

 同様の機構が両足の膝から足首にかけても見られるので、足にも装備されている可能性が高い。

「答えませんか。分析に必死なようですねェ……そう、貴女が今見ているのは近接型。

データとしては〈白の死神〉クレッシェンド・アーク・レジェンドを元に戦闘パターンを構築しています」

「…………ッ!」

「驚くこともないでしょう? ハル王の下で動く〈灰絶機関〉、あらゆるデータを

統括するのは王ではなく、組織をまとめる立場にある人間であるはず。つまり――」

「……〈惑い隠す黒牢(ファントム・ノワール)〉」

 ストラが言い切る前に、私はその視界から消え去った。

 正確には、優雅さを保って語るストラの背後に控える〈知核人機〉から伸びる影の一つに移った。

「どこに……」

「後ろですよ」

「まさか、影抜けをッ」

「遅い……貫け、ヴェイジング・ランサー」

 歪んだ空間で揺らめく波紋から浅葱色の輝きが生まれる。

 周囲の空気を巻き込み、爆ぜて一気に疾走する風の槍。

 完全な死角。これまで確認した情報では防ぎきれない速度。

 仮に〈知核人機〉を楯にしても、重要機関を貫かれ爆散した人形の欠片からは逃れられない。

 殺すまではいかないでも、負傷させることはできるはず。

 放った術式に不足はない。そう、対策がなければ。

 後方に控えていた〈知核人機〉が動く。

 黒いバイザーの下で、なお暗い黒色の輝きを発してストラと私の間に割って入った。

 けたたましい轟音が鼓膜を震わせる。

 爆風が荒れた道の砂を吸い上げ、舞い散らせて世界を隠す。

 もうもうと立ち込める砂煙。

 強大な威圧感。

 両肩両膝に(おもり)をつけられたような、身じろぎすらできない強烈な悪意が私に叩きつけられる。

 視界がはっきりしなくても、存在は認識できた。

 〈失われし血晶〉はストラを殺すどころか、傷一つ与えられていない。

「言ったでしょうに。〈死神〉の戦闘パターンを、データを利用していると」

 砂煙が晴れていく。

 いや、前衛に立つ近接型の〈知核人機〉によって空気をかき乱された。両腕の白刃が怪しく輝く。

 ストラの前に立った〈知核人機〉は、両腕に分厚い鉄板のような楯を構えていた。

 バイザーの下に鈍く輝く黒の双眸。楯からは微弱な振動を感じた。

 思い出す。かつて自身の霊力を相手の波長に合わせてぶつけ、打ち消した者を。

 魔力無効化能力を持っていた虹彩異色症(ヘテロクロミア)の少女……オルトニア・アーク。

「魔力、無効化能力……ですか」

「その通り。さて、最期の〈渇血の魔女〉よ。魂の残量は十分ですかな」

 勝ち誇った、強い口調でストラは口角を釣り上げ、下卑た笑みを作った。

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