2-7 〝最後〟の〈死神〉
緩やかに空が光量を落とし、青色の闇が軽やかに足音を立てて近づいてくる。
犯罪の臭いも、気配もしない廃棄区画で俺は本来ならば仲間であるはずの青年と退治している。
僅かに左胸の刻印が痛んだ。ほのかな殺意を感知して〈死神〉の証がわななく。
「何の、つもりだ」
クレスの表情は笑みをたたえているものの、蒼い瞳は全く笑っていない。
問いかけながら鞄を下ろし、自身の得物を引き出す。
戦闘用の拵えなどない学生服で丸腰は危険。
ほぼ条件反射による状況対応だったが、クレスはお構いなしに右手で十字剣、左手は緩やかに曲がった剣を握って、駆ける。瞬時に距離を詰め、両方の剣で鋭い突きを繰り出す。
点を狙う直線の動きに普通ならば回避する、がセオリー通りに動くのは悪手。
俺は左手で刀を握り、右手を柄に添えて円の動きで左方向へ跳ぶ。
「……二刀流、刹迅」
クレスは突きだけで終わらず、鋏を開くように横薙ぎを放つ。
予想通り俺は引き抜いた刀の腹で受けて流す。鉄と鉄が軋れ、鼓膜を打ち震わしていく。
無理に切り込み、押し通すのではなく反動を利用して逆方向から二振りの刃が迫る。
俺も反動を利用して後方へ跳躍、クレスの剣は虚空を断ち切った。
「甘いよ」
が、前のめりの姿勢でクレスが俺を追い、剣を握った両手を切り返して斬撃を放つ。
それこそ巨大な鋏が閉じられるように。
「……ちっ」
刀を縦にし、受け止めるも二本と一本。片方でいなされ、もう片方が腕を狙う。
ならば、と刀での拮抗を右手一本でもたせて左手は迫る曲刀へ。
三日月のように緩やかな形状の剣を左手の拳で弾く。
浅く裂かれるも、クレスが驚いたように目を見開いたのを認めて右腕に力を込めていく。
それも一瞬だけ。すぐに元通り貼り付けたような笑みを浮かべる。
「何がしたいんだよ、クレス」
「試しているんだよ。君に〈死神〉たる資格があるのかどうか」
「資格だと? こんな無意味な闘争で何を図れるっていうんだよ!」
「無意味ではないよ」
クレスがまた距離を詰めてきた。右手の十字剣と左手の曲刀による連撃にただ一振りの刀だけで耐える。
クレスが何を意図しているのかが掴めない。
先のデイブレイク・ワーカーとの戦いにおける独断専行に対する糾弾か、それとも阿藤学園でのあり方を問い質しているのか。〈灰絶機関〉のあり方について、俺が疑問を抱いていることか。
「二刀流、鋏雷」
雨のように放たれる剣戟の中、性質を変えた斬撃が走る。
斜めに一刀、二刀と繰り返されジグザグに剣が閃く。
激しく刀と剣が擦れ合うも、膂力で押し切り弾いた。
「亮、君は無駄な感情を持ちすぎる。学校生活でも、任務においても」
「何が、無駄だって……?」
「ピアスディの件も、無理に踏み込むべきじゃなかったんだ。僕が予定より早く
到着したからこそ、倒せたけれどそうでなければ、君とリオン嬢は殺されていた」
「……お前がいなくても、何とか、なったさ」
言葉と共に打ち寄せる剣戟の波に耐えながら、途切れ途切れに想いを吐く。
半分は心の底から、もう半分は虚勢だった。
ピアスディによる精神汚染を受けた時、クレスの介入がなければ命を失うところだっただろう。
だが、仮にそこで命を失ったとしても俺は――
「君は、こう考えてる。『俺が死んでも、また〈死神〉が誰かを食らう』と」
「…………」
「そう。〈死神〉は僕達の魂に根付き、力を与える代わりに食い殺す。
それこそが君の望んだもっとも有効的な活用法であり、贖罪だと考えている。
これまで学んできたものが、能力が受け継がれてより強大な執行者が生まれる、と」
図星だった。クラッドチルドレンと称される、生まれながら常人よりも遥かに高い能力を持った者達は必ず二十歳で死亡する呪いを持っている。呪いから解き放たれるには、一万人の命を食らうか、異性との真なる愛を育むか。或いは〈死神〉が〈死神〉を殺害するか。
〈死神〉ならば一人殺せば済む。その裏側にはリスクが、もとい〈死神〉となる代わりに魂に根付いていく自分自身の内側に潜む〝何か〟と戦い続けなければならない。
戦い続けること自体が嫌なのではない。苦痛などいくらでも耐えられる。
どれだけの人を殺そうが、その先に戦う力を持たぬ者、虐げられるだけの者達が安心して笑って暮らせる世界があるのならば、喜んでこの手を赤黒く染め上げよう。
だが、切り開いた者は去るべきだ。そんな世界で俺のような殺人者の生き場所はない。
返り血で錆び付いた刃は朽ちる。平和な世界を創り出した果てに、墓標となりて。
「〝道具は道具らしく使い潰されるだけでいい〟どこに間違いがある?」
「なら、徹しなよ。完璧に仮面を被り、日常生活ではいい人を演じて殺し続ければいい」
「やってるさ。やっているから……」
「いや、できていないよ。少なくとも僕が見ている限りは、ね」
一瞬。反応が遅れ、刀による防御が間に合わずに切られる。
皮を割り断ち肉を裂き、骨まで達しようという激痛の波濤を受けて神経が悲鳴をあげていく。
脳味噌の回路が働き、リミッターをかけて苦痛を遠ざけた。
感覚は麻痺しているが、確かに左腕には四刃の傷跡が残っている。
くらり、と平衡感覚まで失われて倒れ伏す。
「……だから、不安定なんだ。君は、全部を諦めている癖にどこかで救いを欲しがってる。
リオン嬢にも誰かの面影を見ているよね。それで曖昧で中途半端な態度を取ってしまう」
乾いた地面が雨を吸い込むように、酷く真っ直ぐにクレスの言葉が脳髄に染みる。
全ての言語が、意味が針のように突き刺さっていく。
それでも、俺は……。
「それが、俺の答えだ。彼らとは友人として接する。その日常を、守る」
「いざ人質に取られたらどうするのかな。助けようとするだろう? それは、弱さだよ」
「……気付いているか知らないが、クレス。お前がそう言い出したのはあの日からだ。
俺達が〈聖十二戒団〉とやりあった大戦の後からなんだよ」
弱いことが罪なのだと、仲間を思うことは強さではなく弱さなのだと。
壊れた人形のようにクレスは繰り返していた。
俺も、大戦後にある種の同じ気持ちを抱いていた。
凄絶な無力感と失ったものの大きさに押し潰され、自らの喉元に向けた刃を何とか押し留めて唇を噛んだ。
ここで立ち止まるわけにはいかない、今は終焉る時ではないと。
同時に俺は心を殺した。仲間の死に動じることなく、倒すべき敵を前に躊躇することなく……その裏側で世界に偏在する〝ありふれた日常〟を眩しいと感じながら。
クレスは、何を見てきたのか。
「……僕は、もう間違えるわけにはいかないんだ。だから最も適した答えだけを選ぶ」
「その回答が犠牲を求めるとしても、か?」
「どちらにせよ犠牲は付き物だよ。一を殺して万を救えるなら迷わず一を殺すだろう?」
「……俺は、可能ならば――」
言いかけて、俺は目を見開く。
極寒の大地に裸で放り込まれたような、凶悪にして尋常ではない寒気。
それも、今朝感じたものと同質の深く暗い絶望色の悪寒。
「このような美しき月の夜に死合うのでしたら、私も混ぜてくださいまし」
戯曲でも歌い上げるように告げられた言葉が落ちてくる。
起き上がった俺とクレスが同じ一点を見つめた。
「ああ、悲劇ですわ。喜劇ですわ。同胞たる〈死神〉が殺し合うなど」
全く悲哀を含まぬ声色は女性のもの。
透き通る氷のような冷たさと、薔薇の棘のごとき鋭さで突き刺してくる視線。
廃棄区画の数多あるビルの屋上から聞こえている。
「失い、奪われれば魂を縛る理は砕けて只人に成り下がる。
果たして、それは本当の意味で幸福なのだと断言できるのでしょうか」
今度は問いかけ。思い出す。
――ヒトの世の理など、曖昧で不確かなものなのです。
あの声だ。
クレスではなく、リオンでもない〈死神〉の刻印に反応しうるもの。
即ち、現環境における最後の〈死神〉……名も知らぬ、最後の。
「……セラ。セラ・フロストハート」
震える声でクレスが口にした名前。それが彼女の名なのだろうか。
ふわり、と屋上から女性が飛び降りる。と、同時に水面に雫を落としたように空間が歪んだ。
紅と深緑の光が明滅したかと思うと突如炎の塊が生まれた。
「我が同胞の魂が叫ぶ。燃え散れと……ヘヴンス・ヴォルカ」
ただ静かに、朗々と告げられた文言に従えられ生まれ落ちた炎が重力に引かれ、加速しながら渦巻く。
酸素を燃やし、風を巻き起こしてさながら炎の竜巻へと変わった。
「ぐっ……」
せめて直撃は避けようと手足に命令を飛ばすが、思うように動かない。
落下してくる膨大な熱量の嵐を前に〈紅の刻印〉の封印解放を考えるも、俺を庇うようにクレスが前に立つ。炎の竜巻に対してゆっくりと右手と左手の剣を交差させ、十字を空間へ刻み込む。
「〈粛清せし十字架〉」
クレスが小さく告げて剣を振るう。
十字架を刻むように重ねられた十字剣と曲刀が風を斬る。
空気を切り裂き、放たれた波動が渦巻く竜巻を飲み込み、酸素を奪ってかき消していく。
宙を裂く斬撃はそのまま女性を襲う、が直撃する直前で霧のように姿が消えた。
離れた位置、瓦礫の上につむじ風が吹き荒れる。
黒いカーテンでも引いていたように、空間を区切って姿を現したのは黒衣の人物、セラ。
目深に被ったフードに、体の線を隠すゆったりとしたコート。
両手は濃紺の手袋で覆い隠し、唯一肌を見せているのは口から顎、喉だけ。
その肌は病的な程に白く、絹のように透き通っている。
口元にはささやかに、上品に薄桃のルージュが引かれていた。
「ああ、ああ。私の名を呼ばないで。貴方ごときが千影様から賜った御名を口にしないで」
艶やかな唇で紡がれた言葉には悲痛さがこもっていた。
はらり、と余波による斬線が閃き、フードが落ちる。
煌く金色の長髪、宝石のような碧眼。
この世のものとは思えぬ吸淫力を放つ美貌。
「ならば呼び直そうか。〈黒の死神〉……と」
「そう。私と貴方は互いに互いの魂を刈り取り合う、運命のお人」
「そんな甘い関係じゃないよ、ね」
俺は肉体の再生力任せに、治療を放棄して立ち上がり、二人の様子を伺う。
クレスの右太股に刻まれた印が淡く白く輝いている。相対するセラはゆっくりと左手を掲げた。ぼんやりと浮かび上がる黒い印……〈黒の死神〉、現在各地に散って活動している〈死神〉四人、その最後の一人。
セラは小さく口元に笑みを浮かべ、軽く手を振る。
空間に碧緑の光が明滅し、大気が捩れていく。
「罪にまみれた魂を穿て……ヴェイジング・エッジ」
手刀の動きで放たれた右手は空気を刃へと変えて飛ばす。
が、クレスは先程と同じ動きで剣を動かし、緑色の刃を断ち切って霧散させた。
「僕に下級魔法は通用しない。君が一番よく分かっているはずだよ、セラ」
「ああ、ああ忌まわしき魔殺しの一族が持つ力。私達を鏖殺せしめた憎き血脈」
「……君達は、殺しすぎたんだ。例え始まりが僕達人間であっても許されることじゃない」
「ええ、そうでしょうね。我が同胞の内でも偏屈な者はおりました」
自らの術式をかき消されても、セラは眉一つ動かさずに語る。
遠く過去を見るように暗く染まり行く天を見上げ、慈しむように自身の胸に手袋で覆われたままの手を置く。
同じ〈灰絶機関〉に所属する〈死神〉でありながら、明確な殺意を見せて仕掛けてきたセラ。
クレスは応戦こそするが、攻勢に出ようとはしない。
何か、互いに深い因縁があるのは分かる。
セラの言葉を借りれば、恐らく互いに大切なものを潰し合った壮絶な関係性が。
感傷的な情動を覚えたのか、セラが俺を見る。ぞわりと全身を走り抜ける悪寒。
違う。彼女は〈白の死神〉ではなく、〈死神〉でもなく〝人間〟そのものを憎悪している。
そう悟らせるほどの凶悪な威圧感をはらむ視線だった。
「来々木 亮……〈紅の死神〉であり、日常と非日常を渡り歩く人」
「ご大層な物言いはやめてくれ。俺はまともな人間じゃない」
「ええ。曖昧で、不安定で感情に走りやすくいかにも〝人間〟らしい」
クレスだけでなくセラにまで言われるとは……が、それでも俺は今の立ち位置を変える気はない。
変えたところで、未来のない約束などできないのだから。
俺に出来ることは、ただ悪を刈り取ることだけ。
その根源から、非日常に触れることのない人々を守るために……紅の雨を降らせ続ける。
それは殺人で、許されざる罪であるからこそ最期に終われればいい。
余りにも真っ直ぐ過ぎる〝彼女〟に酷似した存在、リオンの手によって。
クレスとセラよりも余程簡単なやり取りによって成立する。
どれだけリオンが殺生を嫌ったところで、刻限つきの死に至る呪いから逃れるには最も効率がいいのだから。
今朝の、セラの言葉を思い出す。
「俺は嫌々剣を振るっているつもりはない。悪は全て朽ち果てるべきだ。更生しない
害悪、異常者。最初から歪んでいるものを壊すことに戸惑う必要なんてないさ」
「そうでしょうね。貴方は壊し、殺すでしょう。例え、その本性を近しい人達に
晒すとしても、信念を選ぶでしょう。貴方にとっては別世界の人間でしょうから」
「……分かっているからこそ、俺は境界線を引く。白の世界へ踏み込めず、
ただ快楽のためだけに殺害する黒の世界に棲むわけでもなく灰色の境界線を」
「そうして、ずっと欺き続けると。貴方が、殺されるまで」
「…………ああ」
短く答える。俺が出来る、唯一の回答を。
遥姫や刃助に事情を説明したところで理解されるはずもない。
否定するのならば、他にどんな答えがあるというのか。
ふっ、とセラが笑う。それも嘲笑を込めて、鼻で笑っていた。
「脆いものです。そのようなことで揺れるくらいならば、最初から選ばなければよかったでしょうに」
「知った風な口を……何が分かる、って」
「ええ。存じません。私も、貴方も結局は己しか知らぬのですから」
冷たい声色で言い放ち、また右手を振り上げて構える。
蒼い燐光が灯り、突然宙に巨大な氷の塊が生成された。
大気中の水分を瞬間凝固させたとしても、余りに大きい。が、すぐに砕けた。
破片となるも、それぞれが鋭い刃へと変わりゆく。
「〈灼煌の魔眼〉っ!」
が、空を裂いて飛翔することはなく能力により発生した炎で溶け消えた。
セラの扱う術式は〈死神〉の能力と同様に人智を超越した存在ではあるが、無尽蔵の原動力を持ったり、不可侵の存在ではない。一定の法則があり、相殺することも可能。
セラは眼前で自ら生んだ氷が溶かされても愉しそうに笑うだけだった。
「それが〈紅の死神〉の力……視認した対象を焼き払う灼熱の魔眼」
「お前が使っているのはイズガルト側の魔術か?」
「いいえ」
きっぱりと否定したセラの口元から笑みが消えた。
同時に意志を持ったかのように鋭い視線が心理的なプレッシャーを与える。
人が、〈死神〉がここまでの圧力をかけられるのか、と。
す、と脳裏に一つの単語が浮かぶ。かつて、各所の資料を漁っていた時に見た文献。
アルメリアの南西辺りに位置する諸島郡、エリス連合国。様々な種族が住まうが、中には人の形から外れた異貌の生物が棲んでいると言われる魔境、亜人の楽園。
ヒトから外れ、外されて迫害された者達が辿り着く最後の理想郷。
その中でも一際目立つ存在であり、かつ人類から苛烈な迫害を受けていた種族があった。
「そうか。セラ、〈黒の死神〉……お前は〈渇血の魔女〉なのか」
夜空には薄っすらと月が昇っている。
柔らかい月光を愛しむように瞼を閉じ、天を仰いだセラは静かに笑った。
「ええ。私がそのたった一人の生き残り。かつて〈白の死神〉率いる小隊に
義父と義母、そして義兄を奪われた少女の成れの果て」
淡々と語られることが嘘か真か、クレスの表情を見れば一目瞭然だった。
血が滲むほどに下唇を噛み、伏せた瞼の端から涙が零れ落ちて細い軌跡を作る。
そのさまをセラは冷徹な目で睨んでいた。
「千影様の命により、依頼された〝仕事〟は終えました。そちらの担当分も
終わったようですし、後は決着をつけるだけです。どちらが、喪うか決めるだけ」
セラの背後、空間に歪が生まれて無数の波紋が生まれる。
同時に放出されたのは、悪寒すら突き抜けた一種の死の予言。
圧倒的なまでの〝何か〟が満ち溢れている。
魔術に精通しているわけではないが、〈死神〉の能力に換算すれば恐らく千影がかつて操りあらゆる外敵を沈めてきた〈銀燭〉に等しいポテンシャルを持つ。
別の言い方をすれば、人類に対する深く根強い底のない憤怒がもたらすエネルギー、即ち精神力。
もとい魂の力が大気を震動させている。
クレスも右手に十字剣、左手で曲刀を持って構えた。
「望むのであれば、僕はいつでも受ける。けれど、今でいいのかい?」
「今、そう問うことに意味があるとは思いませんが」
ちらり、と横目でセラが俺を見る。いてもいなくても関係ない、ということだろう。
あくまで〈白の死神〉と〈黒の死神〉そのどちらかが死に至る呪いから解放されるか、決めるだけ。
いや、セラの場合は復讐が前に出ているのか。
ヒトに迫害されし種族が、ヒトを恨んで殺したくて刃を向ける……言わば、代理戦争。
「待て」
短く告げた俺を碧眼と蒼眼、四つの瞳が見据える。
邪魔をするな、二人の問題だ、手出しをするなと視線で告げている。
だが、どう言われようとも、あくまで現状では〈灰絶機関〉の一員。リオンを前に啖呵を切ったばかりで偉そうに言えた義理もないが、詳しい事情も聞かずに目の前で殺し合いをされても困る。
「そうよ」
唐突にまた上から声がした。
廃棄された、元は花屋だったのだろうテラス屋根から降り立つ人影。
「何よ、私だけ仲間外れ? 〈死神〉三人で集まっておいて……差し置いて勝手に
殺し合いなんてしないで。せめて、戦るなら事情聞いて正当な理由つけなさいよ」
砕けたコンクリ地の道路に立った少女が水色の長い髪をかき上げた。
「リオン……どう、して」
「ほ、ほら案内がどうとか言ってたでしょ。それで、ちょっと気になって……」
憤慨から来る興奮から覚めやらぬ調子で告げたリオンが俺を睨む。
荒れた廃棄区画に現在活動する四人の〈死神〉、全員が集まっていた。
まるで、体に刻まれた印に導かれるように。




