2-3 罪過に捧ぐ、契約の血を
千影がほぅ、と一息吐く。過去を顧みて、思うことがあるのか。
天井を見上げた視線はここではないどこかを、遠い記憶の世界を見ているようだ。
俺も、クレスもリオンも特に触れることはなく続く言葉を待つ。
俺の中で坂敷 千影、もとい九龍院 千影という人間は〝力ある正義〟の象徴だ。
無辜の子供を選別し、暗殺者に仕立ててきた父親という巨悪を殺害し排除。
子供達に根付くクラッドチルドレンの呪縛を解き明かすために動く。
一貫して変わらぬ、悪を根源から断ち切る刃そのもの。
つと千影が立ち上がり、居間の壁側に安置されていた藍色の鞘を手に取った。
鯉口を切ってしゅり、と刀身が露になる。
漆黒。悪欲も嘆願も鮮血も油も、全てを吸い尽くすような果てのない闇色。
どれだけの嘆きを飲み込み、どれほどの悪を斬り屠ってきたのか。
無意識に左手が自らの刀へと伸びる。
俺の所作を止めるように千影は黒刀を鞘へと戻して傍らに置いた。
千影の唇から続きが紡がれていく。
「貴様らは、ウルルグゥ民族を知っているか」
「……忠国と長らく対立を続けている少数民族ですね。主産業は放牧で、
慎ましくも厳然とした文明の下、機工学の力を借りずに生活していると聞きます」
「教科書通りの素晴らしい答えだ。ならば悪魔の地、も聞き及んでいるな」
「真偽は定かではありませんが、隕石が落下しウルルグゥの地に〝境界〟ができたそうで、
電導効率のいい特殊金属に用いる鉱石が採掘できるようになったことですか」
千影の問いにクレスが答える。頷いて千影が口を開く。
「ウルルグゥ民族は自然との調和を重んじる。どちらかといえばイズガルトに近い気質で、
彼らも西方から流れてきたと言われている。で、あれば来訪物に馴染まぬも道理」
クレスと千影の会話で大体読めてきた。
アルメリア王国の北西に位置するイズガルト連邦はクレスの出身国であり、自然との融和を求めて人間の根幹に宿る力から生み出した魔術に特化している。
ただ、それにもいくつかの派閥が存在し魔術を介する融和、魔術を否定しありのままを求める者。
恐らくウルルグゥは後者に当たる。
魔術を拒んだものが工学を、科学を受け入れるかどうかと言われれば。
俺は思考の歯車を回しながら口を挟む。
「師匠、ウルルグゥは海を渡り別大陸に移った遊牧民族、なんですよね。
だったら、忠国と諍いがあったとしても、得体の知れぬ魔術を受け入れる
よりは機械工学を選ぶ方がいい、とは思わなかったのですか」
「一部は、な」
やれやれといった調子で嘆息する千影を前に、俺は失敗したかと焦燥感に駆られる。
だが魔術を拒み、わざわざ渡航して大陸の国家を選ぶのであれば相応の覚悟が必要だと思う。
少なくともこれまでを捨てられる気概があるのならば、新たなものを受け入れる柔軟さがあってもいいはず。
「人の考えは様々、というようにどこも一枚岩とは中々いかない。
我々〈灰絶機関〉もそうだし、忠国にせよ
ロスシアにせよ変わらない。だがウルルグゥ民族は、自然と共に
生きて共に朽ちる。そんな前時代的な生き方に誇りを持つ者達だ」
「誇り……」
「価値観の相違だな。便利であればそれでいい、ともいかない。
数多の伝統が失われたのは時代の流れであったり、人の考えの
移り変わりであったりするが、連中がもっとも大事にしたのは
誇りを守ること……いわば、時代の流れに逆い失われていったのだよ」
「ウルルグゥであること、不変であることの誇りですか」
「そう、だな。先にも言われていたが、ウルルグゥで隕石の落ちた地域は悪魔の地と
呼ばれ、決して近寄らなかった。だが、隕石の取材をしていた男が持ち帰ったものを
忠国が調べてからは一変した。特殊金属、俗にいうレアメタルの存在が人を狂わせた」
希少な物質があり、そこに住まう者達は嫌悪している。
ならば。有効利用しようとする輩が出てくる。貴様らが使わないのであれば、我々が使ってやろう。
だから権利を寄越せ。採掘できる場所を寄越せ。
俯いた俺の心中を読んだように千影が回答を声に出す。
「お前の思っている通りの事態が起きた。元々、忠国はウルルグゥを自国の一地域で
あると主張し、強引に治世を行おうとしていた。が、科学文明を持ち込まれることを
拒まれて実力行使に出たわけだ。いわゆるウルルグゥ大虐殺、だな」
「そんな自分勝手な……」
「連中にとっては自国領土で氾濫分子に対する殲滅戦やっているだけ。
他国に文句を言われる筋合いはない、としていたがロスシアが介入してきた。
どうも、これもロスシアからウルルグゥに潜入した工作員による煽動らしいが、」
沸々と湧き上がる感情。切っても斬っても、屠っても潰しても次から次へと沸いて出てくる悪意と欲望。
利己的などうしようもない権力の横行。一般に認知されず、或いは知ることができても何もできずにいる。
そうした閉ざされた境界線を切り開くために〈灰絶機関〉がいるのではないか。
じと、と千影を睨む。今そうしても何の意味がないことを頭で理解していながら、そうせざるを得なかったのは一つの感情に突き動かされているから。絶対に譲れない、俺の魂の奥底に根付くもの。
――悪を許さない。罪を赦さない。
千影が俺を見て苦笑する。
そう睨むな、とでも言いたげに軽く手を振ってから唇を動かす。
「当時の〈灰絶機関〉は私が率いているとはいえ、出資はロスシア。
表向きは当局の別働隊という形で登録してあったからな。
個人で動けても、戦闘に介入するにはそれなりに手順が必要だった」
「師匠ならば、それこそ単体で万軍のごとく動けたでしょう?」
「残念ながら潰せば終わり、ともいかない。単純に考えるなよ」
「分かって、ますよ」
「どうにも貴様は正直すぎていけないな」
また千影が溜息を吐く。
俺はあの時までは知らないでいた。世界の裏側で行われていることも、調整される現実も全てが分からずにただ飲み込まれるだけだった。知ってしまった今だから、理不尽な現実をねじ伏せる力があるからこそ願う。
真っ当な道を歩く者達が、当たり前の生活を続けられる世界の実現を、そのために必要であるならばいくらでも屠り闇へと還そう。所詮、この紅の刃にできるのは〝壊す〟ことだけなのだから。
「……師匠は、許せるのですか。そんな状況が、利己的な権力者が!」
「焦るな。言っただろう、忠国で起きた大爆発と日露事変には密接な関係がある、と」
「ロスシアにクラッドチルドレンの血を提供し、その後――」
「答えを急ぐな。順を追って説明してやる」
ぐっ、と奥歯を噛む。どうしようもないと分かっていても抑えられないものがあった。
理不尽に失われた命が慟哭をあげている。
権力者が、己を肥え太らせ末代まで支配し隷属させ続けるために一国を操っていく。
そんな人を人とも思わない所業が許されていいはずがない。
クレスがなだめるように俺の前に手をかざし、言葉を生む。
「千影さんは、最初に〝現代医学ではクラッドチルドレンの呪いに触れられない〟と
言いましたよね? ならば、何のためにロスシア当局に血液や細胞を提供したんですか?
手立てがない、と分かったのは提供した後のことなんですよね?」
「様々な調査を行った結果だ。常人とクラッドチルドレンとの違い、主に薬物耐性や
肉体機能の回復能力、傷ついた細胞の再生増殖速度、その他あらゆる面で個体差は
あるものの総じて秀でていることが分かった。この意味は、分かるな」
「ええ。研究者であればあるほど、逃すはずがない。都合のいい材料がいるのだから」
「冷静に判断できているようだな」
クレスがさらりとした笑顔を浮かべ、千影も薄く微笑み返す。
いや別に俺は理解していないわけじゃない。むしろ、理解しているからこそ不快だった。
だからこそ俺は自らの口で、発声で答えを示す。
「ロスシアが、俺達クラッドチルドレンの血液情報から何らかの生体兵器を生み出した。
〈灰絶機関〉はその行為も戦争幇助、悪だと看做して潰した。タイミングは……
アルメリア王が〈灰絶機関〉を率いて旧日本政府を滅ぼす、後の日露事変が起きる直前」
極めて事務的に、淡々と言ってやる。
千影は瞼を伏せるだけで、クレスも沈黙を保った。
言葉以上に閉ざされた空間に降り立つ静寂の波が真実だと告げる。
俺はさらに予測を並べていく。
「忠国は一族が権力を握り、民は産業を回し経済を保ち基盤を維持するための駒として
扱っていたと聞きます。加えて大陸随一の人材資源を使って人体実験を行っていたとも」
「ほう、それはどんな技術体系だと?」
「物量を武器に他国から持ち込んだものを流用し、半機半人の兵隊を量産したと」
「ふむ。根拠は?」
思考を回し、熱くなっていく回路を僅かに冷やして間を作る。
千影が瞼を開き、俺を見ていた。これまでの話を総合し、知識を総動員して答えを導き出す。
ロスシアから旧日本へ攻め込んだアルメリア王が指揮する〈灰絶機関〉、統治後に急激に発達した機械技術。
こと生態学にも長け医療技術も見違えるほどに発達し、成長を続けている。
後期高年齢治療から若返り、細胞分離から新たに臓器や体のパーツを作り出す術も確立されているのだ。
これほどまでの発展には、一からではなくある程度の技巧が持ち込まれたと取るのが妥当。
即ち、失われたロスシアや忠国の情報は、生かされている。
「近年におけるアルメリアの急激な発展があげられます。特に機械技術と医療技術の
発達は目覚しい。ただゼロから作り出すには相応の苦労が必要。ならば……」
「ロスシアと忠国が崩壊しても、術式は継承された、か」
「ある程度の辻褄は合うはずです。後は、爆発の件ですが――」
「そこまで分かっているなら、共に顛末を見届けてみようではないか」
言うと千影がまた立ってテレビボードのある方へ歩いていく。
ボードの下に見える黒い筐体は、よもや現代では化石とも呼べるHDレコーダーのデッキであった。
おもむろに収納スペースに置かれたビデオテープから一つ手に取る。
よくよく考えれば規格自体は生きているし、撮影媒体をロスシアからアルメリアまで持ち込んだとあれば、この国における基準は余り関係ない。つまり、これから見せられるだろう映像は俺達の知りたかった〝真実〟であり、同時に相応の覚悟をもって接することを余儀なくされる揺るがない現実だ。
「よ、っと」
「手伝いましょうか?」
「不要だ。貴様、私を機械音痴の阿呆だと思っているだろう?」
鋭い言葉が飛び、クレスが手を引く。心外だ、といった様子で嘆息して千影がテープをビデオデッキへ入れる。
ビデオテープを入れられたことで動作を始め、追随してテレビモニターの電源も入れる。
黒い画面に合わせられたチャンネルの映像が流れるも、すぐに外部入力へと変えられ接続端子で繋がるビデオテープの中身が映し出されていく。ノイズが酷く、音声は爆音と銃撃の薬莢排出による鉄が散らばる音、そして両軍がぶつかり合う壮絶な怒号で染まり、さながら獣の咆哮にも似ていた。
「ロスシアの特務部隊と、忠国の人民解放軍との戦闘だ」
冷淡な口調で告げると千影は画面を中止する。
ずっと聞き手に回っていたリオンも、時折補足説明と共に口を挟んでいたクレスも映像に見入っていた。
一見するとロスシアの兵士は普通の人間に見える。
対して忠国側は腕や足など半身が機械化され、生身の人間に容赦なく内蔵式の銃を向けてばらまく。
紅い花が咲き乱れる、と思いきや明らかに常軌を逸した反応でロスシア兵は回避。
これまた圧倒的な膂力によって西洋剣を振るい、忠国の機械化された手足を断ち切る。
「……人間の動きじゃないですね」
ぽつり、とリオンが呟いた。俺も、恐らくクレスも同じ印象を抱いている。彼らの動きは明らかに常人のそれではなく、疑う余地なく俺達と、クラッドチルドレンに匹敵する反応速度と身体能力を持つ。
「忠国の半機半人化する技術はハーフハードギアといい、地方の少数部族から
出てきた若者を騙し、改造して作り出した実験兵器……と聞いたな」
「機械の防御力と、人間の思考を合わせた機械人間といったところですか」
「正確じゃないな。単純に武器を持たせるよりも、最初から内蔵し使い終われば
順番にパージしていけばいいという発想で造られた浅はかな代物だ。あれを見ろ」
言われてテレビモニターへ視線を戻す。
ハーフハードギアなる忠国の機械兵団は、どこか動きがぎこちなく体の至るところから白煙を吐き出している。
「あの煙は蒸気熱……つまり、熱量の排出機関も十分に整備されていない、と」
「あれは機械人間、なんて高性能な呼び方はできない。
乗せれるだけ武器と共に歩く弾薬庫。だから、ああなる」
轟音が鳴り響いた。ハーフハードギアをまとう兵士が、後方から放たれた弾頭を浴びて弾け飛び肉片と鉄屑になって砂漠化した大地に散らばる。立て続けに、前線にいた忠国側の兵士が次々と自爆し四散していく。
ロスシア側は何人か巻き込まれたものの、多くは超人的な跳躍で回避し、或いは咄嗟に動かぬ機器を盾として凌いだ。飛び散った肉片を紅い絨毯に変えて両軍の戦闘は激しさを増す。
ハーフハードギアに立ち向かう、一見すると生身と変わらぬロスシアの兵士。
話をまとめた推測はよくない方向にいっている。
打ち出される銃弾を回避、剣戟の嵐をかいくぐって的確に致命に至る傷をつける。
具体的には機械化しようと、司令部として必要とされる部分を狙う。
例えば、脳髄や血流を生み出すための心臓、それすら守っていても下半身を動かす要となる脊髄を潰す。
一方で両軍の姿は見えているが、現地民であるはずのウルルグゥの姿がない。
「師匠、この映像はウルルグゥで撮影されたもの、なんですよね?」
「ああ。〈灰絶機関〉が撮っている。無論、舞台に要らない演者は省いて」
「殺した、のですか?」
「違う。単に取引をしただけだ。連中を滅する代わりに、な」
恐らくレアメタルの採掘権だろう。
結局は、そうなってしまうのか。
対価でロスシアや忠国を抑えるとはいえ、同じなのではないか。
またも俺の心中を察してか千影が付け加える。
「とはいってもウルルグゥの信条は尊重するぞ。採掘はさせてもらうが、彼らに
立ち退けとは言わないし管理も理解ある地理に明るいものに手伝ってもらっている」
「アルメリアの技術にも利用されている、と?」
「利用しない手はないだろう。ウランジェシカ辺りに渡るくらいならば、な」
言葉を交わす間にも映像は流され続けている。
資源を使わない手はない。それによって多くの人が幸福に過ごせるならば、それに越したことはない。
利権を巡って闘争が起きるくらいであれば――
「ですが、ロスシア兵の力。あれはクラッドチルドレンの因子が用いられている。
そうではないのですか? さしずめドーピングといったところでしょうか」
クレスの声に画面へ視線を戻す。次々と打ち伏せられる忠国の機械兵団。
ものともせずに戦場をかけるロスシア兵は、それでも数を減らして消耗戦の様相を見せている。
千影が小さく溜息を吐いた。
「忠国のハーフハードギアに対し、ロスシアが正式に軍に用いたのは灰化薬と呼ばれる薬。
即ち、超人的な能力を発揮するクラッドチルドレンの力を人為的に植えつける方策に
成功した。最も、その過程で得られた情報は全て我々が預かっているが、な」
「なら、呪いを解き放つこともできるんじゃないんですか」
「話を戻そう。元々〈灰絶機関〉は調査を頼んだが、力を分け与えることなど
承諾していない。連中は呪いを解くための試薬、と偽り灰化薬を量産していたのだよ」
「その結果が、このロスシア兵達ですか」
千影が頷いて肯定する。
やはり。そうだったのだ。
資金の出所として大国を求め、調査のために協力を依頼するのは分かる。
だが結局のところ、利用されてしまっている。
駄目なのだ。強すぎる力は抑制され、貫徹された意志の下で統制されなければならない。
でなければ、その力そのものが争いを生み出す。
誰かに使われてしまうからこそ〈灰絶機関〉は〝罪の意識を刈り取り抑制する〟存在でなければいけない。
千影はその理念に基づいて〈灰絶機関〉を作ったはずだ。
理不尽に戦地に送り込まれる父親の施策に反して、システムを奪ったのであれば。
「そう、ロスシアの動きは協定外だ。故に、私達が滅した」
映像が乱れてく。ノイズがさらに大きくなり、銃撃や剣戟はおろか画面は砂嵐一色になり、鼓膜を打ち震わす轟音と野獣よりもなお猛々しいうなり声が響き渡る。
一瞬だけ砂嵐が途切れ、黒髪の少女がレンズを覗き込むようにアップで移った。
艶やかな黒の長髪、赤っぽい黒瞳。白い肌は黒煙と鮮血に彩られ、部族の戦いの化粧とも見える。
舌なめずりをし、離れたと思えばがしゃん、と激しい落下音が響いた。
「……今のは?」
クレスが問う。声は刃のように鋭く切り込む。
「カメラを持っていた奴が殺られた。他意はない」
「本当に、ですか?」
「他に映像はないから証明しようがない。信じないのであれば、それでもいい」
千影は変わらない調子で返した。
全く悪びれる様子もなく、ただ事実を語る無機質な声色で告げてクレスと睨み合う。
映像が途切れ、甲高い電子音が延々と鳴り続けていた。
「……分かりました。つまるところ、ウルルグゥのレアメタルを巡って忠国と
ロスシアが戦い、〈灰絶機関〉はロスシアの協定違反と両国の存在が新たな
争いの火種になると判断して倒した。そういうことですね?」
「その通りだ。謎の爆発、といわれているが実際はハーフハードギアの処分と、工場施設を
殲滅した結果、連鎖的に爆発が起きて試験運用だった核処理施設まで巻き込んだ」
「そこまで織り込み済みだったのでは?」
「さて、ね。そこは個々人の判断に任せるとしよう」
クレスがまた微笑む。千影も答えるように不敵な笑みを見せた。
二人の間だけで完結し、俺は置いていかれている。
いや、余りにもクレスが〝割り切るのが早すぎる〟のだ。
「納得できないか」
俯いている俺に千影の声。
顔をあげると、映像の最後に映っていたような貌。
「いえ、大体は予測できたことです。逆にすっきりしましたよ」
「ならば、いいがな」
ここで騒いでも過去は変えられない。
結果として言えるのはロスシアの研究者によって現代の医学では、クラッドチルドレンの呪いそのものは治せないが、特異な力は流用できる術があるということ。
流用を試みたことでロスシア自体が戦争を生み出すタネとなりうることを案じ、粛清。
加えて忠国共々、レアメタルを求めて争ったことから技術体系ごと根絶、それらの技術はそのまま放逐するのではなくアルメリアへ持ち込まれて昇華され、今日の栄華をもたらした。
日露事変の実態は、ロスシアの技術を吸収した〈灰絶機関〉による旧日本の政治体系の破壊と再生。
その影ではウルルグゥを巡って争いが起き、鎮圧した結果が施設を巻き込んでの大爆発だった。
第三者からすれば、どれも渦中に〈灰絶機関〉の存在が強く影響していると取れる。
リオンの、彼女の事情を察すれば執拗に絡むのも当然と言えるだろう。それでも。
「ウルルグゥは守られ、持ち込まれた技術は国を発展させ、安定させるために使われる」
小さく口にする。が、そんな空気を打ち破るように男が入ってきた。
「ああっ! 義姉さん、いるじゃねぇかよ」
「なんだ、騒々しいぞ紅狼」
筋骨隆々の体躯は汗だくで、逆立てた茶髪からも汗が滴り落ちる。
不満げな表情で辺りを見渡すと再び紅狼は千影へと向く。
「で、人に荷運びさせておいて映画鑑賞会か何か?」
「違う。が、丁度いい。送ってやれ」
「はああああぁぁ? 今帰ってきたばかりなのにっ」
「煩い、さっさと行け。文句は後で聞いてやる」
俺達の意志に関係なく、お開きとなったらしい。
確かに日露事変の真実、忠国における爆発の原因やアルメリアの技術体系を構築した要因など様々な事柄は分かったが、しこりのような妙な違和感が俺の胸中に残った。




